彼の周りは次第に危険地帯と化す( 女性限定 )
第1話 プロローグ
「 あ、スマホ忘れた。」
夕焼けが降り注ぐなかボクは学校にスマホを忘れたことに気づく。我が家の前で鍵を取り出そうとポケットを漁ったら普段は感じる固い感触がなかったのだ。
そんな頻繁にLINEを送ってくる友人はいないが無いと暇つぶしができない。取り敢えず荷物を置いてから取りに戻ることにした。
「 ただいま。」
「 おかえり。」
母親がリビングでスマホをいじっていたので帰宅の挨拶をする。せめてスマホから目を離して返事をしてほしい。まぁどうせ父親と連絡を取っているのだろうが。自分の部屋に鞄を投げ込み玄関へと戻る。
「 また出かけるの?」  
「 スマホ取りに学校。」
「 ついでにスーパーで牛乳とブロッコリー買ってきて。」
「 わかった。」
母さんはスマホを見ながらそう言った。息子をパシリにするのはいいがスマホを止めるべきでは?と思いつつも口をつぐむ。面倒だし。
先程ぬいだ靴を履き直し外に出る。赤々とした光が眼球に入り込む。早速お家に引きこもりたくなった。
15分ほどダラダラと歩き続けて秋月学園の校門が見えてくる。とても風流な名前だけれど鉄筋コンクリでできた現代な学校。偏差値が高めで入るのに苦労した。頑張った理由はこの学校以外だと電車通学しなければならないからだ。満員電車に毎日乗らなければないないなんてゾッとする。徒歩通学最高。
一年間通って見慣れた校内を進み2ーBと書かれた自分のクラスに辿り着く。中から少し雑音がする。誰かが残っておしゃべりでもしているのだろうか。もしこれが男女のアバンギャルドを楽しんでいる最中だったら気まずいってもんじゃないな。まぁ、そんなことないだろうとドアを開けると
「 っあ 」
「 いや…!」
「 …… 」
女の裸体が目に飛び込んできた。これには閉口せざるを得ない。裸の女は小さな悲鳴とともに座り込み腕で自分の体を隠そうとした。その隣には学年一の美少女と評判のみ、みさ、御堂さんがスマホを構えた姿勢のまま固まっていた。
これはどんな状況なのだろう。レズカップルの特殊なプレイをしている最中だろうか?どうしよう?
一秒考えてすぐに結論はでた。ボクは教室に足を踏み出す。彼女たちは固唾を飲んでこちらを見ているが無視して一直線に進んでいく。
「 っひ 」
裸の女が怯えたように引きつった声をあげる。御堂さんも怖いのか顔がこわばっている。ボクはドンドン進み、裸の女に近づいていく。
「 やっ……やめて。」
距離はついに手を伸ばせば触れられるほどだ。そしてボクは右手を伸ばし……自分の机に手を突っ込む。そしてスマホを取り出す。
よし、さっさと帰ろう。踵を返し同じように歩いて戻る。彼女たちの存在には気づいていないかのように。そして開けっ放しだったドアを閉め帰路につく。
( うん、ボクは何も見てない。学校で乳繰り合っていたレズカップルなんて見てない。)
ボクは積極的に忘れることにした。そういえば何か買ってこいと言われていた。何だっけ?まぁ、実物を見たら思い出すだろう。
「 ちょっと待ちなさいよ!」
そうしてスーパーに向かおうとしたボクの背後から乱暴にドアを開けるような音と若干知っているような気がする声が聞こえてきた。多分、気のせいだろう。
「 だから、待ちなさいって!」
おっと目の前に学年一の美少女と噂される御堂さんの幻覚が。ボクは疲れているらしい。相手の拍子を読み、虚の拍子に横を一気にすり抜ける。さて、スーパーに行こ。
「 待ちなさいって言ってるでしょう!」
肩を掴まれ後ろに振り向かさせられる。おや、学年一の美少女と噂される御堂さんがいるではないか。
「 やぁ、奇遇だね。ボクはこれから買い物に行かないといけないから手を放してもらえる?」
「 あなたふざけてるの?」
どうしてだろう?ボクは至極真っ当なことを言った気がするのに御堂さんはドスの効いた声を出した。ああ怖い、レディースヤンキーに絡まれた気分だ。
「 で、どうしたの?」
「 あなたがさっき見たもの誰にも言わないでね。」
「 さっきの?」
「 斎藤を虐めていたことよ。」
「 え、あれって特殊なレズプレイじゃなかったの?」
二人の間に沈黙が降りる。へーあれっていじめだったんだ。でも面倒だからあんまり関わりたくないなぁ。なお、御堂さんは下ネタ耐性があまり無いようで顔を真っ赤にして涙目になっていた。
「 とにかく黙ってなさいよ。」
「 そんなどうでもいいこと誰にも言わないよ。」
「 どうでもいい?」
「 うん、だってあの娘がどうなろうとボクには関係ないでしょ?」
小学校で学んだ大人が教えてくれない社会のルールだ。いじめに関わるとロクでもないことになる。だからボクは見て見ぬ振りをする。いじめを黙認する人は大概こう思っているんじゃないかな?
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