悪役令嬢で忌み子とかいう人生ベリーハードモード

狂気的な恋

第16話 秘め事と怪音

秘密の共有は人間関係において大きな影響をもたらす。共犯意識や同族意識を抱かせ距離を縮める。また、自分に秘密を教えるのは相手がそれだけ信頼してくれているのだ、と考える。

 人というのは悪意を持って接されれば相手を嫌いになるし、好意を持って接されればよく思う。そんな鏡のような性質を持っている。

 ミケラに前世を暴露してからかなり親密になった気がする。ただ、彼女は自身のことについてあまり語りたがらない。それは不信からではなく、何か別な理由である気がする。しかし話したくないという彼女の意思を尊重して私は聞かないことにした。

 最近は彼女と秘密の特訓をしている。それによりさらに仲良くなれた気がする

「 ああ……」
「 本日は少し固いですね。緊張しているのですか。」
「 だって今日はいつもよりスルんでしょう。」
「 ええ、そろそろ慣れてきたようですし。」

 ベッドの上でミケラが私をゆっくり押し倒していく。秘密を打ち明けてから毎日している。無理せずに徐々にほぐしていっている。

「 くっ……あ……あぁぁぁぁ…………」

 私の口から苦しげな声が漏れ出る。

「 つらくなったらいってくださいね。」
「 んん、分かった。」

 彼女は手を止めずにそう言う。私は少しの気持ちよさを覚えつつも肺が詰まったような息苦しさを感じる。また、腰と股関節あたりにじんわりとした鈍い痛みが広がる。

「 初めの頃はあんなに痛がっていらしたのに。ずいぶんとほぐれたものです。」
「 んん…………言わないで。」

 不思議そうに呟かれたその言葉に羞恥心から顔に血が集まりカッと熱を持つ。ミケラの言うとおり初日はすぐに息も絶え絶えになってしまったのだ。まだ、子供であるにも関わらず……

「 はぁ、はぁ、もう限界。止めて……。 」
「 いえ、このままいきましょう。あと少しでイケそうですし。 」
「 えっえ、うそ?そんなの……私、死んじゃう! 」

 おそろしいその一言に私は顔を青ざめる。今でも大分つらいのだ。これ以上押し込められたらどうなってしまうのだろうか。

 不意に股が裂けるイメージが脳裏に浮かび、大いに私の肝を冷やした。

「 いや、やめて! 」
「 頑張ってください、あとひとイキですから。 」
「 なんで!?とめてって言ったらやめてくれるって言ったじゃない!あ、イタイ痛い痛ぃぃ! 」
「 ゆっくりイキますよ。 」

 悲壮な声で制止をかけるも聞く耳を持たない。無慈悲にすら思える宣言が殺人予告にしか聞こえない。

「 イタイイタイイタイぃ!ちょっとストップぅぅ、……っあ 」
「 まだ終わってませんよ。 」

 徐々に深く深くへと押し込まれる。腰と股に強い負荷がかかり尋常じゃなく痛い。叫び声も上げられなくなり、呼吸ができず、口が意味も無く開閉する。

「 っは! 」
「 う゛ぇ!? 」

 最後の一押しとばかりに強く押し込まれる。カエルの潰れた声ような声をだして、私は気を失った。

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 ドサッ

「 んん……ん? 」

 何らかの異音に目が覚める。重い物が倒れたような音であった。その発生源である扉の方に注意を向ける。

「 お目覚めになられましたか? 」
「 ……!?ああ、ミケラね。 」

 背後から唐突に声をかけられ心臓が一時止まった。振り返るとミケラが静かにたたずんでいた。彼女はどこにいたのだろうか?さっきはいなかったような気がしたのだが。そして、彼女は何故にいつも恐ろしげな現れ方を好むのだろう。

「 目標達成おめでとうございます。よく頑張りましたね。 」
「 ひどいわよ……あんなことするなんて。 」

 あんなに無理矢理に。心の準備すらさせてもらえず強引に。

「 でも、最後までイケたじゃないですか。 」
「 それはそうだけど……。 」

 私の不満な声に小揺るぎもしない。そんなに彼女を責める言葉を私は持ち合わせていなかった。

 やっと開脚ストレッチで胸が下につくようになった。なぜ6歳の時点であそこまでに固かったのかは見当もつかないが、最初の頃は手のひらが地面につかないぐらいのほどだった。あまりのことにしんじたくなかったものだ。

 このボディは運動を一度もやったことがなさそうなほど筋肉が少ない。典型的な貴族女児といった肉体。今はできないがさっさと体を引き締めたい。これでいざというときに動けなかったら話にならないのだ。

 肉体は自分が持つ深層魔力に応じて強くなるが、なじませる必要がある。そしてそのなじませる行程は体を限界まで動かさなければならない。原理としては体が限界を超えるために体を進化させるために表層魔力から魂の根源である深層魔力に転じる。

 つまり、必要に応じて生物として進化していくのだ。

 魔法を学ぶ機会に恵まれない平民や奴隷の多くは得た魔力のほとんどを身体能力の向上に回すようだ。だからなのか、人間が病気や飢饉などで死ぬことはあまりない。彼らの死亡率は中世いや、近世ヨーロッパよりも低いだろう。

 だが、餓死や病死から縁遠いといっても、貴族や魔物に殺されることはざらにある。この世界は強者による横暴がまかり通ってしまうのである。

 強さとは武力という意味ではない、相手に勝利する力だ。勝てるならなんでもい。この弱肉強食を体現したような世界での弱者とは敗者であり、勝者こそが正義である。敗北こそが悪、勝利こそが最上。それらが無慈悲なほどの残酷さで泰然と存在する。

 だからこそ人は身内以外の死に興味を持たない。他人の死は弱者の敗北、それよりもそいつを殺した強者を褒め称える。

 戦いを学ぶことがないので独学であり、歴史に裏打ちされた戦闘の知識を山ほど持つ貴族に勝つことのできる平民などほとんどいない。だから貴族は偉くて、平民は卑しい、とされているのだ。この王国にすむ人間のほとんどがそれを受け入れている。

 なかなかに狂っている価値観だが、シンプルかつフェアだ。確かにスタートラインは不平等だろう。しかし、努力すれば必ず強くなれるからこそ本人の頑張り次第では強者になりえる。だからこそ限りなく平等に近い。

( ……それなのに何故、差別が生まれたんだ? )

 ふと、疑問が浮かんだ。力こそ全ての世界で色や形で不当に敵意を向けられる理由はなんだ?

 なにかが、なにかがおかしい。


 とさっ、ドサッ

 意識の外から音が耳に飛び込んできて思考が途絶える。なんだか最近よくこの音を耳にするのだ。なんだろうと不思議に思いつつも知るよしがない。ミケラの他に聞く相手がおらず肝心の彼女がこの音の正体を知らないのだ。

 ドサッ

「 ほんとうに、なにかしら? 」

 いっそう大きな音がして、ヒョッコリと好奇心が芽を出した。

 そろそろと扉に近づきゆっくりとノブを回す。そして一気に開け放つ。

「 きゃぁぁぁぁぁ!? 」

 思わず悲鳴を上げる。

 能面のような無表情でこちらを直視するミケラが眼前に迫っていた。彼女の発する不気味さについつい叫んでしまったのだ。なんだか、貞子チックでこわかったのだ。

「 ちょっと傷つきました。 」

 彼女のその言葉に私が必死に弁明したのは言うまでもないだろう。



 そういえば彼女はいつ部屋の外に出たのだろうか?
 考えてみるといつものことであったのでどうでも良くなった。

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