悪役令嬢で忌み子とかいう人生ベリーハードモード

狂気的な恋

不自然な庭園と殿下

 
 魔力の込められた魔導具がじんわりと熱を放ち部屋を暖めている。石油を使わないクリーンな暖房器具、温暖化の息を止めてくれそうだ。

 そんな特許の取れそうな魔導具とは付与魔法陣が刻まれたものだ。専門の付与魔法師が手作業で作り出したものを買うかダンジョン ー 旧神聖期に作られた遺跡で発掘するぐらいしか手に入れる方法はない。

 付与魔法陣はダンジョンで発掘されたのを丸写ししたものを使っているのだ。どうやらオーバーテクノロジーらしく解明できている部位がほとんどないらしい。新しい付与魔法陣が刻まれた魔導具を見つければどんなものでも一生使いきれない金額が手に入るらしい。冒険者はそれを求めてダンジョンへと潜る。

 なんともロマンに溢れた話だ。これぞ異世界という感じがする。

 王都の周りにある外壁も魔導具だ。我が国の財力の底が知れない。安物でも平民が手を出すのは躊躇うものをあそこまで積み立てるとは。さすが大陸有数の大国だ。ちなみに高額なものは上限がない。下手したら小国でも買い取れるような値段がつくのもあるぐらいだ。

「 王宮からのお呼び出しです。」
「 風邪で瀕死と返しといて。」

 こんな寒いなか王宮に呼び出すとか鬼畜かよ。実際は魔導具のおかげで寒いのは馬車を乗り降りするときぐらいだが、それでもだいぶ行く気は失せる。

「 そんなことをしても王宮から見舞いの品が送られ、感謝の手紙と返礼の品を送る羽目になり後日またお呼び出しをもらうだけですよ。」
「 うぁ〜めんどくさい〜」

 仮病を使っても意味がない、というか逆効果だ。余計な手間が増える。命に関わらなかったら婚約破棄したい。そして自由気ままに生きたい。

「 リリアーナ様 」
「 なに?」

 忌み子のカミングアウトから明確に一つ変わったことがある。ミケラがお嬢様呼びをやめて名前呼びにしてくれたのだ。なんだか距離が近くなったようで嬉しい。

「 なぜ、そこまで王宮に行くのを嫌がるのですか?別に婚約者様がお嫌いなわけでもないでしょうに。」
「 私は元男よ?」


 ミケラには私の秘め事は全て話した。流石にここが乙女ゲームなる世界に近似した世界ということは言わず、限定的に未来を知っていると言い換えたが。彼女は私の言ったことを全て信じてくれた。前世のこととかかなり突拍子もないのによく信じたものだ。時々、地球の話をしている。どうやら平和な日本は天国のように思えるらしい。

「 それはそうですが、少しに気にかけたらどうですか?」
「 いやよ、めんどくさい。」

別にアドルフのことは嫌いではない。ただ無関心なだけだ。そりゃその境遇を哀れむこともあるし同情することもなくはないが、所詮は他人事。彼の為にどうこうするということはない。

「 それともなに?ミケラは他人に目を向けろと言っているのかしら?」
「 それもよろしいかと。」
「 嫌じゃないの?私が誰かに心を寄せる所を見るなんて。私だったら嫌よ。なんだか離れていってしまう気がするもの。」
「 私にとっては喜ばしい限りです。」
「 そう……。私には分からないわ。」

もし彼女に恋人でもできたら魔法で灰にしてしまうかもしれない。そもそもミケラが誰かと触れるのも許せない。

穢らわしい。汚れしまうではないか。

どんな聖人君子でも彼女の清らかさと比べればドブのようだ。彼女に触れていいのは私だけだ。私だけが彼女を汚していい。彼女は私のものだから。そう、だから私の許可なく私の唯一ものに触れるなんて万死に値する。

「 お行儀が悪いですよ。」
「 あら。」

 無意識のうちに爪を噛んでいたようだ。最近よくあることだ。ミケラに誰か触れていると考えると殺したからなるのだ。誰を、とは言わずとも分かるだろう。

 そういえば第二王子のクソガキアドルフがミケラに興味を持っていたな。暗殺けしてぇ

「 最近は殿下から手紙が送られてこないわね。」
「 お忙しいのでは?」
「 そうかもしれないわね。明日聞いてみるわ。」

 大して間を置かずに会話が終わる。アドルフが私に構わなくなったとしても問題はない。それどころか面倒な手間が省けて嬉しい。

ミケラは微笑みを浮かべながら私の頭をサラサラと撫でる。彼女の細い指が髪を抜けるたびに微睡みに似たような心地よさが頭頂部から背筋に走る。

そんな安堵してしまうような気持ち良さの中で私は何故か涙が溢れそうになった。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 冬空のもとで肩出しのドレスという馬鹿みたいな格好をしている私がいた。時たま吹き付ける寒風が凍てつくように寒い、というか痛い。幸いなことに今日は快晴なのでまだマシだが曇りならどれほどの苦痛か分かったものではない。ミケラが私に着せたドレスは上から下に白から少しずつつ青になるもので似合ってはいるが季節感がないものだった。そもそも冬にノースリーブという時点で季節感はないが。

「 はい、ディッセル家への招待を確認できました。お通りください。」
「 ありがとう。」
「 これが仕事ですから。」

 中年の少し小太りな門番がとても丁寧に接待してくれたので気分は悪くない。これなら寒いなか待たされても許せるというものだ。

 あいもかわらず絢爛豪華な装飾が施された宮中を案内のもと進む。なんど見ても見慣れない派手な華美加減が少しうざったい。もっと質素に生きれば人生楽だろうに権威を誇示し続けねばならない王族の虚しさが垣間見える。

 王族をなんとなく憐れみながらいつもの庭園に到着した。ここは温室のように一年中、温度を一定に保っているようで冬には枯れているバラが未だに咲いている。その季節を感じられるから花には趣があると考えている私には温室を作ってまで庭園を維持する意味が分からない。金をもっと有意義な事に使えと思わないでもない。

「 ご機嫌よう。」
「 ああ…… 」

 普通には決して返さないアドルフ。この世界は男尊女卑がほとんどないので男がみんなこんな反応をするわけではない。アドルフだけだ。というか完璧に近い男女平等なので男からも挨拶する。

 この世界が性別であまり差別されないのは肉体の平スペックなど魔力による超強化と比べてゴミみたいなものだからだ。中世の地球では男が命をかけて戦に出ているから偉いという風潮があったのだ。女も男と同じくらい強ければ男が女性を見下すことはない。

 だが、命が紙より軽いため強者を崇め、弱者を蔑視する傾向がある。だから貴族は武芸を習得するし冒険者に自分の息子を預けて魔物狩りに同行させ魔力を増やしたりする。経験値の分散ならぬ魔力の分散を行い養殖しているのだ。

 だからガイアの貴族は一般人よりもはるかに強い。また、貴族の先祖は大体が武人でもある。

そんな世界なので、戦闘職は憧れの目で見られるものだ。冒険者は素行が悪すぎてあまりいい目で見られていないが……

 私の魔力量は養殖貴族よりは遥かに多いので必然的にアドルフよりは強いだろう。つまりだ強者こそ偉い世界では彼は私を敬って然るべきなのだ。

 ほらほら崇めよ愚民アドルフ!!

「 初冬から手紙が送られてきませんが何かありましたか?」
「 ああ…… 」
「 もしかして緊急の要件でも?」
「 ああ…… 」

 何故か先程から「 ああ…… 」としか答えない。何か怪しい。こう何かを誤魔化すような雰囲気だ。

「 詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」
「 少し貴族たちと面会してな…… いろいろと立て込んでいたんだ。」
「 それはお疲れ様です。それでどんなご用件だったのですか?」

 なんだかとってつけたような理由だ。貴族と面会と言っても四六時中顔をつき合わせていたわけでもあるまい。

 とりあえず労いの言葉をかけ、すぐに内容を聞きだろうとする。殿下の様子がおかしいのは貴族と何かあったのだろう。

「 お前には関係ない。」

 にべもなく切り捨てられる。イラッとしたものの静かに深呼吸をして注がれた紅茶を飲むことで落ち着かせる。今日の紅茶は仄かな酸味のなかにあと引かぬ甘みがある。香りも鼻を突き抜けるような強烈なものではなくふんわりとしたものだ。よし、いける。

「 殿下のこともっと知りたいんです。」
「 くどい、お前には関係ない。」

 健気な感じの声音を意識してそう言ったものの取りつく島もない。殺しテェ……、ではなく怪しい。なにか私に知られたくないことでもあるのだろうか?流石に6歳から国家機密に関わらせるバカはいないだろうし、殿下に関することだろう。私にはそれがなんであるか知る必要がある。もしかしたら継承権についての問題かもしれないのだ。もし継承権なら私は暗殺者に狙われる事になる。

 婚約者面して聞きだすのは手かもしれないがうざがられて終わりになる気がする。

 再度、紅茶を飲み唇を濡らす。最悪の可能性は殿下は私を裏切っている場合だ。さて、どうやって聞き出そうか。

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