思いつき短編集

かなみん

『人間性診断テスト』

男は呆然として立っていた。
傍らには1000万が入ったリュックが
置かれている。
目の前には海が広がっており背後には
今くぐってきたドアと大きなシャッター
がある。
男は無言でリュックを乱暴に掴み
海に向かって放り投げた。
「自由に…使っていいんだろ。」
行くあてもなく歩いた。
アスファルトに足跡を残しながら

事は5分程前に遡る

部屋には4人いた。
男が2人女が2人
「なんだよこれ」
最初に声を出した男の友達たちだ。
ひとりは親友と呼べるもの
ひとりは彼女と呼べるもの
もう1人は親友の彼女だ。
全員首に輪っかが取り付けられている
「時計…かな?」
女が声を出した
お互いがお互いを確認するとそれは
5:00
と表示されていた
部屋は狭くあって5m四方程度だろう
ひとつの壁にはパネルが設置されている
その右側の壁にはボタン 
左側の壁にはドアがある
突然パネルに文字が表示された

ドアの向こうには1000万
皆で仲良く分けたまえ
ドアの開けるにはボタンを押すことだ
制限時間は5分
過ぎれば爆発する
では、スタートだ

4:59

「お、おい!どうすんだよ!爆発するって!」
「どうするもこうするも出ればいいんでしょ?私がボタンを押すわよ」
ちょうど掌と同じくらいの大きさのボタンを女は押した

「あかねぇぞ!!どうなってんだよ押せば開くんじゃねぇのかよ!!」
「そんな事言われても知らないわよ!」
「なぁそのボタンの上にメーターがあるだろ?多分それが1番右までたまらないとあかないんじゃないのか?」
「確かにありますね。」
「じゃあ早く押そうぜ…えっ?それどうしたんだよ?」
「なによ」
男は最初にボタンを押した女の首を指さした

3:40

「お前の時間だけ早くなってるぞ…?」
「は…?なによそれ…」
ふとパネルを見た

制限時間は5分
ただしボタンを押している間時計は1分ずつ
早まっていく
ドアを開けるには最低でも3秒必要だ

「っんだよそれ!!!聞いてねぇぞ!」
「ど、どうすればいいのよ…」
「誰かが押し続けないとダメなんだ…」
「でももう時間が…」

3:15 

「とりあえず君はもう押せない」
「だ、だれが犠牲になるんだよ」
「私はもう無理よ!」
「わ、わたしも嫌です…」
誰も動かなかった。
1人死ぬのが分かったからだ。
誰も口には出さなかったが理解していた
ボタンを押してドアを開けて時間が
残っていたとしても 
1人ではボタンを押したまま
ドアには辿り着けない と
そもそも誰かが死ぬまで部屋には残らなければ他の人は助からない

「僕が押すよ。みんな生きて」
「ほんとか!?」
「正気!?」
「やめてください!!」
「でも誰かがボタンを押さなきゃ全員死んじゃう。それは回避しないといけない。
君には最後まで迷惑かけっぱなしだったね。今までありがとう。外に出たら元気にやるんだよ。」
「なんで…ほかの人がすればいいじゃないですか!!」
「ふ、ふざけんなよ!そいつがやるって言ってんだからやらせればいいだろ!俺たちは生き残れるんだぞ!!」
「そ、そうよ!」
「このっ……」
「いいよ、怒らないで。僕がやるって決めたんだ。」
「私も残ります。」
「ダメだ、君は外に出るんだ。
それに、もう、ボタン押しちゃった」
「えっ?」
メーターはもう3つたまっていた
「どうやらこのメーター押し続けないとダメみたい。ほら1分切ったらもう減らなくなったしあと40秒くらいしかないだろ?
ドアは開いてるから早く出るんだ」

ガチャ
「うわ!ほんとに金がある!」
「あんたも早く来なさい!」
「でも…」
「いいからはやく!」
女は腕を引っ張られドアの向こう側に消えていった
ドアは閉まり何も聞こえなくなった
男はボタンから手を離した
「さて、どうしたもんかなぁ」
元々感情の起伏の薄い性格だったが
それが幸いしたのか周りからは
穏やかな性格な優しい人だと思われている
「あの子もきっとそう思ってたんだろうなぁ」
突然無機質な音声が響いた

指紋認証 完了
貴方を脱出者として登録します
ドアのロックを解除しました
首輪のロックを解錠しました
おめでとうございます

「は…?」
ふと見ると首輪のロックは外れていた
時計はすでに全ての数字が0だった。
「なんだよそれ…」
ドアはいとも容易く開いた
リュックサックに札束が詰められている
ふと前を見ると扉がある
札束が積まれていた台を見ると
ご自由にお使いください
と書かれた紙が置かれていた
感情を失った男はリュックを抱えて
扉をくぐった。

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