Regulus

有賀尋

Two people who have hardships

『呑みに行こう』

あきらからメールが来る。今日は別に何かがあるわけでもなく、由真に呼ばれている訳でもない。

『ん、分かった。いつものところでいいのか?』
『おう、待ってる』

そうしてメールをすると、俺は行きつけのバーに向かった。
滉はいつものカウンターに座っているはずだ。
バーに着くと、やっぱりいた。

「おう、待たせた」

そう声をかけると、滉は振り返った。

「お、悪いな、突然呼んで」
「いや、大丈夫。珍しいな、滉から呼ぶなんて」

そう言いながら隣に座ってウイスキーのロックを頼む。大体2人で呑む時はここで呑んでいるし、マスターともすっかり顔なじみになった。

「やー、今日の合わせ散々だったろ?お前んとこの恋人さんキレてなかったか?」

滉は俺と由真のことを知っている。裕は知らないはずだが、どうせ知ってるんだろう。

「あー...まぁな。おかげで宥めるのに大変だった。皇帝もやってくれるよなぁ」

軽くグラスを合わせて煽る。
ウイスキーのロックは由真に飲ませたら喉がやけるって言ってたっけな。

「今それがいっちばん楽しいんだと。程々にって言ってんだけどな…」
「楽しいってなんだ、楽しいって。こっちは散々だって言うのに相変わらずだな」
「地雷踏み抜いて育ててるんだとか言ってたけど、多分建前だな」

建前どころかただ楽しんでるだけに決まってる。
ただでさえピリピリしてる時期にされると本当に困る。

「踏み抜いて育てるって...悪影響だっつの…」
「だよなぁ…あれは飽きるのを待つしかない」
「気まぐれなんだよな...早く飽きろ...」
「まだボーカルはキレてねーか?」
「慶か?そろそろ危ないかもな。志輝が毎日腰痛そうにしてる」

そう。そして被害が広がっていく。
由真がそれでピリピリし始めると慶にも伝わる。限界が来ると大爆発するが、志輝と付き合い始めてからというもの、その反動は志輝に向かっているようで、おかげで志輝も締切ギリギリだ。日に日にキスマークやらなんやらが増えている。

「あー、捌け口になっちまうのか…満足するまでは止まらねーしなぁ」
「『僕はいいけど、さすがにキツいよ...』て言ってるし」
「…ダメ元でもう1回言うしかねーかなぁ」
「だな、うちのキーボードの腰壊されると痛手なんでな」
「だなぁ…それとなく言っとくわ。そーいや、恋人さんといえば由真とはどーよ」

─絶対誰にも言わないでよね、分かってるよね?

と、こう言われはしたが、滉だしまぁいいだろう。

「由真か?まぁ相変わらずだな。特にこれと言って進展はねぇよ。見せる顔が増えたくらいか」
「あの由真がお前にだけ見せる顔があるってのが意外だよな。付き合う前からだろ?」

滉は結構観察眼がある。だから尚更悟られるのは早い。
それに、俺と滉の仲だ、今更だろう。

「まぁな。あいつ不器用すぎるから。ストレス発散で酒をバカスカ買うのも相変わらずだし」
「けど実際ストレス発散なってんのか?」
「いや?なってるのは見たことないな」
「…どうやって発散してんだろうな、なんか知らねーの?」

ストレス発散の仕方?
知ってるも何も、やることはひとつだ。

「...さぁな」

俺は意味深な笑みを浮かべてウイスキーを煽る。

「…ははーん、さてはあっちで発散か」

滉は察したのかその後はお互いそういう話になった。酒の席だし、気苦労組の俺達だし。色々と報告もしておいた。滉はただ「そうか」と言って聞いてくれた。

バーを出る頃には日付はとうに超えていた。眠らない街はいつでも明るい。
するとスマホが震えた。相手はもちろん—。

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く