Regulus

有賀尋

Mr.No.1

「...っくしゅ!」
「風邪か?」

慶と2人で作詞作曲をしている時にくしゃみが出た。

「んー...そうかな...」
「ほら、ちょっと来て」

おでこをくっつけて目を閉じる。

あわよくばキスしてくれないかな、なんてね。

大人しくしていると唇に何かが触れた。それが慶の唇だという事を理解するのに時間はかからなかった。

「んー...熱はなさそうだな」
「そ、そう...」

違う意味で熱が上がるよ、慶...!

「誰かが噂してんじゃないか?」
「噂...?何の...?」
「さぁな?それよりちょっと休憩するか、コーヒー持ってくるよ」
「あ、うん...」

誰が噂してるのかな…。

思えば僕が卒業する年も遥があれよあれよという間に勝手にエントリーしたおかげでまた由真と戦わなくちゃいけなかった。
正直僕は嬉しくもなんともなかったし、由真がエントリーし始めてからは由真にNo.1をあげたかった。この人前に出たくない僕が、大体僅差ではあるけど僕がNo.1になって、毎回由真が悔しそうな顔をしてたのを覚えている。
あの年は由真がかなり気合い入れていた。僕が見劣りするくらいかっこよかった。

それなのに。

「2位を発表致します!...エントリーNo.3、司馬由真!そして栄えあるNo.1は穂高志輝!有終の美を飾りました!」

またか…。どうして毎回僕になるんだろう。

「さぁ、No.1は前でスピーチを!」

このスピーチも慣れたもの。正直嫌いだ。
仕方なく前に出る。

「えっと...皆さん、本当にありがとうございます。No.1になれたのは皆さんのおかげです。今年で僕は卒業ですが、来年は誰がNo.1になるのかが楽しみです」

毎年同じこと言ってるよな…。これでいいのかな…。

あの時の由真の顔は笑ってなかった。それはそうだろうな、僕に勝ちたくて由真は気合い入れてたんだから。

「...き、志輝、ほんとに風邪引くぞ」
「んぇ...?」

どうやらうたた寝してたらしい僕は、テルとユキに挟まれていた。

「眠いのか?なら少し昼寝するか?」

噂してたのは由真かな...。そんなわけないか。

「ううん、大丈夫だよ」

冷めきったコーヒーを受け取って飲み干して、また作曲に取りかかった。

...負けないよ、由真

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