Regulus

有賀尋

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これは俺達がまだ大学生だった時の話。

奇跡的にけい由真ゆまはるも僕のいる大学に受かって再会した。この3人とは幼馴染みで、ずっと一緒にいる。特に慶とは切っても切れない縁がある。

「慶!由真!遥!」
志輝しき!」

慶が駆け寄ってきた。
そう、今日は入学式。合格発表の時は一緒に見れなかったけど、入学式の実行委員になったおかげで会うことが出来た。

「入学おめでとう、3人とも」
「ありがと、せーんぱい?」
「志輝に勉強教えてもらって頑張った甲斐があったよな」
「途中で忙しくて会えなくなったけど、受かってよかったね」

各々が会話する中、慶はじっと僕を見ていた。
こっちが驚くほど、大人びた表情で。
それに僕は何故か少し恥ずかしくなって、慶に話しかけた。

「慶、ちょっと見ないうちに成長したね」
「え、そうか?俺前からこんなんだけど」
「いーや、志輝と一緒にいなくなってからだいぶ変わったよ慶ちゃんは?」
「茶化すな、由真」

由真が慶と肩を組むと、不愉快まではいかない感じで慶はよけた。
なるほど、確かに変わった。
大人っぽくなった。

少し話をしているとバンドのメンバーに呼ばれた。

「おーい志輝ー、リハー」
「あ、うん!今行く!...ごめん、僕行かなきゃ」

この時既に僕は違うバンドに入っていて、大学内では結構有名だった。このあとの歓迎会でライブが決まっていた。

「バンドやってんの?」
「うん、まぁ...このあとの歓迎会でライブするから見においでよ」
「うん、見に行くよ、どこで?」
「講堂だよ」
「志輝ー!」
「...ごめん、僕行くね!」

メンバーの元に走って行き、講堂でそれぞれチューニングを始める。僕は絶対音感があるからチューニングは僕任せ。

「ギター6弦高いかな...うん、そこ。ベースは3弦低いかな、うん、そこ」

それぞれ楽器のチューニングを見ていく。ボーカルは歌いながらいつもチューニングしているけど、さっきの声出しを聞いていると調子よさそうだった。
リハはバンドの音を調節しながらボーカルに負担をかけない程度で収めた。
歓迎会ではトリを飾った僕達のバンドはこの時はまだよかった。団結していたし、音も纏まっていた。
まだ僕も楽しかった。歓迎会は大成功に終わって、3人も褒めてくれた。それが嬉しかった。
それぞれ学生生活が始まった。僕と慶は芸術学部、遥は理工学部、由真が国際関係学部で離れはしたけど、自然と集まることが多かった。何をするでもない、ただ何となく集まって何となく話をした。
流行りの曲はなんだとか、夏になったら何をしたいとか。

「彼女作って海!」
「短期留学かな、ヨーロッパ辺りに」
「俺は...そうだな、デザインに使えそうなの探しに行きたいかな」
「そういう志輝は?」
「僕?...バンドで忙しくなりそうだなー...」

夏は完全にバンドシフトだったから会える時間が少なくなる。それは少し寂しかった。
夏休みの後には学祭がある。その練習だと言っていた。その年の夏はそれぞれやりたい事をやった。僕はバンド、由真は短期留学、慶はアトリエにいて、遥はというと、合コンとバイト三昧だったって言ってたっけ。
その年の学祭のあと、僕達のバンドはスカウトされた。
デビューしませんかと声をかけられてデビューが決まって色めき立った。デビューできる、と本当に嬉しかったし、皆がすごく喜んでくれた。
でも、そのあとからどんどんバンド内では不穏な空気が流れ始めた。そのバンドはギターボーカルが2人、ベース、ドラム、キーボードの5人で、ギターボーカルの2人の派閥と、ベース、ドラムの派閥に分かれた。僕はずっと中立を守っていて、どちらに靡く訳でもなかったけど正直辛かった。同じ学部にいる慶は顔を合わせる事が多かった分、何かあったことは勘づいていたと思う。あんなに楽しかったバンドが今はただ苦しい場所になっている。3人とも会わなくなって、大学にも行かなくなった。僕は更に息苦しさを感じていた。

「志輝、大丈夫か?」

そんな時に声をかけてくれたのは慶だった。
実家暮らしで、お互いの部屋が近い。窓を開ければ慶の部屋があって、よく話をした。窓を開けて入ってくることもあったおかげで、僕と慶の部屋の窓の鍵は常に開いている。
でもしばらくの間はカーテンを閉め切って、窓の鍵は開けたままスマホも電源を切って何も見ないようにしてベッドに座っていた。

「...慶...?」
「どうしたんだよ、大学にも来てないって聞いたぞ?何かあったのか?」

窓を開けて部屋に入ってくると、隣に座った。
慶が来てくれた安心感で僕は思わず泣いて抱きついた。

「ど、どうしたんだよ!?」
「...慶...僕...バンド辞めたい...」
「辞めたい?どうして?あんなに楽しいって言ってたのに?」
「楽しくない!...楽しく...なんて...」

少しずつ今バンドに起こっていることを話した。内部分裂が起きていること、顔を合わせる事が出来なくて大学に行けていない事。全部話した。慶は全部聞いてくれて、泣き止むまでそばにいてくれた。

「そっか...そんなことが...」
「僕嫌だよ...あんな...あんなバンド上手くいくわけがない...音だって纏まらないし…」
「志輝...」
「でも僕こんなだから...辞めるなんて言えないし...」
「でも辛いんだろ?学校来れなくなるほど嫌なんだろ?」
「...うん」

...おかしいな、僕の方が年上なんだけど、こう見ると僕の方が年下に見える。
何でかな、いつも助けられてばかりだ。

「...バンドに行かなくていいからさ、明日一緒に学校行こうぜ?」
「え...?」
「単位取れなかったら大変だろ?」
「あ...うん...」
「今日一緒に寝るからさ。な?」

そう言うと慶は本当に一緒に寝てくれた。幼なじみだけどそう思えない距離の近さはずっと変わらない。安心できる距離が心地いい。

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