勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*剣聖からの伝言―1*

 フィリシアたちとの朝食を終え、センリとクロードは再び男子寮へと向かっていた。
 すると、隣を歩くクロードが満足気に言ってきた。

「いや~、美味かった美味かった。美女3人に囲まれて食う飯は格別だな~!お前もそう思うだろ?」

「……ああ、そうだな」

 クロードの言葉に、センリは適当に相槌を打って応じる。
 だが美女3人に囲まれて云々はともかく、クロードの言う通り、確かに飯は美味かったと思う。
 食事なんて生きる為の作業でしかないと思い、今までカップ麺や冷食ばかりを食べていたが、暫くロクな飯を食ってなかったせいか、センリの中にある『食』への価値観が少し変わった。

「……なぁ、センリ」

「なんだ?」

 そんな事を考えていると、隣を歩くクロードがこちらを振り向かずに言ってきた。

「お前って、ソーマと喧嘩でもしてんの?」

「……なんだよ、いきなり」

「いや……昨日、あいつが部屋に戻ってきてから様子が少しおかしくてな……俺が帰った後に何かあったのかな~って」

「…………」

 そんな事を言われたので、昨日の出来事を思い出してみる。


"なんか本当につまんねぇ奴だな、お前"


"もういい。力も無い上に努力もしない……本物のクズに期待していた僕が悪かった"


"もう、二度と僕に話しかけないでね"


「…………」

 喧嘩とは、互いに言い合ったり殴り合ったりする事だと思うのだが、昨日の出来事を思い返してみると、俺があいつに一方的に甚振られただけだった。
 果たしてこれは喧嘩というのだろうか。
 俺の全てを否定され、拒絶され、そして立ち去っていった。
 ただ、それだけ。
 だから、俺はクロードの言葉に―――

「別に、喧嘩なんかしてねぇよ」

「……そうか?」

「ああ」

「…………。わかった。そういう事にしておくよ」

「…………」

 センリが頷くとクロードは小さく嘆息し、それ以上は何も言ってこなかった。


―――それから、数分後。
 気が付くと既にセンリは自分の部屋の前まで辿り着いていた。
 そこでクロードがこちらを振り向いて口を開く。

「そんじゃあな。俺、あっちだから。また機会があったら3人で一緒に食おうな?」

「……機会があれば、な」

「はは。相変わらずだな、お前」

 センリの言葉にクロードが苦笑し、そのまま去っていった。

「…………」

 それを暫く見つめ、角を曲がってクロードの姿が見えなくなってから、胸ポケットに入れてあるステータスプレートを取り出して鍵を開ける。
 そして部屋の中に入ってドアを閉め、自分の部屋の中にいた人物を睨み付ける。
 すると、俺の部屋で寛ぐ不法侵入者がこちらを見つめて言ってきた。

「おや……?随分と早起きなのですね。てっきりまだ寝てるのかと思ってましたが……」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品