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勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*深窓の氷姫―1*



―――夢を見た。


 それは、今から約10年前の、私の記憶。


 当時の私はまだ5歳。


 季節は冬だ。


 窓の外を見てみれば、白くて儚い氷の結晶が空から地へ―――次々と降り注いでいる、夜の冬景色。


 6歳の誕生日を近くに控えた私は、いつも通り丸いテーブルを家族4人で囲み、執事やメイドといった使用人たちと(別のテーブルではあるが)同じ部屋で同じ物を食べる―――というのが、フリーズライト公爵家の、古くからの仕来たり。


 私の右隣にはお父様が。
 私の左隣にはお母様が。
 ……そして、私の正面には姉さんが。


 フリーズライト公爵家の次女として生まれた私は、フリーズライト家の名に恥じぬよう、様々な習い事やお稽古に励む毎日だった。


 けれど、そんな生活が辛いだなんて思った事は一度もない。




―――何故なら、それが私にとっての『普通』であり、『生き甲斐』だったから。




 一つの事を覚える度に、お父様が頭を撫でて、「よく頑張ったな」と褒めてくれた。
 一つの事が出来るようになる度に、お母様が私を優しく抱きしめて「凄いじゃない」と一緒に喜んでくれた。
 もし何かで失敗し、悩んで、やりきれない思いになった時は、姉さんがアドバイスをくれたり、励ましたりしてくれた。


 そんな両親……そして、いつも真摯になって私の力になってくれた姉さんが、私は大好きだったのだ。


 ……けれど、そんな姉さんに、私はちょっとだけ嫉妬していた。


 姉さんの名前は、ルキリア・フリーズライト。


 そして、あの姉さんを一言で言うならば、『天才』。


 この言葉は姉さんの為にあると言っても過言ではないほど、私にとって姉さんは大きな存在だったのだ。


 私が死物狂いで努力し、丸一日かけて出来るようになる事を、姉さんは涼しい顔して、たったの数時間で出来るようになってしまうのだ。


 けどそこで、決して傲った態度は取らず、皆の立場になって客観的に物事を見る事が出来るのが姉さんなのだ。




―――いつかは姉さんのようになりたい。


―――そして、いつかは姉さんを超えたい。




 それが、当時の私の目標だった。


 ……まぁ結局、歳が9つも離れているとはいえ、私が、何においても "完璧" すぎるあの姉さんを超える事など出来なかったのだが……。




 それから少し月日が経ち、いよいよ私の誕生日当日。


 使用人たちが私のために、早朝から部屋の装飾、料理などを作り、今夜のパーティの準備をしていた。


 両親や使用人、そして姉さんから、夜までダイニングルームへの立ち入りは禁止だと言われ、しょうがなく私は、夕方までの間、街の中を散策することにした。


 いつもお世話になっているのおじさんや、おばさんたちから「誕生日おめでとう」と言われるのは少し気恥ずかしかったが、もちろん悪い気はしなかった。
 それに、いろいろとサービスもしてもらった。


 そして、気づけばもう18時前。
 この時期は昼の時間が短く、すでに辺りは暗くなってしまっていた。


 サービスしてもらった食材を両手で抱えるように持ち、プレゼントされた綺麗な首飾りを首に下げ、私は早足で屋敷へと向かった。


 屋敷の門を潜り抜け、私は玄関に入った。


 しかし、いつもは必ず玄関ここで出迎えてくれる使用人が、今日はいない。
 皆はもうダイニングルームにいるのかな?と思った私は、ワクワクする気持ちを抑えきれずに、ダイニングルームへと向かった。


 そして、ダイニングルームの扉の前まで辿り着き、私はゆっくりと扉を開けた。


―――しかし、中を見た瞬間。
 身体から力が一気に抜け、両手からサービスで貰った食材が、床に落ちた。




「…………ぇ…………?」




―――ダイニングルームそこは、私が想像していた景色とは正反対の、混沌とした空間へと変わり果てていた。


 朝から使用人や両親、そして姉さんが準備していたはずの装飾。
 その装飾には真っ赤な血がこびりつき……。


 今日食べるはずだった、そして楽しみにしていた巨大な白いケーキにも、真っ赤な血が飛び散っている。


 そして、四肢や首、胴体を切り離され、血まみれで床に倒れる自分の両親と使用人たち。


「……っ……」


 私はゆっくりと、変わり果てた両親に歩み寄り、声をかけた。


「……お父様……? ……お母様……? ……ただ今帰りました……」


 ……もう返事など返って来ない。
 そんな事、子供の私でも当然分かってる。
 けれど、私は続けた。


「……今日は街の散策をしていたんですよ……? ……時間を忘れて、少し帰りが遅くなってしまいましたが……」


 瞳からはボロボロと涙が零れてくる。
 けれど私は、無理やり笑顔を作り、


「……ほら、見てください。 ……商店街の皆さんから、沢山プレゼントも貰いまし、た…………あれ…………?」


 そう言って、抱えていた食材を見せようとしたが、手には何もない。


「……ぁ……」


 と、そこで、入り口に落ちている食材を見つけた。
 私はゆっくり立ち上がる。
 そして再び入り口へと戻り、落とした食材を拾って、再び両親のところへ。


「……お肉に、お野菜……お父様が好きなお魚まで………。 さぁ、早く私の誕生日パーティーを始めましょう?私、ずっと楽しみに………たの、しみ……ッ……! ……う、くっ……!」


 動かない、返事もしない両親を見ていたら、次々と涙が流れてきて、


「……う、うああ………うわああぁぁぁ………!」


 お父様とお母様の隣にへたり込み、とうとう私は泣き崩れてしまった。



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