勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*噂の真相*



「その事なんだが……グレイシアがどうとか、お手手繋いだとか、人として終わってるとか……散々言われてきたんだが、一体何の事なんだ?」


「…………え?」


 センリがシャノンにそう訊ねると、ポカンとした顔で見つめてきた。


「……なんだよ?」


「それ、学院中で噂になってるんだよ?」


「んな事くれぇわーってるよ!! なんでそんな噂が出回ってんだって聞いてんだ!!」


「……い、いや……なんでって……」


 センリの言葉に、シャノンが困ったようにそう呟いた後、ポケットから何かの写真を取り出した。


「この写真……セッちんが編入してくる前のなんだけど……心当たりあるでしょ?」


「……あ? ……ちょっと見せろ!」


 シャノンからその写真を奪い取って、センリが確認する。
 すると、


「……ッ……!」


 それは―――。


 ルセリアに校舎の案内をされ、別れ際に握手をした瞬間の写真だったのだ。


―――だが、これで全て合点がいった。


 何者かがこの写真を撮り、その写真が出回ってこんな状況になったというわけか。


 そう、一人で納得しているとシャノンが横から再び問いかけてくる。


「……それで?結局どうなの??」


 それに、センリが苦笑しながら答えてやった。


「……別に、俺たちは "そんな関係" なんかじゃねーよ。 あの時、親切な副会長様が、右も左も分からない俺に校舎を案内してくれたんだ。……ただ、それだけだよ」


「な~んだ、そうだったんだ。……じゃあ、深窓の氷姫グレイシアがセッちんと握手したっていうのも―――」


「ああ。……恐らく、ただの社交辞令みたいなモンだったんだろ」


「……ま、確かにそう言われればそんな気もしてきたな~」


 などと言い、彼女は彼女で納得したようだ。
 だが、センリの方はまだ "完全" に納得してはいなかった。


「だが、なんでこんなに噂が広まったんだよ?たかが "握手" しただけだろ?」


「……あー……」


 センリの問いに、何と答えようか一瞬迷ったように苦笑し、斜め上に目線を向けたシャノンが言った。


「あのね……初めてなんだよ。深窓の氷姫かのじょが、他人に対して握手なんてしたの……」


「……ふむ」


「クールで真面目で、生徒の為に一生懸命生徒会役員として働いてるんだけど……なんか、人を寄せ付けないオーラ放ってて……。 セッちんも何となくわかるでしょ?」


「…………」


 確かにあの時のルセリアは、編入生センリに対して親切で、わざわざ仕事中に校舎を案内してくれた。
 まぁ、彼女は『案内も仕事の一環だ』と言っていたが……。


―――だが。
 センリの忠告に、彼女が言った言葉。




“私はこの生活を変えるつもりはないの”




 恐らくあの言葉には『意志』や『覚悟』の他に、別の意味・・・・も含まれていたのではないだろうか。
 もしそうだとすると、彼女が抱えているその
"何か" が、人を寄せ付けない……あるいは、人が寄り付かない理由わけなのではないだろうか。


「(……もしかすると、あいつと俺は少し似ているのかもしれないな……)」




“貴方その歳で、一体どんな経験をしたというの?”




「……ねぇねっ、セッちん!セッちんはこの後、ひま?」


 そんな事を考えていると、いきなりシャノンが声をかけてきた。
 だがこれから、生物が生きる上で必要な『食事』をしなければならないセンリは、首を横に振って応じる。


「……いや、この後俺は大忙しだ」


「あのさ、良かったらこれから皆で―――」


 こちらの言葉を聞いてか聞かずか、勝手に話を進めようとするシャノンを遮って、センリが言った。


「……人の話を聞け。用事があるって言ってんだろうが」


「えぇ~~っ!? ノリ悪いな~~!」


「…………」


 またこいつの "ノリ" で、訳の分からん事に付き合わされるのは御免だ。
 だが、センリがここまで言っても、シャノンはまだ食い下がってくる。


「あのさ……それって、そんなに大事な用事なの?」


「……ああ」


「絶対にやらなきゃいけないの?」


「ああ」


「今、夜中だよ?」


「それは関係ねぇだろ」


「……で、でもっ……」


「でもじゃねぇ」


「……っ……」


「…………」


 すると、いきなり俯いて静かになるシャノン。


―――ようやく諦めたか?


 そう思って、その場から立ち去ろうとしたセンリの裾を、シャノンが指先でギュッと掴んだ。


「……ねぇ、待ってよ……」


「……ああ? まだ何か―――」


 面倒くさそうに、センリが振り返る。
 するとそこには、うっすらと目元に涙を浮かべ、こちらを上目使いで見つめるシャノンがいた。
 シャノンが、震える声で言った。


「……セッちんは……そんなにあたしと一緒にいるのが嫌なの……?」


「…………」


「あたしって……もしかしてセッちんにとって、すっごく "迷惑" だったり、する……?」


「…………」


「……あはは……そだよね……。 あたしって、自分勝手でわがままで……いつも人の話を聞かずに、自分の意見だけ人に押し付けて……嫌だよね?こんなあたしと一緒にいるの……」


「……シャノン……」


「……ねぇ、セッちん……」


「……なんだ?」


「良かったらさ……良かったら、だよ? セッちんが良かったらだけど―――」


「…………」


「今からさ……皆で集まって、お菓子食べながらお喋りとかしたら楽しそうじゃない……?」


 そんな事を言ってくるシャノンの手を振り解き、センリはひらひらと手を振りながらレジに向かった。


「……おやすみ。また明日」


「―――ちょ、ちょっと待ってよっ!」


 だが、すぐにまたシャノンに捕まってしまう。


「……なんだ!?」


「なんで帰ろうとするの!?」


「だから用事があるって言ってんだろうが!」


「…………」


「…………」


「あのさ……それって、そんなに大事な用事なの?」


「……ああ!」


「絶対にやらなきゃいけないの?」


「ああ!」


「今、夜中だよ?」


「それは関係ねぇだろ!」


「……で、でもっ……」


「でもじゃねぇ! つーか、何回続けるつもりだ、コレ!?」


「ノリ悪いなぁ~っ☆」


「うるせぇ!!」


「……っ……」


「…………」


 センリがそう言うと、いきなり俯いて静かになるシャノン。
 すると再び、うっすらと目元に涙を浮かべ、こちらを上目使いで見つめるシャノン。
 シャノンが、震える声で言った。


「……セッちんは……そんなにあたしと一緒にいるのが嫌なの……?」


「…………」


「あたしって……もしかしてセッちんにとって、すっごく "迷惑" だったり、する……?」


「……はぁ……」


「……あはは……そだよね……。 あたしって、自分勝手でわがままで……いつも人の話を聞かずに、自分の意見だけ人に押し付けて……嫌だよね?こんなあたしと一緒にいるの……」




「自覚があるなら改善する努力をしろよ!?」




 センリがそう言うと、シャノンが不思議そうに首を傾げて呟いた。


「……あれれぇ~っ、おっかしいなぁ~。 涙目になって上目使いでお願いすれば、そこら辺の男なんてすぐに鼻の下伸ばして言う事聞いてくれるって、前にサヤっちが言ってたのに……」


「……俺をそこら辺の男と一緒にするな」


「…………。ねぇね、もしかしてセッちんって―――こっち系の人?」


「やめろ、断じて違う!」


 自分の頬に手の甲を当てながらそんな事を言い出すシャノンの言葉を即座に否定しつつ、センリはごほんと咳払いして言った。


「とにかく、俺はこれから大事な用事があるんだよ!」


「……うん、わかったよ。また今度、皆で集まろうね!」


「…………。……ああ、また今度な」


 ここで食い下がると、またややこしい事になるので、適当に相づちを打っておく。


 そしてセンリは、今度こそレジで会計を済ませて部屋に向かい、食事を済ませて再びベッドに入った。


―――だが、この時のセンリは思いもしなかっただろう。


―――自分の身に、過去最大の災厄が忍び寄っていた事を……。




           ※




「……ふむ。ここがバンダグラムか……」


―――暗闇の中。
 フードを深く被り、妖しく輝く黄色の瞳で辺りを見回しながら少女が言った。


「……まぁ、今回もあまり期待はしとらんが……。 取り敢えず吸血鬼探しは、日が昇ってからとするかのう……」


 少女は退屈そうにそう呟いてから、街の方へと向かって歩いて行った。



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