勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*深夜の学生寮*



「……んっ……」


 目が覚める。
 最初に目に入ったのは、見慣れない天井だった。


「……どこだ、ここ……」


 センリが起き上がる。
 どうやら自分がいるのはベッドの上らしい。


「…………」


 辺りを見回す。
 そして、思い出した。


「ああ……そういや俺、寮にいたんだった……」


 今まで、目が覚めたら周りは大量の草が生い茂っており、身体中が虫に刺されて腫れまくっているという地獄の野宿を一週間も続けていたのだ。


 この世界に来る前は、ほぼ一日中、建物の中にいたのであまり感じた事はなかったが、やはりこうしてみると屋根のある建物……それも、ベッドの上で寝られるという幸福に涙が出てくる。……勿論、比喩的な意味でだが。


 時計で時間を確認すると、とっくに深夜0時を回っていた。
 もちろん部屋は真っ暗で、常人にはどこに何があるのかさえ分からないのだろうが、センリにはほぼ見えている。
 最初は日に日に冴えていく自分の目を恐ろしく感じていたのだが、流石にもう慣れた。


 センリはベッドから立ち上がって、バルコニーへ向かう。


「…………」


 部屋と違い、バルコニーはそれほど広くはなかった。
 だが、このくらいの広さがちょうどいい。


 手すりに肘を乗せて、外の景色を眺める。
 ちなみに、ここは6階だ。
 一望千里。とまではいかないが、それでもなかなかいい景色だった。
 それに、夏夜のそよ風が心地いい。


「…………」


 久々にしっかりと眠れた気がする。
 疲れもかなり取れただろう。
 それに明日は一日中休み。
 ……いや、もう "今日" か。


 そんな事を考えていると、突然腹が鳴った。
 そう言えば、昨日は何も食べずに寝たんだった。


 センリは軽く何か食べようかと思ってバルコニーを離れる。


 部屋に戻って食い物を探してみるが、当然有るわけもなく……。


「……仕方ない、か……」


 センリは適当な食い物を買いに、部屋を出て売店に向かう。


 ちなみに、この寮の門限は23時。
 つまり23時に寮内にいればいいのだ。
 ということは23時を過ぎてしまった今でも、他者に迷惑をかけなければ寮内をぶらついても良いということ。
 食堂は21時には閉まるのだが、売店に限っては1日中開いているらしい。


 部屋を出たセンリは通路を歩いてエレベーターに乗り、男子寮の一階まで降りる。
 そこから再び通路を歩き、ようやくエントランスホールへと辿り着いた。


「…………」


 やはりこの時間では、昼間のような明るさはなかった。
 薄暗い、人気も無いエントランスホールを突き進み、エスカレーターに近付く。
 すると、センリの存在を感知したエスカレーターが起動。
 動き出したエスカレーターを使ってそのまま売店へ。


「(……ったく、自分の部屋からここのエントランスホールまで、一体何分かかるんだ?)」


 そんな事を考えながら売店に入り、取り敢えず適当なカップ麺を10個、籠の中に突っ込んだ。
 やはり、カップ麺は買っておいて損は無い。


・日保ちする。
・お湯さえあれば作る事が出来る。
・時間がかからない。
・安い。
・美味い。


 センリが最も愛用する食品だ。


 本当に、こんな便利なカップ麺を創った人には感謝しかない。尊敬に値する。


「…………」


 そんな事を思いながら店内をぶらついていると、見知った女子生徒がいた。


 ウェーブのかかった青髪を二つに分けて束ねた小柄な少女。
 彼女は籠の中に沢山の飲み物やスナック菓子を詰め込んでいながらも、まだ棚にあるスナック菓子とにらめっこしている。
 もしかして、まだ買うつもりなのだろうか?


 しかし、センリは当然無視する。
 こんなところであの青髪と鉢合わせたらどうなるかくらい、流石にセンリにも想像できる。


 そう思って早足でレジへと向かう。
 だが、




「……あっ!セッちんだぁ! おーい!セッち~ん!!」




「―――ッッ―――!!??」


 見つかった……。
 深夜の売店に響き渡るシャノンの大声スピーカーボイス
 しかし、あんなのと関り合いになりたくないセンリは (無駄だと分かっていても) さらに早足でレジに向かった。
 だがシャノンが、さらに声を張り上げながら近づいて来る。




「お~いっ! セッち~~ん!! あたしだよ、あたし!シ・ャ・ノ・ン!!」




「やかましいわッ!!」


「―――むぐッ!?」


 いい加減に我慢の限界を迎えたセンリが振り返って、シャノンの口を塞いでから言った。


「馬鹿かテメェ!?今の時間考えろ!!」


「………ふむっ………? …………むっ!」


 センリにそこまで言われて、ようやく気づいたようだ。
 センリがため息を吐き、シャノンの口から手を放す。


 そして開口一番、シャノンがこんな事を訊ねてきた。


「ねぇね、どしてセッちんがこんな時間にこんな所にいるの?」


 その問いに、センリが嘆息。


「……俺がこんな時間にこんな所にいちゃ悪いか?」


 素っ気なくそう応じると、笑いながら「それもそっか」と言って納得するシャノン。
 そんなシャノンを見据えて、センリが言った。


「んな事よりお前……そんなに沢山ジャンクフード買ってどうするつもりだ? まさかこんな時間に食うのかよ、それ……」


「あはは。さすがにあたし一人で全部は食べないよ……」


 という事は、少しは食べると言うことか……。
 というか、今……。


「……お前一人で?」


「うん。フィリスやサヤっちと一緒に食べよかな~と思って……」


「あいつらと……?」


「そそ。あたしたち3人、同室なんだよ。」


「……ああ。そういう事か……」


 自分が特殊なだけで、大抵は2・3人共同で部屋を使ってるんだったな。
 そんな事を考えていると、突然シャノンが目を輝かせながら訊ねてきた。


「ねぇね、そんな事よりさ! セッちんと深窓の氷姫グレイシアって、どんな関係なの?もしかして、恋人同士だったりする?」


「…………」


 またその話か……。
 編入してから一体、この話を聞いたのは何回目だ?


―――この際だ。
 その事について、こいつに確かめてみる事にする。


「その事なんだが……グレイシアがどうとか、お手手繋いだとか、人として終わってるとか……散々言われてきたんだが、一体何の事なんだ?」



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