勇者の魂を受け継いだ問題児
*寮長見参*
「「 寮生全員があの寮長の事を恐れているからだよ 」」
「…………」
二人の表情と声音から、決して冗談などではないという事くらいは分かった。
センリは暫しの無言の後、再び口を開いて訊ねた。
「……という事は、結構ヤバいそっち系の人だったりするのか……?」
しかし、その問いにクロードが首を横に振る。
「いや、物凄く好い人だぞ?困った事があれば何でも相談に乗ってくれて、信頼できて、いつもニコニコしていて……まぁ、寮生全員に分け隔て無く接してくれる『お母さん』みたいな人だ」
「……なんだよそれ。なんか矛盾してないか……?」
「要は、怒らせなければいいんだよ。寮のルールをしっかり守って、彼女の逆鱗に触れさえしなければとても温厚で、寮生たちに慕われるような人だからね」
「へぇ……ちなみにその "逆鱗" って―――」
「……あら?二人とも。その方はもしかして……」
「……ん?」
センリが寮長の事をもっと聞こうと思ったが、その瞬間、横から声がかかった。
センリがそちらへ目を向けると、一人の女性がいた。
薄紫色の長い髪を後ろで1つに束ねた、20代後半から30代前半くらいの女性。
彼女は、この派手で豪勢な寮とは対照的で不似合いな和服を身に纏い、微笑を浮かべながら此方へ歩いてくる。
「(……もしかして、この人が……?)」
この雰囲気を見る限り、とても温厚だということは事実なのだろう。
「……ああ、こいつは―――」
和服姿の女性に問われて、クロードが俺を紹介しようとしたが、屈託の無い笑みを浮かべたセンリが遮って言った。
「センリ・ヴァンクリフと申します。先日、聖グラムハート学院に編入させていただきました。本日から学生寮でお世話になります。よろしくお願いします」
そう言って、センリが頭を下げた。
「―――ッ!?」
「―――は!?」
そんな、(猫を被った) センリの態度を見た二人の表情が、固まる。
ソーマに関してはセレスティーナの時に見たと思うが、面倒くさそうに諂っていただけのあの時とは、センリの表情や声音がまるっきり違ったのだ。
センリの自己紹介を聞いた女性が、微笑を浮かべたまま言った。
「ふふっ、やはりそうでしたか。理事長から話は聞いています。 私はこの学生寮の寮長を勤めている、カグラ・ソフィーリエと言います」
「…………」
「…………」
「はい、よろしくお願いします」
センリは、言葉を失って呆然と佇む二人を無視して再び頭を下げた。
だがその時、背後で二人がコソコソと密談し始める。
「……なんだこいつ……寮長を見た瞬間、急に態度変えやがったぞ?」
「うん……僕も今日ちょっとだけ見たけど、あの時とは雰囲気がまるで違う……」
「一体、何を企んでんだ? もしかしてこいつ、寮長のことが……」
「さぁ……けど一つだけ言えるのは、今のセンリが――」
「ああ――」
「「 物凄く、気持ち悪い……!! 」」
「…………」
こいつら、後で殴る。
そんな事を決心するが、一切表情には出さずに、今度は控え目な態度でセンリが本題へと誘導する。
「それで、あの……入寮の手続きをお願いしたいのですが……」
センリの言葉に、カグラが笑みを絶やさずに首肯。
「ええ。私もその件で声をかけました」
「ああ、そうだったんですね。わざわざ済みませんでした。こちらから伺えば良かったのですが、学生寮の内装に目を奪われてしまいまして……」
「ふふっ、いいんですよ。……では失礼ですが、一応確認のため、<ステータスプレート>を拝見させて貰ってもよろしいですか?」
そう言われ、センリは胸ポケットに入れていた<ステータスプレート>を、リリアナから貰ったケースごと、カグラに手渡した。
「……っ……!」
それに、少しだけ驚いた様子を見せるカグラ。
それを見てセンリが首を傾げると、カグラがこちらを真っ直ぐ見つめて言ってきた。
「……あの、良いのですか?こんなに簡単に自分の<ステータスプレート>を、会ったばかりの他人に預けて……」
「…………」
カグラのその言葉で、思い出す。
そういえばこのカードは、この世界で生きていく俺にとって、命の次に大切な個人情報だった。
我ながら、この浅はか過ぎる行いに反省する。
どうにも俺は、『センリ・ヴァンクリフ』というこの世界の俺の情報を些末に考えてしまうのだ。
まだ自分でもどこかで、このカードの中にある情報はあくまで『センリ』の物であり、『優真』のものではない、と考えてしまっている。
この世界での俺は『センリ』なのだから、(一時的に) この世界でに生きていくと決めた俺は、『センリ』という自分を受け入れなければならないのだ。
しかし、一度自分から<ステータスプレート>を手渡しておいて、すぐに奪い返すというのもちょっとアレだろう。
この機を境に『優真』から『センリ』へと完全に切り替えると心に決め、センリはカグラに言った。
「……ええ。二人に貴女の事を伺いました。とても信頼できる方だと……。 それに結局、<ステータスプレート>は入寮する際に必要なんですよね?」
「……ええ、まぁ……部屋の鍵として設定しなければならないので、確かに必要ではありますが……」
「でしたら構いません。俺は貴女を信用しますよ」
そう言って、センリが微笑んだ。
そしてカグラも再び微笑を浮かべる。
「そうですか。では、お預かりします。……すぐに設定は終わるので、少しここで待っていてくださいね?」
「はい。では、お願いします」
センリが頭を下げると、カグラも笑みを浮かべたまま会釈し、センリの<ステータスプレート>を持ったまま、この場を立ち去った。
「…………」
二人の表情と声音から、決して冗談などではないという事くらいは分かった。
センリは暫しの無言の後、再び口を開いて訊ねた。
「……という事は、結構ヤバいそっち系の人だったりするのか……?」
しかし、その問いにクロードが首を横に振る。
「いや、物凄く好い人だぞ?困った事があれば何でも相談に乗ってくれて、信頼できて、いつもニコニコしていて……まぁ、寮生全員に分け隔て無く接してくれる『お母さん』みたいな人だ」
「……なんだよそれ。なんか矛盾してないか……?」
「要は、怒らせなければいいんだよ。寮のルールをしっかり守って、彼女の逆鱗に触れさえしなければとても温厚で、寮生たちに慕われるような人だからね」
「へぇ……ちなみにその "逆鱗" って―――」
「……あら?二人とも。その方はもしかして……」
「……ん?」
センリが寮長の事をもっと聞こうと思ったが、その瞬間、横から声がかかった。
センリがそちらへ目を向けると、一人の女性がいた。
薄紫色の長い髪を後ろで1つに束ねた、20代後半から30代前半くらいの女性。
彼女は、この派手で豪勢な寮とは対照的で不似合いな和服を身に纏い、微笑を浮かべながら此方へ歩いてくる。
「(……もしかして、この人が……?)」
この雰囲気を見る限り、とても温厚だということは事実なのだろう。
「……ああ、こいつは―――」
和服姿の女性に問われて、クロードが俺を紹介しようとしたが、屈託の無い笑みを浮かべたセンリが遮って言った。
「センリ・ヴァンクリフと申します。先日、聖グラムハート学院に編入させていただきました。本日から学生寮でお世話になります。よろしくお願いします」
そう言って、センリが頭を下げた。
「―――ッ!?」
「―――は!?」
そんな、(猫を被った) センリの態度を見た二人の表情が、固まる。
ソーマに関してはセレスティーナの時に見たと思うが、面倒くさそうに諂っていただけのあの時とは、センリの表情や声音がまるっきり違ったのだ。
センリの自己紹介を聞いた女性が、微笑を浮かべたまま言った。
「ふふっ、やはりそうでしたか。理事長から話は聞いています。 私はこの学生寮の寮長を勤めている、カグラ・ソフィーリエと言います」
「…………」
「…………」
「はい、よろしくお願いします」
センリは、言葉を失って呆然と佇む二人を無視して再び頭を下げた。
だがその時、背後で二人がコソコソと密談し始める。
「……なんだこいつ……寮長を見た瞬間、急に態度変えやがったぞ?」
「うん……僕も今日ちょっとだけ見たけど、あの時とは雰囲気がまるで違う……」
「一体、何を企んでんだ? もしかしてこいつ、寮長のことが……」
「さぁ……けど一つだけ言えるのは、今のセンリが――」
「ああ――」
「「 物凄く、気持ち悪い……!! 」」
「…………」
こいつら、後で殴る。
そんな事を決心するが、一切表情には出さずに、今度は控え目な態度でセンリが本題へと誘導する。
「それで、あの……入寮の手続きをお願いしたいのですが……」
センリの言葉に、カグラが笑みを絶やさずに首肯。
「ええ。私もその件で声をかけました」
「ああ、そうだったんですね。わざわざ済みませんでした。こちらから伺えば良かったのですが、学生寮の内装に目を奪われてしまいまして……」
「ふふっ、いいんですよ。……では失礼ですが、一応確認のため、<ステータスプレート>を拝見させて貰ってもよろしいですか?」
そう言われ、センリは胸ポケットに入れていた<ステータスプレート>を、リリアナから貰ったケースごと、カグラに手渡した。
「……っ……!」
それに、少しだけ驚いた様子を見せるカグラ。
それを見てセンリが首を傾げると、カグラがこちらを真っ直ぐ見つめて言ってきた。
「……あの、良いのですか?こんなに簡単に自分の<ステータスプレート>を、会ったばかりの他人に預けて……」
「…………」
カグラのその言葉で、思い出す。
そういえばこのカードは、この世界で生きていく俺にとって、命の次に大切な個人情報だった。
我ながら、この浅はか過ぎる行いに反省する。
どうにも俺は、『センリ・ヴァンクリフ』というこの世界の俺の情報を些末に考えてしまうのだ。
まだ自分でもどこかで、このカードの中にある情報はあくまで『センリ』の物であり、『優真』のものではない、と考えてしまっている。
この世界での俺は『センリ』なのだから、(一時的に) この世界でに生きていくと決めた俺は、『センリ』という自分を受け入れなければならないのだ。
しかし、一度自分から<ステータスプレート>を手渡しておいて、すぐに奪い返すというのもちょっとアレだろう。
この機を境に『優真』から『センリ』へと完全に切り替えると心に決め、センリはカグラに言った。
「……ええ。二人に貴女の事を伺いました。とても信頼できる方だと……。 それに結局、<ステータスプレート>は入寮する際に必要なんですよね?」
「……ええ、まぁ……部屋の鍵として設定しなければならないので、確かに必要ではありますが……」
「でしたら構いません。俺は貴女を信用しますよ」
そう言って、センリが微笑んだ。
そしてカグラも再び微笑を浮かべる。
「そうですか。では、お預かりします。……すぐに設定は終わるので、少しここで待っていてくださいね?」
「はい。では、お願いします」
センリが頭を下げると、カグラも笑みを浮かべたまま会釈し、センリの<ステータスプレート>を持ったまま、この場を立ち去った。
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