勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*浮上する疑惑*

「……おや?センリくんじゃないか……」


「……ん?」


 センリの正面から声がかかる。
 品のある落ち着いた声音。
 センリが此方に目を向けると、悠然とした佇まいで、紫がかった艶のある黒髪をなびかせながら歩いてくる一人の少女。


―――キリカ・トワイライト。


 センリが校舎内にいる時、一緒にサボって……もとい、休憩していた少女だ。


 その少女が問いかけてくる。


「もう試験は終わったのかい?」


「……ああ。今から帰るところだ」


「そうか。それで、試験の結果はどうだった?」


「……何故そんな事をお前に言わなきゃなんねぇんだ?」


「あはは。別に言わなければならない、という事はないよ……ただ、気になるじゃないか」


「……気になる?」


「ああ。何せキミは、私の模擬決闘の対戦相手なのだからね」


「……はっ、そういう事か……」


 ここで理解した。


「だが、お前が気にする程じゃないと思うがな……。俺にはお前が思っているような実力も才能もない」


「またまた……」


「…………」


 キリカが苦笑しながらそう言うが、今のセンリの言葉は冗談でも謙遜でもなく、事実だった。
 今まで17年間、どれだけ自分の無力さを呪って来た事か……。


「……ふぅ……まぁいい」


 キリカがそう言って、センリの隣を通り過ぎる。


「なら、当日まで楽しみにしているよ。それではお互い、良い勝負をしよう」


 それだけ言って、キリカは試験会場グラウンドへ向かって歩いて行った。
 キリカを見送ると、その擦れ違いで二人の男が駆け足で向かって来るのが分かった。


「おーい!センリィ~っ!!」
「待ちなよ~!」


「…………」


 しかしセンリはその男たちを無視して、再び歩き出す。
 だが、すぐに二人が追い付いた。


「……だ~か~ら~、待ぁてってば!どうせだから、一緒に帰ろうぜ~ッ!」


 そう言って、ドンッ!とセンリの肩に手を回したのは茶髪の男。


「……君、なに一人で帰ろうとしてんのさ」


 その後、横から銀髪の男が言ってくる。
 センリはその銀髪の男を睨み付けて、


「……んな事より、なんで面倒なのが一匹増えてんだよ?」


 センリの問いに銀髪の男、ソーマが答える。


「ちょうどクロードも試験が終わったみたいだからね」


「……それ答えになってねぇ~。っていうか、俺が聞きたいのはそんな事じゃねぇ~」


 どうしてちょうど同じ時間に終わったからといって、俺がコイツらと一緒に帰んなきゃならないんだ?


「ははっ、まぁいいじゃねえか!どうせ行くところは同じなんだからよ!」


 などと茶髪のチャラ男、クロードが言ってくる。
 すると横から、


「……それよりさ、センリ。さっき君、『面倒なのが一匹増えた~』って言ってたけど……その言い方だとまるで、僕まで邪魔者扱いされてるみたいじゃないか」


 ソーマが心外だとでも言うような表情で言ってきた。


「…………」


 センリは無言でソーマを見据える。
 そして―――


「はぁぁ……」


―――深いため息。


 ソーマはセンリのため息の理由に気づいていないのか、あるいは気づいていてわざとなのか……へらへら笑いながら付いてくる。


 すると、何かを思い出したかのように、未だにセンリの肩に手を回していたクロードが再び口を開いた。


「……そういやお前、さっき、あの・・キリカと話してたよな? お前らって知り合いだったの?」


「……別に」


 いい加減邪魔になったので、クロードの腕を振り解いて短く適当に応じる。


「……ああ、まぁ……深くは詮索しねぇが、お前の為に忠告しておいてやる。あの女だけはやめとけ・・・・・・・・・・


「……は?何の事だ……?」


 いきなりそんな事を言い出すクロードに、センリが首を傾げて訊ねる。
 しかし、クロードが何故か共感するような口振りで続けた。


「いやぁー、分かる!分かるけどよぉ……あの女だけは絶対にダメだ! 確かにあの女の見た目は良い!だが、あいつは本当に見た目だけだぞ!? ……お前は性格はアレだが、顔はそこそこ良い方だろ?別にあの女じゃなくても他に良い女は沢山いるから、アレはもう諦めろ!」


「…………」


 さっきから何言ってんだ、こいつ……。
 そんな事を思って、チラリとソーマを一瞥する。
 しかしソーマは、苦笑して肩を竦めるだけだった。
 クロードがさらに続ける。


「どうせ付き合うんならさ、フィリシアちゃんとかどうよ?……あ~でも、お前にゃ流石にフィリシアちゃんは高嶺の花かなぁ~」


「……オイ、ちょっと待て」


 どんどん話を進めていくクロードを制止する。


「……なんだよ?」


「なんだよじゃねえ! 全く話が見えないんだが? 何故キリカあいつの話から、俺が付き合う・付き合わないの話になってんだ!?」


「……いや、だってお前、キリカあいつの事が好きなんだろ?」


「…………。はぁ……」


 その言葉を聞いて、突如ため息を吐いて頭を押さえるセンリを見たクロードが、慌てて確認してくる。


「……えぇ!?違うの?お前、あいつにアイラブユーじゃねえの!?」


「……いや、何をどう見たらそうなるんだ」


 それに、ちょっと文法おかしいし……。


 センリが呆れてもう一度ため息を吐き、続ける。


「……とにかく、俺は友人も恋人もいらん。自己紹介の時にも言っただろうが!」


 それを聞いたソーマが、相変わらずのへらへら顔で言ってくる。


「えー、でも僕たちもう友達じゃんか~!」


「そうだぞ~!俺たちはもう友達になっちゃったんだ!諦めろ」


「ふざけんなボケッ!!誰がそんなの認めるか!!」


 そんなセンリの反応に、面白そうにへらへら笑う二人。


「もう、照れちゃって」


「お前が何と言おうと、俺たちは友達だ! はい、この話はこれでおしまい」


「…………」


 勝手に言い出しておいて、勝手に終わらせやがった。
 センリは面倒くさそうに空を見上げる。


「……ったく、勝手にそう思い込んでろ」


 センリは諦めたようにそう呟いた後、3人は一度教室へ戻り、荷物を持って校門を出た。



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