勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*動き出した影*

「……ネェネェ君ぃ~。どこから来たのォ~?」
「もしかして迷子? ママと逸れちゃったのかな~?」
「良かったらさァ……ママが見つかるまで俺たちと遊ばなぁ~い?」


「…………」


―――帝都ミッドガルドにある、とある路地裏にて。


 無地のマントに付いているフードを深く被った少女を、大人三人で囲んでいる。
 言うまでもなく、ナンパだ。


「何か食べたい物とかある~?」
「お兄ちゃんたちが奢ってあげるよ?」


「…………」


 しかし、少女は無言。
 その反応にいい加減、痺れを切らした一人の男が、少しイラついたように声を荒らげる。


「……ネェネェ君、聞こえてますかァ!?」


 そう言って、一人の男が少女が被っているフードに手をかけ、そのままフードを捲った。
―――だが、その瞬間。


「―――ッッ!?!?」


 その少女の素顔を確認した男たちの表情が、同時に固まった。


「…………」


 鮮血を連想させる真っ赤な長髪に、人には珍しい黄色の双眸。
 可憐でありながらも高貴な印象を感じさせる、透き通るような白い肌。


 しかし、三人が驚いたのはそこではない。


 髪の毛からはみ出ている、人間離れした鋭い耳。
 そして何より額には、短くも、鋭く尖ったツノが二つ付いていた。


―――悪魔。
 それは『冥界』に君臨し、人間に最も恐れられている種族である。


 勿論、この男たちも例外ではなく……。


「………あ、ああ………あくま………ッ!?」


 少女のフードを捲った男が、後退りながら悲鳴を上げている。
 そして、その他二人も似たような反応。


「おやおや……バレてしまったのう……」


 そんな男たちの反応を見た少女が、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
 その瞬間に、少女の口元に見えた鋭い牙。


「―――ひっ!?」


 それを見た瞬間、今度は三人の男たちが腰を抜かし、その場に倒れ込んだ。
 そして、少女のフードを勝手に捲ってきた男を……昼間でも暗い路地裏で妖しく輝く黄色の双眸で見下ろし、笑みを浮かべたまま少女が初めて男たちに向け、優しく口を開いた。


「……そう怯えんでもよい。何も、いきなり取って食ったりなどはせんからの。 ……先程のようにわらわと接すれば良かろう?」


 そう言って少女はしゃがみ、腰を抜かした男と同じ目線の高さにして問うた。


「……時に、ぬしらに聞きたい事があっての。ちょいと聞いてくれぬか? ……もしも答えてくれたら、望み通り、妾が主らと "遊んで" くれようぞ?」


 少女の言葉に冷や汗をだらだらと流しながら、男たちが首を縦に数回振った。
 こんな軽薄そうな男たちでも、少女の "お願い" に首を横に振ったりなどすればどうなるか……それくらいは分かるらしい。


「……そうか。話が早くて助かる」


 そう言って少女が笑顔で頷き、男たちに問うた。


「……主らは、『センリ』という名の吸血鬼を知らぬか?」


 そんな少女の問いに、男たちが顔を見合わせてから……。


「……吸血鬼、って……」
「確か、何年か前に絶滅したハズじゃ……?」
「あ、ああ……俺もそんな話聞いた事がある……」


「……そうか」


 男たちの言葉を聞いて、少女が立ち上がる。
 それを見た一人の男が慌てて補足した。


「いや嘘じゃないぞ!?……あ、いや……です! ……本当に俺たちは知らなくて……俺たちあんまり歴史には詳しくないんですが、吸血鬼は何かの種族に滅ぼされたって聞いた事が……」


 そして、その言葉に残りの二人の男も、うんうんと首を縦に振る。
 そんな男たちを見下ろして少女が言う。


「安心せい。主らの認識で間違ってはおらん。 ……そうか。やはり、そう簡単には見つからぬか……」


「…………」
「…………」
「…………」


 少女がそう呟くと、何か言いたげに男たちが少女を見上げる。


「……む?なんじゃ? 妾の顔に何か付いておるのか?」


「……い、いえ。……正直に答えたので……その……俺たちを見逃し」


 そう言う男の言葉を遮り、少女が言った。


「おお!そうじゃった、そうじゃった! 正直者には褒美を呉れてやろう! 主らと "遊んで" やるのじゃったな!」


「……え゛?」
「いや……」
「……俺たちは……」


 しかし男たちの言葉を無視し、先程以上に禍々しく目を輝かせ、妖しい笑みを浮かべた少女が続けた。


「……主らは、悪魔の遊戯を・・・・・・知っておるか・・・・・・?」


「―――ッ―――!?」
「―――ッ―――!?」
「―――ッ―――!?」


 少女がそう言った瞬間―――。
 一切の悲鳴を上げる間もなく、男たちの首が宙を舞った―――。


「…………。……はぁ……」


 そして、既に骸となった男たちの事などうに忘れたとでも言うように、空を見上げながら悪魔しょうじょが言った。


「……結局、帝都ここにもらんかったか……。 ……さて、帝都ここから一番近い都市は何処じゃったかのう……ああ、そうじゃ」


 少女が再びフードを被り、マントを翻して踵を返す。


帝都ミッドガルドの近郊都市、バンダグラム・・・・・・じゃったか……」


 そして三体の屍を残したまま、少女が路地裏を後にした。


「……くくくっ。首を洗って待っておれ!
吸血鬼の残党センリ・ヴァンクリフ!!」




          ※




「……………は、ハクション―――ッッ!!
~~~~ッッ~~~~!!??」


「うっわ、汚なっ!? ……ちょっとセンリ~、唾飛んだらどうすんだよ」


「…………いや、なんか寒気が…………」


「寒気……? 風邪でも引いた?」


「そんな可愛いモンじゃねーよ!! なんか、こう……誰かに心臓を掴まれるような『怖気』に近かった……」


「……ふぅん」


 アストレア帝国。
 帝都ミッドガルドの近郊都市である、ここ、バンダグラムには帝国有数の名門校がある。


―――聖グラムハート学院。


 全校生徒数3000人を超えるマンモス校。
 そんな、聖グラムハート学院では現在、二学年の技能試験が行われていた。


 今、センリたちがいるのは南エリア。『汎用力』の試験だ。
 現在南エリアここは、約100人ほどの生徒たちで溢れかえっていた。


 そして、隣にいる銀髪の男が此方をじっと見据えて、


「それよりさ、センリ…………汚ないんだけど・・・・・・・?」


「うるせぇなぁ!悪かったよ!!」


 センリの隣で毒突くのは、ソーマ・クリーヴランド。


 整った銀色の髪と、容姿。
 蒼色の双眸に色白の肌。
 にこにこと笑っているように見えるわりには、鋭い眼光。
 編入後、教室に入ったセンリに初めて話しかけて来た男だ。


 ソーマとは、『魔法威力』の試験までは一緒に行動していたが、その後別れた。
 しかし、センリが数分前に南エリアここに来たとき、ソーマと運悪く鉢合わせ。
 前の方に並んでいたにも関わらず、わざわざ最後尾まで来て、センリの後ろに並び直したのだ。


「……ところで君、さっきまでどこ行ってたの? 東エリアの方に向かったと思って行ってみたけど、居なかったし……」


「…………」


 まぁ当然、見つかるハズはないだろう。
 何せ、その時はちょうど、センリは校舎内にいたのだから。
 だからセンリはソーマの問いに、


「……ああ。あの時は、ちょっと腹下して校舎内トイレに行ってたんだ」


 などと言ってみる。
 すると、ソーマはジト目で此方を見据えてきて、


「…………汚ないんだけど?」


「お前が聞いて来たんだろうが!!」


「ははは」


 そんな下らないやりとりを何十分と繰り返し、ようやくセンリの番になった。
 センリが前に出る。


「……今度はお前か?」


「はい」


 試験官は、黒髪を後ろで一つに結んだ女。
 目付きが鋭く、口調が荒い。愛想の欠片もない女だ。
 その女が訊ねてくる。


「クラスと名前」


「…………」


 もっと他に聞き方というものがあるだろう?
 その言葉を飲み込んで、センリが答える。


「2Dのセンリ・ヴァンクリフです」


「なら、ヴァンクリフ。お前には今から、私と決闘をして貰う」


「…………は?」


 試験官が唐突に言った言葉に、センリが素っ頓狂な声を上げた。
 ソーマを含めた周りにいる生徒たちも困惑したような表情になる。


 それもそうだ。


 何をしていたのか詳しい事は分からないが、センリの前に並んでいた生徒はこの女と決闘などしていなかったのだ。


「……はぁ」


 すると、女試験官は生徒たちの反応にうんざりしたようにため息を吐きつつも、やはり教師なのだろう。 
 生徒たちの疑問を、律儀に説明してくれた。


「……お前らが1学年の時に習ってきた『魔法式の改変』やら『魔法威力増幅術式』……その他諸々の汎用方法を、センリこいつが知っていると思うか? こんな事を習っているのは、帝国の中でも聖グラムハート学院ここくらいだぞ?」


 女試験官の言葉に生徒たちが口を閉じる。
 センリもその成り行きを黙って眺めていると、不意に女試験官が此方を見据え、訊ねてきた。


「―――と、私は思っているのだが……もしや、魔法や魔力の汎用方法をお前は知っていたりするのか?」


「……いいえ」


 女試験官の問いに、センリは首を横に振って正直に応えた。


「……そうか」


「…………」


 魔法や魔力の汎用方法?
 なんだよ、それ……。
 そんなもの、あの監視役リリアナからは一言も聞いた覚えが無ェぞ!?


 センリは機会があった時に、あの監視役リリアナを問い詰めてやろうと心に決めた。


 そんな事を考えていると、今度は女試験官が此方を睨み付けながら宣言した。


「先に言っておくがな……私は『出来ない事や知らない事をやれ』とは言わない。―――が、だからと言って採点基準が緩くなるとは思うなよ? そうでなければ、『有能な人材』が『無能のクズ』より不利になってしまうからな。 ……無能のお前は、本来の試験よりも厳しくなるという事を覚悟しろ」


「はい」


 センリは頷く。
 正直、センリにとってこの試験の判定基準などどうでもいい事なのだ。
 なぜなら、緩かろうが厳しかろうが、最初はなから真面目に試験に挑むつもりなど無いのだから。


「……良い返事だ。では、試験方法を説明する。 試験時間は3分間。その3分間で、私に攻撃を1回でいいから当ててみろ。その為の過程や手段は問わない。 ……それがく行くは、本来の試験である『汎用力』にも繋がる事だ。説明は以上だ。 ……何か質問はあるか?」


 女試験官が訊ねてくる。
 それに、センリが一度首肯して、


「それでは一つだけ。 質問というよりは確認なんですが……」


「……なんだ?」


「……この試験は、手段は問わず・・・・・・に、ただ攻撃を1回当てるだけ・・・・・・・で良いんですよね?」


「…………。私は同じ事を2度は言わんぞ?」


「失礼しました」


「…………」


「…………」


―――前言を撤回する。
 真面目に試験に挑むつもりなど無いと言ったが……今回だけは、ほんの少しだけ真面目にやってみようと思う。


「……それ以上質問が無いなら試験を始めるぞ?準備はいいか?」


「はい。俺はいつでも……」


 センリの首肯を確認した後、女試験官は開始の合図をした。


「それでは、これより試験を始める。制限時間タイムリミットは今から3分間。 ……さぁ、何処からでもかかって来い!」


「……それじゃあ……」


 センリは魔法を発動した。


―――刹那。
 センリの右腕が、メラメラと燃える真紅の『炎』に包まれる。


 センリは右腕を包んでいる炎を右手いってんに集中させ、そのまま右てのひらを、黙って此方を見つめる女試験官へと向ける。


 センリの掌に生まれる球状の炎。


 それを見た瞬間、女試験官は目を細めて訊ねてくる。


「《火の玉ファイアーボール》だと……?
確かにこの試験は、私に攻撃を1回当てるだけで良いと言ったが……流石に私を舐めすぎじゃないか? これでも一応は、この学院の教師だぞ?私は……」


 そんな事を言ってくる女試験官を見据えて、センリが応じる。


「そういや、『魔法威力』の試験でも《火の玉これ》を馬鹿にされたな。 一応訂正願いたいのですが、別に俺は先生の事を舐めたりなんてしてませんよ?……ぶっちゃけ、今俺は、先生の事を本気で殺そう・・・・・・としています」


「…………」


「……何ならこの試験、《火の玉ファイアーボール》だけで先生に勝つと "約束" しますよ」


 女試験官が押し黙る。
 しかしそれを無視して、センリは声のトーンを落として続けた。


「……それともう一つ、お言葉を返すようですが…………サヤあいつも、ソーマそいつも……そして、先生あんたも……」


 センリが女試験官を睨み付けて、さらに声のトーンを落として言い放った。




「―――初級魔法ファイアーボール、舐めすぎ」




 そう言ったセンリが、女試験官を目掛けて《火の玉ファイアーボール》を放った。


「…………」


―――決して速くもなく。ただただ、真っ直ぐと。


 女試験官に向かって飛んで行く《火の玉》。
 しかし、ほんの数メートルとはいえ、やはり簡単に躱されてしまう。


「……どうした? お前の魔法はそんなものなのか?」


「……まさか」


「…………」


 肩を竦めて応じるセンリを、女試験官が睨み付ける。


「こんなものに当たられては、正直此方としても興醒めです」


「……フン。減らず口が」


 女試験官のその言葉にセンリが苦笑して、今度は右手をそらへと掲げる。
 すると、センリの背後に現れた無数の《火の玉》。


 それを見た女試験官や生徒たちに驚いた様子は無い。
 当然だ。
 こんな事も出来ないような奴は、この学院に入学する事も出来ないだろう。


 女試験官が、冷たい笑みを浮かべて問いかけてくる。


「……まさか、数撃てば当たると思っているのか?」


「……さぁ?どうでしょう。 まぁ、『無能のクズ』なら当たってくれるんじゃないですか?」


「…………いちいちかんに障る問題児ガキだ」


「ははっ、よく言われます」


 そして、そらに掲げていた右手を、一気に振り下ろす。
 同時に、センリの背後にあった《火の玉》が、一斉に女試験官に向かって放たれた。


―――しかし、




「私を舐めるな、無能ガキが……ッ!!」




 そう言い放った女試験官の左手に現れた、一本の刀。
 その刀を右手で一気に引き抜き、次から次へと飛んで来る無数の《火の玉》を、一つ残らず斬り捨てていく。


 その光景を見たセンリが、本当に驚いたような表情を作り……


「……は? 本当マジかよ……!?」


 などと、呟いてみた。


「…………」


 そして、女試験官が此方に刀の切っ先を向けて、挑発的な口調で言ってくる。


「……私にその初級魔法ファイアーボールで勝つんだろ?」


「…………」


「それに、もう2分を過ぎた。 あと1分も無いのに、どうやって私に勝つ?」


 その問いにセンリが肩を竦め、


「……さぁ、本当にどうしましょうね……。 今ので考えていた手は使い果たしました。 正直、これ以上は厳しいかもしれませんね……」


 などと、戯けながら応じる。
 そのセンリの様子を女試験官が一瞥し、舌打ち。


「……気に入らんな」


 そんな事を言ってくる。


「……何がでしょう?」


「……残り時間も殆んど無い。そして打てる手段も無いと言っている。 ……だが、なんだ?その余裕は。 まるで試験が始まる前から勝てると分かっているかのような、お前のその目が気に食わん」


「……はは、そんな事無いですよ」


「まだ言うか。……なら、もういい。 茶番は終いだ」


「…………」


 そう言って、女試験官が目を細め、此方を睨みながら言ってきた。




「……この私が気付かないとでも思っていたのか? お前が背後に・・・・・・ずっと隠している・・・・・・・・その・・火の玉ファイアーボール……」




「…………!」


「お前が1回目に《火の玉ファイアーボール》を放った時から、"それ" を隠していたのは知っている。 いつになったら使うのかと思って待っていたが……大方、隙を作って放とうとしていたのだろう?」


「…………」


 センリが黙る。
 それに、女試験官が笑みを浮かべ、


「……フン、図星か」


「…………はぁ」


 その言葉に、大きな溜め息を吐くセンリ。
 そして目を細め、普段のめんどくさそうな表情になったセンリが、投げやりな気持ちになって言った。


「……あー、クソ……。気づかれたか……」


 そう言って、自分の背後に隠していた《火の玉ファイアーボール》を正面に持ってくる。
 その《火の玉ファイアーボール》は、先程のよりもかなり大きかった・・・・・・・・


「……ったく、《火の玉これ》の形を変えてまで俺の死角に隠していたのにな……何でバレたんだ……?」


「……経験の差だ」


 女試験官が一言。
 それに、センリが苦笑。
 そして、女試験官が言う。


「……それなりに経験のある者は、魔力の流れを見る事が出来る。それが死角であれ何であれ、魔法を使う時には魔力を使うんだ。 その魔力の流れを見たら、そりゃ気付く。 ……ここにいる生徒の何人かも、そのくらいは出来るだろう」


「…………」


 女試験官がそう言うと、周囲から俺を嘲るような小声が聞こえてきた。その内容は言うまでもない。
 「そんな事も知らねーのかよ」だの、「そんな無知な奴がよくこの学院に編入出来たな」だのと……。
 本当にここにいる生徒たちが、センリに向けて嘲笑していたのだ。


 そんな周りの様子に、思わず笑みが溢れそうになった。




「(…………計画通り・・・・)」


 まさか、こんなに上手く事が運ぶとは思ってもいなかったな……。




―――そう。
 センリは最初から "これ" を狙っていたのだ。


 魔力の流れを見る?
 そんな事、この俺でも簡単に出来る。


 だが、敢えてそんな事を知らない無知無能のクズを演じ……。
 そして、あの女試験官の隙を付こうとずっと構えていたが、最初から気づかれていたという、なんとも無様な道化を演じ……。
 そして、それを見た生徒たちが俺を見下し。非難し。侮る。


 それら全てが、センリの計画だったのだ。


 そうでなければこの男センリが、こんな不毛な試験に付き合ってやる道理など、始めから無いのだから。


「…………」


 それに、ここまで計画通りに事が運んだんだ。
 本当なら、ここで時間切れタイムオーバーを装い、颯爽とこんな場所からおさらばするつもりだったんだが、気が変わった。
 ここまで来たのなら、最後まで徹底的にやってやる。




「(……それじゃあ、最後の締めフィナーレだ)」




 そこで、センリが構える。
 それを見た女試験官が讃えるように言ってくる。


「……ほう。まだ、諦めていなかったのか?」


「ええ。せっかく、この俺が (計画の為に) 魔力と真心を込めて作った《火の玉ファイアーボール》ですよ? 結果は分かっていても撃たなきゃ、損じゃないですか」


 センリはそんな事を言いながら、その大きな炎の塊を、女試験官に向けて放った。


「《火の玉ファイアーボール》―――」


 センリが放った《火の玉ファイアーボール》が、真っ直ぐ女試験官に向かって飛んで行く。


「……フン、何度やっても同じだ」


 そう言って、再び刀で《火の玉》を切り裂こうとした、瞬間。


「……からの―――弐式・・


 センリが、パチンと指を鳴らす。


「―――弾けろ!《鳳殲火ほうせんか》!!」


「―――ッ!? なに……ッ!?」


 女試験官へと飛んで行った《火の玉ファイアーボール》が突如、破裂。


 一つの《火の玉ファイアーボール》から、無数の火の粉となり、一斉に女試験官に襲いかかる。


 女試験官は、すぐにバックステップ。
 それはとても素早く、無駄がない。


 流石の身のこなし。だが―――、


「(先生あんたが後退するという事を、俺が予測してないわけねェだろ!)」


 透かさず、センリは行動を起こした。


 再び魔法を発動。
 その瞬間、センリの髪や制服がなびく。


―――風属性の魔法だ。


「《風圧ウィンドプレス》!!」


 突如、センリから放たれた風。
 その風の力で、再び火の粉が女試験官を襲った。


「…………」


「…………」


―――そこで、時間切れタイムオーバー


 女試験官の頬には、微かな火傷。
 先程の火の粉が命中したのだ。


 女試験官が苦笑しながら、此方を見据えて言ってくる。


「……《火の玉ファイアーボール》しか使わないという約束はどうした?」


 それにセンリが首を傾げて、


「……え? 約束? 一体、何の事ですか?」


 平然とそんな事を言うセンリを、周囲の生徒たちが再び小声で非難する。
 「自分から言い出した約束を、平気で破りやがったぞアイツ……」「うわぁ……最低」。


「…………」


 今現在をもって、周囲の生徒たちからの "信用" も無くなった。
 これで、何か面倒事を頼もうとする連中もいなくなったと言うわけだ。


「……フン、まぁいい。 油断した私が悪い、それだけだ」


「…………」


「……先程の《火の玉ファイアーボール》の破裂……あれは過度な魔力供給による、魔法破裂オーバーヒートを利用したな?」


 その問いに、センリが首を横に振る。


「攻撃を仕掛ける機を窺っている最中もずっと魔力を供給し続けていて、気づいたらああなっていた……偶然の産物ですよ」


「……はっ、どうだかな」


「…………」


 センリが初めて魔法を発動した時……魔力の過度な供給により、巨大化して破裂した。
 だが今回は、それを逆に利用した……それだけだ。


「……もう、試験は終わりましたよね? なら、俺はもう帰りたいんですが……」


 それに、女試験官が首肯。


「ああ。 他の試験も終わっているのなら、さっさと帰れ」


「……なら、そうさせて頂きます」


 それだけ言って、センリが踵を返し、南エリアを後にした。



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