勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*思考と思惑が交錯する中で*

「…………」


 現在、センリはとある部室にあるパイプ椅子に座らされている。そして、正面の長机に次々と並べられていく菓子を眺めながら自分の脳ミソをフル回転させ、今の状況を整理していた。


「……センリくん。キミは和菓子と洋菓子、どちらが好みかな?」


 そう訊ねてきたのは、一人の少女。
 その少女に、センリが素っ気なく応じる。


「……別にどっちも好きじゃない」


「……そう」


 少女はそう応え、暫く経ってから再び訊ねてきた。


「……それじゃあ、緑茶と紅茶と烏龍茶では、どれがいいかな?」


 それに、センリが頬杖をつきながら答える。


「じゃあ、珈琲コーヒーで」


 と、センリが選択肢に無かったものを要求すると、少女が棚の中にあった缶コーヒーをこちらに思いきり投げつけてきた。


 勿論、それをしっかりとキャッチする。


「…………」


 すると不満そうに顔を顰めた少女が、再び口を開く。


「おかしいな……。珈琲は、選択肢の中には無かった気がするけど?」


「だが、"有った" じゃないか」


 俺が、キャッチした缶コーヒーを掲げてそう言った。


「……んな事より、"客" に対して物を投げつけるとは、どういう了見だ?」


「……ああ、それは済まなかったね」


 すると、センリの言葉に少女は潔く謝罪した。


「…………」


 あまりにもすっぱりと引き下がられると調子が狂う。
 まぁ、彼女は『口論』などという無駄な事に、貴重な時間を浪費したくなかったんだろうが。


「…………」


 すると、棚から戻ってきた少女が、長椅子を挟んだセンリの目の前の椅子に座り、紅茶を啜る。
 そして俺も、缶コーヒーを開けて、飲む。


「―――さて、と……。それでは話を戻そうか」


 一息ついたところで少女が再び口を開き、数分前に言ってきた事を再び言い出した。


「……先程も言ったのだが―――キミ。よければ」


「断る!」


 が、しかし、センリは少女の言葉を遮って即答していた。




―――遡ること、数十分前。


 センリが一人、エントランスホールの椅子に座っていると、突然、横から声がかかった。


「……おや?試験中にこんなところでサボっているのは私だけかと思ったのだが……まさか他にもいたとはね」


「……あ?」


 センリが、声のした方へ視線を向ける。
 すると、そこには一人の少女がいた。
 身長は160cm程。
 艶のある、紫がかった長いストレートの黒髪に、紫色の相貌。
 背筋が伸びていて堂々とした姿勢、美しい立ち振舞いはどこかのお嬢様のような印象を抱かせる。
 その少女が長い髪をなびかせながら歩いてきた。
 そして、俺が座っている椅子の近くまで来て、その少女が再び口を開く。


「もしかして、キミが噂の編入生くんかい?」


「……そうだが?まぁ、どんな噂が流れてんのかは知らねぇが……」


 少女の問い掛けに素っ気なく応じると、少女が苦笑しながら続けた。


「……キミ、あの副会長とお手手繋いでおいて、随分と余裕じゃないか。今じゃ学院中の注目の的だよ?」


「…………」


 クスクスと、少女は可笑しそうに笑いながら、そんな事を言ってくる。
 俺を馬鹿にしてんのか?
 その言葉をグッと抑えて、センリは少女に訊ねる。


「……そういうお前は、どこの誰だ?」


 俺がそう訊ねると、少女がさらに可笑しそうに微笑みながら応えた。


「……私が誰でも良いじゃないか。それにどうせ、キミは私になど興味はないのだろう?」


「…………」


「しかしまぁ……いずれ、嫌でも私が誰なのかを知る時が来ると思うけどね」


 確かにこいつの言う通り、興味などない。
 ここで名前を聞いてもすぐに忘れるか、一応、記憶の片隅には保存されるか……どちらにしろ、他クラスの生徒であるこの女に、興味や関心などといったものが芽生えるとは思えない。
 だが、『嫌でも私が誰なのかを知る時が来る』だと?
 まるで、再び再開するという事が分かっているかのような口ぶり。


「…………」


 ならもう、ここまで言われれば、こいつが誰なのかは馬鹿でも分かる。
 他クラスの生徒で、今のところ俺と接触すると決まっている生徒は、何千人といるこの学院で、ただ一人だけなのだから。
 俺がその人物の名を、口にする。


「……キリカ・トワイライト、か」


 それに、黒髪の少女が微笑んで、


「ご名答……。さすがにヒントを与え過ぎたかな?」


「ああ。俺と接触すると決まっている他クラスの生徒は限られてる。……今のところ決まっているのは、明後日から始まる『模擬決闘』の対戦相手くらいだからな」


「まぁ……そうだね。だが、キミが私の事を知ってくれていたのなら話が早い。どうせキミも暇なのだろう?……なら、決闘前にお互いの親睦を深めるというのは、どうかな?」


「はぁ?親睦を深めるだと?」


「……不満かな?」


 首を傾げながらそう言うキリカを睨み付けて、俺が答える。


「……さっき自分でも言ってただろ。俺はお前に興味なんかない。親睦深めてお前の事を知っても、俺には何のメリットも無いんだよ。お前の用件が終わったんなら、俺はグラウンドに戻るが?」


「……確かにそうかもしれないね。だが、どうせ今戻っても、どのエリアも混んでいて、中々試験は受けられないと思うよ?私は会場が空くまで校舎内ここにいるつもりだけど」


「…………」


「無駄な時間を浪費するくらいなら、対戦相手の事を少しでも知る方がいいと思うけどね」


「はっ。お前が俺の事を詮索するつもりなんだろうが」


「もちろん」


「…………」


 即答するキリカ。
 センリは諦めたようにため息を吐き、キリカに問いかけた。


「……なら、具体的にどうするんだ?」


「そうだね……。なら、誰もいない校舎で、私と二人で校内デート、というのはどうだい?」


「………………………………はぁッ!?」


 そんな事を真顔で言ってくるキリカに、さすがのセンリも素っ頓狂な声をあげてしまう。


「いきなり何言ってんだお前は!?」


「……ん?キミは一体、何をそんなに慌てているんだい?」


 と、センリの内心など知らないキリカが首を傾げて訊ねてきた。
 そんなキリカに、センリがため息を吐いて答えた。


「あのな……初対面の男といきなりデートなんかするか?普通」


「……ああ、そういう事か。だが、たかがデートくらいでそこまで驚くかい?普通。……まぁ確かに、私のような美少女にデートに誘われたら、普通の男の子なら驚くのかもね」


「ああ、そうかもな」


「……そこは、つっこむところだろう?」


「……はぁ……もういい。頼むからどっか他んとこ行ってくれ」


 センリがめんどくさそうにキリカを見据えて、シッシッと手でキリカを追い払う。
 その仕草を見たキリカが、


「……もしかして、私はフラれたのかな?」


 少し困ったような表情で、こちらを見据えてくる。
 それに、センリが首肯。


「そういう事だ。わかったのなら潔く、さっさと俺の前から消え―――」


「―――本当にいいのかい・・・・・・・・?」


「…………」


―――瞬間。
 先ほどまで穏やかだったキリカの声のトーンが、変わった。
 椅子に座ったままのセンリが、思わずキリカの表情を窺ってしまうほどに。
  しかし、キリカは変わらずに落ち着き払った表情で、こちらを見下ろしている。


「…………」


「……個人的に、あまり『こういうやり方』は好きではないのだけどね……致し方ない」


 そんな事を言うキリカを見上げ、鼻で笑ったセンリが再び口を開く。


「……なんだよ?もしかして、俺を脅そってのか?……先に言っておくが、止めておけ。俺を脅したところで、損する事はあっても得する事なんてねぇぞ?」


 すると、キリカが不吉な笑みを浮かべて、一言。


「……そうかな・・・・?」


「…………」


 センリが沈黙。
 すると、まるでセンリの考えている事が分かっているかのように、キリカが続けた。


「人間、誰しも『悩み』や『弱み』の一つや二つ持っているものさ。キミも……勿論、私もね。そして、それらを隠して『完璧』を演じようとする。完璧を演じて、何がなんでも自分の弱さを他人に知られたくない……そう思うのが、人間という生き物なのさ。完璧な人間などこの世に存在しないというのにね……」


「…………」


「……しかし、逆に言えばどうかな?もし、自分がこれ以上『完璧な人間』を演じられなくなる状況になった場合……つまり、自分の『弱さ』が他人に知られた時、その人はどのような行動をするのだろうか?……簡単さ。それ以上、自分の弱さを知る人間を増やさない為に、自分の弱さを知るヤツの言いなりになるのさ。自分の誇りを捨ててまで、ね」


「……つまり、あれか?お前に俺の弱さとやらを知られて、それを他の人間に広められないようにするために、俺がお前の奴隷になると?」


「……まぁ、そういう事さ」


「くだらねぇ。第一、お前とは初対面のはずだ。もし仮に俺に弱みがあったとしても、今のお前がそれを知っているわけがないだろうが」


「そうだね。……なら、それをこれからの学院生活で見つけていくというのは」


 キリカのその言葉に、センリがため息を吐いて立ち上がる。
 そして、そのまま下駄箱へと向かって歩き出した。
 そんなセンリに、背後から声がかかる。


「……どこへ行くんだい?」


「時間の無駄だ。グラウンドに戻る」


 センリは振り返らずに答える。


「……今戻っても、キミが試験をするまでまだまだ時間がかかるよ?」


「お前とこんな無駄話しているよりは、他の連中の様子を見ていた方が有意義な時間を過ごせそうだからな」


「…………」


 そして、センリは自分の下駄箱がある位置に辿り着き、靴を履き替えようとしたところで、もう一度、後方から声がかかった。


「キミは、何か勘違いをしているようだけど……」


「……あ?」


 センリが振り替える。
 すると、こちらを見据えてキリカが続けた。


「……いつ、私がキミを『脅す』などと言ったかな?」


「…………」


 考えてみれば、キリカは『こういうやり方』と言っただけで、一言も脅すなどと言ってはいなかった。
 センリが、そう勝手に解釈しただけ。


「私がキミを『脅す』なんて事はしないよ。確かにそれも面白そうだけど……。でももし、キミを本気で脅そうなんて思ったら、逆にこちらの弱みを握られ兼ねないしね」


「どうでもいい。結論だけ言え」


「キミに『忠告』しようと……」


「……忠告?」


 センリの言葉に首肯してから続ける。


「ああ。……だが、ここでは話せないから場所を変えようか」


「待て。勝手に話を進めるな!俺がいつお前に―――」


 声を荒らげながら言ったセンリの言葉を、キリカが遮った。


「この話を聞かなければ、キミは一生後悔・・・・・・・する事になるよ・・・・・・・?もう時間が無いんだ。お願いだから言う事を聞いてくれ」


「…………」


 懇願するように言ってくるキリカを無言で見据える。




“一生後悔する事になる”


 そう言われて、センリの嫌な記憶が脳裏に蘇る。




 自分の選択のミスで殺してしまった少女と。
 自分の力不足で殺してしまった少女の記憶。




 そんな事を言われれば、 もう従うしかないだろう?
 例え罠であっても、これが相手の思う壺であっても……もう、二度とあんな "後悔" はしたくないから。


「……良いだろう。だが、下らん話だったら直ぐにグラウンドに戻る」


「ああ。それで構わない。……ありがとう」




―――時は戻って、とある部活の部室にて。


 長机を挟んだセンリの目の前にあるパイプ椅子に腰をかけた少女、キリカの言葉を遮って、センリが一言。


「断る!」


「そんなに部活が嫌なのかい?楽しいよ、部活動というのは」


「面倒なだけだろ?部活なんて……。この学院では部活をするかどうかは個人の自由だったはずだ。……わざわざそんな面倒な事を、誰が好き好んでやるかってんだ!」


「まぁ、考え方は人それぞれか……」


 そんな事を呟くキリカを睨み付け、センリが訊ねる。


「まさか……俺が後悔する云々って話は、部活動の勧誘でしたってオチじゃねえだろうな?」


「まぁ、それも有るけどね。部活動をやらないなんて、学生時代を半分損するようなものだから。大人になって、あの時部活をしていれば……なんて後悔するかもしれないよ?」


「それは絶対に無いな」


「だろうね」


 キリカが咳払い。
 そして、今度は真剣な面持ちで口を開いた。


「まぁ、今から話す事はそんな可愛い事じゃない。そして極秘の情報だから、他言無用で頼むよ」


「……ああ」


「その前に一つ、確認したいことがあるのだが……キミは、どうやってこの学院に編入してきたんだい?」


「…………」


 どうやって編入したかって?
 そんなの理事長ユリウスに強制的に編入させられたんだが、果たしてそのまま伝えていいものか。……駄目なんだろうな、きっと。
 そう言えば、どっかの赤髪女にも似たような事に聞かれたっけ。
 適当に編入した方法を考え、


「俺は―――」


「いや、やはり答えなくていいよ。もう大体・・・・わかったから・・・・・・


「……っ!?」


 それを口にしようとしたところで、キリカに遮られた。
 まるで全てを見通しているかのような瞳でこちらを見据えながら、キリカが続けた。


「キミがこの質問に対してどのような答えを口にしようと、私はそれを信じない。キミが嘘を吐けば、それまでだからね」


「…………」


「それにこの質問の答えにさほど意味は無いのだよ。キミがどのような手段を使って編入したかなど、私にとってはどうでもいい事さ。……それに、大体見当は・・・・・ついているからね・・・・・・・・


「……っ……!」


 見当はついている、だと?
 ハッタリか?……それとも―――。


「……なら、俺がどんな手段を使ったと?賄賂とかか?」


 センリが試すような口調でキリカに訊ねる。
 すると、キリカは微笑を浮かべて、答えた。


あの理事長に・・・・・・編入させられ・・・・・・たんだろう・・・・・?」


「……っ!!?」


「あはは。キミは面白いね。すぐに顔に出る」


 そう言われたセンリがキリカを睨み付けて、


「……馬鹿にしてんのか?」


 センリの言葉に、キリカが首を横に振る。


「褒めているのだよ。……私にとって "面白い" というのは、最大の魅力さ」


「……あっそ。ならお前の誘導尋問に、俺はまんまと引っ掛かったというわけか……」


「まぁ、そういう事だね。キミは私の誘導した通りの―――」


ふざけるな・・・・・


「…………」


 キリカの言葉を遮るセンリ。
 センリが再びキリカを睨み付けて、続ける。


「……誘導尋問ってのは、すでにわかっている情報を間に挟みながら、相手にボロを出させるような質問を重ねる尋問方法だ。それには最低限、相手の事を知っておかなければならない。だがさっきも言ったが、お前と俺は初対面だ。そんなお前から、『理事長に編入させられたんだろう?』なんて答えが出てくるわけないだろうが!」


「……はぁ……」


 そのセンリの言葉に、キリカがため息を零す。


「まったく……。前言を撤回するよ。キミは面白くない。少しは私の茶番に付き合ってくれてもいいだろうに……」


「……言ったはずだぞ?下らない話なら―――」


 センリの言葉に、キリカが慌てて引き下がる。


「わかったわかった。私が悪かった。謝罪するから私の話を聞いてくれ」


「……フン」


 センリがもう一度、缶コーヒーに口を付け、キリカに会話を促した。


「最近、魔王軍の活動が活発化しているという話は聞いているかい?」


「……ああ。そのようだな」


 ユリウスが依然言っていた事を思い出して、そう応える。
 センリの言葉に頷いて、キリカが続けた。


「ここ数年は大人しかったそうなのだが、最近、やけに魔族の横暴が目立ってきているみたいなんだ」


「……随分と客観的な言い方をするんだな」


「私は魔族を見たことが無いからね。噂で聞いた程度の情報さ」


「…………」


 ここ数年は魔王軍の目立った活動もなく、魔族たちは大人しくしていたが、それは時間の問題。魔王が復活すれば云々……などと、ユリウスも言っていたのを思い出す。


 そして、キリカの言う通り、魔族を見たことが無いと言う人間も少なくはないのだろう。
 センリ自身、この世界に来て約1週間が経つが、人間以外の種族はエルフしか見ていない。
 転移した場所が場所だったので偶然逢えただけで、殆んどの人間は他種族を見かけるなどという機会は無いのかもしれない。
 ……まぁ、常に前線で戦っている軍人たちは例外だろうが。


「噂と言えば、キミは知っているかい?……魔王を倒したという勇者の話」


 突然そんな事を言ってくるキリカに、首を横に振って応じるセンリ。


「知らないな。……というか、なんだ?そのご都合主義のテンプレみたいな話」


「…………ぷっ……あはははは―――っ!」


 センリの言葉を聞いて吹き出すキリカ。


「……ま、まぁ、確かに魔王は死んでないし、魔王を倒せるような人間がいるとは思えない。そんな理由から、根拠のない作り話だと、人々の記憶から抹消されたのだが……」


「…………」


 そこまで言って、キリカがこちらを真っ直ぐ見つめ、宣言した。


「―――私は・・この話は事実・・・・・・だと思っている・・・・・・・


 どこか確信のあるように言ったキリカを見据え、センリが問うた。


「なら、聞くが……その話が事実だと思う根拠は?それを証明する証拠は?……これらが無ければ、今の言葉は単なる欺瞞でしかないぞ?」


「……証拠はまだ、無い。だが勿論、根拠はあるさ」


「へぇ……」


「元々この話はね……魔法軍の横暴が、突然途絶えた事が切っ掛けで広まった話なんだ。誰かが魔王を倒してくれたんじゃないか?人間は魔族に勝ったんじゃないか?という、なんの根拠もない希望的観測から」


「…………」


「そしてそれから、誰が魔王を倒したのか?という議題になり、人類の中から最も有力な4人が挙げられたんだ」


「……お伽噺でよくある展開だな。なら、その4人が魔王を倒したと?……無理だな。現実を見ろ」


 キリカの言葉を、真っ向から否定するセンリ。
 そんなセンリを、キリカが「人の話は最後まで聞け」と言い、睨み付ける。
 センリが「もう何も言わない」と言って、キリカに話を促した。


「まず一人目に、キミも知っているであろう、この学院の理事長でもあり、人類最強と謳われている『光の剣聖』。ユリウス・アルバート」


「…………」


 まぁ、最も有力な候補だろうな。
 ……なんせ、『人類最強』なんだし……。


「そして二人目に、この学院の教授でもあり……かつて、『戦慄の魔女』と怖れられた恐怖の天災、ロゼリア・ヴァンクローネ」


「……っ……!」


 ロゼリア・ヴァンクローネ。
 先程センリがやった、『魔法威力』の試験の担当教師。
 そう言えばソーマが、あの馬鹿広いグラウンドを爆風魔法で吹き飛ばしたとか言ってたな。
 改めて考えてみると、あの酔っ払い教師もなかなかの手練れなのだろう。


「そして三人目は……現在、帝国軍の中将。1000人を超える敵国の襲撃もたった一人で退け、『狂戦士ベオウルフ』とも謳われている無類の戦闘狂、アムレート・ゼノブラスト」


「…………」


 狂戦士。無類の戦闘狂、ね。
 どんなヤツなのか、大体想像できた。


「そして最後に、『死神』と畏怖された少女。……だが、彼女の事については謎が多くてね。ただただ『強い』と昔から言われていただけで、今はどこで何をしているのかも不明だそうだ」


 4人の名を聞き、改めてセンリが訊ねた。


「……で?本当にその4人だけで魔王を倒せると思っているのか?」


 センリの問い掛けに、難しそうな表情で首を横に振る。


「……正直、厳しいだろうね。いくら人類の精鋭が集まったとしても……。それに魔王だけでなく、12人の幹部たちもかなりの強敵だそうだから。何百年も魔王軍と争ってきて、一度も人類は勝てなかったんだからね。……事実かどうかは置いておいて、本人たちも事実無根だと言ってたそうだけど」


「……だったら―――」


「―――けどね」


 だったら、結局無理だろ?
 その言葉をキリカが遮る。


「魔王を倒す1年か2年前に、地上界最強の種族と言われていた吸血鬼が、魔王軍によって滅ぼされたんだよ。魔王軍幹部、十二将魔のうちの6人を犠牲にしてね。……これくらいは、キミも知っているだろう?」


「……ああ」


 正直、初耳なのだが、恐らくこの世界では常識なのだろう。
 取り敢えず頷いておく。


「魔王軍によって滅んだ吸血鬼に、もしも生き残りがいたら?その生き残りの吸血鬼が、魔王軍に対して復讐心を抱いたら?その復讐心を抱いた吸血鬼が、結果的に人類の精鋭4人と一時的な同盟を結んだら?……吸血鬼との戦争で魔王軍が負ったダメージは相当なはずだ。万全の状態ではない魔王軍になら勝てる、とは思わないか?」


「……さぁ、どうかな」


「まぁ、あくまでこれは私の仮説。キミの言う通り、ただの欺瞞に過ぎないのだよ」


「…………」


「けどそういった噂、都市伝説の謎や真実を考えたりするのは、なかなか面白いだろう?」


「まぁ確かに、その真実はどうあれ、自分なりにそういった事を考えたりするのは……面白くない訳じゃないな」


 センリの本心からの言葉。
 謎解きなどは、昔、姐さんに無理矢理やらされた事があった。
 最初はつまらないと思っていたが、実際やってみると意外に面白かったり、自分の推理が正しかったと証明された時のあの幸福感は、確かに悪くはなかった。


 すると、センリの言葉を聞いたキリカが笑みを浮かべて、再び問い掛けてきた。


「なら、もう一度聞こう。……どうだい?我が『ミステリー研究部』に―――」


「断る」


 即答。
 それに、キリカが不満げに顔を顰めて、


「……どうしてかな?」


「さっき言った通りだ。部活なんて面倒な事、誰がやるか」


「……だが今言っただろう?面白くない訳ではないと……」


「それとこれとは話が別だ。……確かに『面白そうだ』とは言ったが、『やりたい』とは言ってないだろ?……つーか、魔王云々の話は、俺を勧誘するつる為の誘い文句エサだったって訳かよ……」


「……私がそう推理したという事は本当さ」


 誘い文句だったという事は否定せず、キリカが白々しく言い放つ。
 そんなキリカにため息を零したセンリが椅子から立ち上る。


「……もういい、戻る」


 センリがそう言って、部室の出口へと向かう。
 そして、センリがドアの前で一度立ち止まり、振り返ってから一言。


「……コーヒー、旨かった」


「それは良かった」


 すると、椅子に座ったままのキリカがそう応じる。
 そして、センリがそのままドアノブに手を伸ばし、部室から出ようとしたところで、何故か再び後方から声がかかった。


 その声は低く、真剣で、それでいてハッキリとキリカがこう言った。


「センリくん。……理事長には気を・・・・・・・つけた方がいい・・・・・・・


「…………!」


 キリカの言葉に、センリがドアノブを握ったまま、耳を傾ける。
 キリカが続ける。


「あの男は危険だ。間違いなく、何かを隠している。……それも、とてつもなく大きな何かを―――」


「……何か、根拠はあるのか?」


 振り返らずに、キリカに訊ねる。


「……先程、キミに言っただろう?キミがどうやってこの学院に編入してきたのかを聞いた時」


「……っ……!!」




“あの理事長に編入させられたんだろう?”




 なぜ、あの場面で『理事長』という単語が出てきたのか……不思議には思っていた。先程は、あまり深くは考えなかったが……。
 しかし、なぜあの場面でキリカの口から『理事長』という単語が出てきたのか……よく考えてみれば簡単な事だった。


「……まさか、お前も……?」


 恐る恐る訊ねたセンリの言葉に、返ってきた言葉は肯定だった。


「ああ、そうだ。私は1年前、一切面識の無かったアルバート理事長に、突然『聖グラムハート学院に来ないか?』と誘われてね。……まぁキミとは違い、私はしっかりと入学式をやったがね」


「…………」


「まぁ私も、それだけなら・・・・・・ただの勧誘としか思わなかった。……だが、あの理事長は次にこう言ったのさ。『君の力を、人類の為に使う気はないか?』とね。……恐らくだが、キミも似たような事を言われたんじゃないか?」


「……そう言えば」


 俺が純粋な人間じゃないとヤツに言われた時に、似たような事を言っていた。




“君の力を、我々人類に貸していただきたい”




「……恐らく、私たちの何かを利用しようとしている。もしくは―――いや、これは流石にないか」


「…………」


 センリが再び振り返る。


「まぁ、理事長が何を考えているのか、どうして私を勧誘したのかを知りたくて、入学を承諾した。そして入学試験で私は、筆記・技能ともに手を抜いて挑んだ。……どう考えても、この名門校には受からないであろう点数だったにも関わらず、私は今ここにいる」


 センリには編入試験のようなものは無かったが、キリカの言う通りならば、この学院が欲している人材は学力や実力の高い生徒だけではない、という事になる。


「私がなぜ勧誘されたのかは、まだ分からない。だが、確かな事が二つある。まず一つ目に、理事長が私たちを何かに利用しようとしている、という事と……」


 そして、そのキリカの言葉を継いでセンリが言った。


「……この学院には何かがある、という事か」


「まぁ、そう言う事だね」


「……なら、俺とお前の他にも、ユリウスに勧誘されたっていう生徒がいるかもな」


「可能性は大いにあるね。……けど、呉々も一人一人に聞いて回らないでくれよ?本当は、私が特別待遇で入学した事は、理事長に口止めされているんだ」


「俺だって、そんな間抜けな事はしねーよ」


「……まぁ、キミはそんな事が出来る人間ではないと思うがね」


「一言多い」


「あはは。センリくん……一応確認だけど、自分がなぜ理事長に声を掛けられたか、心当たりはあるかい?」


「……いや、ないな」


「……そうか。まぁいい」


 流石に、俺が吸血鬼だからと言える訳もなく、知らないことにしておく。
 だが、キリカも勧誘されていたという事は、俺がこの学院に編入させられた理由は、俺が吸血鬼だからという理由だけではない可能性が出てきた。
 流石に、キリカも吸血鬼……という事はないだろうからな。


 そしてキリカが立ち上り、口を開いた。


「……キミの貴重な時間を頂いてしまって済まなかったね。私はもう暫く部室ここに残るとするよ。それじゃあお互い、試験を頑張るとしよう!」


「……ああ」


 そう言って、センリは部室を出た。


「……理事長には気をつけろ、ねぇ……」


 そう呟いて、センリは再びグラウンドを目指した。



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