勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*黄昏夕日*

 グラウンドの東エリアに辿り着いたセンリ。
 東エリアでは『魔力量』の試験が行われていた。


「…………」


 センリが辺りを見回す。
 分かってはいたが、先ほどより生徒が多い。少なくとも200人以上はいるだろう。
 ルセリアやセレスティーナは南エリアへと向かったようだし、アイシャも恐らく主の下へ……。ざっと見た感じ、ルシウスとリリアナもいない。
 つまり、先ほど西エリアにいたメンバーは、全員が南エリアへと向かったのだろう。


 ……まぁ、西から一番近いのが南だからな。東は全くの反対側。わざわざ遠くから回ったりなどしないだろう。


 そう思って東エリアに来たのだが……どうやら予想は的中だったようだ。
 あちらにも相当の人数がいるだろうし、今日はもう会う事はないだろうな……。


 そんな事を考えながら、試験をしている様子を窺うと、生徒が何らかの機械に触れているのが見えた。


 機械アレに触れて魔力量を量るのだろうか……。


「(……つーか、試験があんなのばかりなら、コレはいらなかったな……)」


 サヤのように使うのならまだしも、試験で刀の使い道などあるだろうか。
 そもそも、この刀はただの鉄の塊だ。
 特殊な素材で造られたわけでも、ましてや鬼や悪魔が宿っているわけでもない。


「(……使わなそうだからロッカーに仕舞ってくるか)」


 まだまだ自分の番は回って来そうにないので、センリは踵を返して校舎へと向かった。


―――


「……静かだな……」


 刀をロッカーに入れて靴を履き替え、エントランスホールにあった椅子に座りながら呟く。
 他の学年はいない。
 A組からM組までの生徒はグラウンドで、それ以外のクラスもいない。
 だだっ広いエントランスホールに、ただ一人。


「…………」


 久しぶりの、落ち着く時間。
 異世界ここに来てから約1週間。たった1週間で色々な事があった。


 出逢いと別れ――修行と勉強……。
 ……そして、また出逢い。


 本当に気の休まる暇などなかったのだ。


「…………」


 そう言えば、姐さんは今頃、元の世界あっちで何をしているだろうか。
 高二に上がってから殆んど……というか一度も会ってなどいないが、たまに電話をかけてきたりはしていた。
 そう言えば、異世界こっちに来る前にも一度、電話をくれたんだったな。
 どんな内容だっただろう。
 確か、しっかりと学校に行っているのか?とか何とか……そんな事を話した気がする。


 もちろん、その時は学校になど通わず、殆んど家に引き込もって自堕落な生活をしていたな。
 まぁ、引き込もると言っても、最低限の食い物を買うためなら数百メートル離れたコンビニに出向くのも厭わないし。気分転換にと、時々近くにある人気のない公園まで散歩したりもしていた。
 だから俺は、引き込もりというよりもただ登校拒否していただけなのだ。


 登校拒否していた理由は、ただ一つ。




―――学校に行きたくないから。




 もちろん、最初からそうだったわけじゃない。
 中学の頃は(別段楽しかったわけではないが)普通に学校に通っては、いた。
 友人と言える仲も、(多くはないが)一応はいたのだ。


 そして、小学の頃に友人になった一人の少女。
 黄昏夕日たそがれゆうひ
 夕日は俺の数少ない親友と呼べる少女で、何度か俺の家にも来た事があった。
 容姿端麗かつ品行方正、文武両道と、生徒だけでなく教師からも好かれるような少女。……なにせ、俺のような人間にも話しかけるようなヤツなのだ。


 そんな、誰に対しても分け隔てなく接する夕日を姐さんが気に入り、「アンタたち付き合っちゃいなさいよ」などと、割と本気マジで言っていたのを覚えている。


 そして小学・中学を卒業し、俺と夕日は同じ高校へと進学した。
 高校でもあいつは人気者。すぐに友達も出来ただろう。
 そして俺と夕日は、今まで通りの関係で学校生活を送っていた。


―――そう。あの日までは・・・・・・……。


 俺が高校に上がった年の秋。
 あの事件は起きた。


 その日、学校で。
 夕日が俺に、どうしても伝えたい事があると言ってきた。
 俺は、学校ここで言えば良いだろうと言ったが、夕日は、学校ここでは言えない事だと言った。
 そして私の家に来て欲しいと言ってきたので、学校が終わった放課後。俺は、道具を置くために、一度自分の家に寄ってから、夕日の家に向かった。


 そして、夕日の家に辿り着き……玄関に付いているインターホンを鳴らす。
 しかし、返事がない。
 二度・三度試したが、結果は同じ。


 いつになっても返事がないので、俺は黄昏家の家のドア勝手に開け、中を見てみると…………。




―――そこには、家の廊下で俯せで倒れる夕日の姿があった。




 一瞬、状況を理解できなかったが、俺はすぐに夕日の下へ駆け寄り、何度も……何度も肩を揺すって呼び掛けたが……、もう二度と――二度と夕日が目を開ける事は無かった。


 今まで、俺に構ってくれた唯一の少女。
 先程まで普通に話していた少女。
 俺に伝えたい事があると言い、家に行くことまで約束した少女。


 その少女が、突然いなくなったのだ。
 もう二度と、俺の手の届かないところに行ってしまったのだ。




「……なんで?どうして、こんな事になったんだ……?」


 開いたままのドアから見える、夕日で赤く染まった空に向かって、優真が、そう問いかけた。


 答えなど返ってくるはずもない。
 ましてや、"選択" のやり直しができるわけでもないという事など分かっていたにも関わらず、優真は、そう問いかける事しか出来なかったのだ。


 もしも、本当にこの世に "神" と呼ばれる存在がいるのなら……。
 もしも……もしも、時計の針が左回りに回ってくれたのなら……。


 そんな事を考える優真の表情は……『絶望』に染まっていた。


 もしも、道具を置くために、などといった理由で家に帰らなければ?
 そのままここへ来ていれば、彼女は助かったのではないだろうか?


 だが、そんな事を今更になって思い返したところで、後の祭り。


「……頼む。もう一度……もう一度だけ、目を開けてくれないか……?」


 優真は、自分が抱えている夕日に向かって、そう懇願する。
 しかし、夕日の体はぐったりと力を無くし、動く事もなければ、再び目を開ける事もなかった。
 その祈りが届かないと知っていても、優真は既に体が冷たくなってしまっている夕日に、何度も、何度も懇願した。


「……頼むよ、夕日。もう一度だけでいいから……俺に、お前の美味い料理を食わせてくれよ……?」


「…………」


 それでも、夕日は動かない。


「……っ、く――ッ!! なんで……?なんでだよっ!?」


「…………」


「おい、夕日!!つまんねぇ空寝なんかしてないで、早く起きてくれよ!! もう一度……もう一度俺に、笑いかけてくれよ――ッ!!」


「…………」


 それでも、目を開けずにぐったりとしている夕日を見て、優真の瞳からは次々と涙が溢れ出てきた。


「あ……ああ、ア゛ア゛ぁぁあああああああああああああああああああ――ッ!!」


 その時、優真は嫌というほど思い知らされただろう。


―――世の中、"結果" だけが全てだという事を。




 それから暫くして警察が来て、そのまま事情聴取を受けた。


 警察から聞いた話によると、夕日には目立った外傷も、これといった病気もなかったらしい。


 つまりは、原因不明の "死" らしい。


 しかし、そんな事はどうでもよかった。
 原因が有ろうが無かろうが、夕日が死んだという事実は変わらないのだから……。


―――


 それから暫くして、俺は再び学校に通い始めた。
 俺が教室に入ると、女子たちが俺を見ながらコソコソと何かを話していた。
 俺は気にせずに自分の席に向かおうとした、瞬間。


 後ろから誰かに髪を掴まれ、そいつに引き寄せられる。
 そして、髪を引っ張った者とは違うヤツが、俺の頬を思いきり殴った。
 意識が飛びかける。
 俺が床に倒れた後、殴ったやつの方向を見上げると、そこには数人の男子生徒がいた。


「……あの、痛いんだけど……?」


 俺が殴られた頬を押さえながらそう言うと、その『言葉』になのか『態度』になのか……あるいは『両方』なのか、俺を殴ったヤツのかんに障ったらしい。
 その男が、俺を睨み付けながら怒鳴ってきた。


「……お前が、夕日さんを殺したんだろ!?」


「…………」


 そんな事を言ってきた。
 分かっていたのだ。"こうなる" という事くらい。
 夕日は学校中の人気者だ。
 俺なんかとはわけが違う。
 仮に俺が死んだとなれば、「へぇ、アイツ死んだんだ……」くらいで済むのだろうが、それが夕日となれば話は別だ。


「オラ゛ッ!!なんか言ったらどうだ!?お前が殺したんだろ!?」


「…………」


 違う。……とは言えなかった。
 半分、俺が殺したようなものだから。
 俺の選択次第で、夕日は生きていたかもしれないのだ。


 そして、何も言わずに黙る俺を、男子生徒たちが殴る、蹴る、殴る、蹴る。
 その中には、俺とよく話したりもした友人もいた……。
 そして、最後に俺は、その友人に殴られて気を失った。


「…………」


―――そして、その日を境に、学校ここ優真おれの居場所は無くなった。
 それと同時に、優真は友達作り……いや、人間と関わるのを止めたのだ。


―――なぜなら。


 友達なんて、たかが人間関係の『称号』。
 友情なんて、一時的な気の迷いで出来た『幻想』。
 信頼なんて、押し付けがましいだけのただの『依存』でしかないのだから……。




―――しかし。


 この事件が、とある人物によって・・・・・・・・・必然的に引き・・・・・・起こされたもの・・・・・・・で、それほど遠くない未来、本当の・・・絶望・・を知る事になる・・・・・・・ということなど……今の優真センリには知るよしもなかったのだ。



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