勇者の魂を受け継いだ問題児
*二人の怠け者と衝撃の事実*
話の区切りがついた時を見計らって、ロゼリアが口を開く。
「……じゃあ、次に試験を受けたい人~、名乗り出なさい」
「……今度は、私がやります」
ロゼリアの言葉にそう応じて前に出たのは、長い黒髪をぱっつんと切り揃えた小柄な少女。
俺の監視役でもある、リリアナ・クリシュトフだった。
リリアナを見た瞬間、ロゼリアが顔をしかめる。
「……今度はアンタか……」
「何か問題でも?」
「いいえ。……それじゃあ、始めてちょうだ――」
そう、ロゼリアが言い終える前に。
リリアナが、パチンと指を鳴らす。
すると、カチャン……という、何か小さい物がぶつかるような音が、結晶の方から聞こえた。
なんだ?と思って結晶の方に目をやると、
―――【300】。
結晶には、300という数値が表示されていた。
「…………」
それを見たロゼリアが、嘆息するように額に手を当てる。
それ以外の生徒たちは皆、一体何が起きたのか分からないとでも言うように、呆然と佇んでいた。
そんな生徒たちを無視し、リリアナがロゼリアに訊ねる。
「……これで、いいですか?」
なんの悪びれも無くそう訊ねてきたリリアナを一瞥し、
「……ええ。もう、いいわよ……」
まるで最初からこうなると分かってましたよ、とでも言うように、ロゼリアがそう吐き捨てる。
それを聞いたリリアナは、スタスタと西エリアを去っていった。
「…………」
まだ呆然と佇んでいる、サヤとソーマ。
その二人をスルーして、俺が前に出た。
「次……いいっスか?」
俺が名乗り出たところで、ハッと我に返るサヤとソーマ。
俺の言葉に、ロゼリアが微笑みながら答えた。
「ええ!頑張んなさい!」
「…………」
そう言われ、俺は魔法を発動した。
―――刹那。
センリの右腕が、メラメラと燃える真紅の『炎』に包まれる。
そして、それを見たサヤが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
ソーマも静かに、ジッとこちらを見据えている。
「…………」
俺は、右腕を包んでいる炎を右手に集中させ、そのまま右掌を結晶へと向ける。
そして、右手に集中させた炎を、一気に放った!その魔法は―――
「《ファイアーボール》ッッ!!!」
初級も初級。
使えぬ者はいない――というより、今どき使う者はいないとされる初級魔法だ。
この魔法は本来、まだ魔法を使えない子供が、魔法を覚えるために練習する最初の魔法。
あまりに低威力で危険も少なく、頑張れば内界魔力ではなく、外界魔力でも発動できるという超低燃費魔法。
そして、結晶に表示された数値は……
―――【180】。
「…………」
リリアナの記録をも下回る数値に、辺りが静まり返る。
そして数秒後。
こちらを鋭く睨み付けたサヤが言ってきた。
「あんたバカなの!?なんでそこで《ファイアーボール》なのよ!これは試験なのよ!?真面目にやんなさいよ、このバカ!!」
「…………」
なぜ俺がこいつに、こんなにもバカバカ言われなきゃならないんだ?
確かに少しやりすぎ――もとい、やらなすぎたかもしれないが……。
そして俺は、手を抜きすぎて逆に怪しまれているかもと思い、チラリとソーマを一瞥する。
すると、ソーマは呆れを遥かに通り越し、失望の眼差しを向けてきていた。
「…………」
結果はどうあれ、一応、目的は達成したようだ。
しかし、俺の結果に満足出来ないのか、サヤが食い下がる。
「悪いことは言わない……。あんた、もう1回試験やんなさい!じゃないと進級できないわよ!?」
サヤのありがたい言葉に、一言。
「断る」
「なんでよ!?あんた……進級できないって意味、分かってんの?進級出来なければ、即退学。この学院はそういう所なのよ!!」
「そんな事……言われなくともわかってる」
「なら、どうして――!?」
いつまでも食い下がるサヤに、いい加減面倒になった俺は声を荒らげて言った。
「俺は最近魔法を覚えたって言ってんだろ!?今のアレが俺の "全力" なんだよ!2回目をやれば、1回目の記録との『平均』で評価される。なら、2回目をやっても記録は同じ……最悪、下がる事になるかもしれねーのに、なぜわざわざやんなきゃいけないんだ!?……そもそもお前には関係ねぇだろ!」
「……そ、それは……そうかもしんないけど……」
サヤの言葉がどんどん小さくなっていく。
そんなサヤをチラリと一瞥。
そして俺は、先程から黙っているソーマを置いて、一人で東エリアへと向かった。
※
「なんだと……!?それは、冗談ではあるまいな……?」
―――所変わって、帝都ミッドガルド。
繁華街から少し離れた、人気のない路地裏にて、金髪の青年、ユリウスが驚いたようにそう言った。
そして、ユリウスの目の前に立つ黒髪の男、アムレートが、ユリウスの言葉に静かに頷く。
「……いくらオレでも、こんな笑えねぇ冗談なんか言わねーよ」
「…………」
押し黙るユリウスに、改まってアムレートが口を開いた。
「それより確認させてくれ。……俺たちはあの時、あの場所で……魔王軍幹部【十二将魔】の『第二位』。時の将魔ヴィーデを、殺したよな……?」
そんな事を訊ねてくるアムレートに、ユリウスがハッキリと言いきった。
「間違いない。確かに厄介ではあったが……あの時、俺と貴様で奴の息の根を止めた。――確実に、な」
「だよな。……じゃあ、俺は "幽霊" でも見たってのかよ……?」
「…………」
先程、ユリウスがアムレートに聞いた話。
簡潔にまとめると、ユリウスとアムレートが殺したはずの、魔王軍幹部の一人が生きていた、というもの。
俄に信じがたいが、こんな冗談を言うような奴ではない。
「……見間違い、という可能性は?」
半信半疑のユリウスが、アムレートにそう訊ねる。
だが。
「あり得ねぇ。オレは奴と会話までしたんだぞ……?」
そう、断言するアムレート。
この男に限って……とは思ったが、やはり違うらしい。
「……なら、会話の内容はなんだ?」
それに、頭を掻きながらアムレートが言う。
そして、アムレートが言ったその言葉は、ユリウスにとって衝撃的なものだった。
「……あー、なんだ。それがいまいち理解出来なくてな。確か―――吸血鬼の生き残りがどうとか……」
「―――ッ!?」
「…………」
珍しく、あからさまに驚愕の表情を浮かべたユリウスに、アムレートが訝しげに問いかける。
「……おい。もしかしてお前、なんか知ってんのか?」
「…………」
だがその時はもう、アムレートの言葉はユリウスの耳には届いていなかった。
「……じゃあ、次に試験を受けたい人~、名乗り出なさい」
「……今度は、私がやります」
ロゼリアの言葉にそう応じて前に出たのは、長い黒髪をぱっつんと切り揃えた小柄な少女。
俺の監視役でもある、リリアナ・クリシュトフだった。
リリアナを見た瞬間、ロゼリアが顔をしかめる。
「……今度はアンタか……」
「何か問題でも?」
「いいえ。……それじゃあ、始めてちょうだ――」
そう、ロゼリアが言い終える前に。
リリアナが、パチンと指を鳴らす。
すると、カチャン……という、何か小さい物がぶつかるような音が、結晶の方から聞こえた。
なんだ?と思って結晶の方に目をやると、
―――【300】。
結晶には、300という数値が表示されていた。
「…………」
それを見たロゼリアが、嘆息するように額に手を当てる。
それ以外の生徒たちは皆、一体何が起きたのか分からないとでも言うように、呆然と佇んでいた。
そんな生徒たちを無視し、リリアナがロゼリアに訊ねる。
「……これで、いいですか?」
なんの悪びれも無くそう訊ねてきたリリアナを一瞥し、
「……ええ。もう、いいわよ……」
まるで最初からこうなると分かってましたよ、とでも言うように、ロゼリアがそう吐き捨てる。
それを聞いたリリアナは、スタスタと西エリアを去っていった。
「…………」
まだ呆然と佇んでいる、サヤとソーマ。
その二人をスルーして、俺が前に出た。
「次……いいっスか?」
俺が名乗り出たところで、ハッと我に返るサヤとソーマ。
俺の言葉に、ロゼリアが微笑みながら答えた。
「ええ!頑張んなさい!」
「…………」
そう言われ、俺は魔法を発動した。
―――刹那。
センリの右腕が、メラメラと燃える真紅の『炎』に包まれる。
そして、それを見たサヤが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
ソーマも静かに、ジッとこちらを見据えている。
「…………」
俺は、右腕を包んでいる炎を右手に集中させ、そのまま右掌を結晶へと向ける。
そして、右手に集中させた炎を、一気に放った!その魔法は―――
「《ファイアーボール》ッッ!!!」
初級も初級。
使えぬ者はいない――というより、今どき使う者はいないとされる初級魔法だ。
この魔法は本来、まだ魔法を使えない子供が、魔法を覚えるために練習する最初の魔法。
あまりに低威力で危険も少なく、頑張れば内界魔力ではなく、外界魔力でも発動できるという超低燃費魔法。
そして、結晶に表示された数値は……
―――【180】。
「…………」
リリアナの記録をも下回る数値に、辺りが静まり返る。
そして数秒後。
こちらを鋭く睨み付けたサヤが言ってきた。
「あんたバカなの!?なんでそこで《ファイアーボール》なのよ!これは試験なのよ!?真面目にやんなさいよ、このバカ!!」
「…………」
なぜ俺がこいつに、こんなにもバカバカ言われなきゃならないんだ?
確かに少しやりすぎ――もとい、やらなすぎたかもしれないが……。
そして俺は、手を抜きすぎて逆に怪しまれているかもと思い、チラリとソーマを一瞥する。
すると、ソーマは呆れを遥かに通り越し、失望の眼差しを向けてきていた。
「…………」
結果はどうあれ、一応、目的は達成したようだ。
しかし、俺の結果に満足出来ないのか、サヤが食い下がる。
「悪いことは言わない……。あんた、もう1回試験やんなさい!じゃないと進級できないわよ!?」
サヤのありがたい言葉に、一言。
「断る」
「なんでよ!?あんた……進級できないって意味、分かってんの?進級出来なければ、即退学。この学院はそういう所なのよ!!」
「そんな事……言われなくともわかってる」
「なら、どうして――!?」
いつまでも食い下がるサヤに、いい加減面倒になった俺は声を荒らげて言った。
「俺は最近魔法を覚えたって言ってんだろ!?今のアレが俺の "全力" なんだよ!2回目をやれば、1回目の記録との『平均』で評価される。なら、2回目をやっても記録は同じ……最悪、下がる事になるかもしれねーのに、なぜわざわざやんなきゃいけないんだ!?……そもそもお前には関係ねぇだろ!」
「……そ、それは……そうかもしんないけど……」
サヤの言葉がどんどん小さくなっていく。
そんなサヤをチラリと一瞥。
そして俺は、先程から黙っているソーマを置いて、一人で東エリアへと向かった。
※
「なんだと……!?それは、冗談ではあるまいな……?」
―――所変わって、帝都ミッドガルド。
繁華街から少し離れた、人気のない路地裏にて、金髪の青年、ユリウスが驚いたようにそう言った。
そして、ユリウスの目の前に立つ黒髪の男、アムレートが、ユリウスの言葉に静かに頷く。
「……いくらオレでも、こんな笑えねぇ冗談なんか言わねーよ」
「…………」
押し黙るユリウスに、改まってアムレートが口を開いた。
「それより確認させてくれ。……俺たちはあの時、あの場所で……魔王軍幹部【十二将魔】の『第二位』。時の将魔ヴィーデを、殺したよな……?」
そんな事を訊ねてくるアムレートに、ユリウスがハッキリと言いきった。
「間違いない。確かに厄介ではあったが……あの時、俺と貴様で奴の息の根を止めた。――確実に、な」
「だよな。……じゃあ、俺は "幽霊" でも見たってのかよ……?」
「…………」
先程、ユリウスがアムレートに聞いた話。
簡潔にまとめると、ユリウスとアムレートが殺したはずの、魔王軍幹部の一人が生きていた、というもの。
俄に信じがたいが、こんな冗談を言うような奴ではない。
「……見間違い、という可能性は?」
半信半疑のユリウスが、アムレートにそう訊ねる。
だが。
「あり得ねぇ。オレは奴と会話までしたんだぞ……?」
そう、断言するアムレート。
この男に限って……とは思ったが、やはり違うらしい。
「……なら、会話の内容はなんだ?」
それに、頭を掻きながらアムレートが言う。
そして、アムレートが言ったその言葉は、ユリウスにとって衝撃的なものだった。
「……あー、なんだ。それがいまいち理解出来なくてな。確か―――吸血鬼の生き残りがどうとか……」
「―――ッ!?」
「…………」
珍しく、あからさまに驚愕の表情を浮かべたユリウスに、アムレートが訝しげに問いかける。
「……おい。もしかしてお前、なんか知ってんのか?」
「…………」
だがその時はもう、アムレートの言葉はユリウスの耳には届いていなかった。
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