勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*二人の怠け者と衝撃の事実*

 話の区切りがついた時を見計らって、ロゼリアが口を開く。


「……じゃあ、次に試験を受けたい人~、名乗り出なさい」


「……今度は、私がやります」


 ロゼリアの言葉にそう応じて前に出たのは、長い黒髪をぱっつんと切り揃えた小柄な少女。
 俺の監視役でもある、リリアナ・クリシュトフだった。
 リリアナを見た瞬間、ロゼリアが顔をしかめる。


「……今度はアンタか……」


「何か問題でも?」


「いいえ。……それじゃあ、始めてちょうだ――」


 そう、ロゼリアが言い終える前に。
 リリアナが、パチンと指を鳴らす。


 すると、カチャン……という、何か小さい物がぶつかるような音が、結晶の方から聞こえた。


 なんだ?と思って結晶の方に目をやると、


―――【300】。


 結晶には、300という数値が表示されていた。


「…………」


 それを見たロゼリアが、嘆息するように額に手を当てる。
 それ以外の生徒たちは皆、一体何が起きたのか分からないとでも言うように、呆然と佇んでいた。


 そんな生徒たちを無視し、リリアナがロゼリアに訊ねる。


「……これで、いいですか?」


 なんの悪びれも無くそう訊ねてきたリリアナを一瞥し、


「……ええ。もう、いいわよ……」


 まるで最初からこうなると分かってましたよ、とでも言うように、ロゼリアがそう吐き捨てる。
 それを聞いたリリアナは、スタスタと西エリアを去っていった。


「…………」


 まだ呆然と佇んでいる、サヤとソーマ。
 その二人をスルーして、俺が前に出た。


「次……いいっスか?」


 俺が名乗り出たところで、ハッと我に返るサヤとソーマ。
 俺の言葉に、ロゼリアが微笑みながら答えた。


「ええ!頑張んなさい!」


「…………」


 そう言われ、俺は魔法を発動した。


―――刹那。
 センリの右腕が、メラメラと燃える真紅の『炎』に包まれる。


 そして、それを見たサヤが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 ソーマも静かに、ジッとこちらを見据えている。


「…………」


 俺は、右腕を包んでいる炎を右手いってんに集中させ、そのまま右てのひらを結晶へと向ける。
 そして、右手に集中させた炎を、一気に放った!その魔法は―――


「《ファイアーボール》ッッ!!!」


 初級も初級。
 使えぬ者はいない――というより、今どき使う者はいないとされる初級魔法だ。
 この魔法は本来、まだ魔法を使えない子供が、魔法を覚えるために練習する最初の魔法。
 あまりに低威力で危険も少なく、頑張れば内界魔力オドではなく、外界魔力マナでも発動できるという超低燃費魔法。


 そして、結晶に表示された数値は……


―――【180】。


「…………」


 リリアナの記録をも下回る数値に、辺りが静まり返る。


 そして数秒後。
 こちらを鋭く睨み付けたサヤが言ってきた。


「あんたバカなの!?なんでそこで《ファイアーボール》なのよ!これは試験なのよ!?真面目にやんなさいよ、このバカ!!」


「…………」


 なぜ俺がこいつに、こんなにもバカバカ言われなきゃならないんだ?
 確かに少しやりすぎ――もとい、やらなすぎたかもしれないが……。


 そして俺は、手を抜きすぎて逆に怪しまれているかもと思い、チラリとソーマを一瞥する。
 すると、ソーマは呆れを遥かに通り越し、失望の眼差しを向けてきていた。


「…………」


 結果はどうあれ、一応、目的は達成したようだ。


 しかし、俺の結果に満足出来ないのか、サヤが食い下がる。


「悪いことは言わない……。あんた、もう1回試験やんなさい!じゃないと進級できないわよ!?」


 サヤのありがたい言葉に、一言。


「断る」


「なんでよ!?あんた……進級できないって意味、分かってんの?進級出来なければ、即退学。この学院はそういう所なのよ!!」


「そんな事……言われなくともわかってる」


「なら、どうして――!?」


 いつまでも食い下がるサヤに、いい加減面倒になった俺は声を荒らげて言った。


「俺は最近魔法を覚えたって言ってんだろ!?今のアレが俺の "全力" なんだよ!2回目をやれば、1回目の記録との『平均』で評価される。なら、2回目をやっても記録は同じ……最悪、下がる事になるかもしれねーのに、なぜわざわざやんなきゃいけないんだ!?……そもそもお前には関係ねぇだろ!」


「……そ、それは……そうかもしんないけど……」


 サヤの言葉がどんどん小さくなっていく。
 そんなサヤをチラリと一瞥。
 そして俺は、先程から黙っているソーマを置いて、一人で東エリアへと向かった。




           ※




「なんだと……!?それは、冗談ではあるまいな……?」


―――所変わって、帝都ミッドガルド。


 繁華街から少し離れた、人気のない路地裏にて、金髪の青年、ユリウスが驚いたようにそう言った。


 そして、ユリウスの目の前に立つ黒髪の男、アムレートが、ユリウスの言葉に静かに頷く。


「……いくらオレでも、こんな笑えねぇ冗談なんか言わねーよ」


「…………」


 押し黙るユリウスに、改まってアムレートが口を開いた。


「それより確認させてくれ。……俺たちはあの時、あの場所で……魔王軍幹部【十二将魔】の『第二位』。時の将魔ヴィーデを、殺したよな・・・・・……?」


 そんな事を訊ねてくるアムレートに、ユリウスがハッキリと言いきった。


間違いない・・・・・。確かに厄介ではあったが……あの時、俺と貴様で奴の息の根を止めた。――確実に、な」


「だよな。……じゃあ、俺は "幽霊" でも見たってのかよ……?」


「…………」


 先程、ユリウスがアムレートに聞いた話。
 簡潔にまとめると、ユリウスとアムレートが殺したはずの、魔王軍幹部の一人が生きていた、というもの。
 にわかに信じがたいが、こんな冗談を言うような奴ではない。


「……見間違い、という可能性は?」


 半信半疑のユリウスが、アムレートにそう訊ねる。
 だが。


あり得ねぇ・・・・・。オレは奴と会話までしたんだぞ……?」


 そう、断言するアムレート。
 この男に限って……とは思ったが、やはり違うらしい。


「……なら、会話の内容はなんだ?」


 それに、頭を掻きながらアムレートが言う。
 そして、アムレートが言ったその言葉は、ユリウスにとって衝撃的なものだった。




「……あー、なんだ。それがいまいち理解出来なくてな。確か―――吸血鬼の生き残り・・・・・・・・がどうとか……」




「―――ッ!?」


「…………」


 珍しく、あからさまに驚愕の表情を浮かべたユリウスに、アムレートが訝しげに問いかける。


「……おい。もしかしてお前、なんか知ってんのか?」


「…………」


 だがその時はもう、アムレートの言葉はユリウスの耳には届いていなかった。
 

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