勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*属性結合*

 ロゼリアの魔法により、元通りになった西エリアで次に試験を受けるのは、サヤ・クレーヴェル。
 気の強そうな吊り目に、燃えるような長い赤髪を後ろで一つに結んだ少女だ。
 サヤが、位置に着く。


「おー、今度はサヤっちか~」


「…………。……よろしくお願いします」


 ロゼリアの言葉に、サヤが素っ気なく応じる。……理由は言わずとも分かるだろう。
 しかし、ロゼリアはサヤの態度など気にせずに促した。


「それじゃあ、頑張ってちょうだい」


 ロゼリアにそう言われ、サヤが呪文を唱える。


「――《彼処かしこより来たれ……此処ここに顕現せよ》」


 すると、サヤの両手が光に包まれた。


―――召喚魔法。
 召喚する物によって魔力の消費が異なる魔法だ。
 あまり大きな物や重い物、複数連続で召喚するなどすると一気に魔力が無くなってしまうという、便利でもあり不便でもある魔法なんだが……、一体、あいつは何を召喚するつもりなんだ……?


 俺はそんな事を考えて、光に包まれたサヤの両手に目を向ける。


「…………」


 そして、サヤの両手から光が消え、代わりに現れたのは――1挺の拳銃。


 すると、その拳銃を見たロゼリアが興味深そうに言った。


「へぇ~、"魔導式動力銃" か……。随分と良いモノ持ってるわねぇ……」


「はい。私の家が、そういった魔導具や魔導兵器を製造する企業にも出資しているので……」


「なるほどね……。そう言えばクレーヴェル伯爵家は、帝国中の大企業に莫大な金を出資している資本家だったわねぇ」


「…………」




―――魔導具。
 それは、使用者の魔力を動力源とする道具のことだ。
 サヤの持つ銃の場合、"己の魔力を弾丸とする" ……といえば分かりやすいだろうか。
 しかし、現在はまだあまり出回っていないそうで、魔導具一つ買うのにかなりの値が付くらしい。
 そういった理由から、魔導具を持てるのは主に大貴族や帝国軍、その他金持ちだけなのだ。


 だが、あいつ……以前の言動から貴族だとは思っていたが、まさか五等爵……それも、"伯爵家" の御令嬢さまだったとは。
 ……まぁ、だからといってどうという事はないのだが。


 そこでサヤが銃を構え、何やらブツブツと呟きだした。


「…………魔力回路に接続。属性結合アトリビュート・コネクト、開始」


 そう呟いた時には既に……サヤの持つ銃が禍々しい光を放ちながら、ドクン、ドクンと、まるで生き物のように、魔導具がサヤから魔力を吸い始めていた。
 だがそれは、別に不思議でも何でもない。
 魔導具にとって、魔力こそが燃料エネルギーなのだから、使用者の魔力を吸収するというのは当然の事だ。


「…………」


 ―――だが。


 サヤが呟いた言葉を聞いていた俺は……己の耳を疑った。
 あいつは、今、こう言ったのだ。




―――"属性結合アトリビュート・コネクト" 、と。




「………。ファイアウォーターウィンドアース。―――結合コネクト完了」


 準備が完了したのか、サヤの闘志がより一層高まったように見えた。
 そして、サヤが結晶を睨み付けて―――。


「――穿うがてッ!《四大元素結合弾クアドラプル・バレット》!!」


 ズドォン―――という、凄まじい銃声。
 銃口から放たれた魔力の塊だんがんが、真っ直ぐ結晶へと向かって飛んで行き―――そのまま結晶に直撃した。


 そして、結晶に表示された数値は……


―――【5480】。


 ルセリアよりも、『120』だけ大きい数値。
 セレスティーナ、アイシャと、『7000超え』の記録が続き、(ルシウスに関しては "別格" だったが) やはり味気なく感じてしまう。
 しかし、もう一度言うが『5000超え』というのはかなり大きい方だろう。


「…………」


 しかしこの場合、驚くべき点は "そこ" ではない。


「……ふぅ」


 張り詰めていた気持ちを緩めるかのように、大きく息を吐く、サヤ。
 そして当然、たった今サヤが行った芸当を、教師であるロゼリアが気づかないわけもなく……。


「ちょっと、サヤっち!アンタ凄いじゃないっ!去年、私が教えた属性結合アトリビュート・コネクトを、まさか使いこなせるようになってたなんて!!」


 ロゼリアは興奮気味にそう言った。
 それに、サヤが苦笑しながら応じる。


「……まだまだ、ですよ。先生のように、8属性の属性結合アトリビュート・コネクトには及びません」


 などと謙遜するサヤだったが、ロゼリアがさらに褒め称える。


「そんな事ないわよっ!元々、アンタに才能があったとはいえ、まさか、教えてから半年で4属性の属性結合アトリビュート・コネクトを習得したのよ!?もっと自信持ちなさい!」


「……えへへ」


 ロゼリアにここまで褒められたのが相当嬉しかったのか、いつも強気でプライドの高いサヤが、照れたように表情を綻ばせる。


 だが実際……ロゼリアの言う通り、属性結合アトリビュート・コネクトという芸当は、簡単に出来るものではないのだ。




 もう一度言うが、魔法を発動する際には二つの手順を踏まなくてはならない。


 一つ目が、魔力の消費。
 そして二つ目が、魔法への変換。


 当然、魔法のエネルギー源である魔力は、魔法を発動する際に消費する。
 しかしそれ以外にも、魔力を魔法へと変換しなければならないのだ。
 そして、使う魔法によって必要な魔力の量、流れ、質などは違う。


 そして、さらに面倒な事に、全ての魔法には『属性』というものがあるのだ。


 具体的に言えば、『火』『水』『風』『地』『氷』『雷』『光』『闇』の、8属性。
 ※それとプラスアルファで、『無』というものがあるが、ここでは置いておく。


 言わなくとも分かるだろうが、その8属性ももちろん、それぞれの属性で、必要な魔力の量や、流れ、質は違う。


 ……つまり、だ。


 サヤのように、4属性の魔法を結合コネクトさせるとなると、それぞれの属性に合った魔力の量、流れ、質の調整全てを同時に行い、それを結合コネクトさせたのち、4属性の魔法として変換しなければならないのだ。


 言葉で言うのは簡単だが、実際にやろうとなると、かなりの神経を使う事になる。


「(……俺でさえ、まだ『火属性』と『風属性』の2属性でしか出来ねぇのに……)」


 だがまあ、8つある属性のうち、『火』『水』『風』『地』の4属性は、俗に "四大元素エレメント" と呼ばれ、8属性の中では、比較的簡単に扱える魔法なのだ。
 そして、その次に『氷』と『雷』。
 最も使用するのが難しいと言われているのが、『光』と『闇』というわけなのだが……。


「…………」


 そこで俺は、隣にいる銀髪男をチラリと一瞥する。
 すると俺の視線に気づいた銀髪男、ソーマがこちらを見据えて。


「……なに?」


「なんでもねえ」


 そう言って、俺はすぐに向き直る。


「…………」


 先ほどの教室での出来事。
 ソーマは俺に、魔法を使った。
 実際に攻撃を食らったわけではないのだから、魔法を使ったことに関しては今さらどうでもいい。


 だが、問題は俺を攻撃しようとした魔法の属性だ。
 俺は、この目で見たのだ。間違いない。
 あれは『闇属性』の魔法だった。


 それは、光をも飲み込む暗黒を司る負の属性とされ、『光』の対となる上位属性。


 その上位属性を使っていたソーマは、やはり相当の手練れなのだろう。
 ……まあ、だからといって俺の敵ではないがな。


 そんな事を考えていると、試験を終えたサヤに向かって、ロゼリアが言った。


「アンタも『魔法威力』の試験はこれで終わりよ。次の試験会場でも頑張んなさい!」


 しかし、サヤが首を横に降り、


「……いえ。もう少し残って、他の人たちの試験も見ていきたいと思ってます」


「……あら、そう?まあ、アンタがそうしたいって言うなら、別に構わないけど……」


 それを聞いたサヤが、いきなり振り返って、なぜか俺をキッと睨んでくる。
 その視線を俺は真正面から受け止めて、


「……なんだよ」


「ようやくあんたの魔法が見られるわ」


 そんな事を言ってくる。
 それに、俺は肩を竦めて応じた。


「……別に大したものじゃないと思うぞ?お前の属性結合アトリビュート・コネクトに比べたらな……」


「それは私が決めること。どうしてあんたがこんな時期に編入できたのか、ここで知ることが出来るわ。この学院に賄賂なんて出来ないだろうし……あんたが貴族でないのなら、相当の手練れという事になる。ここで見せてもらうわよ?あんたの実力ちからを……」


「…………(はぁ……)」


 ソーマの次はこいつか……。
 なぜそんなに俺に拘る?
 確かに珍しい時期に編入したのは、認める。
 だが、なぜそれで実力隠してるだの、本気を見せろだのと言われにゃならんのだ。
 そんな事を考えていると、目を細めてサヤが言ってくる。


「……なに?その沈黙は。やっぱり、あの・・理事長が編入を認める程の実力ちからを持ってるってこと?」


「買い被り過ぎだ」


「だから、それは私が決める」


「はぁ……。俺はつい最近まで魔法が使えなかったんだぞ?そんな俺の実力ちからなんて、高が知れてるだろ?」


「…………は?」


 俺の言葉に、何を言っているのか分からないとでも言うように、サヤが首を傾げた。
 そこで、リリアナがこちらを一瞬だけ、ギロリと睨み付けてきたのが分かった。
 ソーマもこちらを見据えている。


「…………」


 ……あー、ヤベェ。あまりの面倒くささに、つい口がすべってしまった。


「……魔法が、使えなかった?今まで16・7年生きてきて?冗談でしょ?」


 サヤがそんな事を言ってくる。……当たり前だ。
 この世界で一つも魔法が使えない人間なんていないだろうし、仮にいたとしても、そんな奴が帝国屈指の名門校である、この聖グラムハート学院に通うことなど出来ないのだから。


「…………」


 さて、どう誤魔化すか……。
 『今のは無し』と言って、『わかりました』と答える馬鹿はいない。
 かといって、『冗談でーす☆』などと言えば、逆に怪しまれるのは明白だ。


 無論、それはサヤにではない。隣からずっとこちらを見つめてくる銀髪男の方に、だ。
 こいつはサヤと違い、俺が実力を隠そうとしていることにほぼ "確信" しているようだ。
 俺が編入してきて、まだ実力を見せるようなイベントはないのだが……やはり、俺の生活態度は、この学院には合ってないらしい。


 この学院に通う生徒たち、誰もが『なんで、こんな奴が?』と思っているに違いない。ソーマに関しても、それは例外ではなく……。
 なぜ俺が編入できたのか……それを確かめるために、先程、教室で仕掛けてきたのだろう。


 だが、そこで俺は反撃しなかった。
 その事から、こいつは俺が実力を隠そうとしていると踏んでいるのだろうがな……。


 そんな事を考えていると、


「……なに?その沈黙は……。もしかして、今の話、本当なの?」


「…………」


 サヤが、目を細めて言ってくる。
 ソーマも無言でこちらを見据え、俺の言葉を待っているようだ……。


 否定すれば怪しまれる。
 だから、俺は―――


「ああ。本当だぞ?」


 ここはえて、真顔で肯定してみせた。
 そして、二人の反応は―――


「……は……?」
「……ッ……!?」


―――驚愕。
 あまりにも分かりやすい反応だった。


 リリアナに関しては、横目で、こちらの成り行きを静かに見守っている。


 しかし、それら全てを無視して、後頭部を掻きながら俺が続ける。


「いやぁー、本当に苦労したんだぞ?なんたって、編入が決まるまでロクに魔法は使えなかったんだから……。正式にこの学院に通うまで1週間。たったそれだけの期間で魔法を習得したんだ。お前が言うように、俺にはあの・・理事長が認めるほどの『才能』があったんだろうな。それに気づいたあの理事長が、俺の編入を認めてくれたんだろう。いずれは俺も、8属性の属性結合アトリビュート・コネクトが出来るようになるかもな~、ハハハ……」


 なんて言ってみる。
 そして俺の言葉に、二人の反応は―――。


「…………」
「…………」


―――沈黙。


 無言のまま、こちらをジト目で見つめてくるサヤと。
 無言のまま、呆れたように嘆息するソーマ。


 そして、リリアナからの視線はなくなった。


「…………」


 ちょっと言い過ぎたかもしれないが、これで二人の目には『下らない妄言を何の躊躇いもなく言い放つ異常者』という事で映っただろう。
 『いきなり自分の自慢を始めるナルシスト』とも映っていたら尚良い。


 とにかく、相手を騙したり誤魔化したりする時は、『嘘』だけでなく、『真実』も含めて言ってやれば話の信憑性も増し、信じて貰えるのだ。
 まぁ半分は真実なのだが、信じては……いないだろうな。二人の目を見る限り。


 興味を無くしたのか、二人からの視線もなくなる。
 しかし、サヤのやつは宣言通り、この場に残るらしい。


 話の区切りがついた時を見計らって、ロゼリアが口を開く。


「……じゃあ、次に試験を受けたい人~、名乗り出なさい」


「……今度は、私がやります」


 ロゼリアの言葉にそう応じて前に出たのは、長い黒髪をぱっつんと切り揃えた小柄な少女。
 俺の監視役でもある、リリアナ・クリシュトフだった。



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