勇者の魂を受け継いだ問題児
*お伽噺*
―――キーン、コーン、カーン、コーン。
懐かしいチャイムの音を聴きながら、ようやく解放されたという気持ちに浸るセンリ。
そのまま窓の外を見つめていると、隣の銀髪が話しかけてきた。
「ふぅ~、ようやく終わったねぇ。始業式後の夏期休暇明け考査!君はどうだった?……結構この学院、レベル高いでしょう?」
「…………」
隣でソーマが大きな伸びをし、此方を振り向いて言ってくる。
しかしセンリは返答せず、外の景色を見ている。
それに呆れたような表情を浮かべ、ソーマがため息を吐いてから、
「……あのさぁ、君。外の景色ばっかり見てるけど、なんかあんの?」
そんな事を訊ねてきた。
そこで目線だけソーマに向けて、
「……あ?別になんもねぇよ。まあ、ちょっと考え事をな……」
「……考え事?」
「……何処の世界の学校も、この間抜けなメロディーだけは変わんねえんだなぁ……って」
再び窓の外を見つめながら、そんな事を言うセンリをソーマが半眼で見据え、
「……何言ってんの?全然、意味分かんないんだけど」
「だろうな」
そんな会話をしていると、センリの前の席に座る男が振り返り、いきなり話しかけてきた。
「お前ら、さっきから仲良さそうに話してるよな~。ソーマ、俺も仲間に入れてくれよ!」
―――クロード・アダムベルト。
茶色に染まった髪のトップ部分をオオカミのたてがみのように立てたウルフカットに、軽薄そうな垂れ目。
両耳にはピアス、指には指輪。首にはネックレスを付けている。
そんなチャラチャラした茶髪男、クロードの言葉に笑顔で頷くソーマ。
それに、クロードが嬉しそうに表情を明るくする。
「うおぉッ!?マジで!?……クロードだ。
改めてよろしく、セン―――」
そう言いながら、クロードが此方に手を差し伸べてきた。
しかし、センリはその手をすぐに手の甲で払いのけ、クロードを睨み付けて、言う。
「うるせえ、勝手に決めんな。……つーか、そんなに友達とお喋りしたいんなら、テメェら二人きりでよろしくやってろよ、バカ」
「…………」
「…………」
センリはそう言って、立ち上がる。
机の脇に掛けてあった鞄を机の上に置き、机の中に入っていた筆箱を突っ込む。
そして鞄を持ち、鞄を持つ手を肩に掛けて、教室の出口へと向かう。
すると、ソーマがセンリの肩を掴んで苦笑しながら、言ってきた。
「おいおい……。さすがにあれはないだろう?
いくらなんでも―――」
しかし、ソーマの言葉を遮って、
「……五月蠅い。頼むから俺に関わらないでくれ」
「…………」
センリはそう言ってソーマの手を振り解き、教室を後にした。
そんなセンリの背後を暫く見つめ、ソーマは踵を返して自分の席に戻る。
「んだよ、アイツ……」
机に突っ伏して、そう呻いたのはクロードだった。
そんなクロードを見つめ、苦笑しながら「まあまあ……」と宥めるソーマ。
そんなソーマを見据えて、クロードが言う。
「……にしても、お前はスゲェよなぁ……。
あんなのに自分から話しかけるなんて。人柄が良くて女子からもモテるし、勉強も出来るし、顔も……ったく、お前には勝てる気がしねぇよ……」
「あはは……。だけどまあ、今回は相手が悪かったんだろうねぇ……」
「…………。そうだなぁ……。あんな自己紹介するくらいだから、ゼッテー不良だと思ったが……予想以上の問題児だったわ」
その言葉にソーマが苦笑し、クロードの身に付けている装飾品を一瞥して、
「……問題児?……キミがそれ言う?」
「な……ッ!?こ、これはオレ流のオシャレであって……」
「そんなのが"オシャレ"って言ってるような奴に、自分から近づいてくるような女の子はいないと思うよ」
「そんな事言ってもよぉ~、コレがなかったら、俺……影薄すぎて、完全にクラスから忘れられちまう……」
「お!どっかの問題児が羨ましがるねぇ~」
そんな事をへらへら笑いながら言うソーマを、クロードが涙目で掴みかかる。
「俺は!真面目な話をしているの!」
「あはは……冗談だよ」
「ったく……」
「……まあ、君は女子たちの会話のネタにはなってるから……完全に忘れられる、なんて事はないんじゃないかな?」
ソーマがクロードを安心させるように言うが、クロードは半眼で、
「……それ、絶対良いネタじゃないだろ……」
「まあね」
「否定してくれよ……」
項垂れるクロードを宥めながら、ソーマは窓の外を眺める。
すると外は相変わらずの日照りで、屋内にいても暑さが伝わってくる。
夏休みが終わったと言っても、夏が終わった訳ではないのだ。
そもそも夏休みと言っても、ほんの1週間程度のちょっと長い休日でしかないのだ。
何たってこの学院は、長期休暇が何週間もあるような一般の学院ではないのだから。
「それにしても……明日からは実技試験なんだよねぇ……」
「だな……。休みが短い上に、学校が再開したら直ぐに筆記やら実技やらで……俺、卒業出来るか不安になってきた」
明日からは二学年実技試験がある。
ちなみに、実技試験を行うのは二学年だけだ。
この学院は学年によって授業内容が根本的に異なる。
大まかに言えば、一学年は机にかじりついて、魔法基礎や応用魔法、魔導兵器などの勉強を通して『知識』を身に付ける。
二学年では、一学年で身に付けた知識を用いて実戦訓練をし『技術』を身に付ける。
三学年では、帝国中を飛び回り、これまでの二年間で得た知識と技術を駆使し、様々な場面での実習を通して『経験』を身に付ける。
そうして、この学院の卒業生は帝国に貢献する優秀な人材として、現在もなお、帝国中に名を轟かしているのだ。
ある者は帝国屈指の研究者に。
ある者は帝国議会の議長に。
ある者は帝国軍の軍隊長に。
アストレア帝国で名の知れた有名人といえば、大抵がこの学院の卒業生、という事になる。
しかし、この学院は帝国中から生徒が集まってくる為、教授たちが一人一人に詳しく説明する余裕などはないのだ。
そして、この学院には落第制度はない。
つまり、自分の力で不明な点を解決し、定期テストで合格しなければ、この生徒はこの学院には相応しくないと判断され、即刻、退学処分を下されてしまう。
そうなれば当然、職に就く当てもなく路頭に迷う羽目になり、結果的に行き着くのが、命がけで魔物退治を行う『冒険者』というわけだ。
つまり、この帝国には極端に二つの生き方がある。
一つは、実力のある者は安定した職に就いて裕福に暮らす存在。
もう一つは、実力のない者が冒険者として己の命を擲ち……死亡すれば帝国から忘れ去られてしまうような憐れな存在。
冒険者=負け組。
実力主義なこの世界で生きていく為には、当然、強くなるしかないのだが―――。
「……でも、君も知ってるでしょ?10年前の……」
「ああ。もちろん、知ってるぜ?……けど、あんなのただの噂……いや、都市伝説だろ?あんなお伽話を未だに信じてる奴なんて、いないだろ?」
ソーマの問いかけに、半眼で応じるクロード。
―――現在から約10年前。
魔界の支配者である『魔王』を倒すべく立ち上がった、たった5人の英雄譚。
1人の吸血鬼が、同じ野望を抱いた4人の仲間たちと共に冒険して、魔王を倒すという……ありきたりな物語。
しかし、そんな話を信じる人間など、当然いない。
そもそも、人類が何十、何百、何千と群れて挑んだところで、魔王軍に……ましてや魔王に勝てるはずなど、ないのだ。
そんなのはただのお伽話。
それが人々の共通理解なのだ。
「あはは……そうだね」
クロードの言葉にソーマが苦笑。
そして、クロードが「よっこらしょ」と年寄りくさい掛け声を上げて席を立ち上がり、
「……んじゃ、俺もそろそろ帰るわ」
「うん。ばいば~い」
ソーマは手を振って、クロードを見送る。
そして、クロードが教室を出てから、再びソーマは窓の外を見つめて、
「あれほどの大事件が実際に起こったにも関わらず、まさか『お伽話』の一言で片付けられるってのは恐ろしいな。……だけどまぁ、政府によって情報が隠蔽されたんじゃ仕方ないか……」
※
―――13年前。
地上界最強と謳われていた種族、吸血鬼。
その吸血鬼の襲撃を恐れ、冥界の支配者である魔王ディアボロは、魔王軍の最高幹部である『十二将魔』に吸血鬼を皆殺しにするよう命令した。
ディアボロの命により、十二の将魔たちは、それぞれ100人ずつの部下を連れ、吸血鬼の住む都市へと襲撃。
個体数は少ないが、並外れた戦闘能力を有する吸血鬼との戦闘は、魔王軍の最高幹部といえど苦戦を強いられた。
―――1年という、長きに渡る魔王軍と吸血鬼の戦争。
魔王軍は『第3位』『第7位』『第8位』『第10位』『第11位』『第12位』という、魔王軍最高幹部である十二将魔の半分を失うという大打撃を負うも、何とか勝利を手にした。
そして、魔王は最も恐れていた吸血鬼を皆殺しにした事で、傲慢不遜な生活を送り始めた。
―――破壊。殺戮。強奪。
日に日にエスカレートする魔王軍の横暴に堪えられなくなった人間たちは魔王の討伐に力を入れるが、人間の力など、魔王どころか将魔たちにも及ばない。
傲り高ぶり、地上界を支配していく魔王だったが……。
―――その時、魔王は己の致命的な誤算に気付かなかった。
……後々、自分の命をも脅かす存在が現れるという事を。
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