勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*『マナ』と『オド』*

 聖グラムハート学院。裏庭にて。


「……な、ッ……!! ……すげぇ……。
……ほ、本当に魔法……なのか……?」


 そう呟いたセンリの手には、メラメラと燃える深紅のほのお
 しかし、その焔の勢いは乏しく、とてもじゃないがセンリの知る漫画の世界の魔法とはかなりかけ離れていた。


―――だが、これも魔法。


 生まれて初めて使った魔法に興奮しながらも平然を装うと努力するが、そんな努力も虚しく、センリの口元には小さな笑みが零れていた。
 そんなセンリを見たリリアナが、


「たかが魔法を使えるようになったくらいではしゃがないでください」


「…………」


 確かにリリアナの言う通りなので、センリは大人しく、素直に頷く。
 ……これも、早く魔法の使い方を完全にマスターする為だ。
 そして、リリアナが続ける。


「……先程も説明しましたが、魔法を使う為には"魔力"が必要です。 そして魔力には『外界魔力マナ』と『内界魔力オド』の二種類が存在し、場合によってそれらを使い分けるのが基本です」


「へぇ……。 じゃあ、『場合によって』とは、具体的にどんな場合だ?」


「今から説明するので黙っていてください」


「…………」


 どうやら質問は受け付けてくれないらしい。
 だが、説明はしてくれるそうなので一旦、黙る。


「マナは自然界……大気中に、無限単位で存在しています。 なので、マナを用いた魔法はほぼ無限に使えると言っても過言ではありません。……ですが、無限に使えるとは言っても、その分デメリットもあります」


「……へぇ、どんな?」


「貴方の手の中にある、その"貧弱そうな焔"を見ればわかるでしょう?」


 そう言われ、再び視線を落とし、焔を見つめる。
 すると、その焔の勢いは乏しく、今にも消えてしまいそうなくらいに儚い焔。
 そして、センリが再びリリアナを見つめて、問う。


「……マナを使った魔法は威力が落ちる、ってことか……?」


「ええ。そういう事です」


「なるほどな。……じゃあ、逆にオドを使った魔法は、"これ"より威力が上がるってことか……」


「そうなりますね。 ……しかし、勿論、オドの方にもデメリットはあります」


「マナと違って無限じゃない、って事か?」


「……まあ、半分は正解です。 確かにオドはマナと違って無限ではありません。 ……しかし、オドの一番のデメリットは、自分の・・・生命エネルギーを・・・・・・・・魔力に変える事・・・・・・・によって魔法を使う・・・・・・・・・、という点です」


「……自分の生命エネルギーを、魔力に……?
って事は……」


「……ようやく、意味が伝わったようですね」


 ―――生命エネルギー。
 それは、生命体に生命活動を行うパワーを与えるものであり、全ての生命体の"命"といっても過言ではないもの。
 その生命エネルギーを削って魔法を使うという事は、つまり……。


「……じゃあ、もし、オドが尽きたら……」


 勿論、聞かなくても答えは分かってはいる。
 しかし、確認のためリリアナに訊ねてみる。
 そして、その答えはやはり、センリの予想通りだった。


「結論から言って―――絶命します」


「……ッ……!?」


「オドは我々……生命体にとっては命そのものです。それが尽きれば、当然、生命活動を停止し、死に至ります」


「…………」


「そこで、先程の貴方の質問に戻りますが……『どのような場合で使い分けるか』でしたね」


「……ああ」


「簡単です。 主にマナは日々の日常で生活するために。 ……そしてオドは、戦場で人を殺すため・・・・・・・・・に使われています」


「…………」


「そして勿論、貴方にはオドの使い方も覚えて貰いますよ。 ……まあ、マナが使えるようになった今では、オドを使えるようになるまで、それほど時間はかからないと思いますが」


 そんな事を平然と言ってくるリリアナを睨み付けて、問いかける。


「……俺に、自分の命を削って他人を殺す力を覚えろと……?」


 そして、リリアナはセンリの問いかけにも、平然とした口調で答えてくる。


「……別に、オドを用いた魔法は"殺し"だけでなく、"護身術"にもなります。 要は、オドを使いきらなければいいだけですし……それに、時間が経てばオドも回復します。 なので、使えて損はないと思いますよ?」


「…………」


「……それに貴方は今後、オドの力が必ず必要になってきます。……色々な意味で……」


「……チッ……」


 そんなリリアナの意味深長な言葉に舌打ちするも、今のセンリは頷くしかなかった。
 そして、リリアナが


「それでは、始めます。……先程は大気の魔力を集中させて魔法に変換しましたが、今度は自分の体内の魔力を魔法へと変換させます。 基本的にマナもオドもやり方は同じなので、簡単に出来るようになると思いますよ。 ……それでは、試しにやってみてください」


「試しにやってみてください、じゃねーよ!!
体内の魔力ってなに!? どうやってそんなもんを魔法に変換するんだよ!!? 大体、オドは生死に影響するんじゃねーのか!? 使い方誤って死んだらどうすんだよ!!?」


「……いちいち五月蠅うるさいですね。 そんなに心配しなくてもオドが暴発するなんて事、未だに聞いたことがありませんよ。 ……まあ、魔法が使えない人間がいたなんて初めて知りましたが……」


「ちょ待てコラッ!! それって、お前が無知で世間知らずなだけで、実例があるかもしれないって事だろ!?」


「おーおー、言ってくれますね。 念のため言っておきますが、私は世間知らずなのではなく世間に興味が無いだけです」


「同じ事だろうが!!!」


「……兎に角、このままでは埒が明きません。
……それに、誰だって初めは初心者じゃないですか。 もうこうなったら、『成るように成れ』です」


「……この状況でのその言葉……『死んだら死んだで仕方がない』って意味じゃねぇか……?」


「どうでもいいから早くしてください!」


「……お前は他人事だからいいかもしんねぇが……。 まあ、これ以上言い合っても無駄だしな」


「……ええ。諦めてください」


「…………。よし、こうなったら『成るように成れ』だ! ヤったろうじゃねぇか!!」


 いい加減めんどうになってきたので、自棄糞やけくそになってやってみる事にする。
 すると、リリアナがめんどくさそうではあるが、親切に説明してくれた。


「……マナは大気の魔力を圧縮させるだけですが、オドは体内の魔力を暴発させてから、それを一点に集中させるイメージでやると成功しますよ」


「ぼ、暴発……? ……いや、まあなんとなく分かった。 取り敢えずやってみる」


 センリは不審な単語に一瞬たじろぐが、一度やると決めた事なのですぐに気を取り直し、オドを扱う事に集中する。


「………。……………ん、っ……………。
……く、くくく……ッ……!!」


「……肩に力が入り過ぎです。そんなでは魔法は発動―――」


「…………はあぁぁぁ………ッ………!!!」


 センリは気合いで、体内中の魔力を暴発させ、それを右手に集中させる。


 ……すると、先程とは比べものにならないほど巨大で禍々しい焔が、センリの右手に纏っていた。
 それを見たリリアナは大して驚く様子もなく、普段通りの無表情で続ける。


「―――しましたね。 ……ともあれ、それがオドを用いた魔法です。先程と比べて、どうです?」


「……ああ……。……これが、オドの……」


「……聞いているんですか? まあ、いいです。 ……ですが、間違ってもそれを撃ったりしないでくださいね? ……吸血鬼ヴァンパアは身体能力がズバ抜けているだけで、オドはそれほど高くないと聞きますが、学院の敷地内で火事になられても―――」


 リリアナがそう言っている最中、何故かセンリはわなわなと震えだし、焔を指差して問いかける。


「……な、なぁ……。 これ、どうやって消すんだ? 心なしかこの焔、どんどんデカくなっている気がするんだが……?」


「……は? そんなの、オドを鎮めれば―――」


「だから、それをどうすんだって聞いてんだ
バカ!!」


「誰がバカ―――ッ! ……くっ、それ以上巨大化すれば、本当に爆発しますよ!?」


 最初は直径20センチ程度だった焔玉だが、今では倍以上の大きさまで膨れ上がっていた。


 そして、センリは右手を体から出来るだけ離しながら、リリアナを睨み付けて応じる。


「おい、おいおいおいッ……!!冗談じゃねぇぞ!? こんな距離で爆発なんてされれば、間違いなく死―――!!?」


「―――チッ、むを得ません!!
ここで爆発されるよりマシです!そのまま空にでも撃ってください!! ……ただし、全力で、出来るだけ高く放ってください!!」


「……あ、ああ!」


 そう言われ、センリは右手を高くあげ、全力で焔を大空へと打っ放した。


 そして、空高く打ち上げられた焔玉が、数百メートル上空まで飛んでいったところで、




――――――ズドォォオオオオオンンッ!!!




「……くっ……!!」


「……ッ、ッ……!!」


 此方まで爆音と衝撃波が届くほどの大爆発を起こす。
 爆発によって生じた圧縮波が、辺りの木々を大きく揺らす。
 センリたちも飛ばされないようにしっかりと耐え……一瞬だったが、強力だった衝撃波がようやく止んだ。


「……あ……危ねぇ……。 ……本当に死ぬところだった……」


「…………」


 疲れきったような、安心したような声音でセンリが呟く中、リリアナは何かを考えるように、静かに俯いていた。


 そして、それから数秒後。
 背後から聞き覚えのある声が飛んできた。


「……何事だ?一体ここで、何をしている?」


「……あ?」


 センリが振り替える。
 するとそこには、大貴族の長男であり、人類最強の聖騎士パラディンであり、この学院の理事長でもある、ユリウス・アルバート様がいらっしゃった。
 そんなユリウスに、センリが訊ねる。


「なんの用だ?」


「いや……先程、すごい音が聞こえてきてね。
一応、様子を見に来たんだ」


「……一応、ね……」


 などと言うユリウスを半眼で睨み付けながら、ぼそりと呟くセンリ。
 するとそこで、今まで黙って考え事をしていたリリアナが口を開く。


「……ユリウス様。お訊ねしたい事があります」


「……なんだ?」


「…………」


 かつてない二人の緊張感に、センリも黙る。
 そして暫くの沈黙の末、ようやくリリアナが本題を切り出す。


「この男は一体、何者なんですか?」


「…………」


 リリアナはセンリを指差しながら訊ねる。
 そしてユリウスは一瞬沈黙するも、その質問が来る事を初めから知っていたような口振りで答える。


「……以前説明した通り、人間と吸血鬼ヴァンパイアの間に生まれた、吸血鬼の最後の末裔だ」


 しかし、その回答に満足できなかったのか、首を横に振って補足してくる。


「……私には、この男がただの吸血鬼ヴァンパイアだとは思えません」


「…………」


「……吸血鬼ヴァンパイアとは本来、身体能力や、様々な感覚に優れた最強の種族です。 それも……あの魔王軍ですら吸血鬼ヴァンパイア族の力を恐れ、敵対される前に奇襲をかけるなどし、吸血鬼から大勢の犠牲を払ってまで滅ぼそうとした程に……」


「…………」


「しかし、そんな吸血鬼ヴァンパイアにも弱点はあった。 それは、内界魔力……オドの量が非常に少なく、強力な魔法を使う事が出来ない事です。 奇襲と、その弱点のお蔭で、魔王軍は吸血鬼ヴァンパイア族に勝てたのですからね……」


「……何が言いたい?」


「彼の先程の魔法……あれは、吸血鬼ヴァンパイアが使える魔法の威力の限界を、遥かに凌駕していました。 ……単純な魔法の威力だけで言えば、恐らく、あのルシウス様にも匹敵するかと」


「そうでなくては困る。 ……それに、お前の言う通り、彼は普通の吸血鬼ヴァンパイアではない。人間と吸血鬼ヴァンパイアの間に生まれた、ハーフヴァンパイア・・・・・・・・・だ。 だが、よくこの短い期間で彼をここまで成長させてくれた。 本当に助かったぞ、クリシュトフ」


「……貴方はいつもそうやって話を……」


「……ハハ」


「…………?」


 そんな事を二人が言い合っている。
 恐らく俺の事なんだろうが、俺には何の事だかサッパリ分からない。
 しかし、ヴァンパイアだのハーフだの……今更どうでもよかった。


 俺は無駄な事は嫌いだ。
 どうせ、考えたって分からない。
 分からないなら、考えない。
 ……今はそう思っている。
 なので、自分が何者なのかなど、すでに興味は無い。


 そんな事より―――


「なぁ……さっきの爆発で、学院内で騒ぎになったりしてないのか?」


「ああ、それなら問題ない。ロゼリアが……ああ、君は知らないか……。 この学院のとある教授が色々と小細工をしてな。生徒や教師たちは気づいていないだろう」


「そうか、ならいい」


「……時にセンリくん。夏休み明けから始まる学院生活で、君にお願いがあるのだが……」


「……お願い? なんだよ、急に……」


 そう言うと、ユリウスがこんな事を言ってきた。


「―――他の生徒たちに、君の力を知られないように生活してほしい」





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