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勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*真実*

「…………んっ…………」


 静かに目を開く。
 そして、最初に目についたのは真っ白な天上。
 いったい自分は何処にいるのか……。


「……………く、ッ…………!!」


 そして、そのまま起き上がろうとするが、なぜか身体中が痛み、起き上がる事ができない。
 なので、横になったまま、目線だけで周囲の様子を確認する。


 すると、ここは天上も壁も真っ白な部屋だった。
 どうやら自分はベッドで寝ていたようだが、一体なぜ……?
 と、そこまで考えたところで、突然、隣から声がした。


「……どうやら、目が覚めたようですね」


「……あ?」


 優真は声がした方を首だけで振り向く。
 するとそこには、椅子に座りながら、眠たげに細められた目で此方を見据えてくる一人の少女。
 彼女は読書中だったのか、自分の膝の上には本が一冊、開かれたまま置かれていた。


 長い黒髪に、黒い瞳。
 紺色のチェックのスカートに、シャツの上には水色のベスト。胸元を飾る赤いリボンは、優真のよく知る、学生が着ている "それ" を意味していて―――。
 優真が最も忌み嫌う服を着た少女に、目を細めて問いかけた。


「……ここは?」


 すると、彼女は呆れたように嘆息し、細い目をさらに細め、膝に置いてあった本に目を通しながら素っ気なく応じてきた。


「見てわかりませんか? ここは病院です」


「そうか。……で、何故、ここに?」


「……魔力欠乏症に陥って意識を失った貴方を、元の動ける状態になるまで治療する為に―――」


「俺の事じゃねぇよ……!」


 優真は彼女の言葉を遮って、言う。
 すると少女は本から目を離し、再び此方を見つめ、問いかけてくる。


「……と、いいますと?」


「俺はお前の事など知らない。そんな、会った事もない赤の他人が、何故、俺の病室にいるんだと聞いてるんだ」


「……何かと思えば、そんな事ですか……」


「……は?そんな事、だと……?」


 そして、再び本に目をやり、此方を見ずに、とんでもない事を言い出した。




「……何故か、って……それは、私が貴方の『監視役』だからですよ」




「………………」


「………………」


―――沈黙。
 そして、数秒後……。


「……はぁ!?監視役だァ!? 何言ってんだテメェは……!?」


「なに、って……だから、そのままの意味ですよ。 私が貴方の監視役だから、貴方が問題を起こさないよう、わざわざ監視しているんです。 くれぐれも、問題は起こさないでくださいね?」


「…………」


 さっぱり、意味がわからない。
 何故、俺は監視なんかされなければならないんだ?
 そもそも誰だよ、この女……!!


 すると、そんな俺の心を読んだかのように、椅子から立ち上がり、軽く頭を下げて名乗ってきた。


「ああ……申し遅れました。私は【聖グラムハート学院】2年の、リリアナ・クリシュトフと言います。……以後、お見知り置きを」


「……ああ、どうも」


 いきなり名乗られて少し驚いたが、今はそんな事どうでもいい。


「……話を戻すが、お前が俺の監視役って言っていたが、あれはどういう事だ? 俺が一体、何をしたっていうんだよ!?」


 優真の問いに、「本気で言っているのか?」とでも言うような目付きで此方を睨み、心底、呆れたような声音で応じてきた。


「私は話を聞いただけですが……あれだけの事をしておいて、随分と白々しい物言いですね」


「……あれだけの事……?」


「まさか、忘れたんですか? ……ああ、いえ……何でもありません。考えてみれば、無理もありませんね。あの時の貴方は―――」


 などと、ぶつくさ言っているが、何の事だか分からない。
 間違いなく、ここは森ではなく、人間が住んでいる街(?)ではあるようだが……。


 一体、何故、ここに……?
 俺は確か、森の中で……。
 森での出来事と言えば………………ッ!!?


「―――シ、シルヴィア……ッ!!……ぐ、ッ!?」


 森での出来事を思いだし、慌てて起き上がろうとするが、身体中に激痛が走り、再びベッドに倒れる。
 リリアナは、そんな俺を見下ろしながら、


「……大人しくしていてください。今の貴方は満身創痍で、身体中ボロボロなんですから……下手に動けば死にますよ?」


 そんな恐ろしい事を真顔で平然と言ってくるリリアナに戦慄を覚えるが、今はそれより……!!


「なぁ!俺の他に、シルヴィ……金髪の少女がいなかったか!?」


「……残念ながら知りませんね。 そもそも、貴方を森からこの病院へ運んだのは私ではなく、ユリウス様ですから……」


「……ユリウス……?」


「……知らないんですか?」


 聞いた事がない名前に首を傾げる。
 それもそうだ。 俺はこの世界に来て、まだ二人の名前しか知らないのだから。
 そしてリリアナと言えば、すでに呆れを通り越し、心底、哀れみのこもった表情で此方を見据え、嘆息しながらわざわざ説明してくれた。


「……ユリウス・アルバート。アルバート公爵家の長男にして、『光の剣聖』とうたわれている、人類最強の聖騎士パラディンです」


「……へぇ……じゃあ、なんでそんな大物が俺を……?」


 優真の問いに、酷く共感しているのか、指を顎につけて、真剣に考えだすリリアナ。


「……ええ、そうなんですよね。……あの御方が、取るに足らないゴミのような小者なんぞに、何故、ご自分の貴重なお時間を割いてまで………本当に、不思議でなりませんね」


 先程まで読書以外の物事、全てに興味が無さそうに見えた、その表情とは全く違う真剣な表情に若干引きながらも、疑問に思った事を訊ねてみる。


「……なあ、その『取るに足らないゴミのような小者』とは一体誰の事か、詳しく説明願おうか!?」


「言わなければ駄目ですか……? 私は本音をなかなか口に出せない性格なんです。……少しは察してください」


「こんなに言いたい放題言ってきておいて、どの口が言ってんだよ!!」


 そして、声を荒らげて怒鳴ると、再び身体中に激痛が走る。
 身体の痛みが引くまで暫く待ってから、そして、再び本に目をやっているリリアナに訊ねる。


「……なあ、そのユリウスって人。今、何処にいるか知ってるか?」


 その質問に、リリアナは本から目を離さず、素っ気なく応じてくる。


「ユリウス様でしたら、ちょうど今、この病院にいるはずですよ?」


「ほ、本当か!?……じゃあ、今すぐ会わせてくれ!!」


 すると、リリアナは本から目を離し、目を細めてあざけるように言い放つ。


「貴方はどれだけ "おめでたい頭" してるんですか? ……先程も言いましたが、彼はこの帝国有数の大貴族ですよ? まだ、この帝国の一般市民ですらない貴方が会いたいと言って、会えるはずないじゃないですか」


 至極、ごもっともなリリアナの言葉に、


「……チッ、使えねぇな……」


 外方そっぽを向いて舌打ちする優真。
 すると、リリアナが本から目を離し、こちらを睨み付けてから言い返してくる。


「……今、なんと?……使えないですって?
言ってくれますね。 甲斐性なしの分際で生意気ですよ」


「………ぐ、っ………」


 外方を向いたままの優真は、リリアナの言葉に心当たりがあり、短くうめいてしまう。


―――俺、こいつ苦手かもしれない。


 そして、優真のそんな様子を見たリリアナは、ため息を吐いてから、一言。


「……図星ですか」


「うるせぇ!」


 否定しない優真を見て、本気で胃が痛くなってきた。
 そしてリリアナは、今までで一番大きなため息を吐いて、


「……まあ、ユリウス様は偉大で、本来、貴方が会いたいと言っても会えるような人物ではないのですが……」


「…………?」


「……そのユリウス様本人に、今日中に目を覚ますだろうから、貴方が目を覚ましたら知らせろと言われていまして……」


「……は?今日中に目を覚ます、だと……?
それって……」


「……しゃくですが……非常に癪ではありますが、ユリウス様のところへ案内致します」


「……ほ、本当か!?」


 俺はリリアナの事を性格悪いと思って嫌っていたのだが、案外、良い奴なのかもしれない。
 などと、俺の中のリリアナに対する評価を改めようとした瞬間。


「……まあ、その身体で動けるようならば、の話ですが」


「…………」


―――前言撤回。
 やっぱ性格悪ィわ、こいつ……。




            ※




「辛そうですね。……私の肩を貸しましょうか?」


「丁重にお断りする。(誰がお前の肩など借りるものか……!!)」


「……そうですか」


「………………」


「………………」


 病院の廊下にて。
 あれから自力で何とか立ち上り、壁を伝って一歩、一歩と歩いていた。


 全身に響く筋肉痛をこじらせたような激痛と、頭がぼんやりとし、体全体の力が奪われていくような、酷い倦怠感とめまい。


 そしてリリアナといえば、優真のペースには合わせてくれているのだが、そんな彼女の口からは、相変わらず、怒濤どとう口撃こうげきが炸裂していた。


「……にしても、ここ、随分と広いんだな……。
なぁ、あとどれくらいの距離あるんだ?」


「距離はそれほどでもないですよ。貴方がとろとろ歩いているせいで時間はかかっていますが……まあ、そうですね。まず、あそこを曲がったところにある階段を4階まで上り、そして左へ真っ直ぐ行った突き当たりにある部屋です」


「……マジで?結構あるじゃねーか……つか、階段……?」


「……何度も言いますが、貴方がもっと早く歩いてくれていれば、とっくに到着してます。というか、一体、何分時間をかけるつもりなんですか?
……病室を出て、既に3分は経っていますが、まだ貴方の病室の入口が見えますよ」


 などと、リリアナは振り返らずに、親指で後方を指差しながら言ってくる。
 そんなリリアナを睨み付けて。


「ああ、そうですか。本っ当に、すみませんねぇ!!」


「……ええ、本当にいい迷惑です」


「………………」


「………………」




――――暫し、沈黙。
 そして、優真は向き直ってリリアナを見据え、


「……なあ、一つ頼みがあるんだが……」


「はい。なんでしょう」


「…………やっぱ、お前の肩を貸してくれないか……?」


「丁重にお断りします」


―――即答だった。
 先程の俺の言葉を、そのまま返される。
 この言葉って、言われる側は、結構グサッとくるんだな。




            ※




―――そして、あれから何分経っただろうか。
 4階までの地獄の階段を乗り越えて、ようやく到着した院長室前。
 そして、疲れきった顔で呼吸を整える優真を見据え、もう何度目になるか分からない念押しをしてくるリリアナ。


「……何度も言いますが、相手は五等爵の頂点。アルバート公爵家の方です。……呉々も失礼のないようにして―――」


「わーってる、わーってる」


「……本当に分かっているんですか……?」


 手をひらひらと振りながら応じる優真に、悲観的な表情を浮かべるリリアナ。
 そして、そんな表情を浮かべたまま、リリアナはドアを三度、ノックする。


「……ユリウス様。リリアナ・クリシュトフです。 監視対象が目覚めたので、連れて参りました」


「……監視対象、ねぇ……」


 そんな事を言うリリアナを、訝しげに見据えて、呟く。
 すると、中から透き通るような声音の、若い男の声が聞こえてきた。


「……来たか。開いているぞ。入れ」


 その言葉を聞き、リリアナが扉を開ける。
 そして、一歩中に入り、深々と礼をして、


「……失礼します」


 そう言ってから、目線で俺に「失礼のないようにしろ」と言ってくる。
 それに、優真は小さく頷いて、リリアナの後に続く。


「お邪魔しま~す」


「………な、ッ………!!?」


「…………」


 優真はそう言って軽く会釈をし、ズカズカと院長室に入って行って、部屋の中をぐるりと見回す。


「……うわ……すっげ。随分と広いんだな……」


 そんな事を言う、礼儀の『れ』の字もない優真を見て、リリアナは額を手で覆いながら嘆息していた。
 院長室には優真たちの他に、三人いた。


 一人目は、僅かに白髪のある、30代後半ほどの男。
 恐らく彼が、この病院の院長だろう。


 二人目は、茶髪でスタイルの良い、20代ほどの女。
 何故か口元を手で覆いながら、クスクスと笑いを堪えるかのように、肩を震わせていた。


 ……つーか、この女、何処かで……?


 そして、その真ん中に立つ、金髪で背の高い、高貴そうな服を着た、同じく20代ほどの若い男。
 恐らく、コイツが……。


 優真がその3人の観察を終え、リリアナのいる方へと振り返る。
 すると、先程までほとんど表情を変えなかったリリアナだったのだが、今は何故か此方を激しく睨んできていて、彼女からは明確な殺意が溢れ出ていた。


「……貴方という人は……ッ!!」


「―――寄せ、クリシュトフ。彼の事は気にしなくていい。お前は黙っていろ」


 そう言って、金髪の男がリリアナを制す。
 しかし、納得いかないと言った様子で、リリアナが食い下がる。


「……で、ですが……ッ! いくらなんでも
この態度―――」


 そして、いつまでも食い下がるリリアナを、金髪の男が遮って、もう一度、短く告げた。


黙れ・・


 ゾン……と。 静かに刺すような一言だった。
 たった一言で、院長室の部屋の温度が数度下がったのではないかと錯覚させるような、圧倒的な威圧感。


 そしてその言葉に、先程までのリリアナとは思えないような態度で、小さく頷き、


「……す、すみません、でした……」


 そして、リリアナは口を閉じた。
 金髪の男はそれを確認し、今度は優真を見据えて、言ってくる。


「ふぅ……まずは初めまして、かな?」


 そして、優真はその男の視線を受け止め、応じる。


「ああ、そうだな。……で、あんたがユリウス・アルバートか?」


「ああ、そうだ。 ちなみに君を森から救いだし、ここへ運んだのも、俺だ。 ……つまり、俺は君の『命の恩人』という事になる」


「はっ、随分と恩着せがましいんだな。……まあ、『俺を助けた』という事は事実だろうから、一応、礼を言う。 ……だが、俺の身体をこんな状態にしたのもあんただろ?」


 そして、今も痛む身体を少し動かす。
 すると、やはり痛みが走るが、先程より大分楽になっていた。
 そして、優真の言葉にフッと笑い、男が指を鳴らす。
 すると、優真の体が突然光り出し……そして、数秒で消える。


「……何をした?」


「……なに、君に少しまじないをかけていてね。それを今、解いた。 少し、身体を動かしてみるといい」


「…………」


 そして、言われた通りに、肩や身体を動かしてみると、先程までの身体の痛みは完全に消えていて……。
 それを確認した優真は、ユリウスを睨み付けて、


「……何故、こんな事をしたか、説明してくれるんだよな?」


 その問いに、ユリウスは鼻でため息を吐き、説明してくる。


「……信じられないかもしれないが、君は少し特殊でね。説明すれば長くなるが……まあ、簡単に言えば、『危険』なんだよ。 君が、我々人類にとって、ね」


 その言葉に、優真は眉をひそめて、


「……我々、人類だと? まるで、俺が人間じゃねぇ、みたいな言い草だな」


「ああ。まさに、その通りだ」


「………!!」


 ユリウスが即答する。
 そして、優真は思いを巡らせる。


―――自分が、人間ではない。
 もしや、この世界に来た事で、自分におかしなオプションが付いたのだろうか。
 漫画とかでよくある、異世界転移したことにより、自分が魔王になった!とか。
 普通のヒキオタニートなら、喜ばしい展開なのかもしれない。
 自分がチート級の力を手に入れて最強になり、世界を征服する……素晴らしいじゃないか!
 だが、それは、
 ヒキオタニートの場合であり―――


「(マジで、ふざけんじゃねーぞ!!)」


 俺はそんな事は望んでいない。
 もしも自分が魔王だったりしたのなら、さらに『平凡』から離れてしまうだろうが!!
 ただでさえ、異世界転移なんて馬鹿げたものに巻き込まれているのに……それから、さらに追い打ちとか、鬼か!鬼なのか!?


「…………」


 無言で見据えてくる3人を睨み付け……しかし、睨み付けても仕様がないと諦め、状況を受け入れる事にした。


「……まあ、大体は状況が分かった。そうか、そうなのか……どこの世界でも、自分の思い通りにはならないのか……」


 俺にはとても理不尽な……しかし、ある意味、道理にかなった世界法則に嘆息する。


「……で?俺はどうすればいいんだ? 大人しくあんたらに殺されろと?もしそうなら全力で抵抗するけど、恐らく無駄なんだろ?」


「………?」


 優真の言葉に、ユリウスは何故か首を傾げていた。


「……先程から、一体、何を言っている? 危険とは言ったが、殺すとまでは言っていないだろう?むしろ、その逆だ」


「……逆?」


「ああ。君の力を、我々人類に貸していただきたい」


「……はぁ?何を言っている!?」


「……そうだな。君の意見は尤もだ。だが、聞いていただきたい。……今、人類と魔王軍は戦争中にある」


「…………」


「今のところ、魔王軍による目立った攻撃はないが……だが、それも時間の問題だ。もし、魔王が目覚めれば、状況は一転するだろう……」


「はぁ?ちょっと待てよ!」


「……なんだ?」


「人類と魔王軍が戦争中だと?……で、その戦争に俺を巻き込む?冗談じゃねぇよ! だいたい、なんで俺が……!!」


「言いたい事は分かるが、まず聞け。
別に、今すぐという訳ではない。 今の君を前線に出したところで、恐らく3分も持たないだろう」


「…………」


 事実だろうから、反論しない。


「そこで、だ。君には、闘い方を勉強してもらう」


「……あっそ。具体的には?」


「武器や魔法の使い方について、だ」


 優真は嫌な予感がして、目を細める。
 それが予感であってほしいと思い、しかし一応、確認する。


「……ちなみに、どうやって?」


「ああ。ここからが本題だ。君には、俺が理事をしている学校に―――」


「断る! 断固、拒否だ!」


 それに即答し、踵を返して院長室から立ち去ろうと、ドアノブに手を伸ばす。
 しかし、


「……行かせませんよ……?」


 そう言って、優真の首もとに刃が突き付けられる。
 そして、優真は刃を突き付けてきた少女、リリアナを睨み付けて、


「……退けよ。邪魔だ」


「……そうはいきません。それに、これは貴方の為でもあります。ユリウス様が仰っている事は『お願い』ではありません。全て、『命令』です。 その命令に背けば、いくら最強の種族である吸血鬼ヴァンパイアといえど……死にますよ?」


「………吸血鬼ヴァンパイア………?」


「ああ、そうだ」


 リリアナの言葉を肯定するユリウスに、訝しげに振り返って、


「……何を言っている?俺が吸血鬼ヴァンパイアだって?
ハッ、馬鹿馬鹿しい……どこをどう見れば、俺が吸血鬼だと……?」


「……そうだな。今の君は、何処をどう見ても、ただの人間だ」


「……なら……ッ!!」


 しかし、優真の言葉を遮って、ユリウスは衝撃の事実を言い放った。


「……君の母親は紛れもなく人間だ。しかし、君の父親は、魔王軍によって滅ぼされた吸血鬼ヴァンパイアの生き残り……あとは、言わずとも分かるだろう?」


「……何を適当な事を……!!俺が人間と吸血鬼のハーフとでも言いたいのか!?」


「…………」


「大体な!俺には両親の記憶なんてないんだよ……!!生れた時の記憶だって、俺には一切の記憶が………!!
………ッ!!?……ま、まさか……ッ!!?」


「ああ、そうだ。君には記憶がないはずだ。なにせ、君の記憶を消したのは、君の実の母親なのだからな」


 俺の記憶が消された……!?
 確かに、俺には5歳以前の記憶がない。
 しかし、一番不思議なのは、


「……何故、俺の記憶がない事を知っている……!!」


―――そう。
 知っているハズがないのだ。
 ここは異世界。
 俺がいた地球ではなく、異世界・・・なのだ。
 文明や歴史、世界観そのものが地球とは異なるこの世界で、俺の事を知っている人間がいるハズがないのだ。


 しかし、現に、俺の目の前に、俺自身すら知らない俺の事を知る人間がいるわけで……。


 もう、ワケがわからなくなってきた。
 本当に夢でも見ているかのようだ。


 しかし、間違いなく、これは疑いようのない現実で……。


 なら、本当に俺には、吸血鬼の血が流れているのだろうか。
 そもそも、それ以前に、俺は一体何者で、今、俺自身に何が起こっているのか……。


 知る必要があった。
 知りたかった。
 空白の5年間に、一体、自分に何があったのか。
 だから、確実に何かを知っている様子のユリウスに、訊ねた。
 しかし、その答えは……。


「……悪いが、俺の口から言う訳にはいかないな……」


「何故だ!?」


「……それも、まだ言えない」


「……くっ……」


 これ以上、ユリウスに食い下がっても無駄だと判断し、諦める。
 なので、聞きたかったもう一つの事を訊ねてみることにする。


「……俺が森にいたとき、近くに金髪のハーフエルフを見なかったか?」


「……金髪のハーフエルフ?ああ……シルヴィアの事か?……彼女は、俺が行った時には既に息をしていなかった」


「…………ッ!!」


 やはり、シルヴィアは……もう―――!!


 しかし、シルヴィアの事を、ユリウスは知っている。
 本当に、この男は何者なんだ?


 しかし、聞いたところでどうせ答えてなどくれないだろう。
 それに、ユリウスとシルヴィアにどんな接点があったかなど、俺にはどうでもいい。


 そのような考えに至り、思考を停止する。


 そして、ユリウスが咳ばらいをし、


「……では、話を戻すぞ。才条優真。俺が理事をしている【聖・グラムハート学院】にて、様々な経験を積み、魔王軍に対抗する為の武器となれ。 ……協力、してくれるな?」




            ※




「……シルヴィア。俺、大嫌いな学校に通う事になったよ……」


 優真が一人、墓の前で呟く。




―――あの時、ユリウスはシルヴィアも連れて来ていたらしく、先程、シルヴィアの墓の場所を教えてもらった。


 そこには他の墓はなく、彼女の墓だけが一つ、ポツンと佇む、物音一つしない、酷く静かな場所。


「自分が一体何者なのか。"それ"を見極める為にな……」


 もちろん、彼女からの返事はない。
 だが、聞こえた気がした。
 「頑張れ」、「無理しないでね」……と。


 そして、それに、優真は微笑を浮かべて踵を返す。
 優真は、振り返らずに手を振りながら、


「……また来るよ、シルヴィア。 死人に言うのはどうかと思うが……達者でな」


 そう言って、才条優真は友人の墓を後にした。



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