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勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*終焉と覚醒*



「……くそ……やっぱ無理だ!!」


「……へぇ、驚いたわ……まさか、ここまで魔力の使い方が下手な人間がいたとは……」


「…………」


 しょうがねぇだろ!
 今まで使った事どころか、見たこともなかったんだから!
 俺はそう言いたい気持ちをグッと抑え、呆れ顔で此方を見つめてくるハーフエルフの少女、シルヴィアに、答えの分かりきった質問をしてみる。


「……魔法使うのって、かなり難しかったりするか……?」


「……んー、そんな事ないと思うけど……でもどうなんだろ?私の場合、気づいたら使えるようになっていたから……」


「……天才かよ。……こんだけ人に教えんのは下手なのに……」


「……え?なにか言った?」


「……別に」


「あら、そう。でも、人間はエルフ達より魔力の使い方が上手いって聞いていたんだけど……」


「…………」


「……私のように、風の魔法や回復魔法を得意なエルフが殆どで……中には精霊魔法を使うエルフもいるけど、人間はもっと沢山の魔法を使うって聞いていたから」


 平然とそう言ってくる。
 俺はそんなシルヴィアを見つめ、


「……まるで、自分とエルフは別々、みたいな言い方だな」


 俺の素朴な疑問に、シルヴィアは少し俯き、微笑みながら答えた。


「……だって、私は純粋なエルフじゃないもの……」


「だが、エルフの血だって流れてんだろ?」


「……まあ、ね……」


「……親が、憎いか?」


「……え?」


 唐突にそんな事を聞いてきた俺を、少し驚いたように見つめてくる。
 俺は続ける。


「両親の身勝手で産まされて、今までお前は苦しんだ……その原因である両親を……お前は憎むのか?」


 シルヴィアは困ったように微笑んで応じてくる。


「……えーと、どうだろう……両親を恨んだ事は、ないわね……」


「……なぜだ?」


「なぜ、って……。だって、会った事もない両親を恨んでもしょうがないじゃない?」


「…………」


「ん?……どう、したの?」


「……会った事もない両親を恨んでもしょうがない、か……。確かに、そうだよな……」


「……ユーマ?」


 俯いてブツブツ何かを言っている俺を、心配そうに上目遣いで覗きこんでくるシルヴィア。
 それに、優真はシルヴィアを見つめ返して、思いきって訊ねてみた。


「……なあ、シルヴィア」


「……なぁに?」


「……お前は、さ……俺の事、どう思ってる……?」


「…………。……え?」


 何を言われているのか分からない……と言った様子で、首を傾げるシルヴィア。
 そして、だんだんとシルヴィアの顔がだんだんと赤くなり、


「……な、な、な……っ!?なによ、いきなり!?」


「?……いや、だからさ……お前は俺をどう思ってるかを聞いてるんだ……」


「私たち、会ってまだ二時間くらいしか経っていないのよ!?……どう思うかなんて、そんないきなり……ッ!!」


 何故か、いきなり慌てふためくシルヴィア。
 何故、そんなに取り乱しているのかは分からないが、俺は続ける。


「……いや、会ってまだ二時間しか経っていないからこそ、聞いているんだ。……どう、思う?」


 すると今度は辺りをキョロキョロとし始め、思いきったように唇を噛み締めて、答えてきた。


「……まあ、一般的に見て……かっこいい方だとは、思うわよ……?」


「……はぁ……かっこいい、ね……。……は?かっこいい……?」


 そこで初めて、話が噛み合っていない事に気づく。
 しかし、シルヴィアといえば、


「……あ、あくまで一般的に見て、だからっ!」


 などと、まるで漫画とかによくいる、ツンデレ幼なじみ的な反応を見せてくる。
 若干嬉しかったものの、俺が聞きたいのは容姿ではなく……


「……えーと、質問の仕方が悪かったな。正しくは、『会ってから大して時間も経っていないお前から見て、俺はどんな人間だと思う?』だな。……なるほどな。これで、お前がいきなり取り乱した理由が分かったよ」


「……~~ッ~~……!!!」


 笑いながらそう答える俺を、シルヴィアが怒りの形相で睨み付けてくる。


「……え、えーと……シルヴィア、さん……?」


「ま……紛らわしいのよ!この、お馬鹿ーーーッ!!」


 そう言って、《ウィンドボール》を放ってきた。


「……ッ!?……な、なにしやがる!?危ねえだろ!!?」


「……どうせあたらないんでしょ!?……今だって、私の魔法をサラッと避けてたし……ッ!!」


「そういう問題じゃねぇ!この、お馬鹿!!……もう、いい。俺が悪かった」


 このまま言い合いを続けても無駄なので、潔く引き下がる事にする。
 シルヴィアも俺の考えが伝わったのか、これ以上言ってくる事はなかった。
 そして、改めて……


「……お前は俺の事、どう思う?」


「だから……っ!!」


 再び声を張り上げるシルヴィアだが、俺は遮って続けた。


「……俺は、さ……自分の両親を、心の底から憎んでいるんだよ……」


「…………え?」


 突然思い詰めたように口を開いた優真に、シルヴィアは戸惑ったような表情になる。
 しかし、俺は続ける。


「……自分たちの身勝手で俺を産んで、そして……俺を捨てた親の事を、心の底から憎んでる……」


「…………」


「俺はな、7歳以前の記憶がないんだ。気づいたらそこは、全く見覚えのない僻地だった。……そして、自分が誰で、ここは何処で、今まで何をしてきたのか全くわからない。そんな事を、俺は7歳の時に体験したんだ。……まあ、その時は自分の年齢もわからなかったんだがな」


「…………」


「……いろいろさ迷って、体力が尽きて、そのまま気を失った。……そして、目が覚めたら、知らない白い部屋のベッドの上に、横になっていた。……正直、ワケがわからなすぎて、焦ったり戸惑ったりする気さえ起きなかった」


「…………」


「……そこで、何故か俺のベッドの隣に座る、一人の知らない女性がいたんだ。その女性は俺に、『私は才条優花。君の姉だ』と名乗ってきて、色々と事情を説明してくれた。 俺の歳や名前、記憶を失う前、どんな生活をしていたのかなど……そして、その時に知ったんだ。俺の両親が、俺を置いて失踪した事を……」


「…………」


「まあ、その後いろいろあって、その姉と名乗る女の人と暮らすようになって………………めでたし、めでたし」


「…………」


「…………」


「……え?ちょっと待ってよ。全然『めでたし』じゃないじゃない!なによ、その終わり方……!!」


 などと、食いかかってくるシルヴィア。
 それに顔はしかめ面で、


「はぁ?『めでたし』だろ!?……記憶のない俺を拾ってくれた姉。俺は、俺を捨てた両親を憎みながらも、拾ってくれた女性を親しみと尊敬の気持ちを込めて『ねえさん』と呼ぶようになり、二人で幸せに暮らしましたとさ」


 そう言う俺を、シルヴィアは呆れたように眺めて、


「……はいはい。貴方はこんな『落ち』のない昔話をして、私に何を言いたかったの?」


 別に、『落ち』がないわけではないが、これ以上は話したくない。
 なので、こんな面白くも何ともない、無駄な昔話をした理由を話してやる。


「……人間には、言い奴と悪い奴がいる。……だいたい、3:7くらいの比率でな。それで、俺は悪い奴の方の人間なんだ」


「……なにが言いたいのよ……」


「俺は絶対に自分の利益にもならない無駄な事はしないんだ。……絶対にな。そして、俺はさっき、お前の相談に乗ってやった。……さて、ここで問題だ。お前の悩みを聞くことによって、俺には一体、どんなメリットがあったと思う?」


「……え?貴方のメリット……えーと、そんなの無いと思うけど……」


「ああ、そうだ。お前の相談に乗ること、俺には全くメリットがない。だが、相談に乗った。そして、さっきの無駄な昔話。それを話す事についても、俺にはメリットがない」


「……そうね、わざわざ話す必要もなかったと思うけど……なら、どうして貴方は―――」


「似てるんだよ、俺とお前が。生い立ちや、複雑な家族関係がな」


「……だから、どうしたのよ?」


「……別に。……俺はお前のように、人間から迫害されてきた。その時に、『俺より不幸な奴が、この世にいないだろう』と思ってきたが、案外、俺より不幸であわれな奴がいたんだな~、と思って」


「…………。あぁ、そういう事ね……わざわざこんな事を話してきたんだから、どんな深刻な話を聞かされるのかと思ったら……。えっとね、なんか私……今、すっごーく気分が悪いの。……ちょっと、《ウィンドボール》撃っていい?」


「俺が悪かったからやめてくれ……にしても、腹減ったな……」


 今、思い出したが、昨日から何も食べていないのだ。
 そして、数時間前に拾ったリンゴもどきをポケットから取りだし、


「なあ、この紫の実……食えるのか?」


 優真がそう訊ねる。
 するとシルヴィアは、ニヤリと不気味な笑みを浮かべて応じてくる。


「ええ!勿論、食べられるわよ!それは "ココの実" ……しっかりと噛んで、味わいながら飲み込むといいわ!」


「……ああ、そうなのか」


 シルヴィアの不気味な笑みに不信の念を抱いたものの、腹が減っていたので、そのココの実とやらに、思いきりかぶりついた。―――瞬間。


「―――でも、その実はまだ熟していないから、まだ渋いかも……あと、3ヶ月は待たないと美味しくならないわね」


「てめッ…………ブッ……!!げほ、げほっ……うえぇ、不味……ッ……!!」


「……うふふっ……」


 ココの実を、涙目になって吐き出す優真を見て、ほくそ笑むシルヴィア。
 そんなシルヴィアを睨み付けて、


「お前……なんてモン食わせやがる……!?」


 しかし、シルヴィアはそれを受け流し、呆れたように肩をすくめながら、応じてきた。


「……心外ね。貴方が勝手に食べたんじゃない。私は『食べられる』と言っただけよ?……森の動物たちは、熟す前のココの実だって、普通に食べてるし……」


「俺は、森の動物扱いか!?」


「ふふふっ……ごめんなさい。……確かにお腹が減ってきたわね。付いてきて!私のお家に案内してあげる!」


「あ、ああ……助かる……」


 そう言って、先を歩くシルヴィアの後を、付いていった。




            ※




「ふぅ……食った、食った……」


「……本当にお腹が空いていたのね……じゃあ、魔法の練習を再開するわよ?」


 皿の上の木の実を平らげた優真は、シルヴィアの家でくつろいでいた。
 家の内装は木。
 木、としか言いようがない。
 本当に、寝て起きて、食うだけの場所。
 そんな所だからか、初めて入った異性の家でも、一切、緊張する事はなかった。
 その事を本人に言ったら怒られるだろうけど。
 そしてその時、優真は思ってしまった。


―――ああ、幸せだな……と。


 気長に、気楽に過ごして、気の合う人とお喋りしながら笑い合う。
 そんな生活に、憧れていなかったと言えば嘘になる。
 姐さんと過ごす時間も(ある意味)退屈しなかったが、やはり "それ" とは少し違うのだろう。
 このまま、異世界で……ハーフエルフの彼女と……時にはふざけて、笑って、魔法の練習をして……。
 俺は、こんな平凡で普通の生活がしたかったのだ。
 だから、こんな生活も悪くないと思った。
 そしてこのまま、俺は―――。




―――しかし、そんな夢物語は、『たった一本の矢』によって終わりを告げた。




「………が、はッ……!?」


 ドスッ、と、どこからか飛んできた一本の矢が、シルヴィアの胸に突き刺さった。


「…………?」


 俺は、ただ呆然とシルヴィアを見つめる。
 魔法の練習を再開する為に、シルヴィアは外に出ようとして、そして―――。


「…………」


 何が起きたか分からない。
 一瞬の出来事だった。


「……うぅ、く……ッ……!!」


「……シルヴィア……?」


 本当に一瞬の出来事。
 まばたきしたら、シルヴィアの胸に、矢が突き刺さっていて。


「…………」


「………く、ッ……もう、バレた、か………がは……ッ!!」


 シルヴィアがうめくように、そう言う。
 大量のの血が、シルヴィアの口からこぼれる。


「シルヴィアっ!」


 優真は叫んだ。
 すぐに、近寄って、手当てをしようとする。
 しかし、自分には手当てをする手立てがない。


「……くそっ……!」


「……ユーマ……聞いて、ちょうだい……」


「喋るな!」


「……すぐに、また攻撃が、くる……私は森の掟を、破ったから……」


「……頼むから、黙ってくれ!」


「……くッ……!?……《風の障壁ウィンドウォール》ッ!!」


 シルヴィアが、魔法で風の壁を作る。
 すると、その作った壁に、何本もの矢が突き刺さり、


「……え……」


 俺は、ただ "それ" を見つめる。
 そして、


「……ユーマ!!……がはっがはっ、がはっ!!……っ……今すぐ、逃げて……!!魔法を使えない貴方じゃ、エルフたちには敵わない……!!」


「…………」


「……早く……ッ!!!!」


 血を吐きながら、訴えてくる。
 そして、考える。
 今、自分がすべき事は何か。
 自分に何ができるのか。


―――それは実に無慈悲で、考える必要もないくらい、簡単な答えだった。


「……くそっ……!!」


「…………」


 俺はすぐにシルヴィアの家を出る。
 シルヴィアを置いて。
 走る、走る、走る―――。
 ハーフエルフの少女を置いて、自分は全力で走る。


 そこで、シルヴィアの悲鳴が聞こえた。


 俺を逃がすために魔法を解いて、その影響でシルヴィアに新たな矢が突き刺さったのだろう。


 しかし、優真は振り返らない。


「……くそ……ッ!くそッ!!くそが!!!」


 憎い。憎い。憎い。
 自分が憎くてしょうがない。
 これが最善だった、という事はわかる。
 あそこに残っても、俺には何もできなかっただろう。


 だが、俺がもっと早く魔法を使えていたら?
 俺がこうなる事を、もっと早くに察知していたら?
 そもそも、俺がシルヴィアと親しまなければ?


 シルヴィアは掟を破ったと言っていた。
 恐らく、それは俺だ。
 森にあだなす者を排除するのが、エルフだ。
 人間は森を殺す。
 そんな人間と一緒にいたハーフエルフが……。
 そう、考えるのが妥当だろう。


 そして、間違いなく、標的はシルヴィアだけではない。
 人間である俺も……そう思った、


―――刹那。


 スッと、優真の頬を矢が擦った。
 そこから血が滲んできて、痛みが走る。


「……くッ……!!」


 しかし、優真は止まらない。
 走る、走る、走る。
 そして、少し尖った石を踏み、バランスを崩して、地面に倒れた。


「……痛……ッ……!!」


 地面に膝や肘を擦って、そこから血が出てくるのがわかる。
 シルヴィアに治療してもらった足も、再び血が滲んでくる。


「……くっ……!!」


「……まさか、人間がこの森に迷いこんでいたとは……」


「………ッ………!?」


 透き通った男の声。
 俺は声のした方向を見る。
 すると、森の陰から5人のエルフが、出てきた。
 男が四人。女が一人。


 シルヴィアより長い耳。
 シルヴィアの持つ弓とは比べ物にならないほど大きな弓を持ち……そして、男の一人が、血だらけのシルヴィアを担いでいた。
 シルヴィアの服は少し破けており、胸元や太ももが露になっていた。


「……………ゆ、ま………………は………く…………逃、げ…………」


 ボロボロの状態で、シルヴィアが何かを言っていた。
 恐らく、自分を直ぐに見捨てた、俺への軽蔑や蔑みの言葉だろう。
 ……それとも、嘲笑か?


 そんな事すら、もう、どうでもいい。
 俺は、ここで死ぬ。
 なら最後に自分に出来る事……それは……。


「……すみません、エルフの皆さんにお願いがあるのですが……」


「…………」


 真ん中に立っていたエルフが、こちらを睨み付けてくる。
 しかし、それに構わず口を開く。


「……俺は、この森に迷っただけなんです……シル……彼女は関係ありません。……私の命は差し上げますので、どうか、彼女だけは……」


 そう言って、そのまま土下座をする。
 ……プライドなんかクソ食らえだ!
 そんなモノより、優先するものがある。
 しかし、


「……わからんな……」


「…………?」


「なぜ、人間がこんな……産まれてくる価値もなかった半端者の為に、頭を下げる?」


「………ッ………!!」


「……貴様の言っている事は信じよう。確かに迷ったんだろうな。……魔法も使えない人間ごときが、我々エルフの住む森に来るとは思えない」


「…………」


「貴様だけは帰してやる。……この道を真っ直ぐ行けば、森から出られる。今すぐに立ち去れ!そして、二度とこの森に近づくな!……もし、再びこの森に訪れるようなら、今度は」


「…………取り……消せよ…………」


「……なに?」


「取り消せよ!今の言葉!!」


「…………」


 エルフたちが見下してくる。
 シルヴィアも僅かに驚いたような表情になった。
 馬鹿だな……俺。
 このまま、好き勝手言わせておけば、俺は生きてこの森を出られたのに……
 だが、言わずにはいられなかった。
 シルヴィアに大して言ったから……ではない。
 それもあるが、一番は自分に言われた気がしたからだ。


 あの日、姐さんに助けられて、いろいろ教わって……そんな恩があるにも関わらず、その恩を仇で返しておいて。
 たった一つの事件で、姐さんの心配を無視し、家に引きこもった俺。
 そんな俺に産まれてくる価値があったのだろうか?
 そんな事を、考えた事があった。


 ……つまり、これは八つ当たりだ。
 自業自得なのに、他人に当たって……。
 本物のクズだ。
 そんなクズに、産まれてくる価値があったのか?
 そんなの、答えは分かりきっていて……。


 しかし、はっきりと答えを告げられるのも嫌で。
 俺は、人と関わる事を―――やめた。


 そしてこの世界に来て、気の合う少女と傷の舐め合いをして、自分を肯定してくれたその少女を、見捨てて、この様だ。
 全く、自分は一体、何をやってるのか。


「……取り消せ……だと?」


 だが、後悔はない。
 例えそれが、自分勝手な言い訳でも。
 ……こうなったら、最後までクズでやりきってやる!


「……ああ、そうだよ。親の勝手で産まされた子供に、一体なんの罪がある?……テメェら、そんなに弱い者を蔑んで楽しいか?身分の低い者を馬鹿にして楽しいか?」


「…………」


「良いことを教えてやる。弱い者虐めをする奴ってのはな……自分に自信がない奴なんだよ。……自信がないから、自分より下の者を蔑み、上の者にはペコペコ頭を下げてへつらって」


「……口を慎め」


「お前らの方が、よっぽど負け犬だよ」


「黙れ、ヒューマン!!」


「この……妖精まがいの、耄碌もうろく種族が!!」


「…………」


「…………」


「……まさか、人間はこんなに頭の悪い種族だったのだな……………もういい、やれ」


 男が他のエルフに指示をする。
 俺は恐らく、今から殺される。
 そう、思った。
 しかし……


「…………が、はっ…………!!」


「……な……ッ……!?」


 シルヴィアを担いでいた男が、シルヴィアの胸の真ん中に、ゼロ距離で魔法を放った。
 凄まじい衝撃と、彼女の短い悲鳴。


 担がれていた彼女の腕が、力を失ったように、だらりと垂れ下がる。
 そして、その男はシルヴィアをこちらに投げた。


 俺は彼女を抱える。
 先程とは比べ物にならないほどの血がシルヴィアから流れてくる。
 傷が大きすぎる。病院もないこんな森の中では、間違いなく彼女は死ぬ。
 治癒魔法があれば助かるだろうが、俺は使えない。
 そんなシルヴィアが涙を流し、優真の腕を掴んできて言う。


「……ゆ、ま……ごめ……ね……?……あな……た、を……巻、き込んで……」


「……喋るな!」


「ゆーま……」


「黙れ!」


「……ユーマ。聞いてちょうだい」


「黙れって!!」


 その間も、シルヴィアの血が流れて出てくる。


「頼むから……喋らないでくれ……」


 だが、シルヴィアは続ける。微笑みながら、淡々と……


「……今まで、私……一人、だったの……何年も……何十年も……」


「…………頼むよ……」


「……ハーフエルフってだけで……他のエルフたちに蔑まれて……でも、人間が……私に生きる勇気をくれたの……その男の人が言っていたわ……『人間万事塞翁が馬』……って……」


「……く……ッ……!!」


 人間万事塞翁が馬。
 その言葉は、姐さんが好きだった言葉だ。
 まさか、この言葉が好きな人間に、シルヴィアが会っていたとは。
 だが、そんな事はどうでもいい。
 どうにかして、血を……。
 しかし、シルヴィアは続ける。


「……今は辛くても……必死に生きていれば……必ず幸せが……がはっ……!!」


「……わかった。わかったから!!……もう、喋らないでくれ……っ!!」


「……今日……一日だけ、だったけど……楽し、かったよ……?……貴方と、会えて……本当に……」


「…………」


「……その人の言う通りだった……初めて……生きてて良かった、って……思えた……の……」


「……これからも、まだ生きるんだ!」


「……そう、だね……貴方とずっと……生きていきたかった、な……でも、ごめんね……それは、無理かもしれない……最後は……笑ってバイバイしよ……?……だから、さ……泣かないでよ……」


 シルヴィアはそう言って、震える指先で、俺の涙を拭う。
 ……しかし、俺は頷けなかった……
 シルヴィアの最初で最後のお願いを……


「……………」


 しかし、シルヴィアは気にしてなさそうに微笑みながら、


「……ゆうま……私を……普通の女の子として接してくれて……ありがとう……」


 そこで、シルヴィアの声が止まった。
 身体中の力を無くして、ぐったりと優真の腕の中で横たわって…………


「…………」


「……シルヴィア?」


「…………」


「シルヴィア……ッ!!」


「…………」


「シルヴィア!!」


「…………」


「……シル、ヴィ……ッ……!!」


「…………」


 必死に呼び掛ける。
 だが、返事はなかった。
 彼女は死んだ。あっさりと。


「…………あ、あ……ア"ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 体が震える。
 涙が溢れて、止まらない。
 止めようと思っても、次から次へと流れてくる。


 優真の胸の中で、怒りが、憎しみが、憎悪が、悲しみが膨れ上がっていくのが分かる。
 そして、決して出てきてはならない感情が、優真の心の底から這い上がってくるような感じがした。


 殺したい。
 壊したい。
 潰したい。


 思考が、強烈な破壊衝動で埋め尽くされていくのがわかる。
 そして、優真は思ってしまったのだ。


 いっそ、この破壊衝動を受け入れ、全てを捨て、人生から逃げてしまったほうが楽なのではないか。
 誇りや人間性を捨て、目の前の奴等を皆殺しにすれば、どれだけ気持ちいいか。
 そんな事を思ってしまう。


 しかし、この欲望に負けたら、絶対にシルヴィアは悲しむ。
 そんな事は分かっている。分かっていはるが……友人を殺されて黙っている事なんて、俺には出来なかった。




―――また・・俺は・・……ッ!!




「……貴様もだ……ヒューマン。……ここで、死ね……」


 男がそう言うと、その隣に立つ、背の高いエルフが、こちらに矢を向ける。
 そして、真ん中の男が言ってくる。


「……せめてもの情けだ。その半端者と同じ所で、眠らせてやる……言い残した事はあるか?ヒューマン」


「……………………地獄に堕ちろ…………」


「……フン。……やれ」


 その合図と共に、大がらなエルフが矢を放ってきた。
 それは、シルヴィアの矢とはスピードが段違いで……俺の知る普通の人間ではかわす事はおろか、反応する事も出来ないだろう。
 そんなスピードの矢が、真っ直ぐ、優真の心臓を目掛けて飛んできた。


―――しかし、その矢は優真の心臓に命中する、ギリギリで止まっていた。


「…………」


「「「 …………なにっ!?………… 」」」


 エルフたちが、同時に驚いたように声を上げる。
 エルフたちが、見たその光景は、優真が矢を素手で掴んでいる様子だった。
 そして、優真は掴んでいる矢を、バキッ……とへし折って、そのまま立ち上がる。


「…………」


「……くっ、その人間を殺せ!!」


 真ん中の男が指示を出す。
 そして、残りの四人が弓を構え、一斉に矢を放つ。
 しかし優真は、自分に飛んでくるそれらの矢を、少し横にずれるだけで全て躱した。


 そして、大がらな男を見る。
 シルヴィアを殺した、その男


 優真は一歩前に出る。
 二歩。
 三歩、でその姿が消えた。
 そして次の瞬間、


「…………」


 大がらな男の、首が消えていた。
 そして、首があった場所からは大量の血が吹き出してくる。
 ……そして、数秒後、ばたっと男が倒れた。


「「「 …………ッ…………!!? 」」」


 そこで、ようやく理解したようだ。
 仲間が一人死んだ、と。


 エルフたちが、優真を探す。


「……ど、どこへ……」


 そう言って振り返ると、先ほど死んだ男の首を片手に、森に佇む、男の姿があった。


「お、お前は・・・……誰だ・・……?」


 真ん中のエルフが訊ねてくる。
 残りの3人も、ワケが分からないと言った様子だ。


 そこに佇む男は、髪の根元から毛先まで真っ白に染まり……。
 エルフほどではないにしても、人間とは思えない、長い耳……。
 牙のように尖った二本の歯が、唇に突き立って……。
 瞳は鮮血を連想させるように真っ赤に染まって、眼球から放たれる殺意の光が、エルフたちを貫いた。


「……ふ、ふ、ふ……フハハハハハハハハハハハ………ッ!!」


 怪しく笑う優真。
 そんな変わり果てた優真を、震えながら指差して、


「……な、な、な……なんで、こんな所に…………」


「……ハハッ、ハハハ……」


「……なんで、最強の種族である、あの吸血鬼ヴァンパイアがここにいるんだ………ッ!!?」


 優真は男の首を投げ捨て、他のエルフを見据える。
 一番横にいた、女のエルフ。


 そして、再び優真の姿が消えると、その、女のエルフの姿も、一瞬にして消えた。


「…………」


 そして、優真はその女の首に、自分の牙を突き立てて、血を吸い始めた。
 そして、数秒後。
 その女も地面に捨てる。
 そして、地面に倒れたエルフは二度と動く事はなかった。


 そして、それを見た瞬間、真ん中のエルフではない、二人の男が、悲鳴を上げながら逃げて行く。
 それを優真はぼんやりと見つめ、ポケットに手を突っ込んだ。
 そして、取り出した物はたった二個の "ココの実" だった。


 非常食として何個か持ち歩いていたが、結局、まだ熟していなかったそうで……渋くてとても食える物ではなく、涙目で吐き出したらシルヴィアに笑われた。……あの、"ココの実" 。


 それをしばらく見つめ、そして、その実を……逃げるエルフ達を目掛けて、投げつける。
 優真が放ったココの実は、一瞬にしてマッハの速度を超え、そして、エルフ達に命中した。
 まるで、大砲か何かのような爆音と共に、二人のエルフが最期を迎えた。


 そして、一瞬で四人の仲間を殺されたエルフが、腰を抜かしてこちらを見上げ、怯える声音で言ってきた。


「……わ、悪かった!お前……あ、貴方があの吸血鬼ヴァンパイアだという事は知らなくて……」


「…………」


「俺……わ、私には子供がいて……お願いします……血なら差し上げます……どうか、命だけは……!!」


「………ふっ、ふっ、ふっ……フ、フハハハハハハハッ!!!」


「…………?」


 いきなり笑いだした優真を、怪訝そうに見上げるが、その刹那。
 優真の右手に、血のような真っ赤な炎が表れる。


「……ッ……!!?」


 エルフは殺される、そう思った。
 しかし、優真はエルフではなく、空へ手を掲げ、上空へと炎を放ったのだ。
 何をしているのか分からないエルフが、その炎が飛んでいった空を見上げる。
 すると、上空で炎が弾け、四方八方へと分散し……そして、その瞬間。


 爆音と共に、森が燃え始めた。


「……な……ッ!!?……や、止め……ッ!!」


 しかし、そんなエルフは無視して、両手に炎を出し、所構わず焼き尽くす。


「ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………ッッッッ!!!!!」


 木や葉に炎が燃え移り、森林だったその場所はどんどん煉獄へと移り変わって行く。


「…………そ、それ以上は……頼む!!止めてくれえッ!!!」


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………」


「……くっ、こうなったら……ッ!!
……森にあまねく精霊たちよ……我に力を……ッ!!」


「ハハハハハハハハハハハハ―――」


「《サイクロン・ブラスト》ッッッ!!!」


 エルフが放った上級魔法が、優真を包み込む。
 その魔法は優真だけに留まらず、森の木々をも凪ぎ払って行く。


「……許してくれ……だが、これしか方法がないんだ!!」


 森をまもるため、全身全霊をかけた究極の爆風魔法。
 そして、エルフの魔力が底をつき、爆風が消えてゆく。


「……ぅく……吸血鬼ヴァンパイアから、森を護ったぞ!!……お前たちの死は無駄では…………」


 エルフが死んだ仲間へと、そう言おうと思った瞬間。
 爆風が完全に消え、跡形も無くなっていたと思った男の姿が、まだ "そこ" に健在していた。
 それを見たエルフは、声まで震わせて、


「……冗談…………だろ…………!?こっちは、全魔力を使って、風の魔法最強の《サイクロン・ブラスト》を放ったんだぞ!?……そ、それなのに……掠り傷一つも…………こ、これが……吸血鬼ヴァンパイアの力……なのか!!?」


 そして優真といえば、今の魔法で、エルフの存在を思い出したかのように、真っ赤な瞳でこちらを眺めていた。
 そして、ゆっくりと近づいてくる。
 一歩。一歩。一歩……。


 そして、エルフの目の前まで来て、立ち止まった。
 エルフの胸ぐらを掴み上げ、エルフの心臓を目掛けて魔法を放とうとした、瞬間。
 辺りがまばゆい光に包まれて、燃え続けていた炎が、次々と消えてゆく。


「……こ、これは……!?」


「…………」


「……ふぅ、どうやら間に合ったようだな……」


 透き通った声が、優真の背後から聞こえた。
 優真は掴んでいたエルフを捨て、振り返る。
 金髪の長い髪に、白い服を纏った人間。
 その男は、ヴァンパイアを前にしても、一切怯える事なく、佇んでいた。


「……に、人間だと……!!?」


「無事か?……君たちエルフの森に、勝手に足を踏み入れてすまない。今は緊急事態だからな。許して貰うぞ?」


「……そ、その服、人間の貴族、なのか……??」


「ははっ、そんな事は今はいいだろう?……早く他の仲間の無事を確かめてくるといい。炎は完全に鎮火したが、一応な……」


「……誰だか知らないが……俺を……なにより、森を救っていただき、感謝する」


 そう言って、立ち去るエルフ。
 それを笑顔で見送り、そして、今度は優真を見据え、


「……何があったのかは知らないが……君も少しやり過ぎだ。優真くん?」


「……ハハハハッ……」


「……はぁ、やはり駄目か……完全に "力" に呑まれている……。まったく、とんだ化け物を送り込んでくれたものだ……」


「……ハハハッ…………」


「ふっ……懐かしいな、この気迫……まるで、あの男・・・を前にしているかのようだ」


 その時、優真は新しい獲物を見つけたとでも言わんばかりに、笑いながら、金髪の男へと駆け出した。
 優真の姿が消え、そして、金髪の男の首へと手を伸ばした瞬間、優真の手は簡単に掴まれ……。


「悪いが……君には少し、眠っていて貰うぞ……?」


 そして、優真の腹部へ、何かの魔法を放った。


「…………が―――があぁぁあああああッ!!?」


 そして、髪や目の色、牙が元通りに戻って、地面に倒れる。
 そして、男が少し離れた所に、血を流して倒れている少女を見つける。
 その少女は、すでに息絶えている事がすぐにわかった。


「……金髪のハーフエルフ……シルヴィア、か……あの男から話は聞いた事があったが……なるほど、そういう事だったのか……」


 そして、男は指をパチンと一回鳴らす。
 すると、焼けた森を光が包み……一瞬で、元通りの森に戻った。
 そして、地面に突っ伏している優真を見下ろし、


「……確かに、の言う通り、素質はあるかもしれんな……」


 そして、男は優真とシルヴィアを抱えて、光と共に姿を消した。



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