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勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*少女の正体*



「(……一体どこまで歩くんだ?気づかれたら何て言い訳するかな……)」


 そんな事を考え、マジで動かなくなってきた足を引きずりながら、20メートルほど離れた所から、必死に着いていく。
 少女の方と言えば、こちらに気づく気配もなく、スタスタと森の中を進んでいる。


「(……まあ、気づくワケ、ねえよな……)」


 優真は今まで、誰かの後を尾行した経験などなかった。


―――いや、当然だろ?


 俺は日本で生まれて日本で育った、平和ボケした高校2年生だぞ?


 この年で誰かの尾行をする経験があったら、それこそ、『どんな生活してんだよ』っつー話じゃねーか。


 しかし、なぜか俺は『こういう事』に慣れているかのように、一切音を立てずに歩けている。
 スパイ映画とかに出てくるハリウッドスターも驚きの尾行術だ。


 そして、おかしいのはそれだけではない。


 さっきから思っていたが、あの異様な視力や運動神経はなんなのだろうか。
 別に優真は目が悪い訳ではない。それに、体力テストでもかなり良い成績だった。
 しかしそれを踏まえても、流石にこれは異常だろう。




―――まるで、自分ではない誰かの力が、自分の力になったかのようだ………。




 ……まさかな。


「(……はぁ~あ……にしても、あんまり良い気はしねえなぁ……知り合いでもない女の後をずっと付け回す男って、どうなんだよ……)」


 ……まあ、知り合いであれば付け回してもいい、というわけでもないんだが。




 すると、前を歩く少女が、急に立ち止まった。
 すると、その少女がため息をついて、静かに振り返り……


「……さっきから、私の後をつけているようだけど……何か用かしら?」


 などと、とても透き通った綺麗な声……しかし、少しイライラしたような声音で、こちらに問いかけて…………って!?


「(……………ッ!!!?!?)」


 ……え?バレた……?
 なんで……?
 尾行は完璧だっただろ……!?


「…………」


 ……いや、落ち着け。
 これは『つけられているかも……?』という時に使う、暗示かもしれない。
 このまま大人しく出ていったら、それこそ相手の思う壺……って、どっちにしろ怪しまれてんじゃねーか!!




―――絶体絶命。
 ……こういう状況の時に使う言葉なんだな~。




 ……なんて、呑気に悟ってる場合じゃねえ!!
 マジで、どうすんだ!?この状況!!


 ……逃げるか……?
 いや、この足じゃ無理だ。


 あー、クソッ!!
 こんなことなら、尾行なんてするんじゃなかった!!


 湖の件は見なかった事にして、さりげなく声かければ良かったんだよ!!


 この年で警察沙汰は、マジで勘弁してくれ!!


「(……絶対にねえさんに笑われる……ッ!!)」


 そんな事を考えて、悶々としていると……


「……そんなに……そんなに私が醜いの……?」


「(………ん?)」


 いきなり、少女が暗い顔で俯きながら、何か言ってきた。
 ……醜い……?なんの事だ?


「……殺したいのなら、いつものように、早く攻撃してきなさいよ!」


 などと、大声で……って、


「(……いきなり、なに言ってんだ?……殺す?誰が?……誰を?)」


 さっぱり、状況が飲み込めないんだけど?
 俺をあぶり出す為の演技か……?
 いや、それにしてはリアルというか……。


 話の展開についていけず、取り敢えず黙っている。
 すると、ギシギシと何かを引っ張るような音が、少女の方から聞こえ、


「……何を企んでいるのか知らないけれど……出て来ないのなら此方こちらからいくわよ」


 少女がそう言った瞬間、俺の頬をスパッと何かが擦った。
 すると、ヒリヒリと頬が痛み始め、手で触れてみると……


「……な……っ!?……血、だと……!?」


 優真は、頬を擦った物が飛んでいった方向を見て、思わずゾッとした。
 優真の頬を擦ったそれは、木の幹に突き刺さった、一本の矢……。


「~~~っ~~~!?!?!?」


 その瞬間、冷や汗が身体中から流れてきて、声にならない悲鳴を上げる。
 少女は、たらなかった、という事を気配で感じたのか、矢をつがえて、こちらを目掛けてもう一本の矢を放とうとしたところで―――


「……ちょっ……ま、待ってくれ!!……わ、わかった。わかったから!!」


 両手を頭の位置まで上げ、慌てて木の影から出て行った。
 すると、こちらに矢尻を向けた金髪の少女が、何故か驚いたように、


「…………え?え?……人間!?な、なんでこんな所に人間が……?」


「………?」


 何に驚いているのか分からないが、取り敢えず、黙る。
 まだ、矢尻はこちらを向いている為、余計な事を口走れば、冗談抜きで殺される可能性がある。


「…………」


「…………?」


 俺が黙っていると、少女が、何故か無言で俺の顔を見つめてくる。


 ……なんだ、この状況!?
 すげぇ、気不味いんだけど……!!


 しばらく見つめられた後、ようやく弓を下ろして、少女が尋問してくる。


「貴方……本当に人間……よね?」


「………?まあ、一応?」


 どんな尋問だよ!!
 あなた人間ですか?って、そんなの見りゃわかんだろ!!
 つーか、あんたも人間だろうが……!!


「……じゃあ、どうやってこの森に入ったの?」


「……どうやって、って……んー……」


「答えて!!」


「……!?」


 どう答えようか悩んでいたら、いきなり怒鳴られた。
 俺は慌てて、質問に答える。


「……え、えーと、普通に寝て……目が覚めたらこの森に―――」


「…………」


 優真が正直にそう言うと、少女は無言で弓を構え直し……


「……ほ、本当だっての!俺にもさっぱり分からないんだよ!!」


 優真が激しく釈明すると、少女が呆れたように弓を下ろす。


「…………まあ、いいわ。……で、人間が私に何の用?見たところ、まだ "子供" のようだけれど……」


「へ、へぇ……子供、ね……実は俺、こう見えて17歳……なんだけど?」


 引きつった笑みを浮かべて、そう説明してやる。
 先程の傷が痛いが、そんなの知ったことか。


 そして優真の言葉に、少女が一言。


「……やっぱり、子供じゃない」


「いや、そうだけど!確かにまだ、未成年だけど!!」


「……どうでもいいわよ、そんなこと……」


「あんたが言ってきたんだろうが!!」


 体力の限界を迎えている状態でのツッコミに、はぁはぁ、と息を切らす俺。
 まったく……俺は一体、何やってんだか。
 漫才やるために出てきたんじゃねーぞ?
 そもそも、俺とこいつの歳なんて、たいして変わんねぇだろうが。
 見た目は俺と同じか少し上か……。


 その時、少女といえば、「この人、どうして息を切らしているんだろう?」みたいな事を考えているのか、顎に手をあてて、首を傾げていた。
 そして、話が脱線している事に今さら気づいたのか、こちらを睨みつけ、再び糾明きゅうめいしてくる。


「わ、私が聞きたいのは、貴方がどうして私の後をつけたのかって事で……」


 ……まあ、当然の疑問だ。
 なにせ、自分は知らない男に後をつけられていたのだから。
 逆の立場なら、俺だって問いただしているだろう。
 だから、優真は正直に答える事にした。


「……えーと、だな……何から話そうか……」


「…………」


「まず、俺はこの森に、自分の意思で入ったわけじゃない。……さっきも言ったが、目が覚めたら、ここにいたんだ。信じられないかもしれないが……まあ、取り敢えず信じてくれ。じゃなきゃ、話が進まない」


 それに、少女がこくりと頷いた。
 それを確認し、優真は続ける。


「……目が覚めたのは昨日の夜。夜中だ。……いきなり知らない森の中に自分がいて、正直、かなり戸惑った。……今すぐに森を出ようとはしたが、暗くて周りが見えなくてな……しょうがないから、朝まで待って、朝から歩き続けたんだが、中々出られなくてな……」


「…………」


「途方に暮れて、森の中を彷徨さまよっていたら、目の前に湖があってな……そして、その湖であんたを見つけて―――」


「……え?ちょっ、ちょっと待って!」


「………ん?」


 なんだ?
 いきなり、話を中断されたんだが。
 何かおかしな箇所でもあったのか?
 そんな事が脳裏を過る。が、いきなり少女がわなわなと震えだし……


「あ、貴方、もしかして、湖から私を……?」


「あ、ああ……そうだけど……?…………あっ」


 それがどうした?と、訊ねようとした瞬間。
 自分が墓穴を掘ってしまっていた、という事に今さら気づき、慌てて今の言葉を取り消そうとするが、時すでに遅し……


「……え? って事は、もしかして……わ、私の、裸を……?」


「……い、いやいや……裸?一体、何の事だよ!?」


「~~~っ~~~!!」


―――刹那。
 少女は涙目で弓を構えてきた。


「……ッ……!!?」


 ……ヤバい。
 今度こそ、本気で殺る気だ。
 優真はすぐに、弁解をし始める。


「ご、誤解だ!!俺はただ、水分補給をしていて……」


 しかし、優真の言葉を遮って、


「嘘よっ!……貴方、私の裸を見たんでしょ!?……最っ低!!確かにあの時、誰かの視線を感じた気がしたのよ!! 尾行だけでなく、覗きまで……ッ!!」


 そう怒鳴りながら、今度こそ、問答無用で矢を放って来る。
 放たれた矢は、優真の顔面へと真っ直ぐ飛んできた。
 そして、その矢が、優真の目に突き刺さろうとした瞬間。
 ギリギリで、それをかわす。


「……お、おい!危ねーだろ!! 今、目に入りそうだったぞ!?」


「……今度こそ外さないわよ……大人しくなさい!!」


「ふざけんな!!てめ、俺を殺す気か!?」


「死ねぇぇぇッ!!!!」




―――10分後。




「……そうだったの。森から出る為に、ね……」


「…………」


 あれから彼女の誤解を解き、なんとか事情を飲み込んでくれたようだ。
 しかし、事情を理解してくれたのはいいが、まだ優真に対する彼女の対応が、少しばかり冷たい。
 まあ、不可抗力とはいえ、覗いた事実がなくなる訳じゃないから、仕方ないと言えば、仕方ないワケで……。
 それを理解した上で、彼女に訊ねてみる。


「……あんたは、この森の出方を知ってるんだよな?」


 それに、少女が顔をしかめて応じてくる。


「貴方……さっきから思っていたのだけれど……その、『あんた』っていうの、やめてくれないかしら?」


「……あ?じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」


「……え?……わ、私は…………シルヴィアよ」


「……シルヴィア?……シルヴィア、ね……」


「……わ、私も名乗ったんだから、早く貴方も名乗りなさいよ……!!」


「……お、おう。そうだな。俺は優真だ。才条優真」


「……サ、サイジョー……ユーマ?……えーと、変わった名前ね」


「そうか?別に普通だと思うけど……」


「……そう、なのかしら」


「あのさ、シルヴィアって……もしかして、日本の人じゃないのか?外国の人……だよな?」


「……え?……ニ、ニホン……?ガイコク?……えーと……」


 少し戸惑うように、目を泳がせる。


 別に、わざわざ質問しなくても、大体の見当はついていた。


 シルヴィア、と言う名前。
 その煌びやかに輝く金色の髪に、透き通った青い瞳。
 色白の肌や、日本中の女子が欲しがる完璧なスタイル。


 まあ、それだけを見ても、間違いなく純粋な日本人ではないだろう。


 その割には、日本語で普通に会話出来ている事から、留学生か……あるいは、親が別々の国の……


「……もしかしてシルヴィアは……ハーフ、だったりするのか?」


「………ッ!!!??」


 優真が何気なく聞いた一言に、シルヴィアは、動揺や戸惑い、恐怖などの様々な感情が入り交じったような表情になり、まるで『親に怒られている子供』のように縮こまって、肩を震わせながら俯いた。
 その様子を見た優真が、


「……な、なんだよ……どうかしたか……?」


「……ユーマも……貴方もやっぱり、そう、なのね……」


「………は?」


 シルヴィアが俯きながら、何かを呟いている。
 優真が聞き返すと、目元に涙を浮かべながら、此方を睨み付けて喚き叫んできた。


「……ユーマなら!貴方だったら、私を……私を "そんな風に思わない" って……一人の女の子として扱ってくれる、って思っていたのに……やっぱり貴方も、『そう』なのね……!?」


「おい!ちょっと待て!!……一体、何の話だ!?……もしかして俺が、『ハーフ』って言ったこと……それに怒っているのか!?……だったら、謝る!! お前の事情も知らず、身内の詮索をした俺が悪かった!!」


 そう言って、素直に頭を下げる。
 シルヴィアはそんな優真を見て、ハッと何かに気づいたのか、慌てて弁明してきた。


「……い、いえ……ユーマは悪くないわ……ごめんなさい。……悪いのは、この世に生まれてきた私なのだから……」


 などと、再び訳のわからない事を言ってくるシルヴィアに、とうとう頭にきた優真が、呆れたようにシルヴィアを睨み付け、


「……お前、馬鹿じゃねえの!?」


「…………え?」


 優真の口から出たいきなりの罵倒に、シルヴィアは目を丸くして見上げてきた。
 しかし、優真は無視して続ける。


「……さっきからワケのわかんねぇ事を次から次へとペラペラ、ペラペラ……お前は馬鹿なのか?『俺ならそんな風に思わない?』何の事だよ!?出会ってたった数十分の俺を、どんな目で見てんのかは知らねえが、俺はそんな大層な人間じゃねえ!!」


「…………」


「……お前が俺に何を求めてんのかも知らねーし、俺はお前じゃねぇんだ!……お前が今、何を考えて、何を抱えてんのかも、俺にはわかんねぇ!……だが、相談くらいなら聞いてやる。……だから……言えよ。お前の口で」


「…………」


「……一体、お前は何を抱えていて、何に怯えているんだ?」


「…………」


「…………」


 俯きながら、黙るシルヴィア。
 俺はそんなシルヴィアを見つめながら、考える。


「(……ったく、なに偉そうに語ってんだよ、柄にもねぇ……。 だいたい、俺は人様に何かを言えるほど、出来た人間じゃねぇだろ。それにいつもの俺なら、『知るか。だから何だよ』で終わりじゃねぇか。なんで俺は、こんな事をシルヴィアに言ったんだ?)」


 しかし、考えても答えが出て来なかった。
 俺には、シルヴィアが抱えている『何か』を、一緒に抱えてやる覚悟もないし、怯えているシルヴィアに掛けてやる言葉もない。
 だが、何故か。俺は言わずにはいられなかったのだ。


 姐さんは、今の俺を見たら、男らしいと褒めてくれるだろうか。
 それとも、お前には似合わないと笑い出すだろうか。


 恐らくは両方だろう。


 しかし、俺がシルヴィアの立場にいて、俺の立場に姐さんがいたら、間違いなく似たような事を俺に言うだろう。
 ……まさか、俺は姐さんの真似がしたかったってのか?
 いや、そんなワケねえか……。


―――優真がそこまで考えたところで、ようやくシルヴィアが顔を上げ、口を開いた。


「……貴方に……ユーマに聞いて貰いたい事があるの……」


「………ああ。言ってみろ」


「……私ね……その……実は……貴方の言う通り、ハーフなのよ」


「そうか。……で?」


「い、いや!だから!……私は、ハーフなのっ!!」


「あっそう。……ハーフね。……それで?」


「だ、だからっ!!私はハーフなんだってば!!」


「だからなんだよ!!?」


 全く会話が噛み合わない。
 ハーフ?それがどうした?
 今どき、混血児なんて珍しくもなんともねーだろうが。
 俺が通っていた学校にも、何人かいたんだぞ!?


 それに、こんなにハーフハーフ言われると、自慢されているようにしか思えない。
 一体、なにが言いたいんだ、こいつは!




―――しかし、次にシルヴィア放った一言で、優真は言葉を失った。




「……私はハーフエルフ・・・・・・。……父親が人間で、母親がエルフの混血児よ」





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