勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*魔法*



―――こんな事を、一度は考えた事があるんじゃないか?


 幽霊や化け物。宇宙人などの地球外生命体。
 ……それらは本当に、この世界に実在するのかどうかを……。


 もちろん俺はオカルト系の専門家じゃない。
 だから、"彼ら" の存在に関して、明確な理由や具体的な根拠などはない。
 そして、俺のような素人だけでなく、そんな専門家でさえ証明する手立てがないのも、また事実。


 だから、それらの存在について、信じていない人間も多いのではないか?


 ……科学的に証明できない。
 ……そんなのがいるのは漫画だけ。
 ……自分が見たことが無いからいないだろう。


 確かに、その考え方もわからないわけではない。
 しかし、以前はオカルトとしてしか語られなかった宇宙人も科学が進歩するに連れて、現実的な存在になりつつある。


 つまり、これまで『いない』と思われていたあの宇宙人の存在が、『いる』という考え方に変わって来ているという事だ。


―――だから、あえて言わせて貰う!


 人間が認知していない存在が、絶対にこの世界に『いない』と断言できるのだろうか?


 今の人間の技術で証明できない存在を、大した根拠も無いくせに否定してもよいのだろうか?


―――俺は、その考え方は間違いだと思う。


 『いる』と証明されてないから、存在するわけがないと考えている奴、出てこい!
 一発ぶん殴って、無理矢理考え方を変えさせてやる!!




 ………………失礼。




 ……まあ、確かにその通りだ。
 存在が証明されていない者の存在をいきなり信じろと言われて、「はい、わかりました」などと答えるピュアな人間は、そうそういないだろう。


 ならば、考え方を変えたらどうだ?


 この世界に、幽霊や化け物。宇宙人などの地球外生命体の存在について……逆に、『いない』と証明した人間はいるのだろうか?
 ……いないだろう?


 なら、存在する可能性は極めて高いのではないか?
 ……人間が世界の全てを掌握しているのならば話は別だが。


 街ですれ違った人間が、実は宇宙人かもしれない。
 同じ家で暮らしている家族が、実は幽霊かもしれない。


 それらの存在は我々のすぐ近くに存在しているが、我々がそれらの存在に気づいていないだけ。


 ……そう考えれば、表舞台に出て来ないからといって、存在の否定には繋がらないだろう?






―――俺は、本気でそう思っていた。


 ………ほんの数秒前までは。






 人間は……アレだ。


 普段は現実では起こらないようなものを信じていたりしても……実際に現実で起きてしまえば、手のひらを返したように態度が急変する。


 分かりやすく言えば、「お化けなんて怖くねぇし!出てきても俺がぶん殴ってやる!!」とかなんとか言っているお馬鹿さんが、実際にお化けに遭遇したら、腰を抜かして、あまりの恐怖に戦慄を覚えるだろう?


―――そして、それは今の俺の心情でもあるわけで……。


 数秒前の、彼女の告白。




“……私はハーフエルフ。……父親が人間で、母親がエルフの混血児よ”




 その時は、何を言っているのかよくわからず、冗談だろうと思っていた。
 しかし、俺は見てしまったのだ。


 どう見ても作り物ではない、彼女の長い耳を。


 俺が思い描いていたエルフとは、少し耳が短くはあったのだが、しかし、どう見ても彼女の耳は人間の "それ" ではなかった。


 そしてシルヴィアが本当にハーフエルフだというならば、今までの出来事の、全ての辻褄が合う。
 彼女の言動や一人で森にいる理由。それに、先ほど彼女が使った弓。


 笑える程に辻褄が合った瞬間、俺は思った。




―――なんで、いるんだ……?




 先ほどまで、『この世にUMA (優真じゃねえぞ?) は存在するか否か』を語っておいてなんだが、まさか本当に存在したとは……。
 世紀の大発見!!
 ……なんてレベルの話じゃねーぞ、コレ!!




 俺が漫画とかによくある……異世界転移(?)とやらに巻き込まれたというなら、ここは俺の知る地球ではない、という事だ。
 にわかに信じがたいが、今、目の前に、信じがたい存在が現実として存在しているわけで……。


 別に俺は、異世界に来たかった訳ではない。


 漫画の主人公のような、引きこもりのぼっち
(略して: ひきぼっち)が、「俺が生まれるべき世界はここではなく、剣や魔法のある異世界だったんだ!」などと、アホ垂れ流しの妄想をしていた訳でも、決してない!


 何度も言うが、俺は平凡な暮らしがしたかっただけなのだ。
 姐さんの脛をかじり、カップ麺をすすりながらネットゲームに打ち込む。
 それで十分だったのだ。


 ……別に俺じゃなくても、本気で異世界に来たかった妄想オタクはゴミほどいたハズだ。




 ……それなのに、それなのに……っ!!
 よりによって、どうして俺が!!?






 ……これはもう、夢だと現実逃避して……俺は……






「―――ちょっと!貴方、聞いてるの!?」


 いきなり怒声を上げたハーフエルフの少女、シルヴィア。
 彼女は人間にはない長い耳をも真っ赤にし、俺の胸ぐらを掴み上げ……なにやらお怒りのご様子だ。
 そんなシルヴィアを、俺は半眼で見つめ、


「……なんだよ。俺は今から目を覚ますから、お前とはここでお別れ―――」


「なにワケの分からない事を言っているの!?」


 シルヴィアが遮って言ってくる。
 そして、俺の胸ぐらから手が離れたのを確認し、一呼吸入れてから口を開いた。


「…………で、なんの話だっけ?」


「あ・な・た・が!!私の相談に乗ってくれるって言ったんでしょう!?」


「………………は?」


「どうしてそこで首を傾げて、『この人、なに言ってんだろう?』みたいな目で私を見てくるのよ!?」


「……あ、あはは……そういえば、そんな事言ったかもな……」


「……本気で忘れてたの?冗談でしょ!?……ほんの数十秒前の話なんだけど!?」


 ……その数十秒間で、俺の理解と常識がぶっ飛んだんだよ!!
 これはマジで認めるしかねぇのか……。


「……悪い、悪い。……あまりに信じがたい事実を知って、少しおかしくなっていただけだ。もう問題ない。全て吹っ切れた。こうなったら、いっそ全てを受け入れてやる!」


「……ユーマの気色悪いテンションに、さすがの私も正直ドン引きよ……」


「まあ、そう言うなよ。……で、ハーフエルフってのは他のエルフ達に迫害されてんだよな?」


「……ええ。でも、やっぱり人間であるユーマも私がハーフエルフだった、なんて知ったら驚くのね……」


 シルヴィアが俯きながら呟く。
 俺が驚いたのはエルフが存在したという事実であり、シルヴィアの血縁関係ではない。
 しかし、それをわざわざ説明してやるのも面倒なので、適当に頷いておく。


「……それで、『人間である』って言っていたが、人間には何かされなかったのか?」


「え、えーと、私は今まで一人しか会ったことなかったから……」


「あっそう」


「その人は優しくてね。こんな半端者の私にも手を伸ばしてくれたの……それ以来、他のエルフ達と違って、人間なら、もしかして私の事も受け入れてくれるのかな、と思っていたんだけど……」


「……馬鹿かお前は」


「なんですって!?」


「世間知らずなハーフエルフ様に、良い事を教えてやる」


「…………?」


「お前が会ったっていう奴は例外かもしれないが……人間、ってのはな……この世に存在する有りとあらゆる生物の中で、一番腐った生き物なんだよ。お前がエルフ達からどんな扱い受けてんのか知らねーが……普通の人間なら、もっと下衆な事してくると思うぞ?」


「……た、例えば……?」


「例えば?……そうだな。例えば……」


「…………」


「お前の身体をバッサリ切って、中からズルズル引っ張り出したモノをいじくり回したり、エルフのDNAを調べて、お前の分身を―――」


「も、もうやめてぇ!!そんな奇怪な話、聞きたくなかったよぉ……!!」


 涙目で言ってくるシルヴィアに苦笑しながら、しかし真面目な顔で忠告する。


「……まあ、そんな事されたくなければ、人間なんかとは絶対に関わるな」


「……貴方も、人間じゃない」


「…………」


「…………?」


「…………俺を……あんな奴等と一緒にするな」


「―――ッ!?…………ご、ごめんなさい……」


 俺の声が低くなったのを敏感に感じ取ったのか、俺に謝罪してくるシルヴィア。
 それに、同族から迫害されているシルヴィアにも、思うところがあったのかもしれない。
 俺は「なんでもねぇよ」と言い、話を本題へと切り替える。


「……で、俺はどう行けばこの森から出られるんだ?……何時間も裸足で歩いて、正直、限界なんだが……」


 その言葉に、俺の足を見たシルヴィアが、急に慌て出し……


「あ、貴方……血が出てるじゃない!!……怪我していたなら早く言いなさいよ!!」


「……はぁ?言ってどうする?……こんな森の中に救急箱でもあるってのか!?」


「……そんなの必要ないわよ」


「……は?」


 そう言って、俺の足に手をかざす。
 すると、いきなり光だし、みるみると傷口が塞がっていった。
 ……これって、もしかして。


「ふぅ……終わったわよ?」


「魔法、なのか……これ……?」


「……? ……ええ、そうよ。回復魔法の一種なんだけど、これはその中でも最も下位の……」


「す、すげぇ……」


 いまさら魔法が出てきてもそこまで驚く気はしないが、初めて見た俺としては驚きを隠せる訳もなく……


「……俺も……魔法使えるのか?」


「え?貴方、魔法使えないの?」


「……ああ、そうだよ……」


「……え?一つも?」


「だから、そうだって言ってんだろうが!」


「……プッ、アハハハハハハハハハハッ……」


「…………」


 いきなり腹を抱えながら、笑い出すシルヴィア。
 その光景を、こめかみをひくつかせながら見守る俺。


「……アハハハハハハハハハハハハッ」


「…………」


「アハハハ―――」


「いつまで笑ってんだ!!」


 俺が怒鳴ると、手で涙を拭きながら、謝罪してくる。


「……え、えーと。……プッ、ご、ごめんなさい。あ、あまりにも可笑しくて……ついッ……」


「…………」


「……本当にごめんなさい……。まさか貴方が魔法を使えなかったなんて……滑稽こっけいすぎて、私……クスクス……」


「……滑稽とか言うな。あと、いい加減黙れ。不愉快だ」


 俺がそう言うと、上目づかいでシルヴィアが言ってくる。


「……本当に、ごめんなさいね。……お詫びに私が……貴方に魔法の使い方を教えてあげようか?」


「…………俺にも、使えるのか?」


「ええ、勿論よ。……個人差はあるけれど、全ての生き物には魔力宿っていて、誰だってコツさえ掴めば使えるようになるんだから!」


「マジか!?……お、俺が魔法使いに……?」


「ええ、そうよ!……こう見えても私、風の魔法と回復魔法には自信があるんだから!」


「……なら是非!俺に魔法の使い方を教えてくれ!」


「ふふっ、そう来なくっちゃ!……じゃあ、ちょっとやってみるから見てて!」


 そう言って、シルヴィアは自分の右手を掲げる。
 すると、風の流れが変わり、シルヴィアの右手に集まっていく。
 そして、集まった風が圧縮されて、球体ができていく。
 その球体を此方こちらに向けて、


「《ウィンドボール》ッ!!」


「…………ッ!!?」


 放たれた風の球体は、真っ直ぐ此方に飛んできた。
 俺は瞬時に横にずれて、それをかわす。


 その魔法は俺が躱した事により、背後にあった太い木の幹に直撃して、軽く凹む程の威力だった。
 俺はその木を暫く見つめ……そして、魔法を撃ったシルヴィアが言ってくる。


「これが、風の初級魔法。《ウィンドボール》よ。凄いでしょ?」


 そして、俺は笑顔で向き直り……。


「『凄いでしょ?』……じゃねぇよ!!ふざけんなテメェ!!なんでこっち目掛けて撃ってくるんだよ!?」


「だって、上空に撃っても凄さが伝わらないでしょ?」


「……いや、そうかもしれないけどな……どう考えたっておかしいだろ!いきなり人を目掛けて撃ってくるか?普通!」


「……それにしてもよく今のを躱したわね……。魔法は使えなくても、身体能力は高いみたい! そういえば、私の矢も躱してたっけ……?」


「あからさまに話を逸らすんじゃねえよ……!!」


「それでは、魔法の使い方を説明します!」


「オイィッ!!」




           ※




 そして、魔法の使い方講習が始まった。
 始まった、のはいいんだが……。その……。


「…………」


「ええと……まずは、魔力を一点に……こう、グワーって集めて、その集まった魔力を、撃ちたい所に目掛けてズドーンって放つの!……分かった?」


「全ッ然、わかんねぇよ!!」


 こんな感じで、始まった魔法講習会。
 俺はいつになったら魔法を使えるのやら……
 そもそも、俺は魔法を使えるようになるのか?


 不安は募る一方だが、どうしても魔法を使いたい俺は、シルヴィアの意味不明、理解不能な説明を一生懸命聞くのだった。



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