勇者の魂を受け継いだ問題児
*現状把握*
―――どこか遠くで、何かが爆発するような音がした。
そして、その音に次いで、近くで鳥がけたたましく鳴く声が聞こえてくる。
「……ん……?」
断末魔じみたその鳥の鳴き声に、才条優真はゆっくりと目を開けた。
しかし、寝起きでぼやけた視界に映るのは、ただ一面の闇でしかない。
「……なんだ……?」
頬に違和感を感じ、硬く冷たい感触がある頬に触れると、頬からパラパラと砂粒が落ちた。
よく分からないが、とりあえず頬に付いた砂粒の残りを手の甲で拭いながら、さらに上体を起こしてみれば、体の下に土と落ち葉が広がっているのに気づいた。
「……どこだ、ここ?今は……夜、なのか?」
そう言って周囲を見回しても、見渡す限りは闇色で、まるで視界が利かない。
虫の音や鳥の声、草葉のさざめきから、取り敢えず外だということは分かる。
手の先、足の裏に触れる木の根から察するに、どこかの森の中だろうか。
しかし、なぜこんなところに……?
「……ぐっ……」
立ち上がろうとした瞬間、側頭部に痛みが走る。
そしてその時、起き抜けの優真が、目覚める前の最後の記憶を思い出す。
「……えーと、確か俺はコンビニで買い物して、ゲームやった後に掲示板荒らして、いつも通り自分のベッドの上で寝たんだよな……」
頭の中で整理するも、何がなんだか分からない状況に、痛みを感じる側頭部を手で押さえながら、なんとか立ち上がる事に成功する。
今の状況的に、一番考えられる最適解は、
「……夢か……?」
いや、現実逃避だと言われればそれまでだが、それ以外に考えられるか?
いやいや、普通に考えて有り得ないだろ?何なの!?そんなに俺は世界に嫌われてるってのか?
「……なあ、神様よ。私はですね……別に世界平和なんて大それた事は望んじゃいないんですよ!ただ、ごく普通の、平凡で平和な生活を送りたい、それだけなんです!そんな些細な願いを抱くのも罪なんですか?」
などと、昨日電話で優花に言った言葉を、今度は神様に向かって言ってみる。
「…………」
しかし、神様からの返事はない。
「……はぁ……」
存在しない神なんぞに、神頼みした自分が馬鹿だった。
数秒前の自分の行いに後悔しながらも、現実逃避を止め、出来れば考えたくなかった自分の状況を整理する。
「……えーと、俺は誘拐……されたんだよな?普通に考えて」
今の状況では最も現実的であるが、にわかに信じられない結論。
というか夢以外なら、自分が誘拐されたとしか考えられなかった。
―――だが、何の為に?
誘拐する理由で最も考えられるのは、身代金目当てだ。
しかし、引きこもりのニートである俺を誘拐したところで、大した金にはならない。
……まあ、俺を人質にして家族に身代金を請求するなら分かる。
「(……姐さん、金持ってるからな……)」
しかし、それも有り得ないだろう。
もし、自分が人質にされているのなら、逃げられないようロープか何かで縛り、2・3人の監視を付けるのが妥当だ。
それ以外に考え付くのは、臓器の密売くらいなものだが、こうして自分が生きているからにはそれも有り得ないだろう。
男を誘拐する理由など、思い付く事はこんなものだが……
そんな事まで考えたが、いくら考えても答えが出てこないと悟った優真は、思考を停止させて周囲を見回す。
まだ少し頭が痛いが、先程までよりはだいぶよくなった。
「さぁて……こんな所にいつまでいても埒が明かない。さっさとこの森から出て……いや、こんなに暗ければかえって危険か。足下も見えないしな。一旦、ここは明るくなるのを待って―――」
そう言いかけた途端、何処か遠くの方から、何かが叫んだような声が聞こえてきた。
優真は声の聞こえた方角を睨み付け(見えないんだけど)ながら呟く。
「……あー、そういやこれ、さっきも聞いたな……何かの動物か?……いや、それにしてはデカすぎるよな……」
動物の鳴き声というより、巨人の雄叫びの方が近い。
かなりの距離が離れているのか、そこまで大きな声ではないが、近くで聞けばそれなりに大きいだろう。
そんな状況で、優真といえば……。
「……はぁ……冗談じゃねぇぞ。何処かの誰かに誘拐され、知らない森の中に置き去りにされた挙げ句、正体不明の化け物(?)がいる暗闇の中で野宿とか……一生に一度、体験できるかどうかの支離滅裂な状況で。……それなのに、なぜ俺はこんなに落ち着いてんだ……?」
自分の置かれた状況が、現実からかけ離れている事くらいは分かる。
しかし、そんな状況でも、何故か自分は恐怖や不安を感じなかった。
むしろ、心地良いくらいだった。
そして、それが何故かは分からない。
平和ボケした日本人にある、「何とかなるだろう」という馬鹿げた妄想が自分にもあるのだろうか……それとも―――。
「(……まさか、こんな状況を本気で楽しんでるって訳じゃ、ないよな……?)」
などと一瞬、とてもくだらない事が脳裏を過る。
しかし、有り得ないと結論付けて苦笑する。
それから数分経ち、優真はその辺にある大きな木の上に登った。
今が何時か分からない。
ここが何処かも分からない。
そもそも、日本だと思っていたこの場所が実は外国だったという可能性。
ベッドで寝てから、まだ一晩経っていないと思っていたが、実は何日も眠っていたという可能性だってある。
この森を出るには暗くて危険。(そもそも出られるかも分からない)
先ほど聞いた雄叫びの主が現れるかも知れない。
それが熊などの凶暴な動物なら、戦っても勝てる訳がない。
それらの理由から、明るくなるまで待とうと結論付けた優真は、動物に襲われにくい木の上に登ったのだ。
しかし、これはあくまで一時凌ぎでしかない。
木登りが得意な動物に襲われたりなどしたら完全に詰みだ。
死んだら死んだで、その時は潔く土に還ろうと心に決め、木の上で朝を待つのだった。
そして、その音に次いで、近くで鳥がけたたましく鳴く声が聞こえてくる。
「……ん……?」
断末魔じみたその鳥の鳴き声に、才条優真はゆっくりと目を開けた。
しかし、寝起きでぼやけた視界に映るのは、ただ一面の闇でしかない。
「……なんだ……?」
頬に違和感を感じ、硬く冷たい感触がある頬に触れると、頬からパラパラと砂粒が落ちた。
よく分からないが、とりあえず頬に付いた砂粒の残りを手の甲で拭いながら、さらに上体を起こしてみれば、体の下に土と落ち葉が広がっているのに気づいた。
「……どこだ、ここ?今は……夜、なのか?」
そう言って周囲を見回しても、見渡す限りは闇色で、まるで視界が利かない。
虫の音や鳥の声、草葉のさざめきから、取り敢えず外だということは分かる。
手の先、足の裏に触れる木の根から察するに、どこかの森の中だろうか。
しかし、なぜこんなところに……?
「……ぐっ……」
立ち上がろうとした瞬間、側頭部に痛みが走る。
そしてその時、起き抜けの優真が、目覚める前の最後の記憶を思い出す。
「……えーと、確か俺はコンビニで買い物して、ゲームやった後に掲示板荒らして、いつも通り自分のベッドの上で寝たんだよな……」
頭の中で整理するも、何がなんだか分からない状況に、痛みを感じる側頭部を手で押さえながら、なんとか立ち上がる事に成功する。
今の状況的に、一番考えられる最適解は、
「……夢か……?」
いや、現実逃避だと言われればそれまでだが、それ以外に考えられるか?
いやいや、普通に考えて有り得ないだろ?何なの!?そんなに俺は世界に嫌われてるってのか?
「……なあ、神様よ。私はですね……別に世界平和なんて大それた事は望んじゃいないんですよ!ただ、ごく普通の、平凡で平和な生活を送りたい、それだけなんです!そんな些細な願いを抱くのも罪なんですか?」
などと、昨日電話で優花に言った言葉を、今度は神様に向かって言ってみる。
「…………」
しかし、神様からの返事はない。
「……はぁ……」
存在しない神なんぞに、神頼みした自分が馬鹿だった。
数秒前の自分の行いに後悔しながらも、現実逃避を止め、出来れば考えたくなかった自分の状況を整理する。
「……えーと、俺は誘拐……されたんだよな?普通に考えて」
今の状況では最も現実的であるが、にわかに信じられない結論。
というか夢以外なら、自分が誘拐されたとしか考えられなかった。
―――だが、何の為に?
誘拐する理由で最も考えられるのは、身代金目当てだ。
しかし、引きこもりのニートである俺を誘拐したところで、大した金にはならない。
……まあ、俺を人質にして家族に身代金を請求するなら分かる。
「(……姐さん、金持ってるからな……)」
しかし、それも有り得ないだろう。
もし、自分が人質にされているのなら、逃げられないようロープか何かで縛り、2・3人の監視を付けるのが妥当だ。
それ以外に考え付くのは、臓器の密売くらいなものだが、こうして自分が生きているからにはそれも有り得ないだろう。
男を誘拐する理由など、思い付く事はこんなものだが……
そんな事まで考えたが、いくら考えても答えが出てこないと悟った優真は、思考を停止させて周囲を見回す。
まだ少し頭が痛いが、先程までよりはだいぶよくなった。
「さぁて……こんな所にいつまでいても埒が明かない。さっさとこの森から出て……いや、こんなに暗ければかえって危険か。足下も見えないしな。一旦、ここは明るくなるのを待って―――」
そう言いかけた途端、何処か遠くの方から、何かが叫んだような声が聞こえてきた。
優真は声の聞こえた方角を睨み付け(見えないんだけど)ながら呟く。
「……あー、そういやこれ、さっきも聞いたな……何かの動物か?……いや、それにしてはデカすぎるよな……」
動物の鳴き声というより、巨人の雄叫びの方が近い。
かなりの距離が離れているのか、そこまで大きな声ではないが、近くで聞けばそれなりに大きいだろう。
そんな状況で、優真といえば……。
「……はぁ……冗談じゃねぇぞ。何処かの誰かに誘拐され、知らない森の中に置き去りにされた挙げ句、正体不明の化け物(?)がいる暗闇の中で野宿とか……一生に一度、体験できるかどうかの支離滅裂な状況で。……それなのに、なぜ俺はこんなに落ち着いてんだ……?」
自分の置かれた状況が、現実からかけ離れている事くらいは分かる。
しかし、そんな状況でも、何故か自分は恐怖や不安を感じなかった。
むしろ、心地良いくらいだった。
そして、それが何故かは分からない。
平和ボケした日本人にある、「何とかなるだろう」という馬鹿げた妄想が自分にもあるのだろうか……それとも―――。
「(……まさか、こんな状況を本気で楽しんでるって訳じゃ、ないよな……?)」
などと一瞬、とてもくだらない事が脳裏を過る。
しかし、有り得ないと結論付けて苦笑する。
それから数分経ち、優真はその辺にある大きな木の上に登った。
今が何時か分からない。
ここが何処かも分からない。
そもそも、日本だと思っていたこの場所が実は外国だったという可能性。
ベッドで寝てから、まだ一晩経っていないと思っていたが、実は何日も眠っていたという可能性だってある。
この森を出るには暗くて危険。(そもそも出られるかも分からない)
先ほど聞いた雄叫びの主が現れるかも知れない。
それが熊などの凶暴な動物なら、戦っても勝てる訳がない。
それらの理由から、明るくなるまで待とうと結論付けた優真は、動物に襲われにくい木の上に登ったのだ。
しかし、これはあくまで一時凌ぎでしかない。
木登りが得意な動物に襲われたりなどしたら完全に詰みだ。
死んだら死んだで、その時は潔く土に還ろうと心に決め、木の上で朝を待つのだった。
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