勇者の魂を受け継いだ問題児

ノベルバユーザー260885

*現状把握*

―――どこか遠くで、何かが爆発するような音がした。
 そして、その音に次いで、近くで鳥がけたたましく鳴く声が聞こえてくる。


「……ん……?」


 断末魔じみたその鳥の鳴き声に、才条優真はゆっくりと目を開けた。
 しかし、寝起きでぼやけた視界に映るのは、ただ一面の闇でしかない。


「……なんだ……?」


 頬に違和感を感じ、硬く冷たい感触がある頬に触れると、頬からパラパラと砂粒が落ちた。
 よく分からないが、とりあえず頬に付いた砂粒の残りを手の甲で拭いながら、さらに上体を起こしてみれば、体の下に土と落ち葉が広がっているのに気づいた。


「……どこだ、ここ?今は……夜、なのか?」


 そう言って周囲を見回しても、見渡す限りは闇色で、まるで視界が利かない。
 虫の音や鳥の声、草葉のさざめきから、取り敢えず外だということは分かる。
 手の先、足の裏に触れる木の根から察するに、どこかの森の中だろうか。
 しかし、なぜこんなところに……?


「……ぐっ……」


 立ち上がろうとした瞬間、側頭部に痛みが走る。
 そしてその時、起き抜けの優真が、目覚める前の最後の記憶を思い出す。


「……えーと、確か俺はコンビニで買い物して、ゲームやった後に掲示板荒らして、いつも通り自分のベッドの上で寝たんだよな……」


 頭の中で整理するも、何がなんだか分からない状況に、痛みを感じる側頭部を手で押さえながら、なんとか立ち上がる事に成功する。
 今の状況的に、一番考えられる最適解は、




「……夢か……?」




 いや、現実逃避だと言われればそれまでだが、それ以外に考えられるか?
 いやいや、普通に考えて有り得ないだろ?何なの!?そんなに俺は世界に嫌われてるってのか?


「……なあ、神様よ。私はですね……別に世界平和なんて大それた事は望んじゃいないんですよ!ただ、ごく普通の、平凡で平和な生活を送りたい、それだけなんです!そんな些細な願いを抱くのも罪なんですか?」


 などと、昨日電話で優花に言った言葉を、今度は神様に向かって言ってみる。


「…………」


 しかし、神様からの返事はない。


「……はぁ……」


 存在しない神なんぞに、神頼みした自分が馬鹿だった。
 数秒前の自分の行いに後悔しながらも、現実逃避を止め、出来れば考えたくなかった自分の状況を整理する。


「……えーと、俺は誘拐……されたんだよな?普通に考えて」


 今の状況では最も現実的であるが、にわかに信じられない結論。
 というか夢以外なら、自分が誘拐されたとしか考えられなかった。


―――だが、何の為に?


 誘拐する理由で最も考えられるのは、身代金目当てだ。
 しかし、引きこもりのニートである俺を誘拐したところで、大した金にはならない。
 ……まあ、俺を人質にして家族に身代金を請求するなら分かる。


「(……姐さん、金持ってるからな……)」


 しかし、それも有り得ないだろう。
 もし、自分が人質にされているのなら、逃げられないようロープか何かで縛り、2・3人の監視を付けるのが妥当だ。


 それ以外に考え付くのは、臓器の密売くらいなものだが、こうして自分が生きているからにはそれも有り得ないだろう。


 男を誘拐する理由など、思い付く事はこんなものだが……


 そんな事まで考えたが、いくら考えても答えが出てこないと悟った優真は、思考を停止させて周囲を見回す。
 まだ少し頭が痛いが、先程までよりはだいぶよくなった。


「さぁて……こんな所にいつまでいても埒が明かない。さっさとこの森から出て……いや、こんなに暗ければかえって危険か。足下も見えないしな。一旦、ここは明るくなるのを待って―――」


 そう言いかけた途端、何処か遠くの方から、何かが叫んだような声が聞こえてきた。
 優真は声の聞こえた方角を睨み付け(見えないんだけど)ながら呟く。


「……あー、そういやこれ、さっきも聞いたな……何かの動物か?……いや、それにしてはデカすぎるよな……」


 動物の鳴き声というより、巨人の雄叫びの方が近い。
 かなりの距離が離れているのか、そこまで大きな声ではないが、近くで聞けばそれなりに大きいだろう。
 そんな状況で、優真といえば……。


「……はぁ……冗談じゃねぇぞ。何処かの誰かに誘拐され、知らない森の中に置き去りにされた挙げ句、正体不明の化け物(?)がいる暗闇の中で野宿とか……一生に一度、体験できるかどうかの支離滅裂な状況で。……それなのに、なぜ俺はこんなに落ち着いてんだ……?」


 自分の置かれた状況が、現実からかけ離れている事くらいは分かる。


 しかし、そんな状況でも、何故か自分は恐怖や不安を感じなかった。
 むしろ、心地良いくらいだった。
 そして、それが何故かは分からない。


 平和ボケした日本人にある、「何とかなるだろう」という馬鹿げた妄想が自分にもあるのだろうか……それとも―――。


「(……まさか、こんな状況を本気で楽しんでるって訳じゃ、ないよな……?)」


 などと一瞬、とてもくだらない事が脳裏を過る。
 しかし、有り得ないと結論付けて苦笑する。




 それから数分経ち、優真はその辺にある大きな木の上に登った。


 今が何時か分からない。
 ここが何処かも分からない。
 そもそも、日本だと思っていたこの場所が実は外国だったという可能性。
 ベッドで寝てから、まだ一晩経っていないと思っていたが、実は何日も眠っていたという可能性だってある。
 この森を出るには暗くて危険。(そもそも出られるかも分からない)
 先ほど聞いた雄叫びの主が現れるかも知れない。
 それが熊などの凶暴な動物なら、戦っても勝てる訳がない。




 それらの理由から、明るくなるまで待とうと結論付けた優真は、動物に襲われにくい木の上に登ったのだ。
 しかし、これはあくまで一時凌ぎでしかない。
 木登りが得意な動物に襲われたりなどしたら完全に詰みチェックメイトだ。


 死んだら死んだで、その時は潔く土に還ろうと心に決め、木の上で朝を待つのだった。

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