人外と友達になる方法
第55話 一度きりのチャンス 〜古の祠篇〜
「妾は……四百年の間封印されておったのじゃ。妾はあの大戦の最中に封印され、目を覚ましたのはほんの少し前なのじゃ」
「封印!? まさか妖術師共が裏切ったのですか!?」
「違う。妾を封印しようとしたのはハルアキ……安倍晴明じゃ」
光秀の中で一つのわだかまりが取れた。
前に狐々愛から聞いた話に出てきたハルアキなる人物。
どこかで聞いたことのある名前だと思っていたが、今の狐々愛の言葉により思い出したのだ。ハルアキ、漢字で書くと晴明。かの有名陰陽師、安倍晴明のことだったのだ。
十二天将を従えていた時点で薄々勘付いてはいたが、これで疑惑が確信に変わった。
「晴明様が……そんな! ありえない! 晴明様は師匠と契りを交わしておられたはずです! 契りは式神の契約とは違い、互いに対等な関係を築くためのもの。契りを破れば晴様といえどタダでは済まないはずです!」
「そのはずじゃった。しかし妾が封印されかけたのは事実じゃ」
「されかけた? ではあなたを封印したの誰なのですか?」
悠火達もそのことは詳しくは教えてもらってない。
気になりはしたが聞いても教えてくれる雰囲気ではなかったので聞かなかった。
「それは言えぬ。しかし妾にとってかけがえのない……友人であった者じゃ」
「妖術師が友人? 友人ですと?」
青龍が強く握った拳が震えているのがわかる。
それと同時に空間が青龍の妖力によって歪み始めた。
「そうか……天狐様はその者達に操られておられるのですね? そうでなければ、そのようなこと言うはずがない!」
「操られてなどおらぬ。妾は心の底から彼奴のことを友人じゃと思っておる」
「信じません……俺は信じません! そいつらを殺して天狐様の目を覚まさせてみせます!」
青龍から放たれる殺気が悠火達を襲う。ただでさえ強かったプレッシャーがより一層強くなる。
竜夜はもう立っていられず、腰を抜かしている。
「操竜之種!」
光秀に動きを止められていた植物が鞭のようにしなりながら動き始める。
「悠火! 捕縛符が効かない!」
「わかった! 奏! わかってるな!」
悠火と奏鳴が目を合わせて頷く。
「式神憑依・神狐!」
「式神憑依・黒王!」
悠火の服が和装に変わり、頭には獣の耳、そして大きくモフモフの尻尾が生える。
奏鳴は黒いズボンに黒いロングコートと言った全身黒ずくめだ。額には黒曜石の如く黒く輝く二本の角が生えている。そして瞳は真紅のような緋に変わる。
これは現在二人が使える憑依の中で最強の憑依だ。
相手は十二天将、出し惜しみは無しだ。
襲いかかる植物を次々と避け、撃破する。
しかしあまりにも数が多い。
「くそっ! これじゃジリ貧だ!」
「時間がねぇぞ! どうする悠火!?」
憑依と領域展開には継続時間がある。
修行次第で継続時間は伸ばすことができるが簡単なことではない。
憑依の方は、修行すれば何時間も継続できるらしいが、十秒伸ばすのに五年はかかると言われるほどだ。
それこそ永遠とも言える歳月を生きてきた妖怪ならまだしも、数十年の歳月しか生きていない人間には土台無理な話である。
現在の二人の継続時間は、悠火が十五分。奏鳴が十二分だ。
「私が何とか隙を作る。その隙に二人の一番強い技を叩き込んで」
「舞姫、できるのか? 近づけば近づくだけ植物は速く硬くなるぞ?」
「私を誰だと思ってるの? 大船に乗ったつもりでって言いたいところだけど、隙を作れたとしても一瞬しか作れない。それにそのためには私も少し無理しなくちゃならない。チャンスは一回よ」
「わかった。でも、危なくなったら退けよ」
「ええ、わかってるわ」
実のところ舞姫の戦闘を見るのは、今日が初めてである。訓練で何度か手合わせをしたが憑依も妖装も無しでの組み手では一度も勝てたことがない。
本気の舞姫が一体どんな戦いを見せるのか、悠火は内心少しだけ楽しみだった。
先程青龍に放った蓮華之型・絶影は青龍に傷こそ付けられなかったものの、かなりの威力なことは間違いない。
雷王クラスの妖怪なら、恐らく一撃で屠れるだろう。
「準備はいい?」
「ああ、いつでも!」
「任せろ!」
武器を構える舞姫の体が淡い青白い光を放ち始める。
こんな時に言うことではないと思うが、幻想的で美しい。思わず見惚れてしまいそうだ。
「飛燕之型・零式神風!」
視界から舞姫が消える。
狐々愛を憑依した悠火がそう錯覚するほどの速度で舞姫が青龍に向かって走る。
それに続いて悠火と奏鳴の二人も動き出す。
悠火達に襲いかかろうとする植物が次々に切り裂かれていく。そして全ての植物が切り裂かれた後、そこには舞姫だけが立っていた。
「あとは……任せたわよ」
そう言って舞姫は倒れ込む。本当なら手を差し伸べて支えてやりたいが今はできない。代わりに光秀が肩を貸して避難させてくれている。
「灼火之太刀・炎狐乱舞!」
「黒王天鎧!」
悠火の炎の太刀と、奏鳴の漆黒の拳が青龍に叩き込まれる。
そして、青龍は後方に吹き飛ぶ。
「悠火! 奏!」
光秀が感極まって二人の名前を呼ぶ。
しかし二人は振り返ることも、ガッツポーズを取ることもなく。
膝をついて倒れた。
読んでいただきありがとうございます。
夜に食べるバナナは至福。バナナ片手に失礼、コングです。
僕の中でちょっとした問題が発生しています。
それが何なのかというと、青龍のキャラが安定しません。キャラというか性格かな?
書いてるうちに少しずつ変わってしまう謎の現象に陥っていまいました。
この謎現象から抜け出す方法をお持ちの方は教えてください。
それではまた次回!
2020/5/26一部改稿
「封印!? まさか妖術師共が裏切ったのですか!?」
「違う。妾を封印しようとしたのはハルアキ……安倍晴明じゃ」
光秀の中で一つのわだかまりが取れた。
前に狐々愛から聞いた話に出てきたハルアキなる人物。
どこかで聞いたことのある名前だと思っていたが、今の狐々愛の言葉により思い出したのだ。ハルアキ、漢字で書くと晴明。かの有名陰陽師、安倍晴明のことだったのだ。
十二天将を従えていた時点で薄々勘付いてはいたが、これで疑惑が確信に変わった。
「晴明様が……そんな! ありえない! 晴明様は師匠と契りを交わしておられたはずです! 契りは式神の契約とは違い、互いに対等な関係を築くためのもの。契りを破れば晴様といえどタダでは済まないはずです!」
「そのはずじゃった。しかし妾が封印されかけたのは事実じゃ」
「されかけた? ではあなたを封印したの誰なのですか?」
悠火達もそのことは詳しくは教えてもらってない。
気になりはしたが聞いても教えてくれる雰囲気ではなかったので聞かなかった。
「それは言えぬ。しかし妾にとってかけがえのない……友人であった者じゃ」
「妖術師が友人? 友人ですと?」
青龍が強く握った拳が震えているのがわかる。
それと同時に空間が青龍の妖力によって歪み始めた。
「そうか……天狐様はその者達に操られておられるのですね? そうでなければ、そのようなこと言うはずがない!」
「操られてなどおらぬ。妾は心の底から彼奴のことを友人じゃと思っておる」
「信じません……俺は信じません! そいつらを殺して天狐様の目を覚まさせてみせます!」
青龍から放たれる殺気が悠火達を襲う。ただでさえ強かったプレッシャーがより一層強くなる。
竜夜はもう立っていられず、腰を抜かしている。
「操竜之種!」
光秀に動きを止められていた植物が鞭のようにしなりながら動き始める。
「悠火! 捕縛符が効かない!」
「わかった! 奏! わかってるな!」
悠火と奏鳴が目を合わせて頷く。
「式神憑依・神狐!」
「式神憑依・黒王!」
悠火の服が和装に変わり、頭には獣の耳、そして大きくモフモフの尻尾が生える。
奏鳴は黒いズボンに黒いロングコートと言った全身黒ずくめだ。額には黒曜石の如く黒く輝く二本の角が生えている。そして瞳は真紅のような緋に変わる。
これは現在二人が使える憑依の中で最強の憑依だ。
相手は十二天将、出し惜しみは無しだ。
襲いかかる植物を次々と避け、撃破する。
しかしあまりにも数が多い。
「くそっ! これじゃジリ貧だ!」
「時間がねぇぞ! どうする悠火!?」
憑依と領域展開には継続時間がある。
修行次第で継続時間は伸ばすことができるが簡単なことではない。
憑依の方は、修行すれば何時間も継続できるらしいが、十秒伸ばすのに五年はかかると言われるほどだ。
それこそ永遠とも言える歳月を生きてきた妖怪ならまだしも、数十年の歳月しか生きていない人間には土台無理な話である。
現在の二人の継続時間は、悠火が十五分。奏鳴が十二分だ。
「私が何とか隙を作る。その隙に二人の一番強い技を叩き込んで」
「舞姫、できるのか? 近づけば近づくだけ植物は速く硬くなるぞ?」
「私を誰だと思ってるの? 大船に乗ったつもりでって言いたいところだけど、隙を作れたとしても一瞬しか作れない。それにそのためには私も少し無理しなくちゃならない。チャンスは一回よ」
「わかった。でも、危なくなったら退けよ」
「ええ、わかってるわ」
実のところ舞姫の戦闘を見るのは、今日が初めてである。訓練で何度か手合わせをしたが憑依も妖装も無しでの組み手では一度も勝てたことがない。
本気の舞姫が一体どんな戦いを見せるのか、悠火は内心少しだけ楽しみだった。
先程青龍に放った蓮華之型・絶影は青龍に傷こそ付けられなかったものの、かなりの威力なことは間違いない。
雷王クラスの妖怪なら、恐らく一撃で屠れるだろう。
「準備はいい?」
「ああ、いつでも!」
「任せろ!」
武器を構える舞姫の体が淡い青白い光を放ち始める。
こんな時に言うことではないと思うが、幻想的で美しい。思わず見惚れてしまいそうだ。
「飛燕之型・零式神風!」
視界から舞姫が消える。
狐々愛を憑依した悠火がそう錯覚するほどの速度で舞姫が青龍に向かって走る。
それに続いて悠火と奏鳴の二人も動き出す。
悠火達に襲いかかろうとする植物が次々に切り裂かれていく。そして全ての植物が切り裂かれた後、そこには舞姫だけが立っていた。
「あとは……任せたわよ」
そう言って舞姫は倒れ込む。本当なら手を差し伸べて支えてやりたいが今はできない。代わりに光秀が肩を貸して避難させてくれている。
「灼火之太刀・炎狐乱舞!」
「黒王天鎧!」
悠火の炎の太刀と、奏鳴の漆黒の拳が青龍に叩き込まれる。
そして、青龍は後方に吹き飛ぶ。
「悠火! 奏!」
光秀が感極まって二人の名前を呼ぶ。
しかし二人は振り返ることも、ガッツポーズを取ることもなく。
膝をついて倒れた。
読んでいただきありがとうございます。
夜に食べるバナナは至福。バナナ片手に失礼、コングです。
僕の中でちょっとした問題が発生しています。
それが何なのかというと、青龍のキャラが安定しません。キャラというか性格かな?
書いてるうちに少しずつ変わってしまう謎の現象に陥っていまいました。
この謎現象から抜け出す方法をお持ちの方は教えてください。
それではまた次回!
2020/5/26一部改稿
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