人外と友達になる方法
第47話 愛し君へ 〜黄昏の告白篇〜
「お待たせ……」
狐々愛の声に明智は振り向いた。
「いや……僕もたった今来たところだから」
「そっか……」
二人の間に沈黙が流れる。
しかし自分から呼んでおいて無言は失礼だと思い、明智は口を開いた。
「手紙読んでくれましたか?」
手紙を読んだからここにいるのだが、今の明智は初めての告白のことで頭がいっぱいのようだ。
「ふふっ……手紙を読んだからここに来たんでしょ?」
狐々愛は微笑みながら言った。
その笑顔を見て明智の顔が夕日の如く赤くなる。
「そ、そうだよね……はは、僕何言ってるんだろ……」
明智は頭を掻きながら恥ずかしそうにしている。
「……じゃあ、返事を聞かせてもらえるかな?」
明智は回り道はせず、単刀直入に聞いた。
「明智君が勇気を出して手紙を書いたことも、本当に私のことが好きなことも、よくわかったよ。こんな手紙貰ったの初めてだし、嬉しかった……」
「じゃあ……」
「でも、ごめんなさい……お付き合いすることは出来ません」
狐々愛は申し訳なさそうに頭を下げる。
 
「……好きな人がいるんですか?」
その質問に狐々愛は言葉を詰まらせる。
「……うん」
「……そっか……やっぱり何となくそんな気はしてたんです。それでも一縷の望みにかけてみました。でも僕の思いが伝わったのならもう後悔はありません」
明智は泣きたいの拳を握ってぐっとこらえる。
明智の初恋はこうして幕を下ろした。
「もしよかったら、その人のこと聞かせてくれませんか? 狐々愛さんの心を射止めた人のことを知りたいんです」
さっきは咄嗟に好きな人がいると言ってしまったが、よくよく考えると自分が好きなのは誰なのだろうか、と狐々愛は思った。
しかし、その思いとは裏腹に狐々愛の口からは溢れ出るように言葉が出てきた。
「その人はね、人の幸せを何よりも願っていて、その為なら自分の危険も顧みないで、それなのに私に悪戯するのが大好きで、いつも優しく笑っていて、鈍感で、だけど私が思ってることに誰よりも早く気付いてくれて、気が付いたら隣にいるのが当たり前になってる……そんな人、かな……?」
狐々愛の表情を見て、明智は自分の負けを改めて感じた。
その表情は明智が今までに見たことのない、そしてずっと見てみたかった恋する乙女の表情だった。
「それは……勝てませんね……」
明智は笑った。それは狐々愛の未来に向けての笑顔だった。
狐々愛が自分を振ったことへの罪悪感を少しでも楽にするために。
そして、狐々愛の恋の成就を願って。
「返事、ありがとうございました。その恋、叶うといいですね。それじゃ……」
明智は狐々愛に背を向けて歩き出す。
「待って」
後ろから呼び止められ、明智は振り向く。
「私、明智君に言わなくちゃいけないことがもう一つあるの」
「何ですか?」
狐々愛は明智の目の前で、変幻の術をした。
「私は……いや、妾は妖怪なのじゃ」
明智は驚きのあまり声が出ない。
それもそうだ、悠火たちが普通じゃないだけで、本来ならこの反応が普通なのだ。
「え……? は……? 何が、どうなって……?」
明智は混乱している。無理もない。
狐々愛は自分のことを好きだという明智には本当のことを伝えようと思ったのだ。
このままずっと狐々愛のことを妖怪と知らず思い続けられると明智に迷惑がかかる。
「今まで黙っててすまなかった。これが妾の本当の姿なのじゃ……不気味……じゃろ?」
狐々愛は明智が口を開くのを待った。
どんな罵詈雑言を言われても構わない。
今まで騙していたのだからそのくらいの報いは当然だ。
しかし叶うなら、明智とはこれからも仲よくしたかった。
そして遂に明智がゆっくりと口を開いて言った。
「……綺麗だ」
「え……?」
「不気味なんかじゃないよ! とっても綺麗だ!」
「妾は妖怪なのじゃぞ? 怖くはないのか?」
「妖怪だろうと悪魔だろうと、狐々愛さんは狐々愛さんでしょ? 姿は偽物でも、あの笑顔は、あの笑い声は、あの恋の表情は本物だよ!」
杞憂だった。
明智に嫌われるかもしれないなどと一時でも考えた自分を戒めたい。
「本当……お主は妾にゾッコンじゃの……」
「ゾッコンですよ。だって貴方は僕の初恋の人だ。この先僕に他に好きな人が出来ても、それだけは何があっても変わらないですからね」
「残念ながら妖怪と人間が結ばれることはない……じゃが、お主が妾を好いてくれていたことは忘れん。絶対にじゃ」
「はい……ありがとうございます……でも、僕は諦めませんからね!」
「全く……恋は盲目とはよく言ったものじゃの……」
その時、明智はあることに気が付いた。
「あれ? 人間と妖怪が結ばれないならさっきの話はどういうことですか?」
「さっきの……はっ!」
狐々愛は先程自分が言った内容を思い出して赤面した。
「ち、違うのじゃ! もし! もし好きになるならそんな奴がいいなってだけで……違うのじゃ!」
必死になって言い訳をする狐々愛を見て、明智は笑った。
今度は自分の幸せを感じるために。
今を生きる自分のために。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
次回で黄昏の告白篇はおしまいです。
さて、狐々愛の思い人は一体誰なのか……まあ御察しの通りだと思いますが。
これからしばらくは今のクラスメイトいついては触れなくなりますが、いつか悠火たちがいなくなった後の話もしてみたいですね。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
狐々愛の声に明智は振り向いた。
「いや……僕もたった今来たところだから」
「そっか……」
二人の間に沈黙が流れる。
しかし自分から呼んでおいて無言は失礼だと思い、明智は口を開いた。
「手紙読んでくれましたか?」
手紙を読んだからここにいるのだが、今の明智は初めての告白のことで頭がいっぱいのようだ。
「ふふっ……手紙を読んだからここに来たんでしょ?」
狐々愛は微笑みながら言った。
その笑顔を見て明智の顔が夕日の如く赤くなる。
「そ、そうだよね……はは、僕何言ってるんだろ……」
明智は頭を掻きながら恥ずかしそうにしている。
「……じゃあ、返事を聞かせてもらえるかな?」
明智は回り道はせず、単刀直入に聞いた。
「明智君が勇気を出して手紙を書いたことも、本当に私のことが好きなことも、よくわかったよ。こんな手紙貰ったの初めてだし、嬉しかった……」
「じゃあ……」
「でも、ごめんなさい……お付き合いすることは出来ません」
狐々愛は申し訳なさそうに頭を下げる。
 
「……好きな人がいるんですか?」
その質問に狐々愛は言葉を詰まらせる。
「……うん」
「……そっか……やっぱり何となくそんな気はしてたんです。それでも一縷の望みにかけてみました。でも僕の思いが伝わったのならもう後悔はありません」
明智は泣きたいの拳を握ってぐっとこらえる。
明智の初恋はこうして幕を下ろした。
「もしよかったら、その人のこと聞かせてくれませんか? 狐々愛さんの心を射止めた人のことを知りたいんです」
さっきは咄嗟に好きな人がいると言ってしまったが、よくよく考えると自分が好きなのは誰なのだろうか、と狐々愛は思った。
しかし、その思いとは裏腹に狐々愛の口からは溢れ出るように言葉が出てきた。
「その人はね、人の幸せを何よりも願っていて、その為なら自分の危険も顧みないで、それなのに私に悪戯するのが大好きで、いつも優しく笑っていて、鈍感で、だけど私が思ってることに誰よりも早く気付いてくれて、気が付いたら隣にいるのが当たり前になってる……そんな人、かな……?」
狐々愛の表情を見て、明智は自分の負けを改めて感じた。
その表情は明智が今までに見たことのない、そしてずっと見てみたかった恋する乙女の表情だった。
「それは……勝てませんね……」
明智は笑った。それは狐々愛の未来に向けての笑顔だった。
狐々愛が自分を振ったことへの罪悪感を少しでも楽にするために。
そして、狐々愛の恋の成就を願って。
「返事、ありがとうございました。その恋、叶うといいですね。それじゃ……」
明智は狐々愛に背を向けて歩き出す。
「待って」
後ろから呼び止められ、明智は振り向く。
「私、明智君に言わなくちゃいけないことがもう一つあるの」
「何ですか?」
狐々愛は明智の目の前で、変幻の術をした。
「私は……いや、妾は妖怪なのじゃ」
明智は驚きのあまり声が出ない。
それもそうだ、悠火たちが普通じゃないだけで、本来ならこの反応が普通なのだ。
「え……? は……? 何が、どうなって……?」
明智は混乱している。無理もない。
狐々愛は自分のことを好きだという明智には本当のことを伝えようと思ったのだ。
このままずっと狐々愛のことを妖怪と知らず思い続けられると明智に迷惑がかかる。
「今まで黙っててすまなかった。これが妾の本当の姿なのじゃ……不気味……じゃろ?」
狐々愛は明智が口を開くのを待った。
どんな罵詈雑言を言われても構わない。
今まで騙していたのだからそのくらいの報いは当然だ。
しかし叶うなら、明智とはこれからも仲よくしたかった。
そして遂に明智がゆっくりと口を開いて言った。
「……綺麗だ」
「え……?」
「不気味なんかじゃないよ! とっても綺麗だ!」
「妾は妖怪なのじゃぞ? 怖くはないのか?」
「妖怪だろうと悪魔だろうと、狐々愛さんは狐々愛さんでしょ? 姿は偽物でも、あの笑顔は、あの笑い声は、あの恋の表情は本物だよ!」
杞憂だった。
明智に嫌われるかもしれないなどと一時でも考えた自分を戒めたい。
「本当……お主は妾にゾッコンじゃの……」
「ゾッコンですよ。だって貴方は僕の初恋の人だ。この先僕に他に好きな人が出来ても、それだけは何があっても変わらないですからね」
「残念ながら妖怪と人間が結ばれることはない……じゃが、お主が妾を好いてくれていたことは忘れん。絶対にじゃ」
「はい……ありがとうございます……でも、僕は諦めませんからね!」
「全く……恋は盲目とはよく言ったものじゃの……」
その時、明智はあることに気が付いた。
「あれ? 人間と妖怪が結ばれないならさっきの話はどういうことですか?」
「さっきの……はっ!」
狐々愛は先程自分が言った内容を思い出して赤面した。
「ち、違うのじゃ! もし! もし好きになるならそんな奴がいいなってだけで……違うのじゃ!」
必死になって言い訳をする狐々愛を見て、明智は笑った。
今度は自分の幸せを感じるために。
今を生きる自分のために。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
次回で黄昏の告白篇はおしまいです。
さて、狐々愛の思い人は一体誰なのか……まあ御察しの通りだと思いますが。
これからしばらくは今のクラスメイトいついては触れなくなりますが、いつか悠火たちがいなくなった後の話もしてみたいですね。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
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