人外と友達になる方法
第41話 不純な動機 〜認定試験篇〜
「腹一杯……もう食えねぇ。動けねぇ」
晩御飯はかなりの量があった。
もともと少食の光秀はともかく、並よりは食べる悠火でさえ少しキツかった。それなのに奏鳴は調子に乗って光秀の分まで食べたのだ。そりゃ腹一杯で動けなくなるわけだ。
「大丈夫ですか? 奏鳴さん」
竜夜も優香と同じだけ食べたのにあまり苦しそうではない。
「おう……大丈夫。クソ、こんなことなら黒奈と真白にも食ってもらうんだった」
確かにそうすればよかった。
しかし人前で妖怪を見せるのもあまり良くない。
「竜夜は大丈夫か?」
「ええ。僕は普段お腹いっぱい食べられないので、常に胃に余裕があるんですかね?」
竜夜は笑っているが、何か深刻な話だ。
「腹一杯食べられないって、どうして?」
聞いてから悠火はしまったと思った。竜夜の顔がほんの少しだけ陰ったのだ。
「……僕の家、貧乏なんですよ。それに兄弟も多くて。僕の家は代々妖術師なんです。お世辞にも強いとは言えない万年下級ですけど」
竜夜はバツが悪そうに頭を掻く。
「両親は僕を大学に行かせて、妖術師は継がせないつもりだったみたいなんです。自分たちの代で終わりにするって言ってました。でも、それじゃお金が足りないんです。調べたら妖術師の給料は報酬制らしいので、活躍すれば活躍するだけお金がもらえるんです。僕が妖術師になって活躍したら家族に、両親に楽をさせてあげられるって思ったんです。まあ、結果は下級で、それもギリギリの合格でしたけど」
竜夜は恥ずかしそうに自分の身の上話を始めた。
兄弟が七人いること。両親が妖術師の仕事だけじゃなく、パートや日雇いで稼いでいること。風邪にかかった時、満足に薬も買えなかったこと。そして、両親がそろそろ妖術師として戦えなくなってきたこと。
「……だから俺たちの隊に入ったのか?」
「はい……上級の皆さんとなら僕も上級の妖怪と戦えます! 早くお金を稼ぐにはこれしかなかったんです……自分勝手に皆さんを利用するような真似をしてすみません」
確かに金のためという動機は不純かもしれない。
しかし、その背景を知ったからにはもう他人事とは思えない。悠火は昔からそうだ、理由を知ればどんな人にも寄り添う、そんな優しい心の持ち主だった。
「家族のためだろ? それのどこが自分勝手なんだよ? ていうか不純じゃない動機のやつの方が少ないと思うぞ。慈善活動で妖術師やってるやつなんていないだろ。みんな何かしら欲があるんだろ。金だったり名声だったり、あとは……女? だったりさ」
悠火の中にもモテたい、というか動機がないわけではない。奏鳴だってそうだ。
光秀は光秀で、妖怪の研究をしたいという、悪く言えば三人とも私利私欲のために妖術師をやっている。
「何か悠火さんって変わった人ですね……」
「そうか? あ、そうだ。さっきは仮入隊なんて言ったけどさ、取り消すよ。お前は正真正銘俺たちの仲間だ!」
「あ、ありがとうございます!」
悠火は竜夜と硬く握手を交わす。
話している間に少しはお腹が楽になった。
奏鳴も歩けるようになったし部屋に戻るとしよう。
二階にある食堂を出て部屋に戻る。菊の間は三階、百合の間は一階にある。そのため階段のところで一度別れることになる。
「風呂はどうする?」
「食後すぐは流石にね……」
「じゃあ一時間後にするか?」
「いいんじゃないですか?」
竜夜は部屋に戻ってから悠火たちの部屋に遊びにくるようだ。三人部屋だから広いので四人でも十分スペースはある。
「ようやく来たわね」
色々と雑談をしていた悠火たちが階段に到着した時、そんな声が聞こえた。
「ん? 俺たちに用か?」
壁にもたれかかりこちらを見ている少女がそこには居た。
「そうよ。まあ、用があるのはあんただけだけどね」
少女は悠火を指差す。
「悠火知り合いか?」
「いや、知らねぇ。誰だお前」
悠火は目の前の少女に名を尋ねる。
しかしそれに答えなどは少女ではなく竜夜だった。
「悠火さん知らないんですか!? この方は宮園家の次期当主となられるお方! 宮園舞姫様ですよ!」
「宮園……は!」
「思い出しましたか……」
「ここの宿、確か宮園苑だったな!」
「そうじゃない!」
悠火のボケに竜夜が見事に突っ込みを入れる。
「もういいわ。三下は黙ってなさい」
舞姫は竜夜を睨みつけて言う。
「私の名前は宮園舞姫。特別に姫と呼ぶことを許可するわ」
「嫌だよ。初対面の女子を姫とか」
「なっ! あんた、私が下手に出てるからって調子に乗らないでよね!」
下手に出るの意味を知ってんのかこいつ、と突っ込みたいのをぐっと堪える。
「で、要件は何だ? 俺たちの早く部屋で休みたいんだけど」
「ふんっ! まあ話の早い奴は嫌いじゃないわ。光栄に思いなさい! あなたを……いいえ、あなたとあなたのお友達を私の傘下に加えてあげるわ」
「傘下? 何言ってんだ?」
「いいこと? 妖術師には名家と言われる家がいくつかあるの。その中でも最上位の五大家と呼ばれる五つの家がある。その内の一つが宮園家。つまり私の家ってこと」
「つまり、五大家である宮園家の傘下になることで、この先妖術師として活動しやすくなるってことかな?」
流石光秀、話の理解が早い。
「なかなか頭の回転が速いみたいね。その通りよ。今後あなたたちが妖術師として活動するならどこかの傘下に入っておいた方が良いってこと」
「ふ〜ん。そっか……」
「わかったらこの手を取りなさい」
舞姫は悠火に向かって手を差し出す。
「悪いが、俺たちは傘下には入らない」
「え? 何? よく聞こえなかったわ。もう一度言ってちょうだい」
「俺たちは傘下には入らないって言ったんだ。話がそれだけならもう行くぞ。せっかく誘ってくれたのにごめんな」
悠火は階段を上がって部屋へと戻ると。それを他の三人も追いかける。
そして階段には舞姫だけが残された。
「な、何でよ! 五大家よ! 私は次期当主なのよ! それにこんなに可愛いのよ!」
舞姫の叫びは虚しくこだまするだけだった。
しかし、そんなことを言いながら本心では。
(ああ……またやっちゃった……何で素直にあなたの隊に入りたいって言えないの……あんな上から目線じゃ嫌われるに決まってるよ……それにしても、生で見ると五割増しでかっこよかった……)
悠火はそんなことを知るはずもなく、呑気に部屋でトランプをしていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。こんぐです。
新キャラ舞姫は何話か前で出てきた、モニタールームの子です。
読んでわかったように、ツンデレです。
僕はツンデレキャラ書いたことがないので、口調とか変だと思いますがご了承ください。
その道のプロの方、ご意見の程よろしくお願いします。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
晩御飯はかなりの量があった。
もともと少食の光秀はともかく、並よりは食べる悠火でさえ少しキツかった。それなのに奏鳴は調子に乗って光秀の分まで食べたのだ。そりゃ腹一杯で動けなくなるわけだ。
「大丈夫ですか? 奏鳴さん」
竜夜も優香と同じだけ食べたのにあまり苦しそうではない。
「おう……大丈夫。クソ、こんなことなら黒奈と真白にも食ってもらうんだった」
確かにそうすればよかった。
しかし人前で妖怪を見せるのもあまり良くない。
「竜夜は大丈夫か?」
「ええ。僕は普段お腹いっぱい食べられないので、常に胃に余裕があるんですかね?」
竜夜は笑っているが、何か深刻な話だ。
「腹一杯食べられないって、どうして?」
聞いてから悠火はしまったと思った。竜夜の顔がほんの少しだけ陰ったのだ。
「……僕の家、貧乏なんですよ。それに兄弟も多くて。僕の家は代々妖術師なんです。お世辞にも強いとは言えない万年下級ですけど」
竜夜はバツが悪そうに頭を掻く。
「両親は僕を大学に行かせて、妖術師は継がせないつもりだったみたいなんです。自分たちの代で終わりにするって言ってました。でも、それじゃお金が足りないんです。調べたら妖術師の給料は報酬制らしいので、活躍すれば活躍するだけお金がもらえるんです。僕が妖術師になって活躍したら家族に、両親に楽をさせてあげられるって思ったんです。まあ、結果は下級で、それもギリギリの合格でしたけど」
竜夜は恥ずかしそうに自分の身の上話を始めた。
兄弟が七人いること。両親が妖術師の仕事だけじゃなく、パートや日雇いで稼いでいること。風邪にかかった時、満足に薬も買えなかったこと。そして、両親がそろそろ妖術師として戦えなくなってきたこと。
「……だから俺たちの隊に入ったのか?」
「はい……上級の皆さんとなら僕も上級の妖怪と戦えます! 早くお金を稼ぐにはこれしかなかったんです……自分勝手に皆さんを利用するような真似をしてすみません」
確かに金のためという動機は不純かもしれない。
しかし、その背景を知ったからにはもう他人事とは思えない。悠火は昔からそうだ、理由を知ればどんな人にも寄り添う、そんな優しい心の持ち主だった。
「家族のためだろ? それのどこが自分勝手なんだよ? ていうか不純じゃない動機のやつの方が少ないと思うぞ。慈善活動で妖術師やってるやつなんていないだろ。みんな何かしら欲があるんだろ。金だったり名声だったり、あとは……女? だったりさ」
悠火の中にもモテたい、というか動機がないわけではない。奏鳴だってそうだ。
光秀は光秀で、妖怪の研究をしたいという、悪く言えば三人とも私利私欲のために妖術師をやっている。
「何か悠火さんって変わった人ですね……」
「そうか? あ、そうだ。さっきは仮入隊なんて言ったけどさ、取り消すよ。お前は正真正銘俺たちの仲間だ!」
「あ、ありがとうございます!」
悠火は竜夜と硬く握手を交わす。
話している間に少しはお腹が楽になった。
奏鳴も歩けるようになったし部屋に戻るとしよう。
二階にある食堂を出て部屋に戻る。菊の間は三階、百合の間は一階にある。そのため階段のところで一度別れることになる。
「風呂はどうする?」
「食後すぐは流石にね……」
「じゃあ一時間後にするか?」
「いいんじゃないですか?」
竜夜は部屋に戻ってから悠火たちの部屋に遊びにくるようだ。三人部屋だから広いので四人でも十分スペースはある。
「ようやく来たわね」
色々と雑談をしていた悠火たちが階段に到着した時、そんな声が聞こえた。
「ん? 俺たちに用か?」
壁にもたれかかりこちらを見ている少女がそこには居た。
「そうよ。まあ、用があるのはあんただけだけどね」
少女は悠火を指差す。
「悠火知り合いか?」
「いや、知らねぇ。誰だお前」
悠火は目の前の少女に名を尋ねる。
しかしそれに答えなどは少女ではなく竜夜だった。
「悠火さん知らないんですか!? この方は宮園家の次期当主となられるお方! 宮園舞姫様ですよ!」
「宮園……は!」
「思い出しましたか……」
「ここの宿、確か宮園苑だったな!」
「そうじゃない!」
悠火のボケに竜夜が見事に突っ込みを入れる。
「もういいわ。三下は黙ってなさい」
舞姫は竜夜を睨みつけて言う。
「私の名前は宮園舞姫。特別に姫と呼ぶことを許可するわ」
「嫌だよ。初対面の女子を姫とか」
「なっ! あんた、私が下手に出てるからって調子に乗らないでよね!」
下手に出るの意味を知ってんのかこいつ、と突っ込みたいのをぐっと堪える。
「で、要件は何だ? 俺たちの早く部屋で休みたいんだけど」
「ふんっ! まあ話の早い奴は嫌いじゃないわ。光栄に思いなさい! あなたを……いいえ、あなたとあなたのお友達を私の傘下に加えてあげるわ」
「傘下? 何言ってんだ?」
「いいこと? 妖術師には名家と言われる家がいくつかあるの。その中でも最上位の五大家と呼ばれる五つの家がある。その内の一つが宮園家。つまり私の家ってこと」
「つまり、五大家である宮園家の傘下になることで、この先妖術師として活動しやすくなるってことかな?」
流石光秀、話の理解が早い。
「なかなか頭の回転が速いみたいね。その通りよ。今後あなたたちが妖術師として活動するならどこかの傘下に入っておいた方が良いってこと」
「ふ〜ん。そっか……」
「わかったらこの手を取りなさい」
舞姫は悠火に向かって手を差し出す。
「悪いが、俺たちは傘下には入らない」
「え? 何? よく聞こえなかったわ。もう一度言ってちょうだい」
「俺たちは傘下には入らないって言ったんだ。話がそれだけならもう行くぞ。せっかく誘ってくれたのにごめんな」
悠火は階段を上がって部屋へと戻ると。それを他の三人も追いかける。
そして階段には舞姫だけが残された。
「な、何でよ! 五大家よ! 私は次期当主なのよ! それにこんなに可愛いのよ!」
舞姫の叫びは虚しくこだまするだけだった。
しかし、そんなことを言いながら本心では。
(ああ……またやっちゃった……何で素直にあなたの隊に入りたいって言えないの……あんな上から目線じゃ嫌われるに決まってるよ……それにしても、生で見ると五割増しでかっこよかった……)
悠火はそんなことを知るはずもなく、呑気に部屋でトランプをしていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。こんぐです。
新キャラ舞姫は何話か前で出てきた、モニタールームの子です。
読んでわかったように、ツンデレです。
僕はツンデレキャラ書いたことがないので、口調とか変だと思いますがご了承ください。
その道のプロの方、ご意見の程よろしくお願いします。
それではまた次回!
2020/5/12一部改稿
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