人外と友達になる方法

コング“シルバーバック”

第21話 もしもの話 〜狐々愛過去篇〜

 火乃香との約束の日の前夜。

「天狐様、明日の約束忘れてませんよね?」

「くどいぞお主! 毎晩毎晩、妾の部屋に来てそればっかり言っておるではないか! 妾は暇ではないのじゃ!」

 あの約束から毎晩、火乃香は狐々愛の部屋に訪れては約束の確認をしている。

「それじゃ私の入室を許可しなかったらいいではないですか」

「そ、それはそうじゃが……」

「あ、もしかして天狐様寂しいんですか? 可愛いとこありますね」

「うるさい! うるさい! うるさいのじゃ! お主、どんどん馴れ馴れしくなっておらんか!? 妾は大妖怪天狐なのじゃぞ!」

 狐々愛は口を膨らまし、そっぽを向いてしまった。
 それを見て火乃香は楽しそうに笑っている。

「では私はこれで」 

 火乃香が立ち上がり部屋を出て行く。

「ん、おやすみ、火乃香」

「おやすみなさいませ、天狐様」

 その夜は薄気味悪いほどとても静かな夜だった。




 もちろんこの時代に目覚まし時計など無く、町人たちは鶏の鳴き声や、風の音で目を覚ましていた。

「ん……朝か……」

 狐々愛はいつも決まった時間に起きている。
 習慣化されているため寝坊したことはほとんどない。
 この日もいつも通りの時間に起きた。
 起きたはずなのに………

「おはようございます! 天狐様!」

 枕元に火乃香が座っていた。

「なっ! 貴様何故ここに!」

「天狐様が寝坊しないか様子を見に来ました」

「だからと言って部屋に入ってくるな! あと、妾の寝顔を見たじゃろ!」

「まあまあ、いいじゃないですか減るもんじゃなし」

「今日という今日は許さんぞ! 表へ出るのじゃ!」

「出かける気満々ですね、天狐様」

 火乃香はニコニコと楽しそうに笑う。

「ち、違う! 断じて違うぞ!」

「そんなこと言わないでほら早く着替えてください」

 火乃香の圧に押され、狐々愛は渋々着替えることにする。

「わかった、わかったのじゃ。着替えればいいんじゃろ」

 狐々愛は文句を言いながらも変化の術で着替えることにした。
 しかし、変化しようとした時、狐々愛は気づいた、座ってこちらを見ている火乃香に。

「さっさと出て行かぬか!」

 変幻のため服を脱ぐことはしないが、それでも着替えを見られるのは乙女として嫌だ。
 狐々愛は火乃香を部屋から叩き出した。




 着替え終わり、狐々愛と火乃香は二人で町を歩いていた。

「今日は火乃香の気になる女子とやらに髪飾りを買うんじゃったな?」

 狐々愛は隣に立つ火乃香の顔を覗き込んで聞いた。
 狐々愛が小柄というのもあり、火乃香と狐々愛はかなり身長差がある。

「実は……」

火乃香はバツが悪そうに頬を掻いている。

「何じゃ?」

「あれ、嘘なんです。ああでも言わないと天狐様は来てくださらないような気がして」

「……妾に嘘をつくとはお主、なかなかの度胸じゃの」

「すみません。代わりに何でも一つ言うことを聞きますよ」

「それなら……まぁ……許してやらんこともない」

 狐々愛は少し考えて火乃香の目を見て言った。

「この戦で絶対に死ぬな。必ず生きて帰れ」

 狐々愛が望むことはこれ以外に無い。

「はい……承りました」

しかし、強いて言うなら……

「あと、甘い物が食べたいの」

「ふっ……わかりました、少し行ったところに評判の甘味処があるのでそこに行きましょう」

「お主、今笑ったであろう!」

「いえ、ちょっと子供っぽくて可愛いなって思っただけです」

「悪かったの! 子供っぽくて!」

 拗ねて口を膨らませる狐々愛の手を火乃香が引っ張る。

「行きましょう、天狐様」

 火乃香に引っ張られながら、狐々愛は甘味処へと向かった。




 日が傾き始め、火乃香と狐々愛の町デートも終わりを迎える。

「天狐様、今日は楽しかったですか?」

「うむ、妾は十分満足じゃ」

「それは良かったです」

 火乃香に朝のような元気がない。
 それもそうだ、明日からはまた生死をかけた戦場へ戻るのだから。
 そんな火乃香の心中を察して、狐々愛も必要以上に話しかけることはしない。

「天狐様」

 そんな空気の中、火乃香が口を開いた。

「少し、変なことを聞いてもいいですか?」

「何じゃ?」

「天狐様って家族……というか、所帯はお持ちなのですか?」

「しょ、所帯! そんなのは持っておらん!」

「そんなにムキにならなくても……そうなんですね……」

 火乃香はどこか嬉しそうな顔をしている。

「本来、妖狐の長たる天狐は所帯は持たん決まりじゃ、それに妾が天狐でなくとも貰い手がおるとは思えんしな」

「そうなんですか……それじゃ……」

 火乃香は少し間を置いて言った。

「もし、天狐様が人間だったら、私と結婚してくれましたか?」

「…………は?」

 何を言われたかわからなかった。

「もし天狐様が人間だったら私と結婚してくれましたかって聞いたんです」

「妾をからかうでない! 妾はそう言った冗談が嫌いなのじゃ!」

「冗談でも、嘘でもありません。私は天狐様に恋慕の情を抱いているのです」

 火乃香が冗談でそんなことを言う人間でないことは狐々愛が一番よくわかっている。

「……その問いに答えることは出来ん……すまんな」

 狐々愛は火乃香の顔を見れなかった。

「……そうですよね、変なことを言ってすみません。私は用事を思い出しましたので先に帰ります。それでは」

 火乃香は颯爽と去って行った。
 火乃香の声は聞いているこちらが苦しくなるほど辛そうだった。

「すまん、火乃香……妾は、妾は……」

 狐々愛は術式で自分の姿を隠すと、道の隅に座り込んで泣いた。
 涙が枯れる程泣いた。
 やっと涙が止まり、顔を上げると空はすっかり夜になっていた。
 その夜の空には、あまりにも美しく、そして、今にも消えてしまいそうな満月が朧げに浮かんでいた。




読んでいただきありがとうございます。コングです。

今回は少し長くなってしまいました。火乃香と狐々愛の掛け合いのアイデアが止まらず、こんなことになってしまいました。

過去篇はおそらくあと二話続きます。
その後から、本格的にアクションになっていくと思うので、お楽しみに!

それではまた次回!



2020/4/24一部改稿

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