人外と友達になる方法
第6話 君の名は 〜学校篇〜
悠火(と天狐)が家に帰ると祖母が出迎えてくれた。
「お帰り。遅かったわね」
悠火の祖母、静香は悠火の親代わりとして時に厳しく、時に優しく悠火を育ててくれている。
静香には心配をかけないようにしている悠火だが、今日は少し心配をかけてしまったらしい。
「うん、ちょっと……友達と遊んでて」
悠火がそう言うと、静香はそれ以外言及はしなかった。
「そう、もう少しでご飯できるから待っててね」
「うん。ありがと」
それだけ言うと静香は台所へと帰って行った。
「なあ、天狐。お前って飯とかいらないのか?」
悠火は手首に付けてある数珠のブレスレットに向けて聞く。
するとブレスレットから声が聞こえた。
いや、耳を介してではなく頭に声が響く感じだ。
『妖力は主人から分けて貰えば良いからのう。じゃが食事からも妖力は取れる。食事をするに越したことはない』
つまり食べても食べなくても良いと言うわけだ。
でも長い間一人ぼっちで封印されていた天狐のことを考えると、何か食べさせてやりたい。
「ふーん。まあ、後で婆ちゃんにバレないように何か食わせてやるよ」
『おお! ありがとうの!』
天狐の反応やテンションからは、さっきみたとてつもなく強い姿やプレッシャーは微塵も感じない。
むしろ小さな子供と接しているような気分になる。
『じゃから、妾は子供ではない!』
そうだった、心が読めるんだった。
悠火たちがそんなやりとりをしていると台所から静香の声がする。
「悠火〜、ご飯よ〜」
「はーい。今行く」
天狐はまだぶつぶつと文句を言っていたが、それを気にせず悠火は夕食を食べにテーブルへと向かった。
◇◇◇
そしてその日の夜。
「なあ、お前のこと俺以外にバレちゃだめなのか?」
『そうじゃのう……あまり沢山の人間に知られるのは良くないが、お主の身内くらいなら良いかもしれんな』
「そっか……」
奏鳴や光秀の記憶を消したくらいだ、あまり人に知られない方がいいのだろう。
『妖怪』と聞いて良いイメージを抱く者は殆どいないだろう。
『あ、そうじゃ妾もお主に聞きたいことがあるんじゃが』
天狐が悠火に聞きたいこととは一体何だろうか。
悠火より天狐の方が色々と知っていそうなのだが、むしろ優香の方こそ聞きたいことが山ほどある。
しかし、先に聞いてきたのは天狐なのでここは天狐に順番を譲ることにした。
「ん? 何だ?」
天狐からの質問は想像の斜め上を余裕で超えてきた。
『お主の名を教えてくれんか?』
いや、質問のレベルで言えば下回っている気がする。
その質問に悠火はため息を吐く以外ことができなかった。
しかし思い返してみると、確かにあの廃墟で名乗ってないので天狐が悠火の名前を知る由はない。
「お前さ、名前も知らない奴と契約したのかよ。知らない人と契約しちゃいけないってお母さんに言われなかったのか? お父さん心配よ?」
『勝手に妾の父親面をするでない! まあ、名前も知らずに契約したことは反省しておる……』
予想外にも素直に謝る天狐に父性を擽られる。
てっきりもっとツンツンした返事が返ってくるかと思っていたのだが。
「それじゃ、俺の名前は伊鳴悠火。気軽に悠火って呼んでくれ」
『……伊鳴?』
「そうそう。あ、狐と伊鳴で俺たち相性いいのかもな」
狐はお稲荷様だ。
漢字は違えど音だけ聞けば伊鳴も稲荷も変わらない。
『そ、そうじゃな……一度自己紹介はしたが改めて、妾の名は天狐じゃ』
「妖狐で天狐って何か他の名前無かったのか?」
妖狐と天狐、似たような響きだ。
『天狐とは本来、妖狐族の長に与えられる名じゃらかのぉ。妾は生まれた時から少し特殊だったので天狐を襲名するまでの名前はないのじゃ」
天狐の話によれば、本来ならある程度成長した者の中から族長を選ぶため、族長になる前に与えられた名前と、族長としての名前の二個があるらしい。
天狐は特に気にしていない様子だが、名前が無いというのはあまりにかわいそうだ。
「じゃあさ、俺が名前付けてやる」
悠火はそう提案する。
正直ネーミングセンスに自信はないが、大切な式神のために人肌脱ぐことにした。
『良いのか?』
天狐が少し申し訳なさそうに聞いてくる。
「もちろん。問題はどんな名前にするかだけど……」
悠火は頭を抱えて悩む。
しかしいい名前が一向に思いつかない。
『別に、すぐじゃなくてよいぞ』
「じゃあ、少し時間もらおうかな」
悠火はお言葉に甘えて少しだけ考える時間をもらうことにした。
名前を考える上で、天狐の容姿をもう一度見ておきたいと思い、悠火は天狐を呼び出そうとする。
「なあ、どうやったらお前を呼びせるんだ?」
『簡単じゃ、名前を呼べばよい。とりあえず今は天狐でよいぞ』
悠火は言われた通り名前を呼んでみる。
「天狐!」
すると、ポンっと心地よい音と共に目の前に和装の少女が現れる。
先程裏山の神社で見た時と同じ服装だ。
「おお!」
和装の少女、天狐はこうして明るいところで見るとより一層可愛らしく見える。
「な、なんじゃ? あまりじろじろ見るでない!」
悠火の視線に気がついた天狐は恥ずかしそうに身を捩る。
そして大きなモフモフの尻尾で身を隠す。
「いや、お前って結構可愛いのな」
「………」
天狐は顔を赤らめて俯く。
しかし尻尾や耳はピクピクと動き、満更でもないことが窺える。
それにしても、綺麗な栗色の髪の毛にふわふわの毛並みの耳と尻尾、キラキラと輝く大きな瞳は、そういった属性が特に好きなわけではない悠火をも魅了する。
つまりは、可愛いということだ。
「そう何度も可愛いと言うでない!」
悠火の心を読んだのであろう天狐が今にも噛み付いて来そうな勢いで怒る。
「ごめんごめんって。あんま大きい声出すなよ、婆ちゃんに聞こえるだろ?」
しかしその直後、悠火の心配は現実のものとなった。
「悠火〜? 誰かいるの?」
静香の足音が近づいて来る。
「やばっ! 今お前が見つかったら言い訳できねぇぞ!」
「ううう、狼狽えるでない!」
悠火と天狐の2人が慌てふためく部屋の扉がゆっくりと開く。
「ちょっ! 婆ちゃん、待っ!」
悠火の制止も虚しく、完全に開いた扉の向こうでは、静香が天狐を見て言葉を失っている。
「いや、違うんだ! 婆ちゃん、これには深い訳が……」
しかし悠火の心配は完全に杞憂に終わった。
「まぁ! 可愛らしい!」
「「………へ?」」
見当違いな反応に悠火と天狐の二人は間の抜けた声を上げる。
「ちょっと悠火、お友達が来たなら言いなさいよ」
「いや、こいつは友達とかじゃなくて……」
「ねぇ、あなた。ご飯は食べたの?」
悠火の言い分など聞いていない静香は静香は天狐に問いかける。
「え? いや、まだじゃが……」
「じゃあ、ご飯食べていきなさい。今日のは自信作だったの!」
静香は天狐の手を引いてリビングへと連れて行く。
「……一件落着?」
部屋に一人取り残された悠火がポツリと呟いた。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
本編で天狐の名前は出ませんでしたが、実際まだ決まってません。なので、本来ならばここで出すつもりだったんですが、後回しになりました。
どんな名前がいいのやら…
それではまた次回!
2020/4/12一部改稿
「お帰り。遅かったわね」
悠火の祖母、静香は悠火の親代わりとして時に厳しく、時に優しく悠火を育ててくれている。
静香には心配をかけないようにしている悠火だが、今日は少し心配をかけてしまったらしい。
「うん、ちょっと……友達と遊んでて」
悠火がそう言うと、静香はそれ以外言及はしなかった。
「そう、もう少しでご飯できるから待っててね」
「うん。ありがと」
それだけ言うと静香は台所へと帰って行った。
「なあ、天狐。お前って飯とかいらないのか?」
悠火は手首に付けてある数珠のブレスレットに向けて聞く。
するとブレスレットから声が聞こえた。
いや、耳を介してではなく頭に声が響く感じだ。
『妖力は主人から分けて貰えば良いからのう。じゃが食事からも妖力は取れる。食事をするに越したことはない』
つまり食べても食べなくても良いと言うわけだ。
でも長い間一人ぼっちで封印されていた天狐のことを考えると、何か食べさせてやりたい。
「ふーん。まあ、後で婆ちゃんにバレないように何か食わせてやるよ」
『おお! ありがとうの!』
天狐の反応やテンションからは、さっきみたとてつもなく強い姿やプレッシャーは微塵も感じない。
むしろ小さな子供と接しているような気分になる。
『じゃから、妾は子供ではない!』
そうだった、心が読めるんだった。
悠火たちがそんなやりとりをしていると台所から静香の声がする。
「悠火〜、ご飯よ〜」
「はーい。今行く」
天狐はまだぶつぶつと文句を言っていたが、それを気にせず悠火は夕食を食べにテーブルへと向かった。
◇◇◇
そしてその日の夜。
「なあ、お前のこと俺以外にバレちゃだめなのか?」
『そうじゃのう……あまり沢山の人間に知られるのは良くないが、お主の身内くらいなら良いかもしれんな』
「そっか……」
奏鳴や光秀の記憶を消したくらいだ、あまり人に知られない方がいいのだろう。
『妖怪』と聞いて良いイメージを抱く者は殆どいないだろう。
『あ、そうじゃ妾もお主に聞きたいことがあるんじゃが』
天狐が悠火に聞きたいこととは一体何だろうか。
悠火より天狐の方が色々と知っていそうなのだが、むしろ優香の方こそ聞きたいことが山ほどある。
しかし、先に聞いてきたのは天狐なのでここは天狐に順番を譲ることにした。
「ん? 何だ?」
天狐からの質問は想像の斜め上を余裕で超えてきた。
『お主の名を教えてくれんか?』
いや、質問のレベルで言えば下回っている気がする。
その質問に悠火はため息を吐く以外ことができなかった。
しかし思い返してみると、確かにあの廃墟で名乗ってないので天狐が悠火の名前を知る由はない。
「お前さ、名前も知らない奴と契約したのかよ。知らない人と契約しちゃいけないってお母さんに言われなかったのか? お父さん心配よ?」
『勝手に妾の父親面をするでない! まあ、名前も知らずに契約したことは反省しておる……』
予想外にも素直に謝る天狐に父性を擽られる。
てっきりもっとツンツンした返事が返ってくるかと思っていたのだが。
「それじゃ、俺の名前は伊鳴悠火。気軽に悠火って呼んでくれ」
『……伊鳴?』
「そうそう。あ、狐と伊鳴で俺たち相性いいのかもな」
狐はお稲荷様だ。
漢字は違えど音だけ聞けば伊鳴も稲荷も変わらない。
『そ、そうじゃな……一度自己紹介はしたが改めて、妾の名は天狐じゃ』
「妖狐で天狐って何か他の名前無かったのか?」
妖狐と天狐、似たような響きだ。
『天狐とは本来、妖狐族の長に与えられる名じゃらかのぉ。妾は生まれた時から少し特殊だったので天狐を襲名するまでの名前はないのじゃ」
天狐の話によれば、本来ならある程度成長した者の中から族長を選ぶため、族長になる前に与えられた名前と、族長としての名前の二個があるらしい。
天狐は特に気にしていない様子だが、名前が無いというのはあまりにかわいそうだ。
「じゃあさ、俺が名前付けてやる」
悠火はそう提案する。
正直ネーミングセンスに自信はないが、大切な式神のために人肌脱ぐことにした。
『良いのか?』
天狐が少し申し訳なさそうに聞いてくる。
「もちろん。問題はどんな名前にするかだけど……」
悠火は頭を抱えて悩む。
しかしいい名前が一向に思いつかない。
『別に、すぐじゃなくてよいぞ』
「じゃあ、少し時間もらおうかな」
悠火はお言葉に甘えて少しだけ考える時間をもらうことにした。
名前を考える上で、天狐の容姿をもう一度見ておきたいと思い、悠火は天狐を呼び出そうとする。
「なあ、どうやったらお前を呼びせるんだ?」
『簡単じゃ、名前を呼べばよい。とりあえず今は天狐でよいぞ』
悠火は言われた通り名前を呼んでみる。
「天狐!」
すると、ポンっと心地よい音と共に目の前に和装の少女が現れる。
先程裏山の神社で見た時と同じ服装だ。
「おお!」
和装の少女、天狐はこうして明るいところで見るとより一層可愛らしく見える。
「な、なんじゃ? あまりじろじろ見るでない!」
悠火の視線に気がついた天狐は恥ずかしそうに身を捩る。
そして大きなモフモフの尻尾で身を隠す。
「いや、お前って結構可愛いのな」
「………」
天狐は顔を赤らめて俯く。
しかし尻尾や耳はピクピクと動き、満更でもないことが窺える。
それにしても、綺麗な栗色の髪の毛にふわふわの毛並みの耳と尻尾、キラキラと輝く大きな瞳は、そういった属性が特に好きなわけではない悠火をも魅了する。
つまりは、可愛いということだ。
「そう何度も可愛いと言うでない!」
悠火の心を読んだのであろう天狐が今にも噛み付いて来そうな勢いで怒る。
「ごめんごめんって。あんま大きい声出すなよ、婆ちゃんに聞こえるだろ?」
しかしその直後、悠火の心配は現実のものとなった。
「悠火〜? 誰かいるの?」
静香の足音が近づいて来る。
「やばっ! 今お前が見つかったら言い訳できねぇぞ!」
「ううう、狼狽えるでない!」
悠火と天狐の2人が慌てふためく部屋の扉がゆっくりと開く。
「ちょっ! 婆ちゃん、待っ!」
悠火の制止も虚しく、完全に開いた扉の向こうでは、静香が天狐を見て言葉を失っている。
「いや、違うんだ! 婆ちゃん、これには深い訳が……」
しかし悠火の心配は完全に杞憂に終わった。
「まぁ! 可愛らしい!」
「「………へ?」」
見当違いな反応に悠火と天狐の二人は間の抜けた声を上げる。
「ちょっと悠火、お友達が来たなら言いなさいよ」
「いや、こいつは友達とかじゃなくて……」
「ねぇ、あなた。ご飯は食べたの?」
悠火の言い分など聞いていない静香は静香は天狐に問いかける。
「え? いや、まだじゃが……」
「じゃあ、ご飯食べていきなさい。今日のは自信作だったの!」
静香は天狐の手を引いてリビングへと連れて行く。
「……一件落着?」
部屋に一人取り残された悠火がポツリと呟いた。
読んでいただきありがとうございます。コングです。
本編で天狐の名前は出ませんでしたが、実際まだ決まってません。なので、本来ならばここで出すつもりだったんですが、後回しになりました。
どんな名前がいいのやら…
それではまた次回!
2020/4/12一部改稿
コメント
さらだ
勝手に妾の父親〜〜ってセリフのカギカッコが「」になってるぞー。この時はまだ『』←これなんじゃないか?