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アイディアル・アイドルガール ~なんでもします! わたしをトップアイドルにしてください!~

佐倉唄

2章5話 シルバームーン(2)



 が、それと同時に――、

「少しうるさいよ~。何してる――の?」

 突然の乱入者は理歌おばさんだった。理歌おばさんはドアを開けた状態で放心、硬直している。そして放心状態から解放されると、ドアを閉めようとした。ドアが完璧に閉まる直前に一言。

「オジャマシマシター」
「「ちょっと待ってください! お願いしますウウウ――ッッ!」」

 俺と恋歌の切実な叫びを無視して、理歌おばさんは1階に戻ってしまった。その際に階段から独特なテンポの歌が。

「今夜は~、お~せ~き~は~ん~♪」

 嗚呼、なんてことだ。確実に誤解された。

「タク君、どうする? 続ける?」
「続けねぇよ!」

 恋歌にも雰囲気を壊された、という感覚はあるらしく、諦めて大人しくベッドから下りてくれた。俺もベッドから下りる。そして2人で床に正座した。お互いに何も喋らない。えぇ……、どうすんだよ、この空気。仕方がない。俺は沈黙を破った。

「ブログ、今のうちにやっちゃうか? わからないことがあったら、今だと俺に聞けるし」
「タク君、話題変えるのが下手すぎ。まったくもうっ」

 そう言いつつも恋歌は立ち上がりパソコンの電源を付けた。恋歌が椅子に座り、俺が後ろから覗くような形になる。壁紙は可愛らしいウサギのイラストだった。恋歌はインターネットに接続すると、アイドルビジョンにログインする。

「俺個人の見解だけど、ブログの名前、及びグループ名は、一番重要だからこそ、功を焦る必要はない。だから、俺が帰るまでにすることはプロフィールの作成だ」
「まずは『今後の目標』からするよ?」

 頷いて応じる。恋歌は入力画面にカーソルを置いて考え始めた。俺も恋歌の参考になれば、と、考える。今日の部活で思い付いた『タク君を落とす』みたいな恋愛関連はNGなのは当然。それを踏まえてどうするか?
 その時、恋歌の部屋のドアが控えめに2回ノックされた。

「どうぞー」
「恋歌、拓斗くん、クッキー焼いたから持ってきたわよ」

 入室してきたのは理歌おばさんだった。つい3分前に変な誤解をしたはずなのに、理歌おばさんはいつも通りに接してくれる。理歌おばさんはクッキーを机の上に置いても、1階に帰ろうとはしなかった。それどころか恋歌のパソコンに興味を示す。

「あら恋歌、アイドル活動やってるの? 拓斗くんが見てるから頑張ってるのね~」
「理歌おばさんは恋歌がネットアイドルしてるって知ってるんですか?」
「もちろん。恋歌はちゃんとワタシの許可を得て活動してるわ~」

 そうなのか、ちょっぴり予想外だ。昨今、自分のしていることを親に隠す子供が増えている中、恋歌はちゃんと親と仲良くしているんだな。

「なになに? 『今後の目標』? 拓斗くんを落とす、でいいんじゃない?」
「親子揃って同じこと言うのはやめてください。ブログが炎上しますから」

「でも~、最近は炎上商法なんてあるらしいじゃない?」
「それ、けっこう反感買いますからね!?」

 意外と黒いな、この人。十音先輩とは違ったヤバさだ。でもどこか抜けているから、きっと炎上商法をやっても失敗に終わるな。いや、失敗に終わったらまずいのか。

「じゃあタク君、逆にどういう目標ならOKなの?」
「ふむ、女子高校生らしさを前面に出して、なおかつファンの反感を買わない。これが理想的だな。これなら新規のファンも増えるだろうし」

 恋歌は、ついでに理歌おばさんも黙り込んでしまった。俺も言い出しっぺなので模範解答を見つけ出そうとする。が、それよりも先に恋歌がキーボードを叩いた。

「料理を頑張るなんてどうかな? 高校生らしさはわからないけど、女の子っぽいでしょ?」
「おう、いいんじゃないか」

「昨日、恋歌ってば『明日からタク君にお弁当作ってあげるんだぁ』って張り切ってたもんね。まぁ、今日は寝坊して失敗しちゃったけど」
「お、お母さん! ここでタク君にばらさないでよぉ!」

 そうだったのか。恋歌は悔しそうに理歌おばさんを睨み付けた。好きな異性に自分の秘密のアプローチがバレたら、確かに死にたくなるよな。俺、初恋まだだけど。

「どう? 拓斗くんは恋歌のお弁当、食べてみたい?」

 急に話題を振られたら困惑してしまう……。理歌おばさんはニマニマしてこの状況を楽しんでいる。恋歌は不安げに俺を見つめている。こんなの、最初から答えは決まっていた。が、正直照れくさくて言いづらい……。でも、言葉にしなきゃダメだよな。

「食べて……みたいです」
「おお~、良かったわね~。恋歌。どんどん外堀が埋まっていくわ。恋愛にはこうやって断りづらい状況を作るのが一番なのよ?」

「流石、お母さん!」
「理歌おばさんか! 恋歌に外堀を埋めるように仕向けたのは! うちの部長が舌巻いていたけど、俺は認めないぞ!」

 してやったり、と、理歌おばさんは楽しそうに笑う。その笑みを恋歌に向けると、恋歌も嬉しそうに顔をほころばせた。対して俺は今、どんな表情をしているのだろうか? 自分でも想像できない。

「でも、食べてみたいんでしょ? 恋歌の手作りのお弁当を」
「う……はい」

 これが理歌おばさんの言う『断りづらい状況』か。恋歌が期待に満ちた輝いた瞳を俺に向ける。確かにこんな状況で断れないからな。でも、恋歌の弁当を食べてみたいのは本心なのだ。なんとなく、昔に戻ったみたいに食べてみたかった。小学生の遠足の時は恋歌が作ってくれたからな。

「えへへ~、そっか。タク君は私のお弁当を食べてみたいんだ。仕方がないから、明日から作ってきてあげるよ!」
「うぐ……じゃあ、明日からよろしくお願いするよ」

 相変わらず俺は恋歌に弱いな。恋歌は隠そうとしても隠し切れていないデレを飽和させながら、パソコンに向き直した。

「次は『将来の夢』だね。何が良いと思う、お母さん?」
「そんなの、拓斗くんのお嫁さんで、ファイナルアンサーよ~」
「あんたら本当に仕組んでないか!? 息、ピッタリ過ぎるだろ! それは部活で却下されましたから、ここでも却下です!」

 2人で揃ってブーイングする星乃親子。仕方がないだろ。そんなことを記入したらファンが泣くぞ! 一通りブーイングをすると恋歌は釈然としない様子で、再び思考している素振りを見せた。

「ん~、無難に『国民的アイドルになる』にしようかっ」
「あれだな。十音先輩がいないだけで、ここまで作業が進むんだな」

 そしてキーボードを指で叩く恋歌。確かに良い夢だと思う。

「3つ目は『ファンへのメッセージ』だね」
「そうね~、『わたしには好きな人がいます』なんて書いたら良い感じに炎上するわよ」
「だからなんでそこまで炎上させたがるんですか!?」

 娘の活動を応援してくれよ! そんな俺の心の叫びをスルーして理歌おばさんはクッキーを取ってひとかじりした。恋歌も1個口にする。俺だけ食べないのも気まずいので1個もらった。


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