アイディアル・アイドルガール ~なんでもします! わたしをトップアイドルにしてください!~

佐倉唄

2章1話 ムード・オブ・パステルピンク(1)


「あなたたち、さっきから挙動が不自然よ? どうかしたのかしら?」

 恋歌れんかがアイドル同好会に入部した翌日、つまり恋歌が俺にキスをした日の翌日のことになる。放課後がやってくると俺は部室棟の3階にある部室を目指した。ドアを開けると、すでに席に座っていた恋歌と十音とおん先輩。

 当然、俺は恋歌を見て昨日のことを思い出した。それは恋歌も同じようで、チラチラこちらを意識してくるが、かたくなに話しかけてこない。一方、俺もどこか気まずくて、恋歌に話しかけられないでいる。

 そんな俺と恋歌のぎこちなさに、十音先輩が気付かないわけがない。イタズラ大好きな目を細めてついに踏み込んできた。

「昨日、私と別れてから何かあったのね?」
「「ソンナコトナイデスヨー」」

 見事なまでの片言だった。否定してもまるで説得力がない。自分の片言は棚に上げて、恋歌をきつく睨むと、偶然にも視線が交差する。結果、恋歌の顔は一瞬にして沸騰。それは俺から見ても、十音先輩から見ても明らかだった。

「ああ、初体験でもしちゃったのかしら?」
「していません! したのはキスです!」

 自爆! 見事なまでの、圧倒的な自爆だった! 恋歌は己の失態を認めると、両手で口を隠した。やはり恋歌は別の意味でチョロインだった。まぁ、それではかわいそうなので、俺の中の恋歌の属性はドジ娘に分類しておく……。

「ゆ、誘導尋問なんて汚いよ!」
「こんなのを誘導尋問なんて言ったら、本職の人は爆笑するわよ。星乃ほしのさんが勝手に自爆しただけじゃない」

「流石に俺も今回の恋歌はフォローできないな」
「ひどいよぉ、タク君まで」

 涙目で助けを求めてくる恋歌。十音先輩も悪いが、あまりにも恋歌の失敗が大きすぎる。

「にしても路上でキスするなんて、星乃さんはとんだ淫乱ね」
「待て、なぜ路上でキスしたことを知っている?」

「だって私はずっと後ろであなたたちを観察していたもの」
「恋歌が淫乱なら、アンタはストーカーだ! ストーカー、ダメ! 絶対!」

「倒置法を使うなんて、高槻たかつきくんの突っ込みもレベルが上がってきたわね。20点」
「低い! レベルが上がってもその程度か!」

 十音先輩のボケと俺の突っ込み。その応酬で話が全然進まない。が、ここで恋歌が不利な状況をひっくり返すべく、話題をすり替えてきた。

「た、タク君、今月の活動内容考えてきた?」
「も、っ、もちろんだ! さぁ、会議を進めよう!」
「話をすり替えるのが致命的に下手クソね」

 話を変えるのが下手クソでもかまわない! そうじゃなきゃ、十音先輩は長々とキスのことで俺たちを弄ってくるはずだし……。それに昨日、活動内容を仕上げて来いって命令したのは十音先輩じゃないか。

「とりあえず3つほど活動内容を考えてきました。まず1つ、ホシノ関連のページのアクセス数を増やして順位を上げるために、ホームページを開設します。アイドルビジョンの機能を使えば、意外と簡単に作れるらしいので」
「本格的だね♪ 流石タク君!」

「良い感じじゃない。それで、残りの2つは?」
「2つ目はやっぱり動画や写真をもっとUPする。3つ目はコンセプトを決める。この3つがとりあえず今月の活動内容です」

 小さな拍手が部室に響いた。恋歌が尊敬の眼差しを俺に送ってくる。大したことはしていないけどな。

「まず今日はホームページ開設をしようと思います」
「異議はないわ」
「わたしも」

 賛同を得られると、俺は家から隠して持ってきたノートパソコンの電源を入れる。そしてやはりアイドルビジョンのページを開いた。出番だ、ポケットWi-Fi!

「さて、活動を本格的する上、及び、ホームページを作る上で一番重要、かつ一番初めにやっておきたいのは、グループ名の決定だ」

「? グループっていっても、わたししかいないじゃん」
「これからメンバーが増えるかもしれないだろ? そうじゃなくても、グループ名はホームページのヘッダーに載せるのが一般的だし」

「うーん、『ホシノグループ』はどうかな?」
「ネタか? 天然か? 地味だから却下。もう少しインパクトが欲しい」

「それでは『ふしだらな堕天使 ~夜はオジサンと歌って踊る?~ 』なんてどうかしら? インパクトは他と比べて圧倒的だわ」
「却下! 十音先輩はさっさとエロ同人ゲームサークルでも立ち上げてろ!」

「タク君、もう『名称未定(仮)』でいいんじゃない?」
「逆に斬新だな! 頼むからネタと言ってくれ! 天然だったらフォローできない!」

 深呼吸して息を整える俺。この2人は厄介だ。恋歌は真面目に考えている素振りはあるが、いささか天然。十音先輩は名前を決めるよりもふざけることを優先している。この同好会には突っ込み役が足りていない。

「じゃあタク君が考えてよ」
「ふむ、『アイドルズ』なんてどうだ?」

「うわぁ……、それ、わたしのよりインパクトがないよ? なんていうか無個性。小学生でももっとマシな案が出てくると思う。単語を覚えたての幼稚園児かな?」
「ハァ~~~~…………、ここでボケに走れば良いものを……。突っ込み気質の高槻くんは人をディスるだけで、ボケの偉大さを理解していないわね。発想力は大事よ」

「誠に申し訳ございませんでした。深く反省いたします」

 ボケは偉大。突っ込みはボケを際立たせるためにある。そのことを強く再認識した。それでも十音先輩に文句をさせる筋合いはない。アンタのそれはボケに偽装されたセクハラだ。

「早速行き詰ったね。どうする?」

 恋歌がカバンからペットボトルのお茶を取り出して一口飲む。そして雑感を零した。

「う~ん、何も思い浮かばないときは連想ゲームをするのが良い、って、とある作家が言ってたな」

 そして訪れる沈黙。俺の意見に対して誰も何も突っ込まない。時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。連想ゲーム、か……。この3人でプレイするのは危険だ。恋歌は天然発言しか、十音先輩はセクハラしか、俺は突っ込みしかできない。それでも……意見が何も出ないよりはマシなの、か?
 結果、俺は口を開いておっかなびっくりに――、

「やりますか、連想ゲーム?」
「そ、そうだね……、何も案が出ないし」
「――仕方がないわね」

 結局連想ゲームをやることになった。ジャンケンの結果、順番は俺、十音先輩、恋歌の順になった。このゲームの鍵は、いかに俺が無難に十音先輩に繋げて、いかに十音先輩のセクハラを恋歌が受け流すかにかかっている。

「第1回、アイドル同好会、連想ゲーム! まずは俺から。アイドルといったら可愛い」

「可愛いといったら女子小学生!」
「はい、ストップ! このまま続けたら警察が来る気がします。よって次は十音先輩の連想を無視して恋歌からスタート」

「えっ……じゃあグループ名といったら…………なんでしょう?」
「それがわからないから連想ゲームをしてるんだよ!」

 予想通りに進んだな。十音先輩のセクハラ、恋歌の天然発言、俺の突っ込み。これは順番を変えるべきか? 俺は順番の変更を提案して、順番を入れ替えた。その結果、十音先輩、恋歌、俺の流れになった。

「連想ゲーム、リスタート。私から。アイドルといったら熱愛発覚」

 ぐ――っ! こらえろ、俺! ここで次に繋がなかったら永遠に終わらない、否、始まらない。突っ込むのは我慢しろ。

「熱愛発覚といったら密会、かな」
「そう、昨日の2人のようにね。初々しかったわね、キスに関する一連の流れ。背中がかゆくなったわ」
「その出来事を蒸し返すな! そして俺の順番を飛ばすな!」

 自分でも顔が熱くなっているのがわかる。一方、恋歌はだらしなく緩めている頬に手を当てて、幸せそうな表情だ。おおかた、昨日のキスを思い返しているに違いない。クソ……、俺も思い出してきた。あの時の恋歌の感触、柔らかかったな……。

「高槻くん、顔がだらしないわよ。教えてあげるけど、あの時、歩行者はいなかったけど、車はそれなりに走っていたわ」
「すみません。これ以上俺たちで遊ばないでください。俺が悪かったです」

 キスシーンを十音先輩以外に目撃されていた事実が判明すると、俺は十音先輩に意味もなく謝った。むしろ十音先輩が俺に謝るべきなのに! でも、これ以上恥ずかしくなる情報は要らないんだよ。

「グループの名前は後回しでいいんじゃないかな?」
「そうだな……。だったら次は内容を決めよう」


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