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アイディアル・アイドルガール ~なんでもします! わたしをトップアイドルにしてください!~

佐倉唄

プロローグ グレーメモリー



 晴れ渡る青空。
 麗らかな春風。
 卒業生も在校生もほとんど帰り終わった少し寂しい校庭と校舎。

 それは3年前、小学校の卒業式が終了したあとの出来事だった。覚えている。忘れられるわけがない。当時の俺は、幼馴染の少女に告白されたのだ。場所はありきたりだが満開の桜の木の下で。

「ずっとずっと、タク君のことが好きでした――わたしと、付き合ってください!」

 彼女の言うタク君、というのは俺のことだ。高槻たかつき拓斗たくと、それが俺の名前。彼女は俺のことを幼稚園の頃からタク君と呼んでいる。
 ドラマや小説だったら、ここで俺が頷いて幸せなエンディングを迎えるのがテンプレートだろう。だが、俺は頷かなかった。正確には頷く理由がわからなかった。嗚呼、その理由は今でもわからない。

「なあ、恋歌れんか。付き合うってどういうことだ?」

 幼馴染の少女、星乃ほしの恋歌は赤面した。視線を下に向けたと思えば、再び俺の方を見る。そうかと思えばまた下を向く。指を絡ませる。髪の先を弄る。その行為を何回か繰り返した。そして、いじらしく、いとけなく、花の蕾のように薄桃色で小さな唇を開くと――、

「そ、それは、わ、わたしとタク君が、恋人同士になるってことだよ?」

 瞬間、春らしく麗らかな風が桜花を舞い上げ、恋歌のサラサラな長髪をなびかす。その姿は美しいとも、可憐とも思えた。だが、どうしても、それを恋とは思えなかった。

「それって、お互いが恋しているってことだよな?」

 当たり前のことを訊くような質問だが、当時の俺には恋人同士になる意味が理解できなかったのである。今でも恋人同士になる条件はわかったが、感情は、感覚は、クオリアはわからない。
 恋歌は儚く消えそうな声で呟いた。

「……うん。そう、だよ」

 あの時点で、恋歌は俺と付き合うことが難しいと悟ったのかもしれない。だからあんなにもか弱い声で、瞳を潤ませて返事をしたんだ。
 結果、次に、卒業式をすませたとはいえ、当時3月であることを鑑みて、一応小学6年生の頃の配慮が足りない俺は、共感すること、理解してあげることが苦手な高槻拓斗は、恋歌の想いに気付けず、決定的な言の葉を紡いだ。紡いでしまった。そのことは、今でも後悔している。

「じゃあさ、恋をするってどういうことだ?」

 その一言で、恋歌の瞳から一気に涙が溢れ出した。
 恋を知らないってことは初恋もまだ、ってこと。恋を知らないってことは恋歌を恋愛対象としてみてなかった、ってこと。俺はあまりにも残酷な方法で恋歌を振った。
 恋歌はその場で半回転して俺に背を向けた。その時には地面は湿っていた。

「……ゴメン、わたしにもわからない。……わからないのに、告白、しちゃった」

 卒業式には俺も恋歌も、4月から通う中学校の制服で出席したのだったが、後ろからでも、恋歌がその裾で涙を拭っているのが見えた。俺はポケットから、卒業式ということで一応親に持たされていたハンカチを取り出して恋歌に渡そうとした――が、恋歌は俺の手をはじいて走り去ってしまった。

 当たり前だ。好きな人に振られて、泣いてしまって、挙句の果てにはその人に慰められる。しかもその人は慰めてくれるが共感、理解はしていない。自分がされたらすごく惨めだ。恋歌もそうだったんだと今でも思う。

 それから恋歌とは疎遠になった。気まずさを引きずったままで、電話もできなかった。最後に会ったのは彼女が引越しをする当日だった。


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