ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 グラン・ソラスの日常②

謁見というのは思っていたより面倒な作業だ。俺はてっきり話だけ聞いてはい次の人――と、ベルトコンベア方式になるのかと思ったら違った。まず堅苦しい挨拶から始まって本題に入り、話し合いが終わったらまた挨拶をして帰って行く。文字にすれば簡単だが、人によっては話し合いが一時間二時間とかかるので結構疲れる。


大きな商談を持ちかけてきた商人の背中を見送って、大扉が閉められた瞬間大きく背伸びをする。他国の玉座と違い俺の使うのは座り心地優先の質素な物なので多少はマシなはずなんだが、それでも疲れた。椅子からずり落ちそうなほど足を投げ出す俺を見て、両脇に立つ親衛隊の女の子達が苦笑している。


「お疲れ様でした陛下。午前中の謁見は今の方で最後です。昼食を取られた後、次の謁見まにガルシア地方の視察を進めておきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。じゃあさっさとメシにしようか」


今までは一階の大食堂を使っていたんだが、王様業を始めてからはもっぱら同じ階の執務室で食事する事にしている。俺が入ると気を遣わせる――と言うのが理由ではなく、単に下まで降りるのが面倒なだけだ。ルシノアは自分の部屋で昼食を取りながら仕事すると思うので、俺と同席する事は少ない。俺の方も無理に誘ったりはしない方針だ。メシ食ってる時にまで上司の顔を見ていたくないだろうからな。


昼食が終われば剣と指輪だけを装備して、ルシノアや護衛達と共に新たに領地になった土地に転移だ。普通の王族なら護衛付きの馬車で何日もかけて――だろうけど、俺には転移があるし国土も狭いので、そんな面倒な事はやってられない。このフットワークの軽さこそが俺達の強みでもある。


「すでに地縄張りは始まっているようですね」


以前訪れた事のある村に隣接する形で、建設業者と思われる男達が建物の建築位置を決める作業を行っているのが見えた。かなりの人数がこの小さな村に滞在しているようで、周囲には簡易の天幕がいくつも並んでいる。利に聡い商人達はそれらを見越して既に露天を開いており、業者の人間は勿論の事、元から住んでいた村人達とにこやかにやり取りしているようだ。


「エスト陛下、それにルシノア様、ご無沙汰しております」


村の様子を観察しながら何か必要な物や改善する点を相談していた俺達に、一人の男が声をかけてきた。誰かと思えば以前グラン・ソラス城を尋ねてきた商人ギルドの人間だった。彼は仮の店舗だったグラン・ソラスの商人ギルドの責任者で、今は新しく造るこの街のギルドのギルド長として就任予定らしい。


「久しぶりだな」
「ご無沙汰していますピエトロ殿」


俺が名前を覚えていないと予想したルシノアが、挨拶を交わしながら彼の名前を教えてくれた。頼りになる人でよかった。


「ピエトロ殿、街の建設は順調ですか?」
「細かい問題は日々起きていますが、概ね問題なく進んでおります。我が商人ギルドの管理の下、いずれの商会も公平に、精力的に働いておりますので」
「それは何よりです」


この世界における商人ギルドの立ち位置は少し特殊だ。俺はてっきり各商会の寄付金か何かで運営している、発言力はあっても実行力のない国連のような組織だと思っていたのだが、まるで違っていた。


ヒエラルキー的にはまず一番上に商人ギルドがあり、その下に各商会が存在し、次に街に根を張る個人店、最後に行商人と言う順番だ。商売人として身を立てる者はほぼ全員がこの商人ギルドに加入しているらしく、加入していない場合は様々な圧力で商売をする事も難しくなるらしい。当然商人ギルドと言っても全ての街や村を監視しているほど暇ではないので村おこし程度の規模までなら見逃してくれるだろうが、それ以上になるとあっさりと潰されるようだ。


そんな組織があるものだから、今回のように街を造るとなるとまずギルドから人が派遣され、その管理の下各商会に仕事が割り振られるらしい。ギルドのおかげでいかに力のある商会であろうと事業を独占する事など不可能なため、末端の加入者まで恩恵が得られるように色々細かいところまで細分化しているようだ。ギルドの存在も善し悪しと言ったところか。


ちなみに以前俺が直接建設業者を誘致した事があるが、その時ギルドは特に口を挟んでこなかった。領主直々と言う理由より、俺を怒らせて揉めたくなかったのが一番の理由のようだ。


「国に何か要望があれば遠慮せずに言ってくれ。可能な限り善処する」
「ありがとうございます。その時は是非、お願いいたします」


ペコリと頭を下げて去って行くピエトロを見ていると、横に居るルシノアが小声で話しかけてきた。


「陛下。今のピエトロという男、あまり良くない噂を聞きます」
「……そうなのか?」
「はい。ギルドの職員は大なり小なり出世欲が強い者の集まりなのですが、あの男はそれが特に酷く、各商会に対して少なくない額の賄賂を要求しているようです」
「……なんでそんな事知ってるの?」
「あの男が力をつけるとそれだけ危険視する勢力も増えると言う事ですね。今は泳がせていますが、近いうちに首をすげ替えさせる予定です」


一体いつの間にそんな事を調べ上げたのか。俺は知らずに冷や汗を流していた。


「それって誰かのタレコミ? それとも自力で調べたの?」
「後者ですね。我が国には優秀な密偵が沢山居ますから。ギルドに潜り込んで情報を集めるなど造作もありません」


密偵か……。グリトニルのリムリック王子は自分の下に諜報機関を作っていたけど、ルシノアもああいうのを作るつもりなんだろうか? ま、その辺は頭の良い彼女に任せておけば間違いないだろうけど、俺が気になるのはなぜピエトロを放置しているのかだ。


「簡単に言えば我が国の利益のためです。現在商人ギルドには事業のまとめ役を任せる代わりに税を納めさせていますが、ギルド側の取り分が少し多いのです。恐らく新興国だと舐めてかかっているのでしょう。そこである程度街の形が整ってからピエトロを糾弾して新たな人材にすげ替えて、我が国有利な税率に変更しようと思いまして。ギルド全体を罰する事はしないけど、その代わり――と言った感じでしょうか」
「お、おう……」


笑顔でえげつない計画を打ち明けられて俺は言葉に窮した。俺ぐらい単純だととりあえず殴り込んでから解決するんだが……ルシノアみたいなやり方もあるんだな。勉強になった。


なんか打ち明けられた秘密が壮絶すぎて視察の事が頭からスッポリ抜けた気もするが、これも国王としての良い経験になると信じよう。

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