ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集
外伝 グラン・ソラスの日常①
結婚式が終わった後、俺としては新婚旅行にでも行きたい気分だったんだが、俺達を取り巻く環境がそれを許してくれなかった。
独立後、最初にしたのは俺の戴冠や結婚を祝うため城を訪れた多くの人々の相手をする事だ。上は国の重鎮から下は近所の村人まで。様々な人が祝いの品を持って、決して大きくないグラン・ソラス城の廊下に長大な列を形成したのだ。
流石に国の重鎮ともなると直接列に並ぶ事はせず、会う時間をあらかじめ決めておいてからの面会となったが。
「エスト陛下、戴冠おめでとうございます!」
「エスト様、これ、村のみんなで出し合った贈り物です。受け取ってください!」
「勇者様! グラン・ソラスと国境を接する我が街との街道を結んでいただけませんか!?」
単純な祝いの言葉から商取引の誘い、そして国内の陳情や他国の街からの要請など、俺だけなら確実に処理しきれずパンクしていたところだが、宰相の地位に就いたルシノアのおかげでなんとかパニックにならずに済んだ。なにせ、判断に困った場合横に居るルシノアに視線をやると、すぐさま耳打ちで的確なアドバイスをくれる。そして俺がよかれと思ってした発言が間違っていた場合、すぐ咳払いで注意してくれる。非常に有能な宰相だった。もうルシノアに全部任せて、俺は寝てて良いんじゃ無いかと思ったぐらいだ。
「陛下。一人だけ楽をしようなんて考えないでくださいね」
「……わかってますとも」
ニッコリと迫力ある笑みを浮かべるルシノアから逃亡する事も出来ず、結局挨拶攻勢が収まるまでの約一週間、俺とルシノアは謁見の間からほとんど動く事も出来なかった。クレア達は関係ないのかと言えばそんな事も無く、玉座の横に設けられた王妃専用の椅子には彼女達が日替わりで座り、来客に向けて笑顔を向ける事になった。流石に俺やルシノアほどではないけど、彼女達もこの一週間でかなり疲れたようだった。
「やっと終わった……」
謁見の間から執務室へ場所を移して最初にしたのは、椅子の背もたれに全力で寄りかかりながらの背伸びだった。普段隙を見せる事の無いルシノアでさえストレッチをしているぐらいだから、彼女も疲れたのだろう。
「明日からは楽になるんだよな?」
「はい。今日で面会予定は全て終了しましたので、明日からは通常通りとなります。エスト陛下の決められたように、午前九時から正午まで。午後一時から午後三時までが面会時間となります。もっとも、火急の用件の場合は別ですが」
俺が設定したのは、病院を参考にした時間帯だ。他の国の王様は一日中受け付けていたり、午前中だけ面会したりと色々あるようだが、俺はこの時間帯のみを面会時間に充てた。一日中座っているのはともかく、人の話を黙って聞いているのは苦痛でしか無い。度々あった会社の研修ですら拷問のように感じていたのだ。俺が一番偉いなら、これぐらい融通を利かせても問題ないだろうと判断した。
「大変でしたね……私は何もしていないのに、物凄く疲れました……」
「同感だ。普段あまり笑わない私が笑顔を浮かべ続けるというのは、思いのほか苦行だった」
クレアやディアベルも疲れのため今は机に突っ伏している。着慣れない正装に身体を締め付けられていれば、疲れも倍増したことだろう。その内この服も簡素化しなければいけないな。
「陛下、今回受け取った祝いの品は、陛下や王妃様が個人的に使える物を除いて、全て国庫へ移しますがよろしいでしょうか?」
「うん。それで構わないよ。どうせほとんど貴金属だろ?」
「はい。国内の村などから贈られた装飾品の類いは城内に飾っておくよう指示を出しましたので、それ以外は緊急時に売却するため保管しておきます」
各国から訪れた客の贈り物は派手に飾り付けられた貴金属の山がほとんどだった。最初見た時はあまりのセンスにドン引きしたものだが、この世界ではこれが一般的らしい。どうもそう言った品は受け取った後バラバラにして売るのが普通のようで、わざわざ分解しやすいように作っているのだとか。素直に金貨の山でもくれた方がマシだと思うんだが、色々と無視できないしきたりがあるのだろう。
一応この城にも宝物庫は存在する。部屋自体は簡素な作りだが、魔法による侵入を防ぐために様々な対策が採られており、部屋への入り口は常に兵士が見張っているので忍び込むのは困難なはずだ。
「それと、旧ガルシア領に建設予定の街についてですが、城の建設は予定通り業者に任せてもよろしいでしょうか?」
「俺が建てても良いんだけどね。金と時間はかかっても人を雇い入れた方が街も発展するだろうから、業者に任せるよ」
「かしこまりました」
新たに領土となった旧ガルシア領には、今の所街が無い。以前視察の時に出会ったクラトルと言う名の代官もガルシア本国に戻ったようだし、こちらから新たな人材を送らなければいけない。希望者を募ると主にガルシア出身の者が多く志願してきたので、当分は彼等を軸に領地の経営を進めていくつもりだ。
「今ある畑は全部残して、それを囲む形で城壁の建設、その後城だな」
「はい。商業や宿泊施設も同時に手をつける予定ですので、当分の間は賑やかになるでしょう。ですが、まず明日から行われる初公務に集中しましょう」
「だな。明日からもよろしく頼むよルシノア」
「お任せください。全身全霊をもって務めさせていただきます」
一礼して退室するルシノアを見送りながら、俺は明日から始まる本番に向けて、気合いを入れ直すのだった。
独立後、最初にしたのは俺の戴冠や結婚を祝うため城を訪れた多くの人々の相手をする事だ。上は国の重鎮から下は近所の村人まで。様々な人が祝いの品を持って、決して大きくないグラン・ソラス城の廊下に長大な列を形成したのだ。
流石に国の重鎮ともなると直接列に並ぶ事はせず、会う時間をあらかじめ決めておいてからの面会となったが。
「エスト陛下、戴冠おめでとうございます!」
「エスト様、これ、村のみんなで出し合った贈り物です。受け取ってください!」
「勇者様! グラン・ソラスと国境を接する我が街との街道を結んでいただけませんか!?」
単純な祝いの言葉から商取引の誘い、そして国内の陳情や他国の街からの要請など、俺だけなら確実に処理しきれずパンクしていたところだが、宰相の地位に就いたルシノアのおかげでなんとかパニックにならずに済んだ。なにせ、判断に困った場合横に居るルシノアに視線をやると、すぐさま耳打ちで的確なアドバイスをくれる。そして俺がよかれと思ってした発言が間違っていた場合、すぐ咳払いで注意してくれる。非常に有能な宰相だった。もうルシノアに全部任せて、俺は寝てて良いんじゃ無いかと思ったぐらいだ。
「陛下。一人だけ楽をしようなんて考えないでくださいね」
「……わかってますとも」
ニッコリと迫力ある笑みを浮かべるルシノアから逃亡する事も出来ず、結局挨拶攻勢が収まるまでの約一週間、俺とルシノアは謁見の間からほとんど動く事も出来なかった。クレア達は関係ないのかと言えばそんな事も無く、玉座の横に設けられた王妃専用の椅子には彼女達が日替わりで座り、来客に向けて笑顔を向ける事になった。流石に俺やルシノアほどではないけど、彼女達もこの一週間でかなり疲れたようだった。
「やっと終わった……」
謁見の間から執務室へ場所を移して最初にしたのは、椅子の背もたれに全力で寄りかかりながらの背伸びだった。普段隙を見せる事の無いルシノアでさえストレッチをしているぐらいだから、彼女も疲れたのだろう。
「明日からは楽になるんだよな?」
「はい。今日で面会予定は全て終了しましたので、明日からは通常通りとなります。エスト陛下の決められたように、午前九時から正午まで。午後一時から午後三時までが面会時間となります。もっとも、火急の用件の場合は別ですが」
俺が設定したのは、病院を参考にした時間帯だ。他の国の王様は一日中受け付けていたり、午前中だけ面会したりと色々あるようだが、俺はこの時間帯のみを面会時間に充てた。一日中座っているのはともかく、人の話を黙って聞いているのは苦痛でしか無い。度々あった会社の研修ですら拷問のように感じていたのだ。俺が一番偉いなら、これぐらい融通を利かせても問題ないだろうと判断した。
「大変でしたね……私は何もしていないのに、物凄く疲れました……」
「同感だ。普段あまり笑わない私が笑顔を浮かべ続けるというのは、思いのほか苦行だった」
クレアやディアベルも疲れのため今は机に突っ伏している。着慣れない正装に身体を締め付けられていれば、疲れも倍増したことだろう。その内この服も簡素化しなければいけないな。
「陛下、今回受け取った祝いの品は、陛下や王妃様が個人的に使える物を除いて、全て国庫へ移しますがよろしいでしょうか?」
「うん。それで構わないよ。どうせほとんど貴金属だろ?」
「はい。国内の村などから贈られた装飾品の類いは城内に飾っておくよう指示を出しましたので、それ以外は緊急時に売却するため保管しておきます」
各国から訪れた客の贈り物は派手に飾り付けられた貴金属の山がほとんどだった。最初見た時はあまりのセンスにドン引きしたものだが、この世界ではこれが一般的らしい。どうもそう言った品は受け取った後バラバラにして売るのが普通のようで、わざわざ分解しやすいように作っているのだとか。素直に金貨の山でもくれた方がマシだと思うんだが、色々と無視できないしきたりがあるのだろう。
一応この城にも宝物庫は存在する。部屋自体は簡素な作りだが、魔法による侵入を防ぐために様々な対策が採られており、部屋への入り口は常に兵士が見張っているので忍び込むのは困難なはずだ。
「それと、旧ガルシア領に建設予定の街についてですが、城の建設は予定通り業者に任せてもよろしいでしょうか?」
「俺が建てても良いんだけどね。金と時間はかかっても人を雇い入れた方が街も発展するだろうから、業者に任せるよ」
「かしこまりました」
新たに領土となった旧ガルシア領には、今の所街が無い。以前視察の時に出会ったクラトルと言う名の代官もガルシア本国に戻ったようだし、こちらから新たな人材を送らなければいけない。希望者を募ると主にガルシア出身の者が多く志願してきたので、当分は彼等を軸に領地の経営を進めていくつもりだ。
「今ある畑は全部残して、それを囲む形で城壁の建設、その後城だな」
「はい。商業や宿泊施設も同時に手をつける予定ですので、当分の間は賑やかになるでしょう。ですが、まず明日から行われる初公務に集中しましょう」
「だな。明日からもよろしく頼むよルシノア」
「お任せください。全身全霊をもって務めさせていただきます」
一礼して退室するルシノアを見送りながら、俺は明日から始まる本番に向けて、気合いを入れ直すのだった。
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