ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 王子の留学③

僕――アルトゥリアスが冒険者学校に通うようになってから一ヶ月が過ぎた。自分の身の回りの世話を他人任せにしていたために、最初は食事の用意も満足に出来なかったけど、同じ寮生のみんなが色々と助けてくれて何とかやっていけた。僕の護衛として付いてきた者達は遠巻きに見守るだけで決して手伝おうとはせず、僕の成長を見守ってくれていたのは新鮮だった。


生活も勿論だけど、冒険者学校の授業は過酷の一言。基礎体力を鍛えるために腕立て腹筋持久走は毎日行う。息も絶え絶えでこれで終わりかとホッとしたのも束の間、どうやら準備運動に過ぎなかったらしいと知って後に絶望したものだ。


ここは武器の取り扱いについても独特だ。満遍なく武器の取り扱いを教えるのでは無く、適性のある武器を見つけてそれを徹底的に鍛え上げていく方針だった。言うなれば一点集中主義――戦場で自分の武器を失っても他の武器を拾って生き残れるように鍛える、騎士団とは真逆の方針に当初は随分戸惑ったものだけど、そもそも必要最小限の荷物でダンジョンに籠もる冒険者としてはそれが正しいやり方なんだろう。


僕が選んだ武器はもちろん剣だ。幼い頃から一番使い慣れている武器だし、王家の人間として儀礼や式典の際に身につけるのは剣であるため、他に選択の余地が無かったと言う理由もある。


初日こそ少しギクシャクしたものの同じ生徒であるみんなとも次第に打ち解けていき、特に同じ剣使いのインテグラ、僧侶であるモトラ、魔法使いのディーネの三人は寮の部屋が近い事もあって凄く仲良くしてくれている。僕は生まれて始めて友達というものが出来て、寮の部屋で一人歓喜に打ち震えたりしたものだ。


そして一番驚いたのは、僕に魔法の適性があった事だ。父上もお爺様も魔法を全く使えなかったために、僕も生まれつき適性がないとばかり思っていたので今まで調べた事すらない。魔力量は一般的な冒険者に比べて平均以下らしいけど、それでも自分で魔法が使えるという事実に僕は喜びを抑えきれなかった。


僕が扱えるのは初歩的な火炎魔法と回復魔法の二つだけ。魔力が少ない割には使い勝手の良いスキルに恵まれていた。火を熾せれば色々と便利だし、回復魔法を使えるなら多少の怪我は自分で何とか出来る。ささやかな力だけど、今まで自分じゃ何も出来なかった僕に多少の自信をつけてくれた。


そして今日、僕はこれから初めて仲間達と共にダンジョンへと入る事になる。パーティーのメンバーは戦士である僕とインテグラ、僧侶のモトラに魔法使いのディーネの四人だ。普段から仲良くしてくれている三人と組む事が出来て内心ホッとしたけど、これは多分教官が配慮してくれた結果なんだろう。


あまり大勢で動いても動きにくくなるらしいので、ダンジョンは四人前後で動くのが理想的らしい。引率役のノイジさんと僕の護衛である騎士が少し離れて着いて来てくれるようだけど、基本全ての事は自分達でなんとかしなければならない。その為に僕らの背には食料や水、そして応急処置のための薬草や雑貨などで膨れ上がった荷物が背負い込まれている。そして準備万端整った僕達は、松明片手に暗がりの中へと足を踏み入れた。


初めて入るダンジョンは話に聞いていたとおり真っ暗で、松明の明かりが無ければ一寸先も見通せない所だ。頼りない光の中、インテグラを先頭に、モトラ、ディーネ、僕の順で先に進んでいく。先頭と殿は壁役になる戦士職が務めるのが常識らしい。これは背後から不意打ちしてくる魔物対策であって、決して僕の身分が理由ではない。今回僕達が目的とするのは地下五階の最奥にある校章が刻まれたプレートを持ち帰る事。上級者なら半日もあれば行って帰ってこられる距離らしいけど、初心者である僕達は慎重に慎重を重ねて移動するので泊まりがけになる予定だ。


事前に聞かされた情報によると、地下五階までの間で出てくる魔物はスライムやゴブリン、コボルトと言った低レベルの魔物ばかり。それでも相手は明確な敵であり訓練相手ではない。油断すると死に繋がるから注意が必要だ。


ダンジョンに入ってから三十分ぐらい経った頃だろうか、なるべく物音を立てずに注意して歩いていると、先頭を歩いていたインテグラが腕を伸ばして制止を促した。


「どうした?」
「今、かすかに物音がした。敵がいるかも知れない」
「……ゴブリンかしら?」
「わからんが……みんな、武器は準備しておけ」


パーティーのリーダーであるインテグラの指示で全員が武器を構える。隊列は少し横に広がり、菱形になっていた。戦士二人を中央にして、僧侶と魔法使いが左右に位置する形だ。敵が接近したら僕の魔法で視界を確保しつつ、ディーネが攻撃魔法で数を減らす作戦も事前に打ち合わせていたので、今更相談する事は無い。ジリジリと歩みを進める僕達だったが、突如暗闇の先から激しい息づかいと共に人影が飛び出してきた。


「ゴブリンだ!」


アレがゴブリン! 初めて見る子鬼の姿は醜悪で、手に棍棒らしき武器を持ち、腰には酷く汚れた布を巻き付け、唾液で汚れた口元と大きな鼻、そして体全体からは独特な臭気を放っていた。


初めての実戦、初めての命のやりとり。緊張はしても慌てるな――自分にそう言い聞かせて気合いを入れ直し、予定通り天井目がけて光量を上げた火炎球を放つと、通路の先まで一気に視界が開けた。そのおかげで襲いかかってきた敵の数もバッチリだ。敵は全部で四体。ゴブリンが三匹とスライムが一匹。足の速さが違うためにスライムが遅れがちだから、先にゴブリンをなんとかした方が良いだろう。


「炎よ!」


ディーネの放った火炎球は僕の物と比べると一回りは大きく、かつ飛翔速度も倍以上違う。これが僕のような掛け持ちと専門職の差なんだろう。火炎球は三匹いるゴブリンの内一匹に直撃し、盛大に炎を吹き上げた。


「ギャアアアア!」


耳障りな絶叫を上げて火だるまになったゴブリンが転げ回る。残りの二匹が一瞬怯んだところをディーネ以外で襲いかかった。


「くらえ!」


インテグラが正面のゴブリンに自分の剣を力一杯叩きつけようとすると、ゴブリンはそれを棍棒で受け止めようとする。しかし地力の差に加え勢いの乗った攻撃、その上量産型ではあるがよく手入れされた剣と棍棒では勝負にならない。結果、ゴブリンは棍棒を断ち切られて頭蓋に半分ほど剣をめり込ませる事になった。


僕とモトラは一匹のゴブリンに同時に斬りかかった。斬りかかると言ってもモトラの武器はメイスなので、正確に言えば斬り、殴りかかるだ。僕達二人に襲いかかられたゴブリンはどっちに対応するか悩んだあげく後方に下がろうとしたようだったが、その時にはもう僕達の射程に入っていた。振り下ろされる剣と横薙ぎに迫ってくるメイスをまともに喰らい、ゴブリンはその場に崩れ落ちる。そして遅れてやって来たスライムは仲間の惨状を理解する知能も無いのか、飛び跳ねながらこちらを攻撃しようとしたものの、再び詠唱を終えたディーネの火炎球の直撃を喰らって爆散してしまった。


「終わった……?」


知らず、口からつぶやきが漏れる。ホッとして緊張を解くとその場に崩れ落ちそうになったけど、次の瞬間体の中から力が湧き上がってきた。


「おお! レベルアップしたぞ!」
「僕もだ!」
「私も!」


どうやらこれがレベルアップと言うものらしい。初めて味わう感覚に少し戸惑うが、なるほど、確かに体中に力がみなぎり今までの自分より明らかに強くなっているのがわかる。強くなった事に対しての興奮や自信で多少の快感を味わっているほどだ。こんな万能感が味わえるなら、辛い仕事にもかかわらず巷に冒険者が溢れているのも何となく納得できる。


今ので僕のレベルは3になった。インテグラ達も似たようなものだ。まだまだ駆け出しというのもおこがましいレベルだけど、この調子なら何とかやれそうだ。目的の地下五階までまだ先は長い。気を引き締めて探索を続行しよう。

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