ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 王子の留学②

現ガルシア王国。そして近い将来俺のものになる土地を訪れてみると、そこはのどかな田園風景が広がる土地だった。周りには特に障害となるような山や川などもなく、地下水も豊富なようで水に困ることもないらしい。街道の整備などはあまりされていないようなので、それだけは早急に対応する必要があった。


「勇者殿だけでなく、まさかアルトゥリアス様までいらっしゃるとは……そうと知っていれば出迎える準備をさせたのですが……」


俺達を出迎えてくれたこの土地の代官――クラトルと言う名の気の弱そうな男は、こちらが気の毒になるぐらい冷や汗をかきながら恐縮していた。代官と言っても元々何も無い土地な上に王家の直轄地だったので、一人の人間がずっと同じ職務を続けているわけでは無く、何人かの役人が順番で受け持っているだけのようだった。今回はたまたまクラトルの番だったのだろう。


「良い土地ですね。これだけ畑が多ければ、食料に困ることは無さそうだ」
「ええ。ここは季候も良いし魔物も滅多に姿を現さないので、治安もいいですよ」


俺の言葉にアルトゥリアスが同意する。視察と言っても特に名物も目立つ建物もない土地なので、具体的な編入の段取りはルシノアが派遣した人材がしてくれる事になっているので、今すぐ俺が何かをする必要は無い。ある程度見て回った後で、本日のメインイベントとも言うべき王子の冒険者学校入学を早速行うことにした。


転移で彼の護衛と一緒にグラン・ソラスへと移動した俺達は、まず寮に向けて歩き出す。寮に入学するにあたり特別扱いはしないと明言しているので、部屋の周りや入り口に見張りが立つことはない――が、空いている部屋には護衛の騎士達が寝泊まりすることが決まっていた。先に寮に向かうのは危険物や怪しい人物がいないかどうかの確認のためだ。


以前の寮は領主館だった一軒家を使っていたんだが、最近生徒が急増しているので流石に収まりきらなくなったため、新しく専用の建物を建てている。日本で言えば公営団地一棟分ぐらいの大きさの寮はまだまだ真新しく、新築の匂いの残る建物だ。寮長と簡単な挨拶を交わして、護衛の半分は寮に残る。そして残りの半分と王子は俺と共に冒険者学校へと移動した。


次第に近づいてくる冒険者学校。校庭では冒険者の卵達が元気よく声を上げながら走り回っている。ちょうど生徒達を指導していたノイジが俺達に気がついたらしく、笑顔を向けている。


「こんにちは領主様」
「こんにちはノイジさん。紹介するよ。もう話は聞いていると思うけど、こちらの方がアルトゥリアス様だ」
「アルトゥリアスです。ここでは一生徒として頑張るつもりでいますので、どうぞよろしくお願いします」
「おお、お目にかかれて光栄ですアルトゥリアス様。人目があるので膝をつくことはいたしませんが、どうぞよろしくお願いします」


アルトゥリアスの事はノイジ達教官だけで無く、現在在籍している生徒達も知らされているはずだ。隠したところで必ずバレるし、今までの生活を考えると色々世間知らずな面も出てくるだろうから、それなら最初から公表した方がマシだろうと思ったのだ。一生徒扱いなので、当然教官や生徒達が膝をついたりはしない。学校に併設されているギルドの職員達にも、彼を特別扱いしないよう事前に通達していた。


「では生徒達に紹介しましょう。彼等がこれから貴方と共に学ぶ者達です」


そう言うと、ノイジは大きな声で生徒達を呼び集めた。突然呼ばれた生徒達はランニングの途中だったために、荒い息を吐きつつノイジの前に整列する。最初の生徒であったシューラーやシルバー達が卒業したため、今居る生徒達と俺は面識が無い。並んだ彼等をこうして見ると、なかなか将来性のありそうな面子が揃っていた。数は十人ほどだろうか? 一応何クラスかあるみたいなので、他の生徒はダンジョンにでも潜っているのだろう。


「初めまして皆さん。僕の名はアルトゥリアス。頑張りますので、どうかよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げるアルトゥリアスに、生徒達はどう反応したものか戸惑っていた。無理も無い。相手は仮にも王族なんだ。気安く話しかけて良いのかどうなのか、それすら判断が出来ないのだろう。アルトゥリアス自身も積極的な性格では無いので、ぎこちない空気が流れていた。しょうがない、このまま双方固まったままだと話が進まないし、俺が骨を折るとするか。


「そんなに緊張すること無いぞ。アルトゥリアスはもうお前達と同じ一生徒なんだ。礼儀なんて必要ない。そうだろ?」


そう言って、俺は王子の肩に腕を回した。突然の事で目を白黒させるアルトゥリアス。咄嗟に引き離そうと動きかけた護衛達を睨み付けて動きを止め、俺は遠慮無く彼の頭をガシガシと撫でつける。


「あはは……こんな扱いをされたのは初めてです。でも、不思議と嫌な気はしませんね。皆さんも僕に遠慮しないで、普通に接してくれると嬉しいです」


箱入り娘ならぬ箱入り息子同然のアルトゥリアスは、苦笑しながらも特に文句を言う様子も無かった。そんな彼の様子に緊張していた生徒達も自然と表情が緩み始め、次第にアルトゥリアスを囲むように集まってきた。


「初めまして。私はディーネ。よろしくね」
「俺はインテグラだ。よろしく頼む」
「僕はモトラ。初めましてアルトゥリアス」


まだ多少ぎこちなさはあるものの、まず第一段階は成功ってところだろうか? これから上手くやれるかどうかはアルトゥリアス自身の努力にかかっている。時々様子を見に来るとして、しばらくは彼等自身で対処して貰おう。次々質問攻めに遭っているアルトゥリアスを眺めながら、俺はそんな事を考えていた。

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