ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 クレア③

――ディアベル視点


「――それでお金を渡して帰ってきたんです」
「そうか……」


城内にある食堂の隅に移った我ら二人。ポツリポツリとクレアが語ってくれた内容を黙って聞いていた私は、そう言って短く息を吐いた。思っていた以上に重い話を聞かされて、なんと言って良いのかわからなくなる。普段笑顔を絶やす事の無いクレアに潜んでいた負の部分を本人の口から聞かされて、柄にも無く戸惑ってしまったのだ。


「それで、ご両親は今どうしているのだ? もう国に戻ってしまったのか?」
「……わかりません。すぐ帰ったのかも知れないし、まだ街に居るかも知れない。どっちでもいいですけど」


どこか投げやりな態度なクレア。これが本心からの言葉なのか強がっているだけなのか、それは私にはわからない。きっと本人も頭が混乱して自分の気持ちが把握できていないんだろう。私はそんな彼女を刺激しないように、慎重に言葉を選ぶ。


「一度私が見てこようか? クレアが話しにくくとも、第三者の私にならご両親も素直に気持ちを打ち明けてくれるかもしれん。両親や弟達の事、気になるんだろう?」


その提案にクレアはハッと顔を上げる。その表情は悲しみや怒りといった感情が交ざった複雑な物だった。しばらく無言でいた彼女だが、やがて意を決したのかコクリと頷いて同意した。


クレアを一人食堂に残し、私は急ぎ足で街に向かう。彼女の両親と話をするなら街を離れないうちに捕まえる必要があったし、どこかの宿に滞在しているなら探さなければならない。最近人口が急増しているこの街で二人の獣人を見つけるのは少し難しいかと思ったものの、彼等は意外とあっさり見つける事が出来た。なぜなら、彼等は最初にクレアと話をした店から離れていなかったからだ。


まだ人の少ない飲食店の片隅に、クレアの両親である二人の獣人の姿はあった。クレアに聞いたとおりの外見と、彼女と同じ色の毛髪と尻尾。二人揃ってソレなのだから間違えようがない。彼等はクレアの態度が衝撃的だったらしく、心ここにあらずと言った感じだ。


「失礼」


突如現れたダークエルフを怪訝な目で見上げた二人は、私がクレアの友人と名乗った途端相好を崩した。私は挨拶もそこそこに、彼等二人にさっきのクレアの様子を伝える。


「そうですか。クレアは泣いていましたか……」
「私達はあの子に苦労ばかりかけて……本当に情けない……」
「…………」


涙を流すクレアの両親は本当に申し訳なさそうに頭を下げている。……まあ私に頭を下げてもらったところでどうしようも無いが、それを言っても仕方が無い。今は彼等二人がクレアに対してどう思っているのかを聞き出さなくてはならないからだ。


「お二人は、クレアに対してどう思っているのだろう? 失礼な言い方をさせてもらうと、やはり彼女自身に用はなく、彼女の資産だけが――」
「そんなわけがないじゃないか!」


私の言葉に激高した父親がテーブルを叩きながら怒鳴り声を上げた。衝撃で倒れたコップが水をぶちまけ、テーブルの上が水浸しになる。慌てて飛んできた給仕が布巾を貸してくれたので礼を言って受け取ると、私が動くより早くクレアの母親が片付け始める。興奮する父親はそんな自分の行動に恥じたのだろう。すぐに頭を下げた。


「……申し訳ない。わざわざ出向いてくれた方に失礼な態度を取ってしまって」
「いや、こちらこそ申し訳なかった。ただ、今私が言った言葉は、クレア自身がそう考えていると思ってもらって良い。お二人がクレアの態度に傷ついているのはわかる。しかしクレアはそれ以上に傷ついているのだ。久しぶりに会った両親からまずされた事が金の催促では、彼女が嫌になるのも無理は無いと思う」


沈黙が落ちる。少々キツい言動だったかと思ったが、クレアの心情を考えるとそれほどでもないと思い直す。


「確かに……いくら困っていたからと言って、いきなり金の話から始めたのは悪かった。でも――」
「私達があの子の事をどうでもいいと思っているなんて、そんな事は絶対ありません! あの子を売ってから心配してなかった日は一日だって無かったんです。どこのどんな人に買われたんだろう、今はどんな生活をしているんだろうって、そればっかり考えて……」


二人が話を続ける間、私はジッとクレアの両親を観察する。二人は本当にクレアを売った事を申し訳なく思っているらしく、その表情は苦しそうだ。さっき城で見たクレアと同じように……。


「なら、それをクレアに伝えないとな」
「伝えようとしたんです。でも、話を聞いてくれなくて」
「昔のように戻れると都合の良い事を考えているわけでは無いの。ただ、時々でいい。たまに顔を見せて、話をして欲しくて……」


そこまで話を聞いた私は、思わず天井を見上げてしまう。この二人は嘘を言っていない。彼等は本当にクレアを売った事を後悔して、彼女に謝罪したいと思っている。でも彼女に対する負い目から、それを伝える事すら難しいのだ。


「話はわかった。あなた方の希望は私からクレアに伝えようと思う。お二人はもう帰るのかな?」
「いえ、今日一日宿に泊まって、明日乗合馬車で国に帰ろうかと思っています」


そう言えば最近乗合馬車も何本か開通していたなと思い出す。馬車は早朝出発することが多いものの、昼の便もあったはずだ。


「なら、明日の出発は昼まで待ってもらえないか? クレアを直接会わせに来させるのは難しくても、彼女の気持ちを伝えるぐらいの手助けは出来るかも知れない」
「それは……出来るならありがたいんですが、あの子が何と言うか……」
「それは私がなんとかしよう。とにかく、お二人には昼まで待ってもらいたい。よろしいな?」


私の念押しに二人が頷く。その顔は期待したいがしきれないと言った不安な表情を浮かべていたが、私は強引に話を打ち切って城へと足を向ける。さて、今度はクレアと話をしよう。

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