ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 凱旋⑧

「エストではないか。久しぶりじゃな」
「お久しぶりです。エスト殿」
「アルフォンソ様。それにアルトゥリアス様も。ご無沙汰しております」


俺に声をかけてきたのはガルシア国王アルフォンソと、その孫のアルトゥリアスだ。今回の戦争でガルシア王国は多くの兵を援軍に出し、結構な被害が出たと聞く。援軍でしかないというのにガルシア王国の兵はアルゴス帝国と違って進んで先頭に立って戦ったそうだ。その勇敢さや自己犠牲の精神は各国から高い評価を受けているらしい。そんなガルシア王国からやってきた二人は散々挨拶回りをしてきたためか、多少疲れが顔に出ている。


「お疲れの様ですね」


二人の為に近くのテーブルから果実酒を取って手渡しすると、よほど喉が渇いていたのか一気に飲み干してしまった。


「まったく疲れる事ばかりじゃわい。戦死した者達の遺族や、負傷した者への一時金など国の台所事情も厳しいしな。本当はこんな所に来るより国で仕事をしていたかった気分じゃ」 
「どこも似たような状況なんですね」


俺が彼等に対して出来る事など何もないので、気休めを口にするぐらいだ。


「まあ最前線の三国に比べれば随分とマシじゃがな。にしても、アルゴスは流石と言うべきか、抜け目がないわい」


そう言って違う方向に視線を移すアルフォンソ。その先にはさっきまで俺と談笑していたクロノワールの姿があった。


「今回アルゴスがあまり被害を受けなかったのも、やはりクロノワール様の手腕でしょうか?」
「じゃろうな。既に現皇帝は政から退いていると言う。まだ二十歳にも満たぬ小娘にしてあの頭の切れ。末恐ろしいわ。今の皇帝が現役を続けてくれるなら、もう少し楽が出来るんじゃが……おいアルトゥリアスよ。あれを真似せよとは言わんが、手腕は見習ってよいぞ」
「はい、お爺様」


アルフォンソも十分切れ者なのだろうが、彼は一時期幽閉されていたため各国の事情は把握しにくかっただろうし、その上高齢だ。全盛期ならともかく、今の彼に若く、覇気のあるクロノワールと張り合えと言うのは酷な話だろう。となると次期国王であるアルトゥリアスに期待するしかないが、彼の力は未だ未知数だ。そう言えば挨拶ぐらいでまともに話した事が無いなと思ってアルトゥリアスを見ると、ちょうどこちらを見ていた彼と目が合った。


「あの、エスト殿。実は一つお願いしたい事がありまして……」
「はい? なんでしょうか?」


もじもじと、まるで乙女の様に言い淀んでいるアルトゥリアスを見ていると変な気分になってくる。この俺と同じ歳の王子様は女と見紛うばかりの美形で、祖父のアルフォンソにはあまり似ていない。温和で争い事を好まない人物と聞いている。俺に男色の毛は無いから間違いなど起きないが、こんな仕草だとどっちもいける趣向の人は変な勘違いをしてしまうんじゃないだろうか。そんな自分の見た目に自覚がないのか、アルトゥリアスはどこか艶っぽい表情で言葉を続ける。


「実はエスト殿の領地にあると言う冒険者学校なんですが、一度見学したいと思っているのです。このご時世ですし、人を集められる手段があれば是非とも参考にしたいと……」
「ああ、なるほど。構いませんよ。なら今度案内しましょう。知らせを寄越していただければ準備しておきますので」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「すまんのエスト」
「お安い御用ですよ」


いつかどこかが真似をするだろうとは思っていたが、意外と早かったな。俺としてはもう少しぐらい利益を独占したかったが、相手はガルシア王国だ。俺に領土の一部を割譲してくれる人々に何らかの恩返しはしておくべきだろう。この調子で各国に冒険者学校が出来上がれば俺の領地にある学校の集客力は減るだろうけど、そこは独自性を出して対処していきたい。例えば成績優秀者には金一封を与えるとか、就職先を斡旋するとか。方法はいくらでもあるはずだ。


「ところでエストよ。例の領地の件なのじゃが、近日中には引き渡せる予定じゃ。一度お主の目で直接見て来てはどうじゃ?」
「それは是非。こちらとしてはすぐにでも」
「決まりじゃな。なら帰り次第使いを出そう。何の特色もない田舎じゃが、開発し甲斐のある土地じゃぞ」
「ありがとうございます。楽しみにしています」


アルフォンソに深々と頭を下げる。新しい領土か……ルシノア達の負担は増えそうだが、どんな土地が手に入るのか気になって仕方ない。見学が終わったら直接ガルシア王城へと赴いて礼を言った後、アルトゥリアスを俺の領地に連れて行けば良いかもな。ではなと手を振って去って行く二人と入れ違いに、クレア達がやや疲れた表情で戻って来た。


「どうだったみんな?」
「疲れました……」
「こうまで質問攻めだとうんざりするな。同じ話を何回したかわからないぞ……」
「わたしもう飽きたわ。帰りたい」
「シャリーおなかいっぱい!」
「グワーッ!」


一部を除いてみんな疲れているようだ。無理もないか。宴はもう終わりなのか、楽士達も音楽を奏でるのを止め、人々もあまり話さず静かに佇んでいるだけだ。これが日本なら幹事が仕切るまで無駄な時間を何十分と過ごす羽目になったろうが、ここは異世界。頃合いを見てグリトニル国王であるアスローンが再び壇上へと姿を現した。


「皆様、楽しんでいただけただろうか? ささやかな宴ではあったが、少しでも皆様の労苦に対する慰めになれば幸いに思う。再びこのような機会があるのなら、その時は大陸中の国々が復興している事を願わずにはいられない。簡単ではあるがこれを挨拶に代えて、この宴の終わりとしたい」


あちこちからパチパチと拍手が鳴り、人々が三々五々に広間を後にしていく。特に案内も無いからこのまま帰ってもいいんだろう。やれやれ、思った以上に気疲れしたな。さっさと帰ってリーリエに美味しいお茶でも淹れてもらうとしよう。

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