ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 凱旋④

戦勝式典の会場は以前俺達パーティーが勲章をもらった時に使った会場だった。無数の群衆に囲まれた円の中心に、各国から訪れた代表と共に俺達パーティーも席に着く。そしてなぜか用意された席は最前列だった。俺の横にはリオグランドからやって来たティグレが座り、穏やかな笑みを浮かべている。彼女と会うのはいつかの会議以来か、結構久しぶりだな。


早朝から始まった式典は新教皇の言葉で幕を開け、まずはこの場に居る全員でこの戦争で犠牲になった人々の魂に安らぎと、命を懸けて戦った事への感謝の祈りを捧げる事から始まった。シンと静まり返った会場に新教皇のよく通る声が響き、会場は厳かな雰囲気に包まれていく。


そして次に壇上に上がったのはグリトニルの国王アスローンだ。各国の王を代表し、式の主催国であるグリトニルの国王が教皇と同じく、犠牲者への追悼の言葉を皮切りに様々な内容を語り始める。話している内容は教皇のものと大差がないので、彼の演説を聞いているのは正直言って退屈だった。ちらりと横に視線を向けると、レヴィアは自分の太ももをつねりながら眠気をこらえ、シャリーはうつらうつらと舟をこいではディアベルに支えられていた。大人でも退屈だから、子供にとってはもはや苦行だろうな。


「――以上で、追悼式典は終わりにしたいと思う。続いて、この戦争を終わらせた功労者、勇者エストとその仲間達について話そう」


突然俺の名前が出てきた事で、まどろんでいた意識が覚醒した。危ない危ない。もう少しで電車の中で寝てる人みたいに、首がガクッとなるところだったぞ。幸い隣に座っているティグレが苦笑しているぐらいで、他の人達が気がついた様子はない。口元の涎をそっと拭ったその時、壇上に居るアスローンと目が合った。


「――さあ勇者達よ! ここに! 皆にその雄姿を見せてくれ!」
「!」


ヤバい。全然話聞いてなかった。今のはどんな話の流れだったんだ? これが学校なら後ろの席の奴がこっそり小声で嘘の内容を教えてくれたりするんだが、この場ではそれも期待できない。事前に打ち合わせとかリハーサルとかが無かったものだから、どう動いたものかも全然わからない。かと言ってこのまま座っている訳にもいかないので、とりあえず席を立ち、ゆっくりとアスローンの下へと向かう。後ろでは寝ぼけているシャリーをクレアとディアベルが両側から抱えて歩いていた。


『エスト様ー!』
『勇者様ー!』
『ありがとー!』


俺達が現れた事で会場は一気に盛り上がり、さっきまでの静けさが嘘のような騒ぎになっている。以前勲章をもらった時も結構な騒ぎだったが、今回はそれを上回っていた。戦争が終わった事が嬉しいのか、自分が生き残った幸運を噛みしめているのか、それとも単に勇者と言うパンダが見れて興奮しているのか。彼等が何を思っているのか知りようも無いが、一応愛想笑いをしながら手を振り返しておく。この騒ぎですっかり目を覚ましたシャリーとレヴィアが元気に手を振り返す中、アスローンが騒ぎを抑えるように手をかざすと、群衆は再び静まり返った。


「もう知っている者も居るかも知れないが、ここに居る勇者エストは近い内に現在治めるものに加えてガルシア王国からも領地を割譲され、独立して国となる事が決まっている。これは私を含め各国の王も承認済みだ。世界を救ってくれた礼としてはいささか物足りないだろうが、この事実を持って勇者達への報酬としたい!」


『わああああ!』


再び会場が歓声に包まれる。耳を澄ませると新しい国に対する期待や称賛の声が大部分だが、中にはやっかんでいる者も少なからず居るようだ。ま、どこの馬の骨ともわからない奴が国王に上り詰めるんだから当然の反応だろう。天下人になっても猿扱いされた豊臣秀吉みたいなものだと思えば腹も立たない。再びアスローンが手を上げて場が静ま様子を見ていた俺は、なんとなく某テレビ番組を連想してしまう。


「それでは新しく国王となる、勇者エストから皆に向けて何か一言お願いしよう」


いきなりだな。何となく予想はしてたけど、特に何も考えてなかったぞ。アスローンは俺に壇上を譲り、手振りでもって早く話せとばかりに煽ってくる。仕方ない。ここは適当に言葉を並べて、皆が望む勇者像を演じて見せよう。


「えー……ただいまご紹介にあずかりました、勇者エストです。みなさま本日はお足元の悪い中、ご足労いただいて大変感謝しております」
「……晴れてますけど」


何も考えず適当に話し始めた途端、後ろに立っているクレアから冷静にツッコミが入った。静まり返った中でその声はよく響き、貴賓席に座る王族や群衆から笑いが漏れる。それは緊張に凝り固まっていた場をほぐし、俺にいつもの調子を取り戻させるのに十分だった。大きく息を吐き、ぐるり肩を回す。別に畏まる必要などないのだ。俺は俺の気持ちを素直に話せばいいだろう。


「えーと、俺から話す事はあまり多くありません。今日この場に居る皆さん、そして現在も復興に向けて忙しく働く人々、そして国を、家族を守るために散っていった全ての人に対して感謝を。あなた方の踏ん張りが無ければ、こんな穏やかな日々は訪れなかったでしょう。今回は辛い事、悲しい事が沢山起きた悲惨な戦いでしたが、いつまでも悲しんでいては先に進めませんし、亡くなった方もうかばれません。ですから皆さん、今この時から国や種族の垣根なく、力を合わせて頑張りましょう。いつもの生活を取り戻したその時こそ、我々が真の勝利を得たと言えるのですから!」


俺の言葉が終わると、席に座っていた全員が起立し、大きな拍手が巻き起こる。王族や貴族、平民や奴隷関係なく、この場に居る全ての人が泣いたり笑ったりしながら、思い思いの表情で拍手をしていた。俺の言葉程度では大して慰めにはならないだろうけど、少しでも彼等の手助けになればスピーチした甲斐があったと言うものだ。様々な種族が笑顔を浮かべる様子を見ながら、何となくそんな事を思っていた。

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