ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集
外伝 アミルとレレーナ③
コペル――それはガルシア王国の中心近くにある大きな街で、王都程では無いものの冒険者の数も多い。冒険者ギルドが初心者救済の依頼を常に出していると言うのも理由の一つだろうが、最大の理由はダンジョンがある事だろう。
ダンジョンがある所自然と人が集まって来る。まずは冒険者。彼等は一攫千金やレベル上げを目的にダンジョンに潜る。そしてそんな彼等を目当てに商人達も集まって来る。武器や防具は勿論の事、保存の利く食料やちょっとした小道具などを冒険者相手に売り捌くのだ。集まってくるのはそれだけではなく、寄付と言う名の治療費目当てに教会から派遣されてくる司祭達も少なくない。それだけ人が集まってくれば寝る場所も娯楽施設も必要になってくるので、自然とコペルの街は大きくなっていったと言う訳だ。
そんな賑やかな町の一角にある冒険者ギルドの中で、アミルとレレーナは何度目なのか数えるのも面倒になるぐらい繰り返された事務手続きをカウンターで済ませたところだった。
「お二人さん、いつもの薬草回収だね。はいこれ報酬。また頼むよ」
「どうも」
もう顔馴染になっているギルドの職員に見送られながら、アミル達はギルドを後にする。
「これでしばらくは大丈夫だけど、近いうちにまた回収に行かないとな」
「私達でも何とかなる、良い依頼が見つからないかしらね……」
ため息をつくレレーナに、アミルはかける言葉が見つからなかった。コペルの街で初心者救済の依頼を受けるようになってから、彼等は貧困から脱出する事は出来た。だが、食うに困らなくなったと言うだけで決して裕福になった訳では無いので、相変わらず懐事情は寂しいままだ。パーティーでも組んで難しい依頼に挑戦すれば道が開ける可能性はあるものの、ガルシアでのゴタゴタで及び腰になっているアミル達が声をかけられそうなパーティーなど存在しなかった。
そして今日も彼等は日々の糧を得るために街の南西に向かって歩いている。冒険者や行商人、軍人や旅人など、様々な人々が使う薬草は常に買取がされている上に生えてくるのも早いので、取り尽くされる心配は無い。通い慣れた森の中に足を踏み入れたアミル達は、普段とは違う違和感を感じて足を止めた。
「なんか……変だな」
「見てアミル、何か足跡がある」
レレーナが指さす地面には、動物のものと思われる真新しい足跡があった。複数あるので一匹二匹ではない。冒険者としての直感なのか、嫌な予感がしたアミルがしゃがみ込んで調べようとした途端、森の奥から獣の鳴き声と共に何かが走り寄って来る気配がした。
「ピギャー!」
「な、なに!?」
咄嗟に武器を構えたアミルとレレーナに向けて、人影が手に持った棍棒を振り下ろしてくる。間一髪躱したアミルとレレーナが後方に飛び退き武器を構えると、彼等の目の前に醜悪な外見の魔物達が姿を現していた。
「オークだ……」
ゴクリと次を飲み込むアミル。彼はレレーナを庇うように彼女とオーク達の間に立ち塞がり、剣を構えて魔物達を睨み付ける。
「アミル……」
「逃げるぞレレーナ。一対一ならともかく、こう数が多いと勝ち目がない。俺がけん制するから、一気に森の外まで出るんだ。一瞬なら何とかなる」
「でも……」
「いいから……走れ!」
躊躇するレレーナに決断を促す為、アミルは正面に居たオークに力強く斬りかかった。オークは手に持つ棍棒でそれを受け止めようとしたものの耐え切れず、棍棒を真っ二つにされながら自らの脳天で一撃を受ける事になり、血と脳漿を撒き散らしながらゆっくりと仰向けに倒れ始める。
「今だ!」
仲間がやられた事で一瞬オーク達が怯んだ隙を突いてレレーナが走り出す。追いかけようとしたオーク達を横殴りの一撃で更にけん制した後、アミルも急いで走りだす。オークはその太った体と短い手足で走る速度は速くない。だが足でももつれて倒れ込めば、そのまま嬲り殺しにされるだろう。背後から迫るオーク達の叫び声に冷や汗を流しながら走り続けた二人は、気がつくと森から大きく離れた街道まで逃げて来ていた。体力の限界がきていたため、二人して地面に大の字になり荒い息を吐く。
「疲れた……!」
「死ぬかと思った……!」
今まで弱いとは言え魔物と戦う機会はいくらでもあった。だが今回のように圧倒的に不利な状況で、しかも不意打ちで戦闘が始まったのは二人にとって初めての事だ。低レベルとは言えオークの筋力は侮れない。その一撃をまともに喰らえば、人間の頭など卵の殻を割るように簡単に破壊されただろう。
「あいつ等、いつから居るんだろ。前来た時はあんなのいなかったよな?」
「私達が薬草を採取して街に戻ってる間に住み着いたんでしょうね」
乱れた息も整って、街道から少し離れた位置に腰を下ろしたアミル達はこの後の事に頭を悩ませていた。あれだけ数が居るのなら、アミル達だけでは手に余る。正面でやり合ってる時に後ろから攻撃されては、二人とも殺されるのがオチだろう。
「せめてこっちも後二人ぐらい居れば何とかなるのに……」
とぼやくアミルの視線の先から、冒険者らしき二人組の男女が歩いて来るのが見える。一方は黒っぽい革鎧とコートを纏い、腰には剣を。背中には盾を装備している少し目つきの悪い男だ。もう一方は白い皮鎧を装備して背中に弓を背負っている獣人の娘。赤い髪と赤い尻尾が特徴的な美少女だった。どちらもまだ若い。アミル達と同じかそれ以下の年齢だろう。だが注意深く観察して見ると、少女はともかく男のレベルは13と高い。あれだけのレベルなら、オークなど物の数ではないと思えた。
「アミル」
「うん、わかってる。ダメもとで声をかけてみよう」
二人のままじゃ依頼を達成できそうにない。かと言って収入の当てもないのに街に戻っても意味が無い。なら、他の人間の力を借りるしかないだろう。幸い通りかかった男女は年も近いし話しやすそうだ。いきなり協力を求めても断られる可能性はあったが、何もしないよりはマシだった。
「なあ、あんた達。ひょっとして薬草の採取に行くのか?」
警戒する男に向かって、なるべく笑顔を心掛けて話しかけていくアミル。少し警戒した男だったが、隣に居た獣人の少女のとりなしもあってアミル達と同行する事を快諾してくれた。
――これが、後に勇者と呼ばれる事になったエストとの出会いだったのだが、この時のアミル達に知る由は無かった。
ダンジョンがある所自然と人が集まって来る。まずは冒険者。彼等は一攫千金やレベル上げを目的にダンジョンに潜る。そしてそんな彼等を目当てに商人達も集まって来る。武器や防具は勿論の事、保存の利く食料やちょっとした小道具などを冒険者相手に売り捌くのだ。集まってくるのはそれだけではなく、寄付と言う名の治療費目当てに教会から派遣されてくる司祭達も少なくない。それだけ人が集まってくれば寝る場所も娯楽施設も必要になってくるので、自然とコペルの街は大きくなっていったと言う訳だ。
そんな賑やかな町の一角にある冒険者ギルドの中で、アミルとレレーナは何度目なのか数えるのも面倒になるぐらい繰り返された事務手続きをカウンターで済ませたところだった。
「お二人さん、いつもの薬草回収だね。はいこれ報酬。また頼むよ」
「どうも」
もう顔馴染になっているギルドの職員に見送られながら、アミル達はギルドを後にする。
「これでしばらくは大丈夫だけど、近いうちにまた回収に行かないとな」
「私達でも何とかなる、良い依頼が見つからないかしらね……」
ため息をつくレレーナに、アミルはかける言葉が見つからなかった。コペルの街で初心者救済の依頼を受けるようになってから、彼等は貧困から脱出する事は出来た。だが、食うに困らなくなったと言うだけで決して裕福になった訳では無いので、相変わらず懐事情は寂しいままだ。パーティーでも組んで難しい依頼に挑戦すれば道が開ける可能性はあるものの、ガルシアでのゴタゴタで及び腰になっているアミル達が声をかけられそうなパーティーなど存在しなかった。
そして今日も彼等は日々の糧を得るために街の南西に向かって歩いている。冒険者や行商人、軍人や旅人など、様々な人々が使う薬草は常に買取がされている上に生えてくるのも早いので、取り尽くされる心配は無い。通い慣れた森の中に足を踏み入れたアミル達は、普段とは違う違和感を感じて足を止めた。
「なんか……変だな」
「見てアミル、何か足跡がある」
レレーナが指さす地面には、動物のものと思われる真新しい足跡があった。複数あるので一匹二匹ではない。冒険者としての直感なのか、嫌な予感がしたアミルがしゃがみ込んで調べようとした途端、森の奥から獣の鳴き声と共に何かが走り寄って来る気配がした。
「ピギャー!」
「な、なに!?」
咄嗟に武器を構えたアミルとレレーナに向けて、人影が手に持った棍棒を振り下ろしてくる。間一髪躱したアミルとレレーナが後方に飛び退き武器を構えると、彼等の目の前に醜悪な外見の魔物達が姿を現していた。
「オークだ……」
ゴクリと次を飲み込むアミル。彼はレレーナを庇うように彼女とオーク達の間に立ち塞がり、剣を構えて魔物達を睨み付ける。
「アミル……」
「逃げるぞレレーナ。一対一ならともかく、こう数が多いと勝ち目がない。俺がけん制するから、一気に森の外まで出るんだ。一瞬なら何とかなる」
「でも……」
「いいから……走れ!」
躊躇するレレーナに決断を促す為、アミルは正面に居たオークに力強く斬りかかった。オークは手に持つ棍棒でそれを受け止めようとしたものの耐え切れず、棍棒を真っ二つにされながら自らの脳天で一撃を受ける事になり、血と脳漿を撒き散らしながらゆっくりと仰向けに倒れ始める。
「今だ!」
仲間がやられた事で一瞬オーク達が怯んだ隙を突いてレレーナが走り出す。追いかけようとしたオーク達を横殴りの一撃で更にけん制した後、アミルも急いで走りだす。オークはその太った体と短い手足で走る速度は速くない。だが足でももつれて倒れ込めば、そのまま嬲り殺しにされるだろう。背後から迫るオーク達の叫び声に冷や汗を流しながら走り続けた二人は、気がつくと森から大きく離れた街道まで逃げて来ていた。体力の限界がきていたため、二人して地面に大の字になり荒い息を吐く。
「疲れた……!」
「死ぬかと思った……!」
今まで弱いとは言え魔物と戦う機会はいくらでもあった。だが今回のように圧倒的に不利な状況で、しかも不意打ちで戦闘が始まったのは二人にとって初めての事だ。低レベルとは言えオークの筋力は侮れない。その一撃をまともに喰らえば、人間の頭など卵の殻を割るように簡単に破壊されただろう。
「あいつ等、いつから居るんだろ。前来た時はあんなのいなかったよな?」
「私達が薬草を採取して街に戻ってる間に住み着いたんでしょうね」
乱れた息も整って、街道から少し離れた位置に腰を下ろしたアミル達はこの後の事に頭を悩ませていた。あれだけ数が居るのなら、アミル達だけでは手に余る。正面でやり合ってる時に後ろから攻撃されては、二人とも殺されるのがオチだろう。
「せめてこっちも後二人ぐらい居れば何とかなるのに……」
とぼやくアミルの視線の先から、冒険者らしき二人組の男女が歩いて来るのが見える。一方は黒っぽい革鎧とコートを纏い、腰には剣を。背中には盾を装備している少し目つきの悪い男だ。もう一方は白い皮鎧を装備して背中に弓を背負っている獣人の娘。赤い髪と赤い尻尾が特徴的な美少女だった。どちらもまだ若い。アミル達と同じかそれ以下の年齢だろう。だが注意深く観察して見ると、少女はともかく男のレベルは13と高い。あれだけのレベルなら、オークなど物の数ではないと思えた。
「アミル」
「うん、わかってる。ダメもとで声をかけてみよう」
二人のままじゃ依頼を達成できそうにない。かと言って収入の当てもないのに街に戻っても意味が無い。なら、他の人間の力を借りるしかないだろう。幸い通りかかった男女は年も近いし話しやすそうだ。いきなり協力を求めても断られる可能性はあったが、何もしないよりはマシだった。
「なあ、あんた達。ひょっとして薬草の採取に行くのか?」
警戒する男に向かって、なるべく笑顔を心掛けて話しかけていくアミル。少し警戒した男だったが、隣に居た獣人の少女のとりなしもあってアミル達と同行する事を快諾してくれた。
――これが、後に勇者と呼ばれる事になったエストとの出会いだったのだが、この時のアミル達に知る由は無かった。
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