ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 アミルとレレーナ②

アミルが十七、レレーナが十六歳になった頃、二人は自らの夢をかなえるべく生まれ育った村を飛び出した。二人の両親は何度も考えを変えるように長年説得していたのだがアミル達の決意が変わる事はなく、結局冒険者になる事を認めるしかなかった。


命を大切にしろ。やっていけなくなったら、すぐ村に帰って来い。そんな言葉を投げかける両親達に別れを告げ、アミル達が向かったのはガルシア王国の王都だ。仕事の駄賃や小遣いなど少ない収入を長い時間をかけて貯めた金で中古の装備を買い揃え、冒険者ギルドで登録を済ませたアミル達は晴れて冒険者の仲間入りを果たした。


「これで俺達も冒険者だ! これから頑張ろうなレレーナ!」
「ええ、もちろんよ!」


希望に燃える彼等が現実に直面するまでに、そう時間を必要とはしなかった。なにせ低レベルの冒険者である彼等ブロンズクラスには仕事が無い。いや、あるにはあるがどれも冒険者でなければいけないと言う仕事ではなく、庭の草むしりや家屋に住み着いた害虫退治、子守りや買い出しなど誰でも出来る仕事ばかりだったのだ。その上アミル達同様冒険者を夢見る若者が後を絶たないものだから、そんな小さな仕事でも奪い合いになる有り様だった。


仕事が無ければ当然収入も無く、次第に日々の食事にも事欠く有り様。森に入って狩りに励むと言う村と変わらない生活を送る段階に至り、アミル達はこれはマズいとようやく思い始めた。


「このままじゃジリ貧だ。依頼は無くても俺達だけで倒せる魔物を探そう」
「となると……ダンジョンに潜るって事? 危険じゃないかしら?」
「そうだけどさ。少しぐらい無茶しないと状況は変わらないだろ?」


アミル達が目をつけたのはダンジョンだ。ガルシア王国の王都には世界最大規模を誇るダンジョンがあり、そこには一攫千金を求めて数多くの冒険者が世界中から集まっている。ダンジョン――多種多様な魔物が生息し、数多くのお宝が眠る冒険者にとってはある意味憧れの場所でもある。が、ハッキリ言ってアミル達のような低レベルの冒険者が二人で潜るなど自殺行為でしかない。ダンジョンの内部は常に暗闇に覆われ、明かりもない状況で精神体力共に激しく消耗するためだ。


案の定ダンジョンに入った途端いきなり遭遇した数多くの魔物に襲われ、アミル達は命からがら逃げ帰る羽目になった。その後何度か挑戦してみたものの結果は変わらず、いくらやる気に満ち溢れていた二人とは言え、そろそろ冒険者の道を諦めそうになっていた。だが、ある日最後になるかも知れないと覚悟を決めて再びダンジョンに潜った時に転機が訪れる。


休憩地点で偶然出会った冒険者パーティーに同行させてもらえる事になったのだ。彼等はアミル達よりレベルも高く装備も充実しているため、ろくにレベル上げすら出来ない状況にあったアミル達には救いの神にも見えたのだ。


しかし、再び芽生えかけた希望の光はすぐかき消される事になる。一応パーティー登録をしているので経験値は共有できるようになった。それはいい。直接戦わなくても同じだけ強くなれるのだから新人にとっては有り難い話だ。だがパーティー内の扱いであからさまに荷物持ち要員として扱われては、アミルの表情が憮然となるのも仕方のない事だった。


彼は同行すると決まった途端他の冒険者達から荷物を押し付けられ、ろくに戦闘に参加せず終始前を行く冒険者達の後をトボトボとついて行くだけだった。おまけに男だけだった冒険者パーティーは紅一点であるレレーナに何かとからみはじめ、彼女が露骨に嫌悪感を見せてもお構いなしだ。それはダンジョンを出てからも変わらず、酒場で彼等と共に食事を摂っている時に極め付けの出来事が起こる。


「レレーナちゃん。よかったらこれからも俺達と一緒にパーティーを組まない?君なら大歓迎だよ」


そう言って馴れ馴れしくレレーナの肩に腕を回す冒険者の一人。酒臭い息を吹きかけ、まるで自分の物のように顔を寄せて来る。その場にアミルなど居ないかのような振る舞いに、流石にアミルの我慢も限界に達した。確かに彼等のおかげでアミル達のレベルはいくつか上がった。だが魔物を討伐した報酬である魔石は全て冒険者達が独占し、アミル達が無収入な事にはまるで変化が無かったのだ。あげく自分の目の前でレレーナに対してのちょっかいは、彼にとって到底許容できるものでは無かった。


「いい加減にしろ! レレーナに触るんじゃねえ!」


格下の冒険者が怒った事が余程意外だったのか、アミルに怒鳴られた冒険者はキョトンとした表情で固まっていた。激高したアミルが掴みかかろうとし、気圧されながらも応戦しようとする冒険者の間に緊張が走った瞬間、レレーナの叫びが酒場中に響き渡る。


「止めて! アミルも少し落ち着いてよ!」
「でもレレーナ! こいつ等が……!」
「いいから! 少し黙ってて!」


頭に血が上ったアミルを制し、レレーナは肩にかけられた冒険者の腕を振り払うと、勢いよく席を立ち同じテーブルに着く冒険者達を睨みつけながら宣言した。


「あなた達とパーティーを組むなんてありえません。人の事を荷物持ちや情婦扱いにしようなんて冗談じゃないわ! 金輪際関わらないでちょうだい! 行きましょうアミル!」


そう言うと、レレーナは懐から取り出した銅貨をテーブルに叩きつけ、アミルの手を取って食堂の外へと飛び出した。あまりの事態に周囲は呆気にとられ、抗議の声も上げられないでいる始末だ。


「お、おいレレーナ! どこ行くつもりだよ!」
「あいつ等と一緒じゃなければどこだっていいわ!」


頭にきていたのはアミルだけではなく、どちらかと言えばレレーナの方が怒りの度合いは上だった。彼女はそのおっとりした見た目から穏やかな性質を持っていると思われがちだ。確かに普段の彼女は思慮深く、温厚で親しみやすい人柄ではある。しかし、根っこの部分は子供の頃から何も変わってはいない。興奮すればアミル以上に活発で、アミル以上の行動力で動く、お転婆なレレーナのままだったのだ。


そんな彼女が好きでもない男に触れられ、まして自分が大事に思っている異性を侮辱されて憤りを感じないはずが無い。ダンジョンに潜っている間中、彼女は常にストレスに晒されていた。


食堂を飛び出したアミル達はしばらく歩き続けた後、少し頭が冷えたらしい。まだ部屋の空いている安宿に飛び込んで今後の方針を相談し始めた。


「あいつ等は嫌な奴だったけど、一つだけ良い情報を教えてくれたわ。このガルシアのほぼ中央にコペルって言う街があるらしいんだけど、そこでは初心者救済用の依頼が常に貼り出されているんだって。まずはそこに向かいましょう」
「初心者向けか……儲けは少なそうだけど、この状況じゃ贅沢も言っていられないな」


どの道このままだとろくに稼げもせず、僅かな蓄えすらあっと言う間に無くなるだろう。なにせ王都と言うだけはあって、この街の物価は田舎者のアミル達にとって信じられないぐらい高かったのだ。それほど大きく無い街なら宿や食事の代金も安いはずだし、上手くすれば少ないながらも貯金が出来るかも知れない。


他に選択肢の無い中、翌日アミル達は藁をもつかむ気持ちでコペルの街へと出発したのだった。

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