ReBirth 上位世界から下位世界へ 外伝集

小林誉

外伝 トート②

トートが成長し、一人立ちするまでにそれほど時間を必要としなかった。彼はこのアーカディアと言う新しい世界に生まれ落ちてから生来のものぐさぶりを封印し、暇さえあれば自身を鍛えるために時間を使っていたからだ。農作業を手伝ってほしい両親とは早くから険悪な関係になったが、彼はそんな事を気にするような性格ではない。彼にとって魔族の両親はあくまでも仮の宿主に過ぎず、労わる対象などではないのだ。


その甲斐あってと言うべきか、周りの子供とは大きく違った強さを得たトートは、家にあったなけなしの財産を奪って突然家を飛び出してしまう。その行為の結果残された両親がどんな目に遭うかなど構いもせずに。生まれ故郷を飛び出したトートの目的地は王都だ。彼はそこで仕官して名を上げながら、魔族を統べる頂点にまで上り詰めるつもりでいたのだ。


道中知り合った商人に護衛と称して無理矢理同行したあげく、護衛料の名目で金をむしり取りながら、彼はようやく王都に辿り着く事が出来た。


「とりあえず仕官先を見つけないとな……確か村の奴の話しでは、都では常に志願兵を集めている募兵所があるって言ってたはずだけど……ま、適当にぶらついてみるか」


王都と言っても人族の物と比べると物寂しい街だ。通りに並ぶ商品はどれも種類に乏しく、その値段も高め。街を行き交う人々の顔も笑顔が無く、活気と言う物が感じられない。


「なんだこりゃ……これで首都なのか? 小さい街の商店街でももう少し賑やかだぞ」


引きこもっていたとは言え、日本で生まれ育った彼にとって街の様子はゴーストタウンと大差無いように思えるぐらい酷いものだった。そんな街を眺めながら歩いたら、街角に何事か書かれている立て札が立ってあるのが目につく。何かの手がかりになるかも知れないと立ち止まって読んで見ると、そこには彼の望む情報が記されていた。


『志願兵募集中。我こそはと思わん者は魔王城詰め所に来られたし。現在志願兵には一時金を支給中』


それを見たトートは思わず拳を握りしめる。こんな簡単に仕官先が見つかると思っていなかったのだ。渡りに船とは正にこの事。立て札に書かれた地図の部分を破り取り、辿り着いた兵士詰め所で仕官したい旨を伝えるトート。テンションが高めの彼と対照的に兵士達は事務的に手続きを続けて彼を奥へと連れていく。そして二段ベッドがいくつも並ぶ大きな天幕に案内された。


「今日からお前が寝泊まりするのがここだ。装備はそこの壁にかかっている物を好きに使え。もう少しで他の訓練生が帰ってくるから、食事や入浴など生活に必要な事を聞くといい」
「え? お、おい……」


そう言い残した兵士はトートが呼び止めるのも無視してさっさと天幕を後にした。あまりに一方的な言動にしばらく呆然としていたが、気を取り直して装備を確認し始める。


「おいおい……錆びだらけじゃないか。おまけに臭いが酷い。もう少しまとも物を用意できないのかよ」


悪臭に顔をしかめながらも装備を身に着けている内に外が騒がしくなり、ガヤガヤと言う喧騒と共に彼と似たような装備を身に付けた魔族の集団が天幕の中に入って来た。彼等は見慣れない顔が居る事で一瞬ピタリと動きを止めたが、何ごともなかったかのように自分達のベッドへと散らばって行く。何も言わず、わざと無視するかのような動きに激高しかけたトートの肩を何者かが叩いた。


「お前新入りだな。なら、最初にここの隊長に挨拶して来い。じゃないと他の奴は口も利いてくれないぜ」


声をかけてきたのはトートと歳の変わらない若い魔族だ。彼は他の者と違い、穏やかな表情で部屋の中のある一点を指さしている。そこには鋭い目でトートを睨み付ける一人の魔族の姿があった。そいつは他の魔族よりも一回り体格が良く、明らかに他の魔族とは格が違う凄味があった。


(レベルは俺より少し上か……。ここを纏めるボス猿ってとこかな。面倒だが、今だけ下手に出ておくか)


忠告通りにするべく彼に近づいたトートが静かに頭を下げようとしたその時、目の前で座っていた隊長が突如彼の横っ面を殴り飛ばした。いきなりの不意打ちになす術もなく振っ飛ばされ、テーブルやカップを巻き添えにしてひっくり返るトート。突然の出来事にしばし呆然としていたが、何が起きたのか理解すると激高して立ち上がった。


「いきなり何しやがんだコラ! 挨拶しようとしただけだろうが!」
「態度のデカい新入りだな。ここにはここのしきたりってモノがあるんだよ。今からお前にも教えてやる。それはな……俺のやる事には一切異議を唱えないって事だ!」


言葉と共に再び殴りかかって来た隊長の一撃を躱し、反撃の拳を振り抜こうとしたトートの右腕の動きが何者かによって止められた。見ればさっき親切に忠告してくれた魔族が、薄ら笑いを浮かべながら彼の腕を掴んでいるではないか。


「てめ――ぐっ!」


反撃を封じられたトートは再び吹っ飛び、今度こそ立ち上がれなくなる。頭を強く打ったせいか、体に力が入らない。悔しさと情けなさに震えるトートの耳に、彼を殴った隊長とさっきの魔族の声だけがやけに鮮明に聞こえていた。


「隊長、今度はイキの良い玩具が入ってきましたね」
「ああ。ここの連中は全員俺の言いなりになる腰抜けばかりになったからな。娯楽の無いこんなとこじゃ、馬鹿をいたぶるぐらいしか楽しみが無い。せいぜい長持ちするように痛めつけてやろうぜ」


(くそ……! くそ……! 好き勝手言いやがって! 絶対このままじゃ済まさねえ! 必ず殺す! 殺してやる!)


薄れ行く意識の中、復讐を誓うトート。止めとばかりに再び襲って来た強い衝撃と共に、彼は意識を手放した。

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