とある魔族の成り上がり

小林誉

第143話 捕獲作戦

ドラゴン探しは難航している。千匹からなるゴブリンを使えばすぐに見つかると思っていたのだが、見つかったのは他の種類の魔物ばかりだ。トロルやグリフォンと言った強力で珍しい種類を見つけたのは良い。しかし肝心のドラゴンは影も形も見つかっていない。おまけにアンジュの目となるゴブリン達は、遭遇した魔物に問答無用で殺されていくので、日が経つにつれて彼女の索敵範囲は減っていくのだ。これでは見つかるものも見つからない。


「おっかしーなー……簡単に見つかると思ってたんだけど……」
「まあ、簡単に見つかるような場所にドラゴンが居たんじゃ危ないよな」


思うようにいかないためか、アンジュの機嫌はあまり良くない。昔から行動的で明るい性格だが、感情の起伏が激しいところがあるので注意しなければならない。


「気にする事ありませんよアンジュ殿」
「そうそう。一人だけ頑張る必要はないんだからね」


シーリやイクスに慰められているアンジュは、自分が前のめりになりすぎていた事に気がついたのか、苦笑を浮かべていた。アンジュがここに来てから一ヶ月は経っただろうか。最初はお互いの力量や立ち位置がハッキリしないため、新参者のアンジュと仲間達は多少ギクシャクしていた。しかし魔族には珍しい社交的な性格だけあって、すぐに彼女は周りに受け入れられていた。俺の幼馴染みという部分より、使役という物凄いスキルの影響で一目置かれているぐらいだ。


「目的のドラゴンこそ見つからなかったけど、魔物の分布情報が手に入ったのはありがたいね」


大森林の描かれた地図を見ながらケニスが言う。それには今回ゴブリン達が命懸けで得た情報が事細かに書かれていて、魔物の生息地は勿論、周囲で採れる薬草や毒草、そして鉱物の類いまで書き込まれている。今は手の空いている者を使い、利用できる資源を回収するのに忙しい。


「ありがたいってのは何でだ?」
「今までだったら魔物の生息場所なんか避けていただろうけどね。今はアンジュのスキルがあるから、コイツらがそのまま戦力候補になると考えても良いんじゃないかな?」
「なるほど。ものは考えようだな」


ハグリーやレザールが感心している。確かにそんな考え方で見ると、今回の探索は無駄じゃなかったな。


「じゃあ、とりあえず今回は見つけた魔物で妥協しておくか? トロルもグリフォンもゴブリンなんぞと比較にならない強力な魔物だからな。戦力としては申し分ない」
「だったら空を飛べる機動力のあるグリフォンが良いね。トロルは足が遅いから壁役にしかならないし」
「決まりだな。明日の朝から捕獲に出発しよう」


捕獲作戦に参加する人員や割り振りを細々決めて、その日は準備に色々と動き回った。翌日、留守をケニスとシオンの二人に任せた俺達は、ペガサスに分乗して一路大森林に潜むグリフォンの元へと飛び立った。


「グリフォンの位置は変わってないのか!?」
「ゴブリン達に見張らせてるから大丈夫!」


俺の背中にしがみつきながらアンジュが怒鳴る。いい加減空の上での会話を改善したいんだが、何も良い方法が思いつかない。味方の意思疎通を円滑にするスキルでもあれば良いんだが……。


城を出てから三日ほどが経ち、俺達はグリフォンが住み処にしている森の深奥――の一歩手前で待機していた。


「グリフォンは自分の縄張りを飛ぶ者を例外なく攻撃するぞ。ペガサスなんて良い的でしかない」


翼人種であるリーシュの意見もあって、俺達は空からではなく、地上からグリフォンに近づく事にした。昨日餌を捕まえて戻ってきた奴は、一日の食事を終えるとすぐに寝入ったようで、今現在も巣から出ていないらしい。ちなみ餌は近隣から捕まえてきたと思われる大きな蛇の魔物だった。二十メートルはある巨体を掴んで運んでくるなんて、俺が思っている以上にグリフォンの飛ぶ力は強いらしい。


俺達を案内するのはアンジュが従えているゴブリンだ。ゴブリンは寝ているグリフォンを取り囲むように配置しているらしく、周囲の木々の影からちらほらと姿が見え隠れしている。そんな奴等に案内されながら、俺達はグリフォンの巣へと辿り着いた。


森の中にポッカリと空いた広場。その中心にはいくつもの木々を集めた巨大な鳥の巣が作られており、その中心では体長十メートル以上はありそうなグリフォンが、地鳴りのような寝息を立てて眠っているのが見えた。


「体もデカけりゃ巣もデカくなるのか。こんな所は鳥と変わらないんだな」
「見てみろよあのクチバシ。人ぐらい一飲みに出来そうだぜ」
「それ以前に、つつかれただけでも体に穴が空きそうだな」


口々に感想を言う仲間達を余所に、俺は今回の主役であるアンジュの様子を窺っていた。流石に今までになく強力な魔物と対峙したためか、彼女は若干緊張気味だ。


「やれそうかアンジュ?」
「うん。ちょっと手強そうだけどいけると思う。私がスキルを使い始めたら、周りに居るゴブリンが襲いかかってくるかも知れないから、それだけは注意しておいてね」
「わかってる。頼んだぞアンジュ」


グリフォンぐらいの大物になると、許容量を稼ぐためにゴブリンを解放する必要があると事前に聞かされていた。その間アンジュは完全に無防備になるため、身を守る人員が必要になる。俺達がついて来たのはそれも理由に含まれているのだ。


視線を真っ直ぐグリフォンに向けて意識を集中し始めた彼女を見ながら、俺の額には一筋の汗が流れていった。



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