とある魔族の成り上がり

小林誉

第142話 大森林に潜むもの

地上に降りた俺達をゴブリンが作った隊列は無言で出迎えた。ゴブリンと言えば子供以下の知能しかない低俗な魔物で、醜い容姿と本能のままに行動する分別の無さ、そして種族を問わず交配したがる醜悪さに、人族と魔族――それも主に女性から嫌われている存在だ。そんな彼等が隊列を組み、あまつさえ無言で出迎えるなど前代未聞。リーシュやラウなどは驚きのあまりポカンと口を開けていた。


「凄い。まるで訓練された軍隊だ」
「集落の周辺には木で作った柵があるし、見張り台も四方に配置してある」
「普通のゴブリンはここまでやらねぇよな」


仲間達の思い思いの感想を聞きながら、俺は整列したままのゴブリンに近づいてみた。風呂に入る習慣のない連中からは予想通り酷い臭いがしたが、それを我慢して手が届く距離まで近づいてみる。しかしゴブリンは特に反応する事もなく、ただ目だけギョロギョロさせてこちらを見つめるだけだ。


「敵意も示さないか。アンジュ、コイツは戦いの時どうなるんだ? 何も考えずに武器を振り回すだけか?」
「ある程度は本能任せに暴れる事になるけど、大雑把な目標を定めて動かす事は出来るわ。たとえばあの敵に襲いかかれとか、ここで待ち伏せて通る者を攻撃しろとか、集団で何かをぶつけろとか。普段はともかく、戦闘時まで私が全部管理するのは無理だしね」


なるほど。しかしそれだけでも十分使い勝手の良いスキルだ。このままゴブリンどもを戦力として使う事も出来るだろうが、俺は一つ気になった事をアンジュに聞いてみる事にした。


「アンジュ。お前が支配下に置いた魔物で一番強いのはどんなのだった?」
「え? 一番強いの……なんだろ」


アンジュは少しだけ考えるように首を捻る。


「オーガーかな? それ以上に強い魔物は見かけてないから試せてないし」
「そうか。だったら……例えばキメラやドラゴンといった魔物を使役できないか? ゴブリンを餌にして奴等をおびき寄せてから、お前のスキルを試す事はできないか?」
「キメラはともかくドラゴン!? それは流石にやってみないとわからないわ」


ドラゴン――言わずと知れた最強の魔物だ。その体は強固な鱗で覆われ、人間など一飲みに出来る巨大な体躯を誇る上に、空を自由に飛翔できる機動力まで持っている。おまけに口から吐くブレスは人や魔物の区別なく殲滅する力を誇る。そんな魔物を自由に使える事が出来れば、ゴブリン千匹と比較にならないほどの戦力になる。


「しかしケイオス。ドラゴンが生息するのは魔族領の最奥、魔王が直接統治する土地の更に奥だ。集団で、ましてゴブリンの大軍を率いて簡単に入れる場所じゃないぞ」
「う……」


リーシュの言葉に浮かれかけていた頭に冷静さが戻る。確かに大軍で移動すれば確実に見つかるし、敵対行為と見なされて、将来的にはともかく今魔族領全てが敵に回るのは避けたい。となると少人数で移動する必要があるのだが、万が一スキルが不発に終わってドラゴンと戦闘になったとしたら、あっさりと全滅する可能性がある。これは諦めるほかないかと思いかけたその時、ラウが何か思い出したように挙手した。


「ちょっと待って。私、以前この大森林の何処かにドラゴンが生息してるって聞いた事があるわ」
「本当かそれは!?」
「私が直接目にしたわけじゃ無いから言い切れないんだけど、同じ集落に住んでたエルフがそう言ってたの」


大森林の大きさはかなりのもので、一国の国土と同じぐらいの広さを誇っている。俺達が拠点にしていた集落や、このゴブリンの集落などは、大森林の大きさに比べるとほんの一部でしかない。大森林にドラゴンが生息してるなんて聞いた事がなかったが、居たところで少しも不思議じゃないのだ。


「しかし、居るとしたらどんな種類だ? 火竜レッドドラゴンなら火山帯、水竜ブルードラゴンなら海の近く、地竜アースドラゴンなら岩山とかだろ? 大森林なら……ウッドドラゴンとでも言うのか?」


俺の言葉にみんなが首をかしげる。ドラゴンは全体的な数こそ少ないものの種類が豊富だ。今言った種類の他にも、空を飛び続けて滅多に地上に降りてこない空竜スカイドラゴンや、全身黒ずくめの黒竜ブラックドラゴン、光のブレスを吐く光竜ホワイトドラゴンなどが有名だ。文献に載ってるだけでもそれなのだから、まだ見た事のないドラゴンが存在する可能性はある。


「魔族領の奥深くを当てもなく探すより近場の大森林を探した方が良いと思うけど。今ならゴブリンの軍隊があるんだし、探索するなら簡単でしょ?」
「そうね。私もその方が良いと思う。どうするケイオス?」


ラウの意見にアンジュは賛成のようだ。チラリと他の面子に視線を向けてみるが、特に反対意見は出てこない。ならこれが最善策と言う事なんだろうな。


「よし、それならこの大森林でドラゴンを探そう。アンジュには負担をかけると思うが、俺達も出来るだけ手伝うからよろしく頼む」
「任せておいて! 私の集めたゴブリン達が、きっとドラゴンを見つけてくれるから!」


胸を叩いて自信満々にそう言い切るアンジュ。久しぶりに見た彼女のそんな表情に、俺はどこか懐かしさを感じていた。



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