とある魔族の成り上がり

小林誉

第140話 再会

俺の領地は旧ディアボ領からケイオス領という呼び方に変わった。同時に城の名前もケイオス城と変更されている。これはディアボが死に、彼の影響が完全に消え去った事を内外に示すための処置だ。そのケイオス城の中にある練兵場の一角には、見慣れない連中が大挙して押し寄せていた。


「予想以上に大勢集まったな。それだけ兵隊になりたい奴が多いって事か」


隣にいたリーシュが呟く。言うまでも無くこの連中は募集広告に応じてやって来た士官希望者だ。特に制限を設けなかったので老若男女の区別無く集まっている。大体が武装しているので戦うのが専門みたいだが、中には文官での登用を希望する者もいるだろう。最初にやる事は、それらを選別する事からだった。


兵の案内に従って、武官と文官それぞれの希望者は分けられていく。文官は城内で計算などの筆記試験を受けてもらい、成績の良い者は重要な仕事を任される事になる。だからといってそれ以外は不採用と言う事では無く、待遇こそ劣るものの、城内での事務仕事に就ける予定だ。


そして武官希望者はそのまま練兵場に待機だ。武官に求められるのは部隊を指揮する能力や個人の強さの二種類。まずは一対一で模擬戦をやらせて腕前を見てから、部隊単位の模擬戦へと段階を上げていく。一対一とは言っても勝ち負けは重要視しない。腕が良いだけの馬鹿か、弱くても頭が切れる人材かどうかの見極めをしなくてはならないからだ。


「ざっと千人ぐらいか?」
「今日は近場に住む者達だけが集まってるからな。遠方に住む者はまだこっちに向かって来ている最中だろうし、この後も集まってくるはずだ」


八割方が兵士になると計算しても大幅な戦力増強だ。やはり募集して正解だったな。


「スキル持ちは居ないのか?」
「取るに足らないスキル持ちなら何人か居るようだが、実戦で使えるほどでもない」


やはりそう簡単にスキル持ちは見つからないか。仕方ない。ここは諦めて兵隊を増やす事だけに専念しよう。


「じゃあ始めるかリーシュ」
「了解だ」


これだけの人数を見るためには俺もサボっていられない。城内の人手を総動員してやらなければ追いつかない。リーシュと共に練兵場で模擬戦の観察役を務めねばならなかったのだ。


§ § §


兵の募集を始めて一週間が経過した。試験を突破した者の中で、少数の者は新設する部隊を任せる事になった。そしてその基準に達しない者は一兵士として雇う事になる。これから彼等は俺の軍の中核として活躍してくれるだろう。


最初の波を乗り切ってしまえば、士官希望者は日を追うごとに減っていった。まぁ当たり前なんだが、一日千人が五百に、二百が五十にといった感じで減少し、今の時点だと多くて五人程度だ。募集自体はそのままにして俺やケニスは他の仕事に戻ろうかと相談している時、城門を守る兵士の一人が俺達の元へとやって来た。


「ケイオス様、士官希望者が尋ねてきているのですが……」
「? それなら試験官の所へ連れて行けば良いじゃないか」
「それがその……その者が言うには、自分はケイオス様の知り合いだと」


俺の知り合い? 俺の知り合いなんかほとんどがこの城に滞在しているぞ。糞親父やヴォルガー達なら知り合いと言えるが、俺と顔を合わせたらどうなるかぐらい、奴等の出来の悪い頭でも理解してるはずだ。皆目見当もつかず直接会う事にした俺の前には、予想もしない人物が立っていた。


「ケイオス! 久しぶり!」
「お前! アンジュ!?」


俺の生まれた村で、長年何かと世話を焼いてくれたアンジュが、目に涙を浮かべながら俺の胸に飛び込んできた。反射的に抱き留め顔を確認してみたが、やはり間違いなくアンジュだった。俺を手伝いたいと村を飛び出したとワイズから聞いていたが、まさか士官希望者に混じっていたとは予想外だ。


「今まで一体何処に……いや、それよりお前、怪我とかしてないのか?」


麦神の像の周囲には大量の血痕が残されていた。俺やヴォルガーのものじゃないなら、あれはアンジュが流したと考えるのが自然だ。スキルを得るためにコイツが何をしたのか、あまり想像したくない。しかし察しの良いアンジュは、俺が言いたい事の見当がついたようだ。


「怪我ならしてないわ。スキルを得る時にちょっと無理したけど、今は平気。それよりケイオス、凄く変わったね。立派になった」
「お前も人の事言えないぞ。村にいた時とまるで違う」


今のアンジュは軽装ながら鎧を身に着けているし、腰には巻かれた状態の鞭がぶら下げてある。体も引き締まっているようで、いっぱしの戦士と言ってもいいぐらいだ。


「たまたま近くの街に居たら、ケイオスって名前のハーフが士官希望者を募集しているって聞いたから、慌ててここまで来たのよ。でも半信半疑だった。同じ名前の他人だったらどうしようと思ってた」


そう言ってアンジュは安心したように笑う。俺も村を出た時と随分変わっているからな。スキルも増えたし、仲間も増えた。居場所のなかった俺が今や魔族領で指折りの領主になっているんだから、世の中わからないものだ。もっと思い出話に花を咲かせたいところだが、まずはアンジュがここを尋ねた理由を問いたださなければならない。俺は抱きついていたアンジュの肩に手を添えて、一旦彼女を引き離す。


「アンジュ。お前、スキル持ちになったんだよな? 今日尋ねてきた理由は俺に会うためだけじゃないんだろう?」
「もちろんよ。私はケイオスの手伝いをするために村を出たの。今回ここを尋ねてきたのもそれが理由。私のスキルをケイオスに役立ててもらおうと思ってね」


見慣れた自信ありげな表情に思わず苦笑が漏れる。さて、アンジュはどんなスキルを手に入れて俺を助けてくれるつもりなのか。詳しい話を聞いてみよう。





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