とある魔族の成り上がり

小林誉

第139話 地盤固め

旧ディアボ領の再統一は成った。反乱した地域の責任者は公開処刑を行うか、人質をとって二度と逆らえないようにしているので、再び反乱するような馬鹿な真似はしないはずだ。ベルヒ族の三人娘をどう扱うのか散々迷ったが、結局城で働かせる事に決まった。と言ってもちゃんと首輪を――文字通り奴隷の首輪をつけてだ。反乱した地域の人間を無条件で信じるほど俺は暢気な性格をしていない。今後彼女達を信用して良いかどうかは働きを見てから決めさせてもらおう。


魔族領での今の領地を全てあわせると、一つの国家と言ってもいい程度にまで膨れ上がっている。大森林や、議会を牛耳っているマシェンド同盟を別にしてだ。正に一大勢力と言っていい規模なんだが、まだまだ魔族領全体で見ればそれ程でも無い。


言うまでもなく、魔族領で一番大きな勢力を誇るのが、魔王が直接統治している直轄地だ。大陸の端――魔族領の一番東にあるその勢力は、実に魔族領の三分の一を占めている。他の地域に関して魔王が口を出してくる事は少ない。勢力にふさわしい税を納めていれば、領内で何をやっても関知しない方針なのだ。これで内政に熱心な魔王なら、今頃魔族領も随分と様子が違っていたのかも知れない。しかし現実は弱者同士の戦国時代と言った有様だ。立身出世を目指す俺にとってはありがたい状況だがな。


この際勢いに乗って更に勢力を拡大したい欲求に駆られたが、ケニスを始めとする数人の仲間達から反対意見が出たので、一旦地盤を整えるため内政に励む事になった。


「まずは何は無くても食料だよ。このところの連戦で各地から集めていた蓄えも随分目減りしたし、これ以上搾り取ったら来年以降は領土を維持するのも難しくなってくる」
「ケニスの意見に賛同するのは癪ですが私も同意見です。食料もそうですが、新たに徴兵した連中の訓練期間も頂きたい。それに、近いうちに税を払わなければならないので」


一応軍師扱いのケニスよりも、大森林を開拓、防衛してきたシオンの方が内政について優れている。そのシオンがこう言うんだから、領内の整備を急がせた方が良いんだろう。


「わかった。とりあえず当分他に喧嘩を売るのは止そう。領民を使って耕作地の拡大をさせれば良いんだな?」
「それと、各地の防衛力を上げておいた方が良いね。何処を攻められても時間が稼げる程度にはしておかないと」
「爆弾も数が少なくなってきてるわ。この際次の戦いに備えて大量生産しておきたいわね」


イクスの言葉に頷く。爆弾は俺達の命綱と言ってもいい絶対的な力だ。あれがあれば、使い方次第でただ一人の兵士が多数と戦う事も出来る。だが、俺には他にも気になる事があった。


「人は足りてるのか? 徴兵で兵士ばかり増やしてみたが、肝心の生産に回せる余力があるのか?」
「それなんだけどね……正直厳しい状況だよ」


ケニスの説明によると、統治者がディアボから俺に変わった前後で比較して、領内の人口に大きな増減はないらしい。しかしもともと人族の領域が近いのもあって、魔族領の西側は人が少ない地域でもある。そんな中で反乱だの鎮圧だのをやったものだから、少ない人口が更に少なくなっているようだ。徴兵した兵士を戻せば労働力は増える。しかしそれをすると戦力が減る。いつ他から攻められるかわかったものじゃない状況で、兵士の数を減らすのは極力避けたい事態だった。


「何か手はあるのか?」
「人を増やすスキルでもあるなら別だけど、そんなの聞いた事も無いしね」
「奴隷を買い込むのはどうでしょうか? 少しはマシになると思うのですが」


シオンの提案に乗りたいところだが、今の懐事情ではそれも厳しい。何か上手い手はないかと頭を悩ませていると、イクスが何か思い伝いように挙手した。


「どうした?」
「なら、募集をかけたらどうかしら? 領内にいるのは領民だけじゃ無いでしょう? 中には商人や旅人もいるはずよね。そんな人達が直接仲間になってくれなくても、噂話として他の土地に話を広めてくれるかも知れないじゃない」


募集か……。その発想はなかったな。確かにいい手かも知れない。奪い、犯し、支配するのが常識の魔族領じゃ初の試みかもな。どちらかと言えば、これは人族領のやり方だ。


「募集するには見返りが必要だね。金銭だと一時的なものになりそうだから、それに加えて土地を与えるのはどうだろう? 確か領内には廃村がいくつかあったはずだから、兵役に就けば数年間無税、それ以外は税を大幅に安くするとか」
「スキル持ちなら高給で城に住まわせるのも良いかもしれません。なんにせよ、良い案だと思います」


滅多に人を褒める事の無いシオンに褒められて、イクスは少し照れていた。彼女の奇抜な発想は面白いな。爆弾作りに専念させるより、今後は話し合いに参加させるのも必要かも知れない。


「よし、なら早速募集をかけてみよう。シオンとケニスは領内の耕作と防衛力を上げる作業に取りかかってくれ。人はいくら使っても構わん。イクスは俺と一緒に募集要項の作成だ」
「わかったよ」
「承知しました」
「任せて! 目を引く文章を仕上げてみせるわ!」


ケニスは肩を竦めて、シオンは恭しく礼をし、イクスは元気よく返事してくる。いずれ訪れる戦いに向けて、俺や仲間達は動き出した。





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