とある魔族の成り上がり

小林誉

第137話 新領主の出撃

「ケイオス様……しばらく会わない間に、以前とは別人のように強くなっていますね」


大森林から呼び寄せたシオンが開口一番言ったのがそんな言葉だった。彼女の言うとおり今の俺は以前と違った姿になっている。ハーフであるにも関わらず、身長が少し高くなり、体が引き締まって無駄な肉がなくなり、腹などは六つに割れている。ディアボのスキルを吸収した事で魔族の男でいるのが一番戦闘力が高いはずなのだが、どうやらこのハーフの姿のままでも強さは変わらないらしい。強さが同じなら一番楽な姿でいたいので、最近はずっとこのハーフの姿のままだ。


「ディアボという男から魔王の因子を奪った影響だろう。ついでに奴の領地も丸ごといただいた」
「魔王の因子! なるほど、それが理由でしたか」


やはりシオンぐらいの魔族になると聞いた事があるのか。以前彼女の両親は有力な魔族と言っていたからな。知っていても不思議じゃない。


「とうとうこんな立派なお城を手に入れるまでになったんだねケイオス。私も嬉しいよ」
「お前が作ってくれた爆弾のおかげだ。あれがなかったら何度やられていたかわからない。本当に感謝してる」


久しぶりに大森林を出たイクスは機嫌が良い。ずっと森の中に籠もっていたから当然だろう。彼女とシオンはこの城に居を移し、これからここで爆弾の製造を行っていく事になる。ついでに今までイクスの手足となって働いていた奴隷達も丸ごとここに移しておいた。なぜなら、彼等の腕は既に熟練工と呼んでも良いほど上達しているからだ。また一から奴隷を仕入れて火薬の取り扱いを教えるのは効率が悪すぎる。これは生産量を維持しておくために必要な処置だ。


入れ替わりに、この城から魔族の兵と労働力としての奴隷を大森林の拠点へと向かわせた。シオンの指導の下、ある程度形は整っているものの、更に強固な砦を作り上げる必要があるからだ。


「やあ二人とも、久しぶりだね」


そう言って俺の私室に入ってきたのはケニスだ。奴め、部屋の主である俺に断りもなく入ってくるとは、段々遠慮が無くなってきてるな。


「ちょうどいいや、二人も一緒に聞いてくれ。ケイオス。反乱した地域の討伐に向かった連中から連絡があったよ」
「――! どうなった!?」


今までの戦闘はほとんど自分で戦っていたから、人任せの戦闘は不安でしょうがなかった。自分の知らないところで仲間が傷つき、敵が倒れ、勝敗が決まると言う感覚は当分慣れそうにない。身を乗り出す俺に苦笑しながら、ケニスは手に持った書類を机に広げた。


「結果から言うと、ほとんどの地域で順調に制圧作戦が進んでいるよ。アードラー三兄弟とバイスの部隊は完全に地域を掌握して、反抗した領主一族の処刑も済ませている。レザールの部隊も順調なようだし、ハグリー達獣人部隊も同じような感じだ。問題は……ラウの部隊だね」
「あそこか……」


ラウ達を向かわせたのは旧ディアボ領の端っこにある山岳地帯で、そこには昔から住んでいる少数部族がいるようだ。少数と言うだけあって数は少ないはずだから、ラウ達エルフと人族の混成軍でも何とかなると思ったんだが……。


「ラウ達は撃退されたのか?」
「いや、旗色が悪くなったから撤退したそうだよ。どうも連中、山岳という地形を目一杯利用して天然の要害を作り上げているみたいだからね。数で上回っても力押しじゃ厳しいよ」


ラウ達は決して他の部隊に比べて弱いわけじゃない。むしろ遠距離という限定条件なら一番強いぐらいだ。そんな彼女達を寄せ付けないなんて、敵はかなりの手練れみたいだな。


「て事は援軍が必要だな。グラディウスかバイスの部隊を向かわせるか?」
「それも良いけど、距離的に時間がかかりそうだ。シオン達も城に来てくれた事だし、ここは君が直接出張ってみたらどうだい?」
「俺が?」


領主は腰をすえてどっしり構えてろと言ったのはコイツなのに、一体どう言うつもりなんだ? 相変わらず考えの読めない奴だ。しかし退屈していたのも事実。鬱憤を晴らすついでに一暴れさせてもらおうか。


「いいぜ。俺が出る。シオンは留守の間城の事を頼む。イクスは専用の工房を作ってあるから、後でケニスに案内してもらってくれ」
「承知しました。留守はお任せください」
「わかったわ。早く慣れて爆弾作りを再開できるようにしておく」


出撃の準備に入った事で周囲が慌ただしくなる。以前と違って今の俺は大領地を束ねる領主だ。装備もそれなりに立派な物に変わり、護衛の数も集めなければならない。体裁を整えなければ従う者も従わなくなるからだ。特に俺はハーフだし、周囲から侮られないためにも身なりには気をつけなければならない。


以前から乗っていた分と領地で飼われていたペガサスは城に集められ、緊急時にはいつでも使えるように準備されている。その数は全部で四十頭。俺と護衛を乗せて移動するだけなら十分な数だ。


「準備は完了している」


そんなペガサスの前には彼等を従えているリーシュの姿があった。彼女の配下である翼人達は伝令で忙しく跳び回っていて、各地の情報を逐一この城に届けてくれている。今回ラウ達が苦戦していると言う情報も翼人の活躍によるものだ。


俺やシーリ、そして護衛達がペガサスにまたがると、リーシュが素早く羽ばたいて上昇していく。するとペガサス達は嘶きを上げ、リーシュを追うように勢いよく羽ばたき始めた。ぐんぐんと遠ざかる地面。ある程度高度を上げたペガサスは、滑るように大空を飛び始めた。目指すは旧ディアボ領の端にある山岳地帯。彼等に新たな領主の力を見せつけてやらねばならない。



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