とある魔族の成り上がり

小林誉

第135話 ディアボの街

ディアボの本拠地は、よく言えば賑やか、悪く言えば雑多な街だった。少しも広さが統一されていない通りと、それの脇を固める店舗。そしてそれに合わせたような様々な人種。魔族領の街と言えば魔族が大半を占めているというのに、ここでは半分ぐらいが魔族以外――獣人や翼人などの亜人だった。その異様な光景に呆気にとられた俺達は、しばし口を開けたまま通りを行く人々を眺めていた。


「ディアボの奴は何を考えてこんな街を作ったんだ?」
「案外人種にこだわりのない開明的な性格だったのかも知れんな。見て見ろ。通りを歩く奴がどいつもこいつも強そうな奴ばかりだ」


レザールの言葉に従い道行く人々を注意深く観察してみると、なるほど、引き締まった体の者が圧倒的に多い。腰や背中に背負っている武器はどれも使い込まれているらしく、絵の部分の布がすり切れている。相当な鍛錬を積まないとああはならないはずだ。


「こうしてても仕方ない。とにかく城へ行こう」


ガスターの兵を加えた事で、俺達の戦力は一気に増加している。それでなくてもディアボの能力を奪ったのだから、生半可な相手には負けない自信はあるが、数を活かしたハッタリと用心のために連れてきていた。城にはそこそこの戦力がいるらしく、出入り口である正門の詰め所には厳しい監視の目を光らせている兵士達の一団があった。無造作に近寄ってくる俺達に向けて、兵士が警戒するように武器を構える。


「貴様等何者だ? ここはディアボ様の城だぞ」
「だから来たんだよ。ディアボは死んだ。俺が殺したからな。奴の持ち物は領地も人も全部俺のものにする」
「ふざけた事を!」


激高した兵士が鋭く突き出した槍の穂先を掴み取って奪い、逆に石突きの部分で攻撃してきた兵士の胸を突く。もんどり打って倒れた兵士を目撃し、周囲の兵が武器を手にして一斉に襲いかかってきたが、俺は手に持った槍で一人ずつ叩きのめし、あっという間に詰め所を占拠した。


「凄いな。出番がなかったぞ」


俺の強さにリーシュが呆れている。今までなら集団で制圧するような場面だからな。良いスキルを手に入れたもんだ。ディアボ様々だな。


詰め所で跳ね橋の装置と思われる取っ手を下げると、ゆっくりと城へ繋がる橋が降りてきた。城の兵士達は既に騒ぎを聞きつけていたようで、武器を手に取りいつでも襲いかかれる体勢だ。臨戦態勢と言う奴だった。しかし俺は橋が降りるのを待たず、まだ下がっている橋に飛び乗り、一気に連中の前へと降り立った。


「ケイオス様!」
「ケイオス!?」


心配した仲間達が声を上げるが、この兵士の中に俺を傷つけられそうな奴等は居ない。それは本能的に理解していた事だ。


「一人で来るとは良い度胸だな……!」


隊長格らしい兵士が怒りに顔を真っ赤にしている。俺はそれに答えず薄い笑みを浮かべると、徴発するように兵士達を手招きした。


「舐めるな!」
「ふざけやがって!」
「ぶっ殺してやる!」


口々に俺を罵りながら殺到する兵士達。挨拶代わりに槍を一閃させると、数人の兵士が纏めて殴り飛ばされた。しかし残りの兵士達は怯む事無く向かってくる。俺はその戦意の高さに内心舌を巻いていた。これは余程ディアボに忠誠を誓っているのか、それとも戦闘が好きかのどちらかだろう。


「実戦形式の練習だ。退屈させないでくれよ」


槍を構え、俺は彼等を迎え撃った。


§ § §


「ぐうう……」
「くそったれが……たった一人に……」
「嘘だろ……?」


数分後、俺の周囲には叩きのめされた兵達が倒れ伏し、痛みに喘いでいた。手加減したとは言え今の俺の力で殴り飛ばされたのだから、下手をすると骨の一、二本は折れているかも知れない。だが彼等を解放するのは後だ。なぜなら、俺の前には敵の将と思しき一人の魔族が、油断なく身構えているからだ。


「まさか、ディアボ様以外でこんな真似の出来る魔族が居るとはな」
「当然だ。俺はディアボを倒してここに来たんだぞ? その俺がディアボより弱いはずがないだろう」
「……流石にこの状況では嘘と言い切れんな。しかし、ハイそうですかと素直に従うわけにもいかんのだ」


対峙する魔族の表情は優れない。……なるほど。つまり通過儀礼が必要という事か。彼等自身が確認したわけではないから、ディアボが生きている可能性も捨てきれない。今の時点で早々に降伏すれば生きていたディアボに何をされるか解らない。しかし、戦って敗れたとなればまだ言い訳が出来る。魔族領の基本方針――弱肉強食に従っただけと言えるのだから。つまり、俺がコイツらを支配下に収めるためには、叩きのめして力の差を見せつける必要があるのだ。


「わかった。なら遠慮無くかかってこい。先に聞いておくが、お前の名前は?」
「バイスだ。行くぞ!」


バイスと言う名の魔族は地を蹴って俺に肉薄する。最後に出てきただけあって、かなりの腕前を持っているようだ。鋭く突き出された剣を掻い潜り、他の兵士と同じように槍を突き出してみたが、難なく躱されてしまう。槍相手に距離を取っては不利と思ったのか、バイスは近距離での接近戦を選んだようだ。剣を振り下ろし、蹴りを繰り出し、肩を当てて俺の体勢を崩そうとしてくる。その器用な戦い方は初めて見るもので非常に面白く、俺に新たな刺激を与えてくれた。


(シーリ以下ハグリー以上の腕ってところか。リンと良い勝負をしそうだ)


「何処を見ている!」


戦いながらバイスの腕前を評価していると、彼は俺が隙を見せたと思ったのだろう。今までで一番勢いのある一撃を放ってきた。しかし俺はそれを受けずに紙一重で躱し一気にバイスの懐に飛び込むと、彼の体にすくい上げるような肘の一撃をめり込ませた。


「くはっ!?」


数メートル飛ばされて倒れるバイス。鳩尾に喰らって息が出来ないのだろう。苦悶の表情を浮かべながら腹を押さえてゴロゴロと転がっている。


「バイス様!」
「だ、大丈夫ですか!?」


兵士が殺到して介抱すると、しばらく苦しんでいたバイスはやっと落ち着いたのか、腹をさすりながら立ち上がった。


「これで俺がディアボを倒したと信じて貰えるかな? それともまだ試してみるか?」
「いや、その必要はない」


そう言って、バイスはスッとその場で片膝をつく。それを見た他の兵士も慌てたように彼に倣った。


「私達は貴方に従おう。この城の兵を単騎で落とすその力、我等の主にふさわしい」
「ああ。よろしく頼む」


予定通りとはいかなかったが、どうやらコイツらは大人しく従ってくれるらしい。後は周辺のディアボに従う者達に城から使者を出せば終わりだ。何とか上手く行った事に俺は安堵の息を吐いていた。



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