とある魔族の成り上がり

小林誉

第134話 因子の影響

ガスター経由でディアボが支配していた領域の情報はほぼ手に入った。奴は、俺達が今まで苦労して手に入れてきた支配領域の、実に五倍以上の広さを我が物としていたようだ。その中には街道の収束地点になる交易都市や、金や銀はもちろん、鉄や銅を産出する鉱山、そして広大な畑なども多数含まれている。販路はともかく、軍事や食料の生産量ならマシェンド同盟を上回る規模だ。


「ここまで規模か大きくなったなら、自分達で動くより相手を呼び寄せた方が早そうだね」


どうやってディアボの支配領域を再占領するのか相談していると、ケニスが思いついたようにそう言った。


「呼び寄せる?」
「うん。ディアボの本拠地だけは僕達が直接出張って押さえる。そこから先は、使いを出して各地の領主なり村長なりを呼び寄せた方がいいよ。ディアボの力に怯えていた連中なら、ディアボを倒した者の言葉を無視するとも思えないし」
「それでも無視したらどうするんだ?」


ハグリーの言葉にケニスは肩を竦める。


「その時は攻撃するしかないよ。他の者に対する見せしめの意味も込めて、皆殺し――とは言わないまでも、立場が一番上の者を処刑ぐらいはしないと駄目だろうね」


やはりそうなるか。俺としては後の事を考えて、なるべく人死には出さない方向で行きたいんだが、ケニスの予想通り反発する者は出てくるだろう。


ディアボの本拠地まで馬なら数日で到着する距離らしい。今日はガスターの城に泊まって休む事になったが、俺には別にやる事があった。他でもない。能力の確認だ。新たに手に入ったスキル『魔王の因子』がどれぐらい自分の能力を向上させているのか、それを確認しないと危なっかしくて実戦で使えない。俺は早速シーリ他数名を誘って、実戦形式の検証を行う事にした。


まだディアボとの戦いの跡が残る中庭で、剣を抜いた俺とシーリ達が対峙する。


「行きますよ!」


まずはシーリが動いた。最初から飛ばしているのか、昼間見た全力に近い動きで俺に肉薄したシーリは、そのまま勢いよく剣を振り下ろしてきた。前の俺ならろくな反応も出来なかったであろう一撃なのに、今は非常にゆっくり見える。体感時間は変わらないのにゆっくり見えると言う事は、物事を認識する知覚能力が極端に向上しているのが理由だろう。


手に持った剣をシーリの振り下ろした剣に合わせるように、下から勢いよく跳ね上げる。ギンッ! と言う耳障りな音と共にシーリの剣は弾き飛ばされた。体勢を崩したシーリと入れ替わるようにハグリーとファルシオンが同時に攻撃してくる。二人とも怪力自慢だけあって、まともに受けたら堅固と真っ二つにされそうな勢いだ。しかし、俺はこの程度なら受け止めても問題ないと、理性ではなく本能で理解して、二つ同時に剣一本で受け止めた。


「嘘だろ!?」
「まさか!?」


驚く二人のお株を奪うように、俺は腕に力を込めて武器ごと二人を弾き飛ばす。そこにルナールの氷の矢とラウの暴風が襲いかかってきた。だが慌てる事無く精神を集中させ、自分を覆うような球体の膜を頭の中に思い浮かべた。すると俺の周囲に想像したとおりの膜が出現し、彼女達の攻撃を全て防いでしまったのだ。


「なるほど……これで爆弾を防いだのか」


どうやらこの膜、ある程度の攻撃は武器やスキル、種類の関係無く防いでしまうらしい。もっとも、爆弾のように防御力以上の攻撃を与えると中の人間を負傷させるようだが。そんな事を少し考えると俺の周囲を覆う膜はかき消えてしまった。少しでも集中が乱れると持続しないようだ。


そこに突っ込んできたのはグラディウスとランケアの二人組だ。兄弟の息の合った連係攻撃は互いの隙を補う形で繰り出されるが、今の俺には通用しない。二人の微妙な実力差による攻撃速度の違いを見極め、まず実力の劣るランケアの体勢を崩した後、グラディウスに本命の一撃を叩き込む。


「ぐう!?」


直撃こそ免れたグラディウスだったが、続く蹴りまでは回避しきれなかったらしく、まともに喰らって吹っ飛ばされた。一人残ったランケアを助けるように後ろから突き出される槍。隙を窺っていたリーシュとレザールの奇襲だ。俺は横っ飛びに躱すとリーシュに足払いを掛け、ランケアの胸元に剣の柄を叩き込んだ後、残ったレザールの槍を剣で弾き飛ばした。


「ふう……」


参加した者を一通り相手にしたので訓練は終了だ。これだけ動き回ったというのに、大して息も乱れていない。心肺機能も相当強化されているな。自分でも驚くほど強くなっている。なるほど、ディアボが調子に乗るのも頷けるというものだ。


「ケイオス様、物凄く強くなっていますね! もう私では敵いません!」
「今の感じ……。ディアボより強いかもしれない」
「俺もそう思った。同じスキルでも、ケイオスが持つ事で強化されてるのかもな」


実際にディアボと俺、二人と戦ったみんなが言うのなら間違いないんだろう。今まで足手まといだった俺が、これでようやく主戦力として活躍できるようになったわけだ。これは素直に嬉しい。ディアボの領地占領作戦も問題なく進める事が出来るはずだ。





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